IT営業マンも本当の実力が問われている!
【野村総合研究所 城田真琴室長インタビュー】
コロナ禍で激変!顧客に選ばれるITプロバイダーの条件とは?

新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、「ニューノーマル」とも言える新たな潮流が起こっている。その要となるのがデジタルテクノロジー。まさに今、ITプロバイダーにとって大きなビジネスチャンスが到来している。
当然、これは営業マンの成績アップに追い風になるが、現在は製品がよいから自然と売れる時代ではないし、「何かないですか」というご用聞き営業では顧客からの支持は得られない。
そこで、今回は顧客から選ばれるITプロバイダーになるためにはどのようなことが求められているのか、野村総合研究所の城田真琴氏へのインタビューを通して明らかにしていく。
まずは、IT投資の状況について理解をしつつ、その上でどのようなITプロバイダーがどのような営業活動をしていけばよいかを提案する。

株式会社野村総合研究所
DX生産革新本部 IT基盤技術戦略室長
上席研究員
城田 真琴 氏


〔IT投資〕売上高減少でもデジタル投資は減らさず

――コロナ禍で業績が悪化している企業も少なくありませんが、IT投資についての意識はどうなっているのでしょうか?

城田 結論から言えば、企業は売上高の減少などを見込みながらも、IT・デジタル投資について、特定の領域では増加させる傾向があります。
 興味深いデータがあります。野村総合研究所では2020年5月9日~19日に、国内大手企業69社を対象とした「新型コロナウイルス影響に関するCIO調査」を行いました。それによると、2020年度の売上高が当初計画と比べて「大幅に減る見通し(10%以上)」または「ある程度減る見通し(5%以上10%未満)」と答えた企業が58.0%に達しています。
その一方で、IT・デジタル投資の増加・減少の見通しについて尋ねたところ、「大幅に減らす(10%以上)」「多少減らす(5%以上10%未満)」と答えた企業の合計は20.3%にとどまっており、逆に、「大きな変化はない(5%未満の増減)」「多少増やす(5%以上10%未満)」「大幅に増やす(10%以上)」と回答した企業が71.0%に達しています。

 

――具体的にどのような領域でニーズが高くなっているのでしょうか?

城田 調査では、IT・デジタル戦略上の優先度の変化についても尋ねています。「既に優先度を上げて対応している」または「優先度を上げる予定(2020年度)」「優先度を上げる予定(2021年度以降)」と回答した企業の割合が高かったのは、「ペーパーレス化」「リモートワーク化」「採用のデジタル化」「押印処理のデジタル化」「セキュリティ対策の導入・見直し」「ネットワークの見直し」などです。
「顧客接点業務」では、「非対面営業の強化(オンライン営業ツールの導入など)」や「販売チャネルのデジタル化(EC・モバイルアプリの導入)」などの優先度を上げると回答した企業が多くなっています。

――IT・デジタル戦略上の優先度が高いことが分かった「リモートワーク化」ですが、この働き方は定着するとお考えですか?

城田 国内では数年前から、東京オリンピック開催中の都心での混雑緩和を目的にリモートワークの機運が高まっていました。当時、取り組みを進めているのは、一部の先進的な企業に限られていましたが、コロナの影響で、それが前倒しであらゆる企業で導入されることになりました。
 リモートワークの特長は「非接触型」であることですが、ミーティングや会議だけでなく、顧客を訪問するのが当たり前だった商談などでも、非接触型のスタイルが浸透しつつあります。
ここで大事なのは、当初は否応なしに導入せざるを得なかった非接触型のコミュニケーションがスタンダードになりつつあることです。今後は商談についても、非接触型のスタイルで成果を挙げるには、どうあるべきかを検討すべきです。


〔営業活動〕「何かないですか」のご用聞きはもう通用しない

――ここからは営業活動について伺います。商談では非接触型のスタイルで成果を挙げることが重要になるわけです、今後のITプロバイダーの営業活動では、どのような点に留意すべきでしょうか?

城田 ITプロバイダーの営業活動でも、かつてのように企業を定期的に訪問し、「何かないですか」とご用聞きのように尋ねる営業は通用しなくなるでしょう。それはお客さまがそのような対面型の営業を求めなくなっていくことが想定されるからです。

 

――となりますと、IT営業マンの商談ではIT・デジタル投資について顧客企業から要件定義があって、見積もりを出してといった工程が一般的ですが、これも変わる可能性がありますか?

城田 その通りです。お客さまから「こんなことがやりたい」と言われるのを待っているだけでは、ツールの営業になり、価格勝負にとどまってしまいます。
大切なのは、お客さまのビジネスをこう変えるともっと売上・利益が上がるのではないか、コストを抑えることができるのではないかと先読みして提案することです。
 AIやロボット、AR、VRなどのテクノロジーの発達により、お客さま自身も気付いていないような課題解決方法が幾つも生まれています。業界では前例のない取り組みなどもあるでしょう。そのような提案によって、お客さまに新たなビジネスを生み出すことが求められているのです。
つまり、ITプロバイダーにも、これまで以上に提案能力が求められることになるわけです。

――非対面化が進む中では、限られた商談機会を生かすことも大切だと思います。顧客企業に支持され、クロージングに結び付く営業のポイントは何でしょう?

城田 営業活動のデジタル化はポイントの一つだと思います。非対面のオンラインの営業のメリットの一つは、セールストークなどを全て記録できることです。トップ営業マンはどのようなトークをしているのかを記録することで、社内にノウハウとして共有することができます。もちろん、成功した商談だけでなく、失注が多い人であればその要因を分析し、PDCAを回して改善することができます。失注が多い営業マンの商談中の音声を録音して分析した結果、「え~、あの~」といった言い淀みが非常に多いことを発見し、早速、改善に着手した企業もあります。

 

――非対面の商談だと、営業マンがすぐそばにいるわけではないので、顧客が断りやすいということがあると思っています。断られにくい商談の進め方も重要になりますね。

城田 お客さまの業界や扱っている商材によって異なりますが、それも「この業界は、このようなトピックや事例に対する反応がいい」、あるいは「このタイミングに効く「キラーフレーズ」は〇〇だ」といったことがデータ分析の結果、分かってくるでしょう。最近の非対面営業ツールの進化は著しく、商談中のお客さまの感情を分析することもできるようになりつつあります。
 オンラインの商談であれば、資料や言い回しをあらかじめ複数用意し、お客さまの反応に合わせて差し替えたり、提示する順番を変えたりすることもできます。
また、画面上で資料を共有するだけでなく、お客さまに代わって、申込書の記入を代行できるツールもありますし、チェックしたり、署名したりするだけで契約ができるようにするなど、お客さまに負担をかけないようなクロージングの仕方も可能でしょう。

 

――多くの企業がDXを加速させている中、最後に今後、市場拡大が見込める有望な分野について教えてください。

城田 「非接触型」のニーズに応えるソリューションは今後ますます需要が高まるでしょう。さらに国内では「人手不足」の課題もあります。これからはさらにAIやロボットを活用する企業が増えてくるでしょう。AIやロボットといっても人間にはできないようなことをするのではなく、人間をサポートしたり、人間と一緒に働いたりするような身近なものが増えると考えられます。
このほか、ARやVRなどを活用したEコマース、遠隔治療、教育など、さまざまな分野で新たなビジネスが生まれる可能性があります。
これは、ITプロバイダーの提案の幅も広がっていくということを意味しています。


顧客に選ばれるために「5つの取り組み」を進める

新型コロナウイルスは人々の暮らし方を根底から大きく変えたが、これは同時にビジネスの世界では「本質が問われる」という現実も突き付けた。顧客との関係が薄っぺらい、うわべだけのつながりでは、今後は顧客から選ばれないという厳しい現実だ。
城田氏の「これまで以上に提案能力が求められることになる」という指摘はこのことを意味している。
今、ITプロバイダーやそこで働く営業マンに求められるのは顧客との長期的・継続的・良好的な関係性を築くことだ。
そのために、必要なのは

①『相手の立場に立った提案をする』
(お客さまのビジネスをこう変えるともっと売上・利益が上がるのではないか、コストを抑えることができるのではないかと先読みして提案する)

②『営業活動のデジタル化を進める』
(トップ営業マンの商談を記録し、社内にノウハウとして共有。失注が多い営業マンの場合はその要因を分析し、PDCAを回して改善)

③『営業のデジタル化で集まったデータを活用する』
(「この業界は、このようなトピックや事例に対する反応がいい」といったことをデータで分析する)

④『オンラインの商談の強みを生かす』
(資料などもあらかじめ用意し、お客さまの反応に合わせて提示する)

⑤『お客さまに負担をかけないような商談のクロージングをする』
(商材によっては、お客さまにその場で記入していただくようなフォーマットを用意し、チェックしたり、署名したりするだけで契約ができるようにする)
こうした取り組みが今、求められている。
あなたの会社やあなた自身を支持してくれる顧客はどれだけいるのか。
コロナ渦は大きなビジネスチャンスであることは間違いないが、この追い風に乗るには、自らの役割や仕事の仕方を変革することが不可欠だ。
この記事を顧客から頼りにされるITプロバイダー、IT営業パーソンになる第一歩にしてもらいたい。