クローズドループ製造でデータサイロを解消

クローズドループ製造と呼ばれる新たなフレームワークは、組織内のデータサイロを解消しつつ、製造ライフサイクル全体にわたるフィードバックループの強化を可能にします。以下ではその詳細をご紹介します。

あなたが世界的な自動車メーカーに勤務しており、新型車の試験走行を監督する役目を割り当てられていると想像してみてください。

試験走行は次のような形で行われます。クローズドサーキットでの試験走行を依頼されたプロのテストドライバーとともに、3人のエンジニアがノートパソコンを手に車に乗り込みます。ドライバーが車を走らせている間、従来型のRS-232シリアル接続を介して、車のシステムからラップトップにデータストリームが送信されます。エンジニアたちはライブストリームを監視するとともに、より詳細な分析を後からオフィスで行うために、すべてのデータセットを保存します。

各エンジニアは、それぞれ個別のメトリックを収集します。設計エンジニアは、振動および騒音のレベルを測定したいと考えています。電子ブレーキシステムの開発担当者は、ABSコンポーネントのデータにのみ注目しています。HVACエンジニアは、さまざまな気象条件や乗客構成のもとで、エアコンが車内温度を5度下げるのに要する時間を測定したいと考えています。

 

サイロ化された環境とクローズドループ製造における好循環の比較

前述の試験走行に何か問題があるでしょうか。表面上は何の問題もないように思われます。エンジニアたちは各自の職務に従って、行うべき作業を適切に遂行しています。設計、エンジニアリング、および製造仕様が確定されて、生産が開始されるまでには、同様の試験走行が何千回も繰り返されることになります。過去数十年間にわたり、自動車業界ではこうしたプロセスを経て、新型車が市場に投入されてきました。

しかしながら、自動車業界におけるこうしたアプローチ、さらには他業種で行われている同種のアプローチには、ある1つの問題点が存在しています。それはデータに関連する問題です。エンジニアたちは、テラバイト規模のパフォーマンスメトリックや診断データを手にデスクに戻りますが、組織内にはそれらのデータを収集して体系化するための、あるいは部門間でデータを共有するための、共通フレームワークが存在していません。すなわち車両の設計、製造、販売、およびサービスを管理するプロセスは、それぞれ異なるデータサイロに依存することになります。その結果、以下に示すような、さまざまな悪影響が生じます。

  • 市場機会の逸失: 製造/販売予測が実際の市場規模や市場浸透率を下回っていた場合に、市場機会を逸する恐れがある。
  • 設計の失敗: 製品が顧客のニーズや好みを満たしていない、あるいは搭載した機能が必要とされていない、または意図したとおりに使用されていない。
  • 製造上の非効率性: 製造コストの削減機会が見過ごされる。
  • サービスおよびメンテナンスの不備: 不具合に迅速に対応できない、あるいは充実した顧客サービスを提供できない。
  • 部門間の連携不足: 情報が不足していたり、データセットがサイロ化されていたりするために、部門間の連携が不十分で、重要な知見が共有されない。

ここに挙げたような問題は、効率性の改善、より優れた製品の開発、競争力の強化などにつながる機会が失われていることを意味します。

こうした状況を解決する手段として注目されているのが、クローズドループ製造と呼ばれる新たなフレームワークです。このフレームワークは、企業内に既に存在していながら、個別のサイロ内に保管されて十分に活用されていない、膨大なデータの有効活用を可能にします。その基本的な理念は、さまざまな部門や製造段階で生成されるデータをすべて収集し、それらを個別のデータサイロに保管するのではなく、組織全社にわたって関係者が利用できるようにしようというものです。

データを共有するには、そのための仕組み作りが必要です。自動車メーカーにとって、クローズドループ製造とは、研究開発から始まり、設計とプロトタイプの作成、製造、アフターマーケットサービス、そして再び研究開発へと戻る好循環を、構造化されたプロセスおよび継続的なデータフローを使用して形成することを意味します。

図: クローズドループ製造のコンセプト図

イメージクレジット: HPE

 

自動車業界で存在するデータサイロ

データサイロは、さまざまな業界や企業内に広く存在しています。各部門に所属する従業員は、小規模なプロセスやタスクを自身の職務と認識し、自部門の目標や特定の仕様を満たすために必要なデータの収集に努めます。彼らの視野は部門内にとどまることが多く、他部門を意識することはほとんどありません。

自動車メーカーの例に戻って、新型車が販売開始されて顧客の手に渡ったあとで、欠陥が明らかになったケースを考えてみましょう。欠陥に気づいた所有者たちが、保証内修理を受けようと、販売店やサービスセンターに続々とやって来ます。

しかしながら社内がサイロ化されていると、顧客から販売部門やアフターマーケットサービス部門、さらには設計、エンジニアリング、製造などの部門への情報伝達がスムーズに行われず、自動車メーカーがこの欠陥に対処するまでには長時間を要することになります。フィードバックループをより一層阻害する要因として、一貫性のないデータタイプ、あるいは社内のITインフラストラクチャの機能的限界なども挙げられます。

IT部門と運用テクノロジー (OT) 部門では、IoTプロジェクトに対する見方が異なり

データのフィードバックループに時間がかかりすぎると、最終損益にも明白な悪影響が生じます。欠陥が安全性に関わる重大なものである場合でも、製品から欠陥が排除されるまでに18ヶ月を要する可能性があります。さらにより重要性の低い欠陥の場合は、必要な変更が行われるまでに2年以上かかることもあり、その間、組立ラインを流れていく新車には、既知の欠陥が組み込まれ続けることになります。米運輸省道路交通安全局 (NHTSA) が保有する30年分のリコールデータに基づき、米国で実施されたある調査によると、業界平均リコール台数は1,000台あたり1,115台で、多くの車種で複数回のリコールが発生していることがわかります。

データサイロは、販売上の問題も引き起こし、その結果として収益に悪影響を及ぼします。例えば大手自動車メーカーが、車両の色、トランスミッション、あるいは機器のカスタマイズの選択を誤った場合、年に数万~数十万台もの車が売れ残ってしまう可能性があります。これは設計上あるいは製造上のミスではなく、販売部門と製造管理部門の間でデータや情報が適切に共有されていなかったことが原因です。営業スタッフは顧客と日々対話し、市場のニーズや好みを的確に把握していますが、製造管理部門は基本的に、こうした営業スタッフから提供されるデータや知見を使用することなく、自部門が保有するデータセットや計算に基づいて、適切と「思われる」製品を製造する傾向にあります。

 

クローズドループ製造の開始方法

クローズドループ製造は、製品に関するデータ (製品の使われ方、パフォーマンス、使用されている状況など) を収集し、組織のバリューチェーン全体にわたるプロセス改善に役立つ有益な知見を引き出すことを目的とします。クローズドループ製造を導入しても、特定の車種の欠陥や過剰在庫が即座に解消されるわけではありませんが、自動車メーカーが問題をより迅速に特定して対処できるようになることで、サプライチェーンのパートナー企業にもメリットがもたらされます。

すべてはデータサイロの解消から始まります。通常、大規模な製造企業は充実したITシステムを保有していますが、システム間の相互接続が、クローズドループ製造で求められるレベルに達していない可能性があります。一般的に、調達、販売、流通などの部門ではCRM、ERP、およびPLMシステムが使用され、中核となる製造プロセスではMESが使用されています。しかしながら、データや知見のフィードバックループが構築されていなければ、何らかの問題が (例えば製造段階で) 発生した場合に、各部門が状況を迅速に把握してタイムリーに対処することができません。

データおよび知見を共有するべく、クローズドループ製造モデルへの移行を目指している企業の大多数が、大きな構想を立てつつ小さく開始する方法を選択しています。完全に新規のプロジェクトでもない限り、プロセスや生産全体を危険にさらすことなく、一度にすべてを変えることは不可能です。そのため多くの企業が概念実証として、結果が迅速に得られ、規模や範囲の拡大も容易な、小規模なユースケース向けのパイロットプロジェクトから計画をスタートさせています。さらにこうした企業では、その成果を「内部セールス活動」に活用することで、このフレームワークがビジネスに好影響をもたらし、大幅な収益向上を可能にすることを、組織内の関係者に理解してもらえるように努めています。

大規模な組織におけるあらゆる変革がそうであるように、さまざまなレベルや部門にわたって、直接的および間接的に影響を受ける人々からの支持を得ることも大切です。さまざまな種類の最先端テクノロジーを購入し、新たなフレームワークに基づいてサイロ化されたシステムやデータを相互接続しようと意気込んでも、製造現場のスタッフにビジョンやメリットを理解してもらい、計画への賛同を得ることなしには、こうした計画を成功へと導くことはできません。現場のスタッフの多くは同じ作業を長年続けてきており、大規模な変更には懐疑的で、ときには恐怖感を抱くことさえあります。

このようなさまざまな事項を考えると、クローズドループ製造プロジェクトの範囲を決定して移行を開始することは、非常に面倒な作業であるように感じられるかもしれません。ここで重要になるのが、適切なパートナーエコシステムによる、(ITおよび運用の両面からの) 支援やコンサルティングです。優れたパートナーからは、豊富な知識や経験に加えて、アイデア創出ワークショップなどの開催に関するサポートも得られます。繰り返しますが、重要なのは大きな構想を立てつつ小さく開始することであり、迅速な成果を達成することで、このデジタル化の取り組みに対する関係者の関心を高めることが可能になります。

クローズドループ製造にご興味をお持ちいただけましたら、4月23~27日に開催されるハノーバーメッセのHPEブースにもぜひお立ち寄りください。HPEのブースでは、製造ライフサイクルに関する事例を通じて、この新しいフレームワークによる全社レベルでのデータの活用がもたらす真の価値をご確認いただけます。

クローズドループ製造: リーダーへの教訓

  • クローズドループ製造と呼ばれる新たな製造フレームワークは、さまざまな産業システムから生成される膨大なデータを活用することによる、フィードバックループの強化および製造の合理化を可能にします。
  • 製造業者が欠陥に迅速に対処するうえで、データサイロは大きな足かせになる恐れがあります。クローズドループ製造は、こうした障壁を解消し、企業が製造上の問題により迅速に対処することを可能にします。
  • 自動車メーカーのデータサイロを解消し、フィードバックループを全社レベルで改善するうえでカギとなるのが、ビジョンの周知と支持の形成です。多くの従業員は、テクノロジー主導の変革には懐疑的で、ときには恐怖感を抱くことさえあります。
  • クローズドループ製造フレームワークの導入にあたっては、大きな構想を立てつつ小さく開始することが推奨されます。完全に新規のプロジェクトでもない限り、本稼働プロセスを危険にさらすことなく、一度にすべてを変えることは不可能です。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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