「体感すること」が一番の近道
現代営業パーソンに必須な「テクノロジー教養」の磨き方
モバイル、クラウド、AI――。昨今のテレワークの普及はテクノロジーが欠かせませんが、振り返れば電話やFAXの時代からメール、インターネットの普及に伴う現代の仕事の進め方、意識をせずとも背景にはテクノロジーが必ず存在しています。
だからこそ、営業パーソンが顧客とコミュニケーションする際にも、一定の「テクノロジー教養」が不可欠となります。例外なくどの企業もテクノロジーの影響を受ける中、教養といった面で営業パーソンが遅れを取るわけにはいかないからです。
そこで今回は、テクノロジーに関して深い知見を持つ山本康正氏に、最新のテック動向を踏まえた「テクノロジー教養を磨く方法」について聞きました。
米ベンチャー投資家、京都大学大学院特任准教授 山本康正
テクノロジーから取り残されると不利になる
――ビジネスにおけるテクノロジーの重要性が日々増しています。あらためて現代のビジネスパーソンは、テクノロジーをどう捉えるべきでしょうか。
全てのビジネスが、テクノロジーなしには成り立たない状況になっています。今やあらゆる業界で当たり前のようにテクノロジーが活用されており、「テクノロジー業界」というくくり自体も意味をなさなくなりつつあります。
それは裏を返せば、テクノロジーから取り残された人たちは、どんどん不利になるということでもあります。「テクノロジーを使えば儲かる」というのではなく、使わないと損をしてしまう。しかも怖いのは、そうした状況の変化にうまくアップデートしていかないと、テクノロジーを使わないことで生まれる機会損失にすら気づけないのです。
これらを踏まえると、テクノロジーは会計やマネジメントなどと同じく、ビジネスパーソンとって「知っていて当たり前の基礎教養」と捉えるべきではないでしょうか。
――その中でも、特に営業パーソンとして知っておくべきテクノロジーとは、どんなものですか。
最低限の知識として必ず知っておきたいのが、「5G」「クラウド」「AI」の3つです。
AIには、いままでに3回のブームがあったと言われています。1回目は、1950年頃にアメリカの研究会議「ダートマス会議」に際して構想が発表された時。ただ、当時は実装するコンピューターがまだありませんでした。2回目は1980年頃、IBM製のコンピューターなどに機械学習が導入されたタイミングです。
そして今、ディープラーニングの実用化を契機に、3回目の波がきています。ブレークスルーのきっかけとなったのが、2012年に話題となった「グーグルの猫」です。グーグルが開発したAIが、ディープラーニングを活用することで、猫の画像識別に成功したのです。さらに2015年には、グーグルが開発したAI囲碁プログラム「アルファ碁」が、人間のプロ棋士を初めてハンデなしで下し、AIに対する世の期待は確信へと変わりました。
それでも現段階でAIができることは、一般的なデータ処理を除けば、画像処理・音声処理・自然言語処理といった限られた分野だけです。たとえば自動会話プログラムであるチャットボットとか、人間の腕のような動きをするロボットアーム、あるいは自動翻訳機のポケトークとかですね。要は人間と同じように感情を持つ、というところにまでは至っていません。ただ、グーグルは量子コンピューターを2029年に商用化すると発表しており、それを機にまたブレークスルーが起きる可能性はあります。
“あくびをするほど当たり前に使うようになる”というすごさ
――クラウドの代表的なサービスには、どんなものがありますか。
一番身近でわかりやすいのは「Gmail」でしょう。今や多くの人が当たり前に使っていますが、これもまさしくクラウドです。クラウドであるおかげで、かつてのメールのようにいちいちメールサーバーへアクセスして送受信せずとも、Web上で送受信が行える。デバイスや場所を問わず、どこでもメールが使える。同じようにGoogleカレンダーもクラウドサービスとして成り立っています。
アマゾンの創業者、ジェフ・ベゾスは、「一番すごい発明は、人々があくびをするほど当たり前に使うようになるものだ」といった言葉を残していますが、まさにGmailやGoogleカレンダーは、それに当てはまります。そんなふうに今では当たり前すぎて、それを使うまではどうしていたかを忘れてしまうくらい革新的な技術が、今後も続々と生まれるでしょう。
ちなみにAIを大きく飛躍させたディープラーニングには膨大な計算量が求められ、それには大量のデータを格納できるクラウドが欠かせません。そしてそのクラウドは、5Gなどの高速大容量技術があってこそ、活きてきます。全て関連し合っているのです。
――クラウドに関連して耳にする頻度の高い「SaaS」(サース)に関してはいかがでしょう。
たとえば「Windows95」や「Office2003」など、以前は買い切り型のソフトウェアが主流でした。多くの人がそれらを量販店で購入し、パソコンにインストールしていたわけです。それがSaaSの登場によって、店舗に買いに行くことはおろか、ダウンロードにも手動によるインストールが必要なくなり、さらには常に最新の状態をキープできるようになった。加えて、買い切り型ではインストールしたマシンでしか使えなかったのに、SaaSであれば複数のデバイスで使えるようになりました。
売る側のメリットも増えました。出荷や運送の必要がなくなり、店舗に並べる手間とスペースもいらなくなったのです。買い切り型の方が稼げそうに思えますが、顧客のライフタイムバリュー(顧客生涯価値:顧客から生涯にわたって得られる利益)は増加するのです。
たとえば以前は5万円ほどで売られていた買い切り式ソフトのSaaS版を、今では月額1,000円(年間1万2000円)程度で使えるとします。買い切り版は4年に1度くらいのペースで更新版を出していたので、4年ごとに5万円の売上を得られる。対してSaaS版も年間1万2000円なので、4年で4万8000円の売上となる。つまりSaaSは、売上の面でも見劣りをせず、顧客が満足していれば継続する確率も高くなるため、ライフタイムバリューも増加するわけです。このようにSaaSにはメリットが多く、今後あらゆるサービスがSaaS型になるだろうと言われています。
“体験”を通じて、教養を磨くことで自分の財産に
――では、営業パーソンがテクノロジーの教養を磨くには、どんな方法が効果的ですか。
何よりの近道は、自分で一度使ってみることでしょう。なぜなら、テクノロジーといっても理屈で理解できることは一部だけで、使わなければ気づけない感覚がたくさんあるからです。「このアプリの面白さは、ここにあるのか」とか「この使いづらさでは世の中に広まらなさそうだな」といった感覚ですね。
「使うだけでテクノロジーの教養が磨けるなんて、簡単すぎる」と思うかもしれませんが、実は“知ったかぶり”で終わってしまう人の方が、断然多かったりします。要はサービスを知り、自分で検索してダウンロードして、実際に使って経験してみる、というところまでやる人は意外と少ないんです。だからこそ体験することが自分の財産となるし、ビジネスで違いを生み出す力になります。
自ら体験しないと人には語れない
――まずは手に取ってみることから、ということですね。
自分の手に取って実際に体験したことと、頭で知るのとでは、見える世界が全く違ってきます。
たとえばTikTok(ティックトック)というサービスを何かで知ったのであれば、初めは面白さがわからなくても、まずはダウンロードしてみる。ついでに他の人の投稿を見てみたり、さらには自分で踊って投稿してみたりもする。そこで他人からLikeやコメントが付けば、面白さも理解できるかもしれない。
少し前には、投稿が10秒以内に消えてしまう「Snapchat(スナップチャット)」という写真共有アプリが登場しました。また最近では、撮影した写真が翌朝9時まで見られない写真共有アプリ「Dispo(ディスポ)」も話題になっています。こういったアプリも、何が面白いのか初めはよくわからないのですが、やってみると意外と面白かったりするんです。
こうして体験したサービスの中から何かがヒットすれば、「テクノロジーはたいしたことなくても、ユニークなアイデアがあればヒットすることもあるんだな」とか「この操作性の気持ちよさは、やっぱり10代にはうけるんだな」といった、体験したからこその感覚もつかめます。
食べ物の分野でも、試してみるべきテクノロジーはたくさんあります。たとえば「インポッシブルバーガー」は、植物由来の肉や乳製品を開発する食品テクノロジー企業のインポッシブル・フーズが手掛ける人工肉のハンバーガーで、カリフォルニアではレストランのメニューに普通に載っています。これも実際に食べたことがないと、普及するかどうかを、真には語れません。
そういった観点で、今体験して最も衝撃を受けるのは、テスラの自動運転技術ではないでしょうか。私はサンフランシスコに在住しているのですが、日本から人が来た時には、まずテスラの助手席に乗ってもらっています。そうして高速道路を勝手に降りたり、渋滞中に自動で前に進んだりするのを見てもらう。そうすると、自動運転技術やテクノロジーそのものに対する見方が、大きく変わってくるんです。
動画を見たり本を読んだりすることも素晴らしいですが、こうして得られる新しい「体感」こそが、その後の発想自体を大きく変えるのではないでしょうか。だから新しいものや珍しいものがあれば、まずは行って体験してみる。それがアメリカや中国であっても、航空券なんて10万円や20万円で買えてしまうので、思い切って足を伸ばしてみる。そこで体感することの価値を考えれば、航空券代も高くはないはずです。
今はコロナ禍で移動は難しいかもしれませんが、また自由に行き来できるような時が来たら、ぜひそれを実行していただきたいです。ちなみにテスラに関しては、買ったりアメリカに行ったりしなくても、日本で試乗ができます。
テクノロジー教養を蓄え、時代の変化に敏感な営業パーソンへ
――最後に、テクノロジー教養を身につけることによって見えてくるテクノロジーの可能性とはどういうものでしょうか。例をもとに教えてください。
1つは「生体認証」ですね。あらゆるものがネットと繋がる中、ネットとリアル(=人体)を結ぶ、“要の技術”と捉えています。実際、スマホで顔認証や指紋認証ができるようになり、既に銀行口座や車など様々なものの認証チェックと結びつき、とても便利になりつつあります。生体認証の中でも、Face IDなどの画像解析系なのか、それともAmazon Oneのように手をかざすタイプなのか、どれが勝つのかにも注目しています。
そして先ほど少し触れた「量子コンピューター」ですね。これは、従来とは明らかに異質のテクノロジーです。量子力学がそれより前にあったニュートン力学の観点では全く説明できないのと同じことが、コンピューターの世界でも起こりつつあります。
商用化が実現すれば、特定領域の計算処理が圧倒的に速くなる、とも言われています。たとえば現状のGoogleマップはとても便利とはいえ、ゼロ・イチのデジタル方式で計算しているがゆえの限界もあります。そこに量子コンピューターが導入されれば、効率的なルーティング探索など、これまでにない画期的な発展が可能になるでしょう。
それと「ブロックチェーン」も追っておくべきテクノロジーです。ブロックチェーンといえばビットコインの基盤技術としておなじみでしょう。技術自体は2008年頃に登場していたので、あまり目新しさはないかもしれません。しかし、もともとデンソーが製造現場の効率化のために開発したQRコードが中国に渡り、キャッシュレス決済と共に利用されることで、日本では製造業にとどまっていた技術が爆発的に一般にも普及した例のように、ブロックチェーンもNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)など、今後全く違う使われ方をして大ブレークを果たす可能性が存分にあります。
それこそ、インターネット自体がそうでした。インターネットも出始めの頃、一部の技術者以外にはそれほどインパクトがなく、本気でやろうとする人はごく少数でした。それがWindows95の登場で、あっという間に広がった。
そんなふうに「名前は聞いたことがあるけどなかなか普及しないな」と思っていたものが、ある時を境に爆発的に普及する、といったことがテクノロジーの世界では度々起こっています。だから「今はパッとしないけど、ひょっとして10年後には全く違った使われ方をして、世界を変えるかも」という視点でテクノロジーに接するのも、面白いのではないでしょうか。ぜひそうしたワクワク感も大切にしながら、テクノロジーに対する知見を日々アップデートし続けてもらえればと思います。
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