ジェイアール東日本情報システムが、新規開発の業務システムの全機能を1シャーシの物理環境に集約
超高密度サーバー「HPE Moonshot System」を採用し1シャーシ/45ノードの物理環境にWeb/アプリケーション/データベース/マネジメントなど全機能を集約
"多様なワークロードに対して最適なシステムを選択できることが今後はますます重要となり、HPE Moonshot Systemのような超高密度の物理環境が選択肢にあることに、大きな価値があると考えています。"
―株式会社ジェイアール東日本情報システム 安全対策室 室長 武藤 実 氏
業務システムにHPE Moonshot Systemを採用
ジェイアール東日本情報システム(JEIS)が、オープンソースソフトウェアを全面採用して業務システムの構築を推進している。“カートリッジ型”と呼ばれる超高密度サーバー「HPE Moonshot System」をプラットフォームに選定し、高さ4.3Uの1シャーシ/45サーバーノード内にシステムに必要な全機能を集約したことが大きな特徴だ。JEISは、仮想化されたサーバー/ストレージ環境でなく、なぜ「HPE Moonshot System」を選定したのか。いかなるテクノロジーでシステム構築に臨んだのだろうか。
業界
IT
業種
運輸・流通
目的
ジェイアール東日本情報システム(JEIS)が構築・運用を担う、約200システムの障害情報を集約するナレッジベース「障害情報システム」の構築。障害情報と解決プロセスを全社で共有し、PDCAによりシステムのサービス品質の継続的な改善を図る。
アプローチ
超高密度の物理サーバーを収容するシャーシ内に「障害情報システム」を構成する全機能を集約。オープンソースソフトウェアを全面的に採用し、Web/アプリケーション/データベース/分散ファイルシステム/マネジメント/ロードバランサーなど多様な機能を実装する。
ITの効果
・消費電力が極めて低く、高密度を実現するインテル® Atom™ プロセッサー C2750(8コア)を搭載し、圧倒的な超高密度と超低消費電力を実現する「HPE Moonshot System」を採用
・1シャーシ/45ノードに障害情報システムの全機能を集約し、個別の汎用サーバーよりもシンプルな構成と運用を可能に
・45ノードのリソースをWeb/アプリケーション/データベースなどの各種機能にノード(カートリッジ)ごとで使い分けて適用
・サーバー/ストレージを統合した“1シャーシ=1システム”の物理環境を実現
・データベース環境に「MySQL Cluster」を採用し、データを複数のノード上に分散配置しながらSQL文による柔軟なトランザクション処理を実現
・「HPEオープンソースエキスパートサービス」がOSS製品やテクノロジーの選定から検証/インフラ構築/機能実装までをサポート
ビジネスの効果
・障害情報の全社共有によるITサービス品質の向上に寄与
・仮想化技術を使わずに省電力かつ省スペースのシステム環境を実現
・JEISの開発子会社エスケイケイにおけるOSS開発力強化と利用推進
・HPE Moonshot Systemの適用範囲の拡大に期待
チャレンジ
社会基盤を支えるシステムとサービス
ジェイアール東日本情報システム(JEIS)は、東日本旅客鉄道(JR東日本)の情報システム部門が独立して1989年に誕生した。JR東日本グループ約70社を中心に広くシステム提案・開発・運用を手がけ、その数は主要なシステムだけで200を超える。JEISで安全対策室 室長を務める武藤実氏は、JEISのビジネス領域を次のように紹介する。
「JEISが開発・運用を担うシステムは、鉄道、新幹線、Suica、生活サービスを軸に大きな広がりを見せています。安全で正確な鉄道サービス、革新的な電子マネーサービスなど、社会基盤を支えるシステムがその中心です」
安全で正確な鉄道運行は、日本が世界に誇る社会基盤サービスである。JR東日本が1日に運行する列車はおよそ12,500本。ラッシュ時に2分間隔で運行される山手線などは、我が国の鉄道輸送の正確さと緻密さ、安全性を象徴するものと言えるだろう。
「JEISでは、システムが提供するサービスの品質を継続的に高めていく取り組みの一環として、障害情報の全社集約化を進めています。システム障害の発生から解決までのプロセスを記録し、ナレッジとして全社での活用や分析を可能にする『障害情報システム』の構築です」(武藤氏)
構築プロジェクトをリードする安全対策室 安全推進グループ リーダーの中川賢治氏は、障害情報システムの意義を次のように説明する。
「あるシステムで発生した問題に対して、その原因と解決方法を『障害情報システム』で全社共有し、同種の問題を未然に防ぎたいと考えています。私たち安全対策室は、稼働中の全システムに対して障害発生状況を把握し、重要度に応じて適切な復旧を支援するミッションを担っています。障害の未然防止・再発防止のためのナレッジを提供することも重要な役割のひとつなのです」
たとえば、ソフトウェアの不具合が確認された場合には、修正プログラムの適用状況が全社ポータルでタイムリーに通知される。統計的な解析結果を開発チームにフィードバックすることも可能になるという。
「ハードウェア故障に対しては、構成部品の見直しや監視対象の重点項目の設定にも活かされるでしょう。中長期的なトレンドを計測することにより、障害のリスクがどこに潜んでいるのか明らかにできるとの期待もあります」とJEIS安全対策室 安全推進グループ サブリーダーの井瀧信吉氏は話す。
障害情報システムは、JR東日本1,400拠点をはじめ、JR東日本グループが日々利用するシステムの継続的なサービス品質向上を担っていく。JEISにとっては、ナレッジベースであり社内向けシステムという位置付けだが、その使命は重要だ。
「構築に際して、私たちは大きな決断をしました。従来のサーバーに対してまったく新しい超高密度サーバーの『HPE Moonshot System』の採用です」(中川氏)
HPE Moonshot System+OSS というチャレンジ
HPE Moonshot Systemは、2013年4月に発表された革新的なサーバーシステムである。高さ4.3Uのシャーシに“カートリッジ型サーバー”を45枚収容する。複数の機能を集約したシステムオンチップ(SoC)を採用することで、これまでの常識を覆す超高密度(1Uサーバー比で最大80%削減)と超低消費電力(1Uサーバー比で最大89%削減)を実現する。カートリッジの種類によって、様々なサーバーシステムへと役割を変えられることも大きな特長だ。
「1シャーシ内にカートリッジ型の物理サーバーが45台という構成に、まず驚かされました。また、システムやアプリケーションの要求に合わせてイージーオーダー的に構成できる点が非常にユニークと思いました」と開発を担当するエスケイケイの中森覚一氏は、HPE Moonshot Systemへの第一印象を話す。
エスケイケイはJEIS の開発子会社である。Windowsベースのミッションクリティカルなアプリケーション開発に豊富な実績とノウハウを持つ。
「当初、障害情報システムはWindowsベースでの開発を想定していましたが、ここでも大きな決断をしました。オープンソースソフトウェア(OSS)を全面的に採用し、HPE Moonshot Systemの1シャーシ/45サーバーノード内に障害情報システムの全機能を集約するというものです。いわば“1シャーシ=1システム”を実現するチャレンジです」と中川氏は振り返る。
JEISは、なぜHPE Moonshot SystemとOSSを選んだのだろうか。
「私たちが付加価値の高いソリューションを提供し続けるためには、常に技術力を研鑽していく必要があると考えています。Windowsベースで高信頼なシステムを構築する技術に取り組むとともに、革新的なテクノロジーにチャレンジすることも怠ってはなりません」(中川氏)
JEISは、メインフレーム全盛期から、Windowsによる業務システムの開発に取り組んできた歴史がある。また、チャレンジをリードしてきたJEISの経営トップからも、“超高密度と超低消費電力を実現した新時代のサーバー”に期待する声が上がっていたという。
エスケイケイの西島一徳氏は「技術者マインドを大いに刺激された」と言う。「ライトな物理サーバー45台のリソースをいかに適正に配分するか、スケールアウトでの実行性能をどれだけ引き出すか、外部ストレージを使わずにデータをどのように管理するかなど、デザイン次第でシステムの完成度を大きく高められる予感がありました」
JEISとエスケイケイが推進するHPE Moonshot SystemとOSSによる「障害情報システム」の開発、その全貌を詳しく追っていこう。
株式会社ジェイアール東日本情報システム
安全対策室
室長
武藤 実 氏
株式会社ジェイアール東日本情報システム
安全対策室
安全推進グループ
リーダー
中川 賢治 氏
株式会社ジェイアール東日本情報システム
安全対策室
安全推進グループ
サブリーダー
井瀧 信吉 氏
インテル® Atom™ プロセッサー
C2000 製品ファミリー
ソリューション
OSS分散データベース MySQL Clusterの採用
HPE Moonshot Systemは、4.3Uのシャーシにカートリッジ型サーバーを45枚収容する。今回JEISが採用した「HPE ProLiant m300サーバーカートリッジ」は、消費電力が極めて低く、高密度を実現するインテル® Atom™ プロセッサー C2750(8コア)/32GBメモリ/1TBのHDDまたは240GBのSSDを搭載。この手のひらに載るほど小さな“1枚”が、エントリークラスの1Uサーバーに匹敵する性能を発揮※する。 ※HPE調べ
「障害情報システムは、他の業務システムと同様Webアプリケーションとして開発します。私たちは、アプリケーションの要件を起点に、扱うデータ量を予測しながらアーキテクチャーを設計していきました。最初の課題は、外部ストレージを使うことなくどうやってHPE Moonshot Systemのシャーシ内にデータを持たせるか、ということでした」と中森氏は振り返る。
HPE Moonshot Systemの1シャーシ内でWebアプリケーションを完結させるには、分散データベースが必須だった。
「HPEから紹介されたOSSのMySQL Clusterに着目しました。複数のサーバーノード上で分散してデータを管理し、データの冗長化により可用性も確保できます。いわゆるNoSQLでありながら、業務システムで一般的に使われるデータベースと同様にSQL文を使えるメリットが大きいと考えました」(西島氏)
本プロジェクトでOSSによる開発を支援したのは、「HPEオープンソースエキスパートサービス(HPE OSES)」だ。OSSに精通したHPEの技術者が、OSやミドルウェアをはじめ広範な課題解決サービスを豊富なノウハウとともに提供する。
「システムアーキテクチャーの設計からテクノロジーの選定まで、HPE OSESのメンバーと様々なディスカッションを行い、多くのアドバイスも受けました。開発中の問題に際しては、私たちと同じ環境を用意して解析を支援してもらえました」とエスケイケイの宇戸氏は話す。
エスケイケイの開発チームは、アプリケーションのプロトタイプを作成してHPE Moonshot Systemの実機を使った稼働検証・性能検証を実施し、確かな手応えを得た。
「システム全体として高いパフォーマンスを発揮するよう設計を工夫しました。リード/ライトが発生するMySQL ClusterのデータノードにはSSDを搭載。3枚のHPE ProLiant m300サーバーカートリッジで1つのノードグループを構成し、さらに3つのノードグループ上にデータを分散させる仕組みとしました」(西島氏)
HPE Moonshot System環境の監視システムも、OSSのZabbixベースで新たに開発した。これを担当したエスケイケイの三品氏は次のように話す。
「サーバーカートリッジ2枚を監視システムに割り当てました。物理サーバーとして完全に独立したサーバー監視システムですので、計算ノードやデータベースに影響することなく監視が可能です」
株式会社エスケイケイ
SI本部
SI第2部
部長
中森 覚一 氏
株式会社エスケイケイ
SI本部
次長
西島 一徳 氏
株式会社エスケイケイ
SI本部
主任
三品 愛以里 氏
株式会社エスケイケイ
SI本部
主任
宇戸 和樹 氏
ベネフィット
ユーザーの声を反映し進化する HPE Moonshot System
システム設計が山場を迎えた頃、JEISの中川氏、井瀧氏、エスケイケイの中森氏、西島氏は、HPEのサーバー開発拠点である米ヒューストンを訪ねてHPE Moonshot Systemの開発責任者と意見交換を行った。
「1シャーシ内に1つの業務システムを構築したい、そのために仕様の異なるサーバーカートリッジを混在させたい、というテーマで濃密なディスカッションを行いました。その中で、Webフロント系システム一式をHPE Moonshot Systemで実現する“Web Infrastructure in a box”構想を聞くことができました。まさにわが意を得たり、という思いでした」(中川氏)
「HPE Moonshot System環境でのデプロイを自動化する『HPE Insight CMU』も紹介され、本番環境での運用に確証が得られました」と西島氏も成果を語る。
HPE Moonshot Systemは2013年4月の登場以来、ユーザーやパートナー企業のフィードバックを受けて進化を続けている。その背景には、仮想化環境と物理環境を適材適所でムダなく使い分けたいというニーズの高まりがある。物理サーバーをクラウド技術によって制御する“ベアメタルクラウド”の台頭はその好例と言えるだろう。
中川氏には「OSSの活用は技術力の向上とその継承につながる」との思いが強くある。「お客様の求める“サービス”をいかに早く安価に提供するか、私たちは常にそれを模索しています。障害情報システムをHPE Moonshot SystemとOSSで開発したことは、大きな試金石となるでしょう。この技術とノウハウを活かして、HPE Moonshot Systemによる、よりミッションクリティカルな業務システムを構築する計画にも着手しています」
最後に、武藤氏が次のように語って締めくくった。
「多様なワークロードに対して最適なシステムを選択できることが今後はますます重要となり、HPE Moonshot Systemのような超高密度の物理環境が選択肢にあることに、大きな価値があると考えています。この新しいサーバーテクノロジーの進化も、私たち自身の活用ノウハウの蓄積も始まったばかりです。チャレンジは続きます」
ご導入製品情報
本件でご紹介の日本ヒューレット・パッカード製品・サービス
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製品・サービス
HPE ProLiant m300サーバーカートリッジ