大同特殊鋼 技術開発研究所が、機械学習を活用したマテリアルズインフォマティクスを推進
大同特殊鋼株式会社 様
所在地:名古屋市東区東桜一丁目1番10号
URL:https://www.daido.co.jp/
AIに特化したHPE Apollo 6500 Gen10システムを採用、コンテナ化されたディープラーニングモデル開発環境の構築をHPE Pointnextがトータルに支援
"コンテナ技術の効果は期待以上でした。従来は開発環境の構築に数時間を要していましたが、現在はイメージライブラリに登録されたコンテナを選ぶだけの容易さです"
―大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
計測制御研究室
野﨑 航平 氏
大同特殊鋼が、高機能化する特殊鋼の開発・検査プロセスに機械学習を採用し、マテリアルズインフォマティクスへの取り組みを加速させている。これを主導する同社 技術開発研究所では、NVIDIA Tesla V100を8基搭載する「HPE Apollo 6500 Gen10システム」を導入。研究員がディープラーニングモデルを開発するための共通基盤を整備した。注目すべきは、AIプラットフォームにコンテナ技術を組み合わせることで、多様な研究ニーズに応える柔軟なGPUリソース活用を可能にしたことである。HPE Pointnextが、この先進的なディープラーニングモデル開発環境の構築を全面的に支援した。
業界
製造
目的
特殊鋼や磁性材料などを対象にしたマテリアルズインフォマティクスの推進。高機能化するマテリアル開発プロセスのスピード化、検査精度の均質化による歩留まりの向上を目指す。
アプローチ
統合的なディープラーニングモデル開発環境を構築。コンテナ技術によりセットアップやGPUリソース割り当てを容易にし、研究員の負荷を低減して自身の開発テーマへ注力可能にする。
ITの効果
・HPE Apollo 6500 Gen10システム(8GPU搭載)を採用しディープラーニングモデル開発環境を統合化
・DockerコンテナおよびJupyterHubを活用し、複数の研究者によるGPUリソース共有と柔軟な利用を実現
・ディープラーニング開発環境のセットアップ時間を1/10以下に短縮
・研究者をインフラ管理から解放し自身の開発テーマへ注力可能に
・優れたGPU性能により学習モデル構築時間を大幅に削減するとともに、複数の学習モデル評価を並列実行可能に
ビジネスの効果
・試作・検証プロセスを高効率化し、高機能マテリアル開発のスピード化・短期間化に寄与
・研究者の経験と知見に頼っていた検査をディープラーニングモデルにより均質化
・技術開発研究所の中からデータサイエンティストを育成
・生産現場でのデータ収集(IoT)、ディープラーニングモデルの開発、エッジでの推論処理、データレイクの活用までを含む最適化構想をHPE Pointnextとともに検討開始
チャレンジ
マテリアルズインフォマティクスによるものづくりスピード化への挑戦
世界最大級の特殊鋼専業メーカーとしてグローバルに事業を展開する大同特殊鋼。同社が提供する特殊鋼や磁性材料は、自動車、航空機、発電所、産業機械、IT機器など様々な分野にイノベーションをもたらしてきた。中でも、EV車を支える高性能磁石や高機能粉末、ジェットエンジンの高効率化を可能にした高耐熱・高耐食ステンレス鋼への評価は高い。ハイニッチ領域の高度な要求に応える技術力、きめ細やかでスピーディな対応力が同社の強みだ。技術開発研究所 副所長(プロセス研究担当)の鈴木寿穂氏は次のように話す。
「特殊鋼や磁性材料に限らず、様々なマテリアルに対して『高機能化』の要求が一段と高まっています。私たちが日々取り組んでいる新素材開発・製造・検査のプロセスにも、発想転換とイノベーションが求められていると強く感じています。中でも、開発の更なるスピード化、検査精度の向上・均質化は最重要のテーマです」
技術開発研究所は、100名規模の研究員を擁し、同社の技術と知見を集約する戦略拠点として様々な成果を生み出している。
「2017年にディープラーニングの研究に着手し、2018年からはマテリアルズインフォマティクスへのチャレンジを本格化させています。研究者のスキルに依存していた開発や検査のプロセスを、ディープラーニングモデルで強化することが大きな狙いです。新素材開発においては、人間が考えつかないような材料組み合わせの創出も可能なことがわかってきました」(鈴木氏)
マテリアルズインフォマティクスは、物質特性データベースとAIテクノロジーを活用し、新素材を効率的に探索するアプローチとして注目されている。膨大な数の試作と検査を繰り返してきた従来の開発プロセスを変え、新素材開発を大幅にスピード化する可能性が期待される。
「この一環として、研究員が共同利用できる『統合的なディープラーニングモデル開発環境』を2018年に構築しました。HPE Pointnextコンサルティングチームのアドバイスを得て、新素材開発の将来を見据えた共通基盤の整備を目指しました」(鈴木氏)
大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
副所長(プロセス研究担当)
鈴木 寿穂 氏
ソリューション
コンテナ技術を利用した研究者の手を煩わせない開発環境
HPE Pointnextは、企業のデジタルトランスフォーメーションをトータルに支援するサービス組織である。AI(マシンラーニング/ディープラーニング)分野におけるアドバイザリサービスでも実績を積み重ね、データ収集から処理・分析・管理に至るパイプライン構築や、コンテナ技術を活用したAIプラットフォーム構築で高い評価を獲得している。
「HPE Pointnextによるワークショップが非常に効果的でした。統合的なディープラーニングモデル開発環境を高効率で活用するために、どんな課題やテーマがあるか洗い出しながら方針を具体化していきました。この過程で、未体験の研究者もディープラーニングへの理解を深めることができ、『技術開発研究所としてやるべきこと』の共通認識が形成できたと思います」と計測制御研究室 副主席研究員の布施直紀氏は振り返る。
HPE Pointnextのアーキテクトである吉瀬淳一氏は、ワークショップから導き出されたポイントを次のように挙げる。
「複数の研究者が利用する共通基盤では、『研究者が必要なデータと計算リソースを使いたいときに即座に使えること』『開発環境の準備や運用で研究者に負担をかけないこと』『共有された計算リソースの利用効率を最大化すること』が重要であると確認できました。私たちはこれを実現するために、AIプラットフォームにコンテナ技術を組み合わせる環境を提案しました」
HPE Pointnextが示した環境は次の通りだ。
① HPE Apollo 6500 Gen10システムによりディープラーニングモデル開発環境を統合化
② Dockerコンテナを利用した開発環境のイメージライブラリを整備し、セットアップにかかる手間を解消
③ JupyterHubを利用してマルチユーザーによるGPUリソースの利用効率を最大化
「HPE Apollo 6500 Gen10システム」を中心とする本環境は、2018年12月に運用を開始した。コンテナ技術を実装し、優れたスケーラビリティ(拡張性)、フレキシビリティ(柔軟性)、アクセシビリティ(利便性)を実現した先進的なディープラーニングモデル開発環境の誕生である。
ディープラーニングに特化した HPE Apollo 6500 Gen10システムを採用
大同特殊鋼 技術開発研究所が採用した「HPE Apollo 6500 Gen10システム」は、高さ4Uのラックマウント筐体にNVIDIA Tesla V100を8基搭載しディープラーニングに特化したプラットフォームである。独自の管理プロセッサーHPE Integrated Lights-Out 5(iLO 5)を搭載し、ハードウェアレベルのセキュリティと優れたマネジメント機能を備えている。汎用的なx86サーバーとともに標準ラックに収容し、同じ手順で運用管理できるメリットは、エンタープライズユーザーから評価が高い。
「統合環境は、従来のGPU搭載ワークステーションとは比較にならない高いパフォーマンスを発揮します。最大8基のGPUによる同時処理はもちろん、複数のGPUを使い分けた並列処理も可能で、学習モデル評価の自由度が大きく高まりました」と語るのは、計測制御研究室の野﨑航平氏である。
野﨑氏は、画像認識とディープラーニングを組み合わせた検査モデルの開発を担っている。検査の均質化・スピード化、研究者のスキルに依存しない検査プロセスの確立が大きな目標だ。
「金属の断面を顕微鏡で観察すると、複数の結晶粒で構成されていることが確認できます。この粒の大きさが『製品の仕様』となるのですが、研究者=ヒトによる目視検査では評価にわずかな誤差が発生します。こうした検査と評価を均質化するために、ディープラーニングモデルを活用する取り組みを進めています」(野﨑氏)
「お客様の要求仕様を満たすこと、そのために金属組織評価の精度を維持・向上させることに妥協は許されません。組織評価は、製品化されたときの強度や性能を決める極めて重要な工程です。人手に頼った組織評価は、高性能化が進む新素材開発のボトルネックになりかねません。だからこそ、ディープラーニングを適用することに大きな意義があるわけです」(鈴木氏)
野﨑氏が開発した検査モデルは、他の研究員が実際の検査業務で試用を始めているという。HPE Apollo 6500 Gen10システムの導入は、ディープラーニングモデル開発の高速化に目に見える効果をもたらしている。
「終業前に学習モデル評価を実行して翌朝に結果を確認する毎日でしたが、大半が就業時間内に完了できるようになりました。処理時間が見通せるようになったことで、業務手順もスムーズになり生産性が大きく向上したことを実感しています」と野﨑氏は笑顔を見せる。
大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
計測制御研究室
副主席研究員
布施 直紀 氏
大同特殊鋼株式会社
技術開発研究所
計測制御研究室
野﨑 航平 氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社
Pointnext Hybrid IT COE
Lead Architect
吉瀬 淳一 氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社
Pointnext事業統括
製造・流通サービスデリバリー本部
コンサルタント
鳥井 翼 氏
ベネフィット
ディープラーニングとコンテナ AI先進企業が採用する理想の開発環境へ
HPE Pointnext の提案により、HPE Apollo 6500 Gen10システムにはDockerコンテナとJupyterHubが実装された。技術開発研究所ではJupyter Notebookを標準環境として利用しているが、新たにJupyterHubを採用したことで共通基盤上でのインスタンスの生成や管理が容易になっている。
「共通基盤には、共有されるGPUリソースやデータを複数の研究者が効果的に活用できる環境を整えました。ヒアリングやワークショップを通して初期段階からお客様の課題やニーズを把握していましたので、実務にしっかりと活かせる環境をご提案できたと思います」とHPE Pointnextのコンサルタント 鳥井翼氏は話す。
「コンテナ技術の効果は期待以上でした。従来は自分の開発環境を構築するのに数時間を要していましたが、現在はイメージライブラリに登録されたコンテナを選ぶだけの容易さです」(野﨑氏)
コンテナイメージライブラリの拡充とともに、あらゆる環境のセットアップ時間が劇的に削減されていく。ディープラーニングに取り組む研究者が増えることで、データやライブラリの拡充はさらに進み、新素材開発プロセス全体のスピードはいっそう加速していくだろう。そして、技術開発研究所が培ったノウハウとディープラーニングモデルは、広く生産の現場へ展開されることが期待される。
「ここ数年、主力工場はフル操業の状態が続いています。時間のロスを含め生産の停滞は許されない状況です。そうした厳しい環境下でも、高品質な製品を安定的に提供し続けなければなりません。ディープラーニングを、新素材開発のスピード化だけでなく、量産製品の品質安定化や製造設備の保守にも適用していくことは必然的な流れとなるでしょう」(布施氏)
「研究開発プロセス全体をスピード化していくことが目の前のテーマですが、将来的には私たちが培った技術とノウハウを全社に展開し、お客様の要求仕様を満たしながら、より高効率で歩留まりの良い生産ラインの実現に寄与したいと考えています」と鈴木氏は決意を示す。
技術開発研究所では、HPE Pointnextとともに大きな構想を共有している。生産現場でのデータ収集、ディープラーニングモデル開発とエッジでの推論処理、データレイクの活用までを含むプロセス全体の最適化ビジョンである。鈴木氏が次のように語って締めくくった。
「マテリアルズインフォマティクスの全社レベルでの教育・トレーニングに着手しました。技術開発研究所としては、材料・プロセスの専門分野とデータサイエンティストのスキルを併せ持つ人材を、2020年までに育成することを目標に掲げています。HPE Pointnextには、最新テクノロジー導入のアドバイスを含め継続的な支援を期待しています」
ご導入製品情報
HPE Apollo 6500 Gen10システム
HPE Apollo 6500 Gen10システムは、業界をリードするGPU、高速GPUインターコネクト、高帯域幅ファブリック、構成可能なGPUトポロジを備えており、お客様のワークロードに合わせて卓越したパフォーマンスを提供する、HPCやディープラーニングに最適なプラットフォームです。
本件でご紹介の日本ヒューレット・パッカード製品・サービス
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