ドイツの研究所「DZNE」が 世界的な脅威となる 神経変性疾病と闘うために メモリ主導型コンピューティングを 検証
全世界で高齢化が進む中、現時点では不治の病とされているアルツハイ マー病などの神経変性疾病による人的および経済的な損害が驚くほど 増加しています。 DZNEはこのような病気の治療法を見つけるべく、ビッグデータ分析を活 用してきましたが、従来のコンピューターシステムの制限が大きなボトル ネックとなっていました。 画期的なソリューションを求めていたDZNEは、HPEのメモリ主導型コン ピューティングと出会い、アルツハイマー病の研究に新たな可能性をもた らす、これまでにないレベルの処理速度の向上を実現しました。
トレンド:全世界が晒されつつある危機
全世界で高齢化が進む中、数百万人がアルツハイマー病などの脳疾 患にかかり、それらに関連するコストは1兆ドルを超えています。
アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、ルー・ゲーリック病、ハンチントン病といった神経変性疾病は、 脳内の神経細胞や脊髄がダメージを受けたときに発症します。初期症状は、バランスを取りにくくなったり、名前を 覚えにくくなったりといった些細なものですが、神経細胞の死滅が進むと、理路整然と物事を考えたり、1人で歩い たり、生活したりといった能力が失われてしまいます。そして最終的に、こうした病気の多くは命に関わってきます。
神経変性疾病は中年期以降に発症する傾向があるため、高齢化に伴って急増することが予想されますが、中国、 インド、南アジア、西太平洋などの地域では、最も速いペースで高齢者の人口が増加しています。
精神機能の問題である認知症は、神経変性疾病の中で最も人を衰弱させる病気の1つで、その患者の数は20年ご とに倍増しており、2050年までに全世界で1億3,000万人を超えると見込まれています。全世界の認知症患者の 数は3秒に1人のペースで増加していますが、推定ではその4分の3がまだ診断を受けておらず、診断が下されるま でに病気が悪化してしまうと、もう手の施しようがありません。
全世界における認知症関連の年間のコストは、2018年までに1兆ドルを超えると見込まれ、これには、家族などに よる無給の介護、プロの介護士による公的介護、および医療費が含まれます。全世界で認知症患者にかかっている 治療費を国に例えると、その経済規模は世界18位に相当します。
治療法の解明が急務であるにもかかわらず、体内のさまざまな系が関与する疾病の複雑さにより、進捗はあまり 芳しくありませんでした。人間の脳には、銀河系にある星の数の1,000倍もの神経結合があり、研究者は、脳の動 き、その基礎となる遺伝子、細胞と細胞内の機能、疾病を引き起こす環境的要因、そして、それらすべての数十年に わたる相互作用を把握しなければなりません。
こうした研究で生成されるデータの量と種類は膨大で多岐にわたりますが、神経変性疾病の治療を目指す取り組 みの中で、従来のコンピューターシステムにおける分析能力の限界が大きな障害となってきました。
全世界で
10億人
の神経変性疾病患者
2,400万人
のアルツハイマー病患者
2018年までに見込まれる
1兆ドル
の認知症関連コスト
概要:神経変性疾病との闘い
アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳の病気と闘うドイツ の研究所「DZNE」
Deutsches Zentrum für Neurodegenerative Erkrankungen (DZNE) は、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾病と闘うことを目的にドイツの連邦教育・研究省が設立した研究所です。膨大なデータを必要とする臨床研究、集団調 査、医療研究を行うDZNEの研究者は、ドイツ国内の9つの拠点で大学、大学病院、およびその他の研究パートナーと緊密に連携しています。
1,000 名
のDZNE研究者が脳疾患の研究に従事
80
ワーキンググループが 新しい予防法と治療アプローチを開発
ドイツ国内の
9
拠点で連携
ビジネス上の課題:病気を早期発見する方法の解明
テクノロジーの限界に挑む調査プロジェクト
研究者は、症状が現れる何十年も前から認知症が進行し始めていることをわかっているものの、その仕組みを正確には把握しておら ず、タンパク質の誤った折りたたみに原因があるのか、または炎症に原因があるのかは明らかになっていません。そうした仕組みにつ いて理解を深めることが、認知症の予防、診断、および治療の伴となります。
DZNEは、アルツハイマー病の早期発見につながる歩き方、嗅覚、およびその他の要因の変化を特定するために、最大3万人の対象者 の生涯にわたって、3年ごとに検査を行う、ドイツの集団調査を指揮しています。他のDZNEのプロジェクトと同じように、この調査でも、 アルツハイマー病を発症する可能性がある人に見られる重要な違いを示すわずかな変化を特定するために、膨大なデータが関連付け られます。
こうした研究を行うには、地理的な面と医薬、生命科学、数学、物理学、情報科学、コンピューターサイエンスといった学問分野の両方で コラボレーションが必要であり、ドイツ全域に拠点を置くDZNEは、テクノロジーの可能性の限界に挑む研究において、全世界のパート ナーと連携しています。その一方、全世界で高齢化が進む中、高齢者の時限爆弾と呼ぶ人もいる神経疾患が増加しつつあります。
30年
におよぶ集団調査
3万人
の対象者の生涯にわたって
3年ごとの
包括的な
医学的検証
ITの課題:進展を妨げる低速なシステム
従来のコンピューターアーキテクチャーの能力を超える分析の需 要が発生
神経変性疾病との闘いの中で、ITの制限は大きなボトルネックとなってきました。DZNEが利用するペタバイト規模のデータ、多様な データソース、および複雑な計算パイプラインに対応するには、従来のコンピューティングシステムは低速すぎます。
DZNEでは、患者のプライバシーを保護するために安全な方法でアクセスして分析する必要のある、ゲノミクス、脳撮像、および臨床 研究の情報を使用しています。このような膨大かつ多様なデータセットは、組み合わせて使用するものにはなっておらず、互換性が ないことも少なくありませんが、多くの研究者は、遺伝子マーカーと脳撮像を関連付けるといった、複数のデータセットにわたる集 約計算を行いたいと考えています。
従来のコンピューティングシステムでは、データのロードに数週間かかる場合があり、計算の実行に関しては、それ以上の時間が必 要になることさえあります。また、最速のインターネット接続であってもデータを伝送できないことがあり、あるゲノム研究者は、デー タをハードドライブにロードして、そのドライブをDZNEにトラックで届けています。
DZNEは、コラボレーションパートナーが各自の研究に使用可能な結果に一元的にアクセスできるようにするとともに、rawデータ の転送をやめてローカルで分析を行うために、こうしたプロセッサーの速度を向上させようとしていますが、それを実現するには、 コンピューターアーキテクチャーに対する新たなアプローチが必要です。
ペタバイト
規模のデータ分析
多種多様な
データ
(臨床研究、脳撮像、ゲノミクス)
数千人
におよぶ全世界のパートナーと連携
メモリ主導型コンピューティングによる ビジョンの実現
DNZEは、HPEが提供するビッグデータ向けの先駆的な新しい コンピューターアーキテクチャーを選択
DZNEは、共同研究者間、またさらにはオンサイトのコンピューティング層におけるデータの伝送に時間を費やすことなく、ゲノムデータを 迅速かつ分散的に処理する方法を求めていましたが、ヒューレット・パッカード エンタープライズのメモリ主導型コンピューティングがそ のソリューションとなりました。
メモリ主導型コンピューティングは、従来のコンピューターアーキテクチャーの概念を根底から覆すことを目指す新しいコンピューター アーキテクチャーです。従来のコンピューターアーキテクチャーでは、比較的少量のメモリが各プロセッサーに結び付けられているため、 効率が低下してパフォーマンスが制限され、処理の90%がプロセッサー間、およびメモリとストレージの階層間における情報の移動に当 てられます。
メモリ主導型コンピューティングを導入すれば、すべてのプロセッサーから同じように共有メモリプールにアクセスできるため、不必要な 移動がなくなり、卓越したスピード、信頼性、およびエネルギー効率が実現するうえ、今まで不可能だった膨大な量のデータセットを活用 する方法が提供されます。HPEは、2017年にThe Machineと呼ばれるメモリ主導型コンピューティングのプロトタイプを発表しました が、これには、シングルメモリシステムとしては史上最大となる、160テラバイトの高速メモリが搭載されています。
メモリ主導型コンピューティングのメリットに大きな魅力を感じたDZNEのリーダーは、すでにゲノムデータの前処理に関して「最適に近 い状態」にあった既存のアルゴリズムを改良するという、特に難しいユースケースを選択しました。これは、メモリ主導型コンピューティン グの手法を使用してわずかな変更を加えることにより、現在のテクノロジーでもすでに十分な速さで実行できている手順が改善されるか どうかを確認することを目的としたものでした。
そしてその結果は、DZNEに衝撃を与えました。
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