TOYO TIREが、シミュレーションとAIの融合をめざす革新的なHPC基盤の構築を推進

TOYO TIRE株式会社 様

所在地:兵庫県伊丹市藤ノ木二丁目2番13号
URL:https://www.toyotires.co.jp/

性能値から設計仕様を導き出す逆問題の解法にディープラーニングを活用、HPE技術チームの支援によりCAEアプリケーションを最大4.8倍高速化

"GBCチームの支援を受けて、TOYO-FEMアプリケーションの性能は従来比最大約4.8倍、スループット(時間当たりのジョブ数)では約6.1倍にまで向上させることができました"

―TOYO TIRE株式会社 技術開発本部 先行技術開発部 CAEグループ長 田中 嘉宏 氏 博士(工学)

TOYO TIREが、高機能化する自動車タイヤの設計・開発プロセスを支えるHPCシステムの刷新を進めている。自社開発のCAE(Computer Aided Engineering)アプリケーション「TOYO-FEM」を中心に、構造設計や材料設計などの多様なシミュレーションを担う統合環境が更なる進化を遂げる。第6世代となるHPCシステム構築の狙いは、シミュレーションデータの「共有資産化」と、AI/ディープラーニングを利用して性能値から設計仕様を導き出す「逆問題解法」を確立するチャレンジである。長年にわたりTOYO TIREをサポートしてきたHPEのエキスパートが、本プロジェクトをリードしている。

 

業界

製造

 

目的

自動車タイヤの設計・開発プロセスを支えるHPCシステムの刷新。自社開発CAEをはじめ多様な解析・シミュレーションを担う環境を強化し、高機能化する自動車用タイヤ開発の更なるスピード化を図る。

 

アプローチ

既存のデータとアプリケーション資産を保護しながら、今後5年間の要求に応える計算性能を確保。AI/ディープラーニングを適用した逆問題の解決に向け、自動的に学習データを蓄積する仕組みを統合。

 

ITの効果

・計算ノードにインテル® Xeon® Gold プロセッサー搭載HPE ProLiant Gen10サーバーを採用し、TOYO-FEMアプリケーション性能を最大約4.8倍、スループットを最大約6.1倍に

・CAD・設計情報からCAE・シミュレーション情報までの一貫した管理と共有を実現

・シミュレーション結果を学習データとして蓄積しディープラーニングモデル開発へ活用できる環境を整備

 

ビジネスの効果

・AI/ディープラーニングを利用し性能値から設計仕様を導き出す「逆問題」の解法に着手

・空力予測、スノー予測、騒音予測など実現象を再現するシミュレーション基盤技術の開発を大きく前進

・設計・シミュレーション・試作を繰り返すプロセスの短期化と新商品開発のリードタイム短縮に期待

・より高機能・高性能で革新的な新商品開発へのチャレンジが可能に


チャレンジ

自動車タイヤ開発プロセスの革新にCAEとディープラーニングの融合で挑む

 

「TOYO TIRES」のグローバルブランドで知られるTOYO TIRE株式会社(旧社名:東洋ゴム工業株式会社)が、自動車タイヤの設計・開発プロセスの革新に向けた新たなチャレンジをスタートさせた。その原動力となるのが、自社開発のCAEアプリケーション「TOYO-FEM」を中心に、構造設計や材料設計などのシミュレーションを担う「第6世代HPCシステム」である。技術開発本部 先行技術開発部 部長の大石克敏氏は次のように話す。

「自動車業界は100年に一度と言われる大きな変革期にあります。モビリティ社会の変化とともに、自動車タイヤに求められる機能・性能はより高度化し、仕向地や環境に合わせた仕様も多様化しています。私たちは、高性能かつ高品質のモノづくりを支える、スピーディで効率的な製品の設計・開発プロセスの確立に向けて、HPCシステムの刷新に臨みました」

TOYO TIREのHPCシステムへの取り組みは先進的だ。1987年に自動車タイヤ業界に先駆けてスーパーコンピューターを導入。以後、5世代にわたってHPE(当時はSGI)のHPCシステムで自動車タイヤの設計支援環境を強化してきた。

「プラットフォームの最新化とともに、その最大性能を引き出せるようHPEから技術支援を受けてきました。中でも、私たちが独自に開発したCAEアプリケーション『TOYO-FEM』をシステムに合わせて最適にチューニングし、レスポンスとスループットを右肩上がりで向上させてきたことは大きな成果です」(大石氏)

第6世代HPCシステムは、2019年から2023年までの4年間、TOYO TIREの設計・開発プロセスすなわち新商品の競争力を支えていくミッションを担う。技術開発本部 先行技術開発部CAEグループ長の田中嘉宏氏は、新システムに織り込んだ要件を次のように説明する。

「ポイントは大きく2つあります。①CAD・設計情報とCAE・シミュレーション情報の一元管理と共有資産化 ②AI/ディープラーニングの適用と『性能値から設計仕様を導き出す逆問題解法の確立』です。これを実現するために、第6世代HPCシステムには性能値として従来機の4倍以上のCPUと、ディープラーニング用の学習データの蓄積を自動的に行う仕組みを求めました」

第6世代HPCシステムのインフラ設計と構築、アプリケーション性能のベンチマークとチューニングを担当したのは、旧日本SGI時代から長年にわたりTOYO TIREの環境をサポートしているエンジニアチームである。

逆問題の解法の確立に向けAI/ディープラーニングを適用

 

TOYO TIREでは、設計チームがプロジェクトごとに高機能・高性能な新商品の設計開発に携わっている。CADを扱う設計者が、自身の作業環境からCAEを自由に利用できることが同社の強みだ。大石氏、田中氏らは、設計とシミュレーションを反復できるこの環境の整備に20年以上前から取り組んできたという。

「CADとCAEの連携は、設計が要求仕様を満たしているかを可視化して意思決定を容易にします。これにより、設計から試作までのプロセス効率化に大きく寄与しています。第6世代HPCシステムではこれをさらに進めて、設計情報とCAEによるシミュレーション情報を串刺しで統合管理できるようにします。『共有資産化』を大胆に進めて、設計開発の品質とスピードをいっそう向上させることが狙いです」(田中氏)

SPDM(Simulation Process Data Management)により自動的に収集・統合された設計情報は、再利用しやすい形でデータベース化される。これが「ディープラーニングの学習データ」としても活用されることが大きな特徴だ。HPEのエンジニアチームは、HPCシステムの利用状況をモニタリングし、利用率が一定水準以下のときにディープラーニング学習用ジョブを自動実行する仕組みを作り込んだ。

「タイヤ性能には、剛性、コーナリングフォース、転がり抵抗、摩耗特性などがあります。現在の手法では、設計者は自分が設計したタイヤの性能見積りが妥当であるか、TOYO-FEMにより検証を行っております(田中氏)

CAE環境では、設計仕様をインプットし、性能値というアウトプットを得る。この手法の問題点は、性能が要求仕様を満たしていない場合に設計を手直しする必要があることだ。つまり、再設計とシミュレーションを繰り返すだけ設計検討期間は伸長する。

「理想は、性能値をインプットすると設計仕様がアウトプットされること。目標性能を得るためにどのような構造・形状・パターンの設計が必要か、仕様情報がリアルタイムで導き出されるような環境です。この『逆問題』の解法を確立するために、AI/ディープラーニングを適用する考えです」(田中氏)

逆問題の解法が確立されると、設計者がCADデータからメッシュを作成し、ジョブを投入し、シミュレーション結果を評価する・・・といったプロセスが丸ごと省略できる。

「シミュレーションに要する時間が大幅に短縮されるだけではありません。設計要素を変更したときにどのような性能変化が起こるかを、即時で予測することも可能になるでしょう。自動車タイヤ開発プロセスのイノベーションに向けた、大きな一歩を踏み出すことになります」と大石氏は語る。

TOYO TIRE株式会社

技術開発本部
先行技術開発部
部長
大石 克敏 氏

TOYO TIRE株式会社

技術開発本部
先行技術開発部
CAEグループ長
田中 嘉宏 氏
博士(工学)

ソリューション

アプリケーション性能を最大約4.8倍 スループットを最大約6.1倍に

 

TOYO TIRE第6世代HPCシステムのインフラ設計と構築、アプリケーション性能のベンチマークおよびチューニングを担当したのは、旧日本SGI時代からの実績を持つエンジニアチームである。新システムは、計算ノードに高性能インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー搭載の「HPE ProLiant DL360 Gen10サーバー」を採用し大規模なHPCクラスターを構成。InfiniBand EDR高速インターコネクトで接続された環境は、従来比4倍以上の計算性能を発揮する。

「今後5年間の新商品開発を支える計算性能を備えたシステム設計を、HPEのエンジニアチームとともに進めました。HPEのグローバルベンチマークセンターでアプリケーション性能を計測・評価し、最適なCPUコア数/クロック数を選定できたことは有難かったですね。また、新システムでTOYO-FEMが最大の性能を発揮できるよう、並列度・多重度を変えたときの性能評価や、最新ライブラリに合わせたチューニングを入念に実施しています」(田中氏)

HPEでは、米・仏・豪にグローバルベンチマークセンター(GBC)を設置し、HPCシステムの様々な要求に応える検証サービスを提供している。ベンチマークやPoC(概念実証)は、科学分野ごとに高い専門性と豊富な経験を持つエキスパートが担当。顧客企業はGBCを利用することで、システム構成の最適化とパフォーマンスの最大化という成果を確実に手にすることができる。

「GBCチームの支援を受けて、TOYO-FEMアプリケーションの性能は従来比最大約4.8倍、スループット(時間当たりのジョブ数)では約6.1倍にまで向上させることができました」とその成果に田中氏は笑顔を見せる。

ベネフィット

TOYO TIRE独自の競争力の高い設計開発技術基盤を確立

 

TOYO TIREでは、TOYO-FEMを中心とするタイヤ設計基盤技術を「T-MODE」、材料設計基盤技術を「ナノバランステクノロジー」として体系化している。第6世代HPCシステムは、両基盤技術の実行環境として高度な計算要求に応えていくことになる。

「今後は、クルマとタイヤを一体化させた空力・流体シミュレーションにも力を入れていく考えです。空力予測、スノー予測、騒音予測といった実現象を再現するシミュレーション基盤技術の開発を推進します。また、材料系の分子動力学シミュレーションの高速化にも期待しています」(田中氏)

CAD/CAEデータの統合データベース化とともに、AI/ディープラーニングの活用も進んでいく。逆問題解法が確立されることで、設計者自身によるシミュレーション環境は大きな進化を遂げる。

「シミュレーション基盤技術と設計支援技術をSPDM技術で結び、TOYO TIRE独自の競争力の高い設計開発技術基盤を確立するための準備が整います」(田中氏)

HPEは、SGI(2017年)に続きCRAY(2019年)の事業を統合し、HPC分野でのリーダーシップをいっそう強化した。HPEが提唱する「メモリ主導型コンピューティング」も実現に向けて着実に前進している。大石氏が次のように語って締めくくった。

「私たちは、自動車タイヤ開発プロセスのイノベーションに向け大きな一歩を踏み出しました。CAEとAIを融合させた最先端のHPCテクノロジーにより、より高品質かつ高性能で、お客様価値の高い商品開発を加速させていきます。そして、100年に一度といわれるこの変革期を勝ち抜く考えです。HPEには、第6世代HPCシステムからより大きな成果を生み出すために、これからもハード/ソフト両面で私たちのビジネスに寄り添った支援を期待しています」


ご導入製品情報

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