HPCクラウド
HPCクラウドとは
HPCクラウド (ハイパフォーマンスコンピューティングクラウド) は、HPCのリソースと機能をクラウドコンピューティングインフラストラクチャと統合し、従来のHPCシステムのコンピュート性能および拡張性と、クラウドサービスの柔軟性およびオンデマンド特性とを組み合わせて提供するサービスです。
HPCクラウド環境のユーザーは、処理能力、メモリ、ストレージなどの膨大なコンピュートリソースにアクセスしてそれらを活用し、リソース集約型の複雑なタスクを実行できます。これらのタスクには、シミュレーション、科学研究、データ分析といった、大量のコンピュート能力を消費するため大規模なコンピュートリソースを必要とするワークロードが含まれます。
HPCクラウドには、次のようなメリットがあります。
- 拡張性: ユーザーはそのニーズに応じて、コンピュートリソースをスケーリングでき、変動するワークロードに効率的に対応できます。
- コスト効率: クラウドベースのモデルにより、ユーザーはリソースを従量制課金で利用できるため、高額な専用HPCインフラストラクチャに投資して維持する必要がなくなります。
- 柔軟性: HPCクラウドプラットフォームには、多様なハードウェア構成およびソフトウェア環境が用意されていて、ユーザーがタスクに最適なセットアップを選択できます。
- アクセシビリティ: ユーザーがHPCクラウドリソースにリモートからアクセスできるため、チームメンバーが分散していても効果的に連携できます。また研究チームは、ハードウェアから物理的に離れていても実験を行うことができます。
- リソースの最適化: オーケストレーションツールを使用してリソースを動的にプロビジョニングおよび管理することにより、コンピュート性能を効率的に使用でき、アイドル時間を最小限に抑えられます。
HPCクラウドサービスは、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP) といったさまざまなクラウドプロバイダーから提供されています。これらのサービスでは、組織や研究チームが、ハイパフォーマンスコンピューティングのパワーを活用する方法が用意されています。専用のHPCクラスターの管理と維持に関わる複雑な作業は不要です。
HPCクラウドが重要である理由
HPCクラウド (ハイパフォーマンスコンピューティングクラウド) が重要である理由はいくつかあります。このサービスは、多くの課題に対応し、コンピュートリソース集約型タスクを扱う組織や研究チームに大きなメリットをもたらしているためです。HPCクラウドが重要である理由を次に示します。
- 適応性: 従来のHPCインフラストラクチャでは、容量が固定されていて、多様なコンピュート要件への適応性が制約を受ける場合がよくあります。HPCクラウドでは、ワークロードの進化に応じてコンピュートリソースをシームレスにスケーリングでき、広範で複雑なシミュレーションや分析の管理が簡単になります。
- 財務効率: 専用HPCクラスターを構築および維持するには、ハードウェア、ソフトウェア、インフラストラクチャに対する大規模な先行支出が必要になります。HPCクラウドサービスでは、消費に基づくモデルを採用し、使用したリソースにかかったコストだけがユーザーに求められます。これにより、大規模な初期投資が不要になり、予算を削減できます。特に、変動するコンピュート需要に対応する場合は大きな削減効果が得られます。
- グローバルな事業展開: HPCクラウドリソースには、インターネットを通じてどこからでもアクセスできます。このアクセシビリティにより、地理的に分散した研究者やチームの間でコラボレーションが進み、データ交換やワークフロー、知見の獲得が合理化されます。
- カスタマイズ: HPCクラウドプラットフォームには多種多様なハードウェア構成とソフトウェア環境が用意されていて、特定のタスクに合った最適なセットアップをユーザー自身が選択できます。このような適応性により、ユーザーは独自のワークロードに合わせたリソースを選択できます。
- 成果までの時間短縮: リソースをクラウド内部で即座にプロビジョニングできるため、研究者の実験やシミュレーションの開始を早められます。これは結果のターンアラウンド時間の短縮につながり、研究および開発作業のペースを高められます。
- 効率的なリソース割り当て: HPCクラウドプラットフォームは通常、自動のリソース管理/オーケストレーション機能を備えています。そのため、リソースを必要に応じて動的に割り当て/割り当て解除でき、リソースの活用を最大化するとともに、アイドルリソースを最小限に抑えます。
- 耐障害性およびバックアップ: HPCクラウドサービスは、データの冗長性やレプリケーションなどの機能を備えている場合がほとんどで、貴重なデータやシミュレーションをハードウェアの故障や予期しない障害から確実に保護します。
- ピーク時のサポート: 特定のエンティティで、ハイパフォーマンスコンピューティングが散発的または断続的に必要になることがあります。HPCクラウドの場合、そのようなエンティティはピークになった瞬間にクラウドリソースにアクセスできます。内部インフラストラクチャは必要ありません。
- 小規模エンティティでもアクセス可能: HPCクラウドにより、ハイパフォーマンスコンピューティングリソースに誰もがアクセスできます。専用HPCハードウェアに投資できるほどのリソースを持たない小規模の組織や研究チームでも、クラウドサービスを活用して高度なコンピュートを実行できます。
- イノベーションの促進: HPCクラウドにより新しい概念の実験や探索を妨げる障壁が取り払われ、研究チームは新たなインサイトを効率よく採り入れたり発見したりできるようになります。
HPCクラウドにより、柔軟でコスト効率に優れた達成可能な道が組織や研究チームに開かれ、従来のオンプレミスHPCインフラストラクチャにまつわる複雑さや制約なしに、ハイパフォーマンスコンピューティング機能を活用できます。
HPCクラウドの課題
HPCクラウド (ハイパフォーマンスコンピューティングクラウド) には多数のメリットがありますが、実行の成功の妨げになる課題もあります。以下に、そのような課題の例を示します。
- 多様なパフォーマンス: クラウドリソースの共有は、アプリケーションパフォーマンスに負の影響を及ぼすことがあります。特にハイパフォーマンスコンピューティングワークロードでは、アプリケーションパフォーマンスの予測可能性と整合性が失われます。
- ネットワークレイテンシおよびコネクティビティ: 高速で信頼性のあるネットワーク接続はハイパフォーマンスコンピューティングアプリケーションに不可欠です。クラウドリソースを共有する場合、レイテンシによりアプリケーションスピードと応答性が犠牲になることがあるためです。
- データ転送の複雑さ: HPCクラウドとの間で大きなデータボリュームを転送することは、特に大規模データセットの場合に時間とコストがかかることがあります。データ転送にボトルネックが生じると、クラウドリソースを効率的に使用できなくなる場合があり、全体的なパフォーマンスに影響を及ぼします。
- セキュリティおよびデータプライバシー: 機密データや独自データを共有クラウド環境に格納すると、セキュリティおよびコンプライアンスに関する懸念が生じます。強固なデータセキュリティおよびプライバシー対応策を確保することが、機密情報の保護には不可欠になります。
- ソフトウェアライセンスの課題: HPCアプリケーションが特別なソフトウェアおよびライセンスに依存していることは稀ではありません。クラウドコンテキストでのソフトウェアライセンスの管理は複雑になる場合があり、追加の支出やコンプライアンス問題につながる可能性があります。
- 効率的なコスト管理: クラウドサービスには柔軟性がありますが、従量制課金モデルでは、リソースの使用が監視されず最適化されていない場合に予測できないコストが発生することがあります。効率的なコスト管理の戦略を実施することが、予算の超過を防ぐために不可欠です。
- ベンダーロックインの回避: HPCワークロードを特定のクラウドプロバイダーエコシステムに移行することは、結果としてベンダーロックインにつながる可能性があります。これにより柔軟性が制約を受け、ワークロードをプロバイダー間で移動することやオンプレミスソリューションに戻すことが複雑になります。
- クラウド間のデータモビリティ: 複数のクラウドプロバイダーやハイブリッドクラウドセットアップに関連したシナリオでは、多様なクラウド環境間でのデータおよびワークロードのシームレスな移動は複雑になり、専用ツールやアプローチが必要になります。
- アプリケーション互換性の確保: HPCアプリケーションによっては、特定のハードウェアアーキテクチャーで動作するように設計されている場合があります。利用可能なクラウドインスタンスタイプおよび仮想化テクノロジーとの互換性を確保することは、重大な懸念材料になることがあります。
- 複雑さの管理: クラウドでのHPCワークロードのオーケストレーションと管理では、特別なスキルとツールが必要になることがあります。クラウドサービスを既存のHPCインフラストラクチャおよびワークフローと統合すると、管理プロセスが複雑になります。
- 規制に対するコンプライアンスのハードル: HPCワークロードの処理と格納に影響を及ぼす、異なる法規制への遵守が業界ごとに必要になる場合があります。これらの要件は、クラウドプロバイダーと展開戦略の選択に影響を及ぼします。
- インフラストラクチャの制御の喪失: HPCワークロードをクラウドに移行すると、基盤となるインフラストラクチャをある程度制御できなくなります。このように制御をあきらめることにより、不安が生まれます。特定のパフォーマンスやセキュリティの前提条件がある組織の場合は特にこれが当てはまります。
これらの課題を克服するには、細部までの計画、考えられたアーキテクチャー設計、適切なテクノロジーと戦略の巧みな使用が必要になります。このアプローチでは、HPCクラウドのメリットを実現し、一方で可能性のあるデメリットに対応することが保証されます。
HPCワークロードをクラウドで実行する理由
HPCクラウドを利用すると、イノベーションが加速され、オンプレミスの単独HPCの必要性や依存が軽減され、自動化、人工知能、機械学習の能力を実現できます。企業はソリューションや製品をより迅速に作り出して短期間で市場投入でき、競争優位性を強化できます。クラウドでは、特定のチームの要件に応じてHPCを特定のワークロードに分離することができます。また、HPCクラウドはより柔軟性があり、スケールアップやスケールダウンの機能によって無駄なリソースを減らすことができます。サードパーティのサービス (aaS) として利用できるため、従来のHPCでの長期的なコスト要求、つまり前払いのアーキテクチャーとプロビジョニングの多くを解消するのに役立ちます。as a serviceモデル、つまり従量制モデルにより、企業は使用したコンピュートリソースに対してのみ支払うことになります。提供されるマネージド型ソリューションへの移行によって、HPCおよびHPCクラウドのリソースを、これまで利用できなかったより幅広いユーザーが利用できるようになります。
クラウドにおけるHPCソリューションとは
企業は分析、情報アクセス、科学研究などにわたるさまざまなアプリケーションにHPCクラウドソリューションを使用しています。
たとえば、製造業者は、実地ラボや研究などの高価な物理リソースを必要とせずにクラウドで実験やシミュレートを行って、コンピューター支援エンジニアリングを使用して高度なプロトタイプを開発できます。
医療研究者はHPCを使用して患者の医療情報やデータを集約し、疾患治療研究、臨床試験、薬剤開発を進めることができます。HPCクラウドはゲノムの処理や配列解析も加速することもできます。
HPCは金融サービスにとって不可欠な要素であり、リスク分析や不正検知では複数のデータソースを高速かつ網羅的に処理して、投資の収益性と予測を正しく伝え、履歴データ分析を使用して異常な購入行動をほぼリアルタイムで識別する必要があります。
また、HPCの普及は映画、メディア、ゲーム開発にも広がっており、ワークロードでグラフィックス レンダリング、画像分析、トランスコーディング、エンコーディングを支援できます。
HPCクラウドのアーキテクチャーおよびコンポーネント
クラウドでのHPCには、大量のコンピュート性能を要求する複雑な計算やシミュレーション向けにクラウドリソースを使用することが含まれます。
HPCクラウド環境の各コンポーネントの解説:
HPCクラウド環境は、次のキーコンポーネントで構成されています。
- 仮想マシン (VM): HPCクラウドの基本的なビルディングブロックです。VMは、アプリケーションの実行に必要なコンピュートリソースとして使用されます。HPC環境で使用される場合、これらのVMは、一般に高性能のCPU、GPU、または演算を加速する特別なハードウェアを備えています。
- 弾力性および拡張性: クラウドでは必要に応じてリソースをスケールアップ/ダウンできます。この特性は、ワークロードのサイズと複雑さが変化しがちなHPCでは不可欠です。クラウドプラットフォームを使用することにより、VMはワークロードが重い場合は追加し、必要がなくなれば解放できます。
- オーケストレーションおよび管理: Kubernetesなどのツールやクラウド固有の管理プラットフォームにより、複数のVMに対するHPCアプリケーションの展開と管理を自動化できます。これにより、効率的なリソースの利用とワークロードの分散が保証されます。
- 監視およびログの収集: HPCクラウド環境には、リソースの使用率、パフォーマンスメトリック、ボトルネックの可能性を追跡する、総合的なモニター機能が必要です。ログとメトリックは、問題の診断とパフォーマンスの最適化に役立ちます。
ハイパフォーマンスコンピューティング向けクラウドインフラストラクチャ:
クラウドプロバイダーは、次に示すようなHPCワークロード向けの特別なインフラストラクチャを提供します。
- コンピュートインスタンス: 多様なCPU、GPU、メモリ構成の仮想マシンであり、さまざまなコンピュート要件に対応します。
- GPUおよびアクセラレータ: 多くのHPCワークロードでは、グラフィックス処理ユニット (GPU) などのアクセラレータを使用することでメリットが得られます。これらのハードウェアコンポーネントは、並列処理タスクを効率的に扱うように設計されています。
- 高性能ストレージ: クラウドプロバイダーは、HPCワークロードに不可欠な、高スループットおよび低レイテンシを達成するように設計されたソリューションを提供します。このソリューションには、ネットワーク接続ストレージ (NAS) やオブジェクトストレージなどのオプションが含まれます。
- バースティングおよびスポットインスタンス: バースティングにより、ロードが一時的にピークになると追加リソースを利用できます。スポットインスタンスは高コスト効率のインスタンスであるため、クラウドプロバイダーにより中断される可能性がありますが、戦略的に使用するとコストを大幅に削減できます。
クラウドでのHPCに対するネットワーキングおよびストレージの留意事項:
- ネットワーキング: HPCワークロードでは、効率的なノード通信のために低レイテンシおよび高帯域幅のネットワーキングが必要になります。クラウドプロバイダーは、この通信を促進するために高速のインターコネクトオプションを提供します。
- データ移行: 効率的なデータ移行は、HPCに不可欠です。クラウドプラットフォームには、クラウドとの間で大規模データセットを安全に移行するためのツールとソリューションが用意されます。
- ストレージ: クラウドストレージオプションには、オブジェクトストレージ、ファイルストレージ、ブロックストレージがあります。
- データの局所性: コンピュートリソースとデータストレージを近くに配置すると、データ転送の時間が最小限に抑えられ、パフォーマンスが向上します。
HPCクラウド環境では、専用のコンピュートインスタンス、アクセラレータ、高性能ストレージ、堅牢なネットワーキングが組み合わされることにより、複雑なシミュレーションや計算に必要なコンピュート性能が実現します。効率的なオーケストレーション、監視、データ管理は、クラウドでのHPCのメリットを最大化するために不可欠です。
ハイパフォーマンスコンピューティング向けのクラウドサービス
A. HPC向けの仮想マシンおよびコンテナ:
- HPCワークロード向けの仮想マシンの活用:
仮想マシン (VM) はHPCワークロードの実行に幅広く使用されています。クラウドプロバイダーは、特定のコンピュートニーズを満たすために、多様なCPU、GPU、メモリ構成を備えたVMインスタンスを提供します。VMには、HPCアプリケーションを管理するときの、柔軟性や分離、セキュリティ機能が用意されています。
- HPCクラウド環境でのコンテナ化およびオーケストレーション:
Dockerなどのコンテナは、軽量で整合性のあるアプリケーション環境として使用されます。これにより、アプリケーションがその依存関係とともにカプセル化されます。Kubernetesなどのコンテナオーケストレーションプラットフォームは、複雑なHPCワークフローの管理に重要で、効率的なリソースの使用、さらにスケーリング、ロードバランシング機能が保証されます。
- VMおよびコンテナのパフォーマンスにおける留意事項:
コンテナは高速に展開できてポータビリティに優れていますが、VMは分離がより堅牢で、特定のHPCワークロードに最適です。HPCアプリケーションに対してVMまたはコンテナのどちらかを選択する際は、スタートアップ時間、リソースのオーバーヘッド、分離要件などの要素を考慮してください。
B. クラウドでのハイパフォーマンスネットワーク:
- 高帯域幅および低レイテンシネットワーキングオプション:
- クラウドプロバイダーは、HPCの通信に不可欠な高速ネットワーキングオプションを提供します。このテクノロジーにより、レイテンシが低減するとともに帯域幅が向上する結果、ノード間での効率的なデータ交換が促進されます。
- クラウドでのHPC向けRDMA (リモートダイレクトメモリアクセス):
- RDMAにより、ノード間でのダイレクトメモリアクセスがCPUを介さずに可能になり、通信オーバーヘッドが削減されます。RDMA対応ネットワークアダプターにより、データ転送時間が短縮し、HPCパフォーマンスが大幅に向上します。
- HPCワークロード向けのネットワークトポロジおよびインターコネクト:
クラウドプロバイダーにより、HPCアプリケーション向けの通信パターンが最適になるよう、カスタムのネットワークトポロジが定義可能になっている場合があります。トポロジには、メッシュ型、トーラス型、ファットツリー型などのオプションがあり、レイテンシを最小限に抑え、データスループットを改善します。
C. HPC向けのスケーラブルストレージソリューション:
- クラウドでのオブジェクトストレージおよび分散ファイルシステム:
クラウドプラットフォームには、スケーラブルオブジェクトストレージソリューションおよび分散ファイルシステムが用意されています。これらのストレージオプションは、大容量のデータを扱えるように設計されています。
- HPCストレージ向けのバーストバッファーおよびキャッシュ処理テクノロジー:
バーストバッファーは、高速の中間ストレージレイヤーで、HPCジョブ中のI/Oバーストを吸収します。キャッシュ処理テクノロジー (コンテンツ配信ネットワークやインメモリキャッシュ) は、頻繁に使用するデータへのアクセス時間を短縮します。
- HPCクラウドセットアップでのデータ移行およびデータ管理:
効率的なデータ移行ツールは、HPCワークロードに不可欠です。クラウドプロバイダーは、オンプレミスおよびクラウド環境間で大規模データセットを移行するためのサービスやツールを提供します。効率的なデータ管理戦略により、データの完全性、アクセシビリティ、コンプライアンスが確保されます。
HPCクラウドサービスには、仮想マシンおよびコンテナの最適化、ハイパフォーマンスネットワークオプションの活用、スケーラブルストレージソリューションの実装が含まれます。これらのコンポーネントが連携して、クラウド環境での要求の厳しいHPCワークロードの実行を可能にします。
HPC向けのクラウドのオーケストレーションおよび自動化
A. HPCにおける展開およびリソース管理の自動化:
- 自動化ツール: クラウドオーケストレーションツールはHPC環境の展開を自動化できます。これらのツールにより、インフラストラクチャ構成をコードとして定義でき、多様なクラウドインスタンス間に整合性を維持して展開できます。
- 構成管理: 構成管理ツールは、VMやコンテナでソフトウェアのセットアップおよび構成を自動化でき、HPCクラスター間で整合性を確保できます。
- 自動スケーリング: ワークロードの需要に基づいてリソースのスケーリングを自動化します。ワークロードに動的に対応するため、クラウドプラットフォームではインスタンス数を調整する自動スケーリングルールをセットアップできるようになっています。
B. HPCクラウド環境向けInfrastructure as Code (IaC):
- IaCのメリット: IaCは、ソフトウェア開発としてインフラストラクチャのプロビジョニングおよび管理を扱います。HPC環境を構築および変更するときの、バージョン管理、整合性、再現性を実現します。
- 宣言型の構成: IaCでは、インフラストラクチャの期待される状態を宣言できます。オーケストレーションツールは、プロビジョニングおよび構成の細部を扱います。これは、複雑なHPCセットアップに対して特に有用です。
- コラボレーションおよび再現性: IaCはインフラストラクチャコードを共有することで、チーム間でコラボレーションを実現します。また、同じ環境を整合性を維持して再構築できるため、構成エラーが削減されます。
C. クラウドオーケストレーションによる、HPCスケジューラおよびリソースマネージャーの統合:
- HPCスケジューラ: 通常、HPCクラスターでは、ジョブスケジューリングやリソース割り当てに管理スケジューラ (Slurm、Torque、PBSなど) が使用されます。これらのスケジューラは、マルチユーザー環境でのリソース使用率を最適化します。
- クラウド統合: クラウドオーケストレーションはHPCスケジューラと連携できます。たとえば、ジョブ要件に応じてクラウドインスタンスを動的にプロビジョニングして、ジョブが完了したときにインスタンスを終了させることができます。
- ハイブリッド環境: 多くのHPCワークロードでは、オンプレミスリソースとクラウドリソースが混在しています。オンプレミスクラスターをクラウドリソースと統合する場合、効率的なジョブ実行を保証するには慎重なオーケストレーションが必要です。
クラウドオーケストレーションおよび自動化は、複雑なHPC環境をクラウドで管理する際に不可欠です。Infrastructure as Codeおよび自動化ツールはHPCクラスターの展開と管理を合理化し、HPCスケジューラとの統合はリソースの効率的な使用とジョブスケジューリングを保証します。
HPCクラウドでのパフォーマンスと最適化
A. クラウドでのHPCパフォーマンスの監視および最適化:
- パフォーマンスメトリック: 主要なパフォーマンスメトリック (CPU利用率、メモリ使用量、ディスクI/O、ネットワークレイテンシなど) を監視します。クラウドプロバイダーは、これらのメトリックを追跡できるようサービスの監視とログ収集を提供します。
- リソース使用率: リソース使用率を分析して、ボトルネックや改善する領域を特定します。リソースのニーズに基づいてスケールアップやスケールダウンを行うことにより、最適なパフォーマンスを維持できます。
- プロファイリングおよびベンチマーキング: HPCアプリケーションのプロファイリングにより、非効率の領域を特定できます。ベンチマーキングにより、最適なセットアップが選択できるよう、さまざまな構成間でパフォーマンスを比較できます。
B. HPCワークロード向けの自動スケーリングとリソースの動的割り当て:
- 自動スケーリング戦略: 自動スケーリングルールを実装して、インスタンス数をワークロードの需要に基づき動的に調整します。自動スケーリングにより、ロードのピーク時はパフォーマンスが維持され、ロードが低いときはコストが削減されます。
- 予測的なスケーリング: 予測的なアルゴリズムまたは機械学習を使用して、ワークロードパターンをプロアクティブに想定し、リソースを調整します。
- スポットインスタンス: コスト効率に優れたスケーリングが行えるよう、クラウドプロバイダーのスポットインスタンスを使用します。これは低コストで利用できますが、需要が増えたときにプロバイダーにより中断される場合があります。
C. クラウドでのHPC向けGPU (グラフィックス処理ユニット) アクセラレーション:
- GPUインスタンス: 並列処理からメリットを得られるワークロード向けには、GPUを備えたクラウドインスタンスを選択します。GPUは機械学習、シミュレーション、レンダリングなどのタスクで優れた性能を発揮します。
- GPUアクセラレーション対応ライブラリ: パフォーマンス向上のために、GPUアクセラレーション対応ライブラリおよびフレームワークを活用します。よく使用されているものとして、CUDA (NVIDIAの並列コンピューティングプラットフォーム) とcuDNN (NVIDIAのディープニューラルネットワークライブラリ) があります。
- コンテナ化GPUワークロード: コンテナ化により、ポータビリティと整合性が確保できるよう、GPUアクセラレーション対応アプリケーションをカプセル化することができます。KubernetesおよびDockerはGPU統合をサポートします。
- GPUスケジューリング: 競合を避けるために、GPUリソースを適切にスケジューリングします。VMレベルおよびコンテナレベルのGPUリソース割り当てでは、効率的な管理が必要です。
HPCパフォーマンスをクラウドで最適化する場合は、パフォーマンスメトリックの緊密な監視や、自動スケーリングによるリソースの効率的な割り当てを行い、可能な場合はGPUアクセラレーションを利用します。これらの戦略を使用することにより、HPCワークロードに対して可能な限り最高のパフォーマンスを達成し、同時にコストとリソースを効率的に管理します。
HPCクラウドのセキュリティおよびコンプライアンス
A. HPCクラウド環境でのデータセキュリティおよび暗号化:
- データ暗号化: 保存データと転送中のデータに暗号化を実施します。クラウドプロバイダーは、ストレージサービスに保存されているデータおよびインスタンス間で伝送するデータを保護するために暗号化メカニズムを提供します。
- キー管理: クラウドプラットフォームまたはサードパーティソリューションで提供されるキー管理サービスを使用して、暗号キーを安全に管理します。
- データレジデンシー: 自組織のデータレジデンシー要件に適合するデータセンターとリージョンを選択します。法的および規制義務を満たすために、必ず特定の管轄内にデータを保持します。
B. HPCワークロードに対するアクセス制御およびユーザー認証:
- アイデンティティ/アクセス管理 (IAM): IAMツールは、クラウドリソースへのユーザーアクセスを制御します。最小権限のアクセス原則を適用し、ユーザーはタスクに必要なリソースにのみアクセスするようにします。
- 多要素認証 (MFA): ユーザー認証にMFAを適用し、さらなるセキュリティレイヤーを追加します。パスワードが漏洩した場合でも、未許可アクセスを防止します。
- ロールベースのアクセス管理 (RBAC): 役割と権限を定義するためにRBACを適用します。責務に基づいてユーザーを役割に割り当て、適切なアクセス制御を保証します。
C. クラウドでの機密HPCデータに対するコンプライアンス留意事項:
- 法規制の遵守: 該当業種および地理的リージョンの法規制状況を理解します。各種規制 (GDPR、HIPAAなど) に沿ってクラウドがセットアップされます。
- データ分類: 機密レベルに基づいてデータを分類します。適切なセキュリティ制御とアクセス制限を機密データに適用します。
- 監査およびログの収集: クラウドプロバイダーが用意している監査およびログの収集機能を有効にします。コンプライアンスおよびセキュリティ分析用にユーザーアクティビティおよびシステムイベントのログを維持します。
- クラウドプロバイダーコンプライアンス: 該当する業種に関連したコンプライアンス認定を提供するクラウドプロバイダーを選択します。クラウドプロバイダーは、業界標準のコンプライアンスを遵守していることを保証するためにサードパーティの監査をよく受けています。
- 契約合意: クラウドプロバイダーとの契約条項のレビューおよび交渉を行い、条項が組織のコンプライアンス要件を満たしていることを保証します。
HPCクラウド環境でセキュリティとコンプライアンスを確保するには、強力なデータ暗号化と厳格なアクセス制御を実施し、業界の規制を入念に検討します。これらの対応策を実施することで、機密データの機密性、完全性、可用性を維持するとともに、規制要件を遵守できます。
HPCクラウドに対するコスト管理および予算設定
A. クラウドでのHPCに対するコスト留意事項および課金モデル:
- 課金モデル: クラウドプロバイダーが提供する課金モデル、つまりオンデマンドインスタンス、予約インスタンス、スポットインスタンスなどを把握します。各モデルには、使用パターンに基づくさまざまなコストの影響があります。
- リソースコスト: コンピュートリソース、ストレージ、ネットワーキング、データ転送がコストに寄与します。これらのコンポーネントそれぞれに関連するコストを認識します。
- データ転送コスト: クラウドとの間でデータを転送すると、追加のコストが発生する場合があります。必要のないデータ移行を最小限に抑え、データ圧縮手法の使用を検討します。
B. HPCワークロードのサイズの適正化およびコスト最適化:
- インスタンス選択: ワークロードのコンピュート要件に適合するインスタンスタイプを選択します。リソースのオーバープロビジョニングや未活用を回避します。
- 自動スケーリング戦略: 自動スケーリングを実施して、インスタンス数をワークロードの需要に基づいて動的に調整します。これにより、リソースの使用率とコストを最適化できます。
- スポットインスタンス: 低コストであることを活かして、クリティカルではないワークロードにスポットインスタンスを利用します。ただし、中断される可能性に対して備えておく必要があります。
- 予約インスタンス: 予測可能なワークロードがある場合は、予約インスタンスを検討します。長期間使用する必要がありますが、低コストで利用できます。
C. HPCクラウド環境での予算計画およびコスト割り当て:
- 予算の割り当て: 異なるHPCプロジェクトや部署に対して予算を定義します。クラウドプロバイダーでは多くの場合、支出制限を設定できる予算作成ツールを備えており、しきい値に近づくとアラートを受け取ります。
- リソースタグ付: 関連メタデータ (プロジェクト名、部署など) をクラウドリソースにタグ付けして、正確に支出を追跡し、それに応じてコストを割り当てます。
- コスト追跡およびレポート作成: クラウドプロバイダーにより提供されるコストレポートを定期的にレビューします。支出パターンを分析して、コスト最適化が可能である領域を特定します。
- 予約インスタンス計画: 長期のワークロード予測に合うよう、予約インスタンスの戦略的な購入を計画します。予約容量のオーバーコミットや未活用を回避します。
- コスト管理ツール: 支出パターンに対する詳細レベルのインサイトおよび最適化推奨事項を提供する、サードパーティコスト管理ツールを活用します。
クラウドでのHPCワークロードに対するコストを管理し、効率的に予算を設定するには、課金モデルの把握、リソース使用率の最適化、プロジェクト要件に沿った予算の計画が必要です。コストを細部まで監視し制御することで、HPCプロジェクトが財務的に持続可能で効率的であることを保証できます。
HPCクラウド—クラウド環境を選択するうえで重要となる留意事項
ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) に適切なクラウド環境を選択するには、さまざまな要素を入念に検討する必要があります。次に重要な留意事項を示します。
- コンピュートおよびアクセラレーションリソース: クラウドプロバイダーが提供する、CPU、GPU、他のアクセラレータのタイプを評価します。特定のワークロード要件を満たすハードウェアを備えたプロバイダーを選択します。
- ネットワーキングパフォーマンス: ノード間の効率的な通信をサポートするために、高帯域幅および低レイテンシのネットワーキングオプション (拡張ネットワーキング、InfiniBandなど) を備えたクラウドプロバイダーを見つけます。
- 拡張性および弾力性: 変動するHPCワークロード要求に対応できるよう、シームレスな自動スケーリングと動的なリソース割り当てが行えるプロバイダーを検討します。
- GPUおよびHPCライブラリ: 使用するアプリケーションのニーズに適合する、GPUアクセラレーション対応ライブラリとフレームワークのサポートと利用可能性を確認します。
- ストレージソリューション: ストレージオプション (オブジェクトストレージ、分散ファイルシステム、高スループットストレージソリューション) の拡張性とパフォーマンスを評価します。
- データ転送および移行: 特に大規模データセットの場合の、クラウドとの間でのデータ転送におけるコストと使いやすさを考慮します。
- HPCソフトウェアの互換性: 使用するHPCアプリケーションに必須のソフトウェアやツールがHPCクラウド環境でサポートされていることを確認します。
- リソース管理ツール: HPCクラスターおよびワークロードで効率的に制御できる、堅牢なリソース管理および監視ツールを見つけます。
- セキュリティおよびコンプライアンス: 機密のHPCデータを保護するために、厳格なセキュリティ対策、コンプライアンス認定、暗号化オプションを備えたクラウドプロバイダーを選択します。
- コストおよび予算設定: 課金モデルを比較し、リソースコストを把握し、予算の制約を検討します。予約インスタンスやスポットインスタンスなどのコスト最適化機能を見つけます。
- ハイブリッドクラウドおよびオンプレミス統合: ハイブリッド環境で作業している場合、オンプレミス インフラストラクチャをクラウドプロバイダーと簡単に統合できるのかを評価します。
- 場所およびデータレジデンシー: データレジデンシー要件に適合し、レイテンシを低減するために地理的な距離を最適化できるクラウドリージョンを選択します。
- サポートおよびSLA: クラウドプロバイダーが提供する、テクニカルサポート、サービスレベルアグリーメント (SLA)、即応性のレベルを評価します。
- ユーザーエクスペリエンスおよび使いやすさ: クラウドプロバイダーが提供する、ユーザーインターフェイス、展開しやすさ、管理ツールを検討します。
- ベンダーロックイン: ベンダーロックインの可能性を検討し、必要に応じて別のプロバイダーへワークロードを移行する場合の簡便性を評価します。
- コミュニティおよびドキュメント: クラウドプロバイダーのHPCサービス向けサポートコミュニティ、ドキュメント、チュートリアルが利用できることを確認します。
HPCのクラウド環境の選択は、特定のワークロード要件、パフォーマンスのニーズ、予算、長期戦略で決まります。組織の目標に最も適合するクラウドプロバイダーを判断するために、さまざまなオプションをすべて検討し、テストすることが重要です。
HPCクラウドにおける今後の動向とイノベーション
A. HPC向けクラウドハードウェアおよびインフラストラクチャの進化:
- 専用アクセラレータ: クラウドプロバイダーは、特定のHPCワークロードに対応する、フィールドプログラム可能ゲートアレイ (FPGA) や特定用途向け集積回路 (ASIC) などの特定アクセラレータを提供します。
- サービスとしての量子コンピューティング: 量子コンピューティングの成熟に伴い、今後はクラウドプロバイダーが量子ハードウェアへのアクセスを提供し、研究チームは量子アルゴリズムやアプリケーションを探求できるようになります。
- メモリ集約型のインスタンス: メモリ容量および帯域幅の強化が、メモリ集約型のHPCワークロード (大規模シミュレーションやデータ分析など) に対してますます重要になっています。
B. HPCクラウドでのパフォーマンスおよび効率を高める新興テクノロジー:
- コンテナネイティブHPC: コンテナテクノロジーは、HPCアプリケーションをより良くサポートするために進化を続け、軽量で再現性のある環境を提供します。
- サーバーレスHPC: サーバーレスコンピューティングモデルをHPCワークロードに適用することが注目を集めています。サーバーレスHPCでは、従来のインスタンスを管理することなく自動スケーリングとリソース管理が実現するためです。
- ハイブリッドコンピューティング: クラウドプロバイダーは、量子コンピューティング、ニューロモルフィックコンピューティング、従来のコンピューティングをシームレスに統合できるようになるため、ハイブリッドシミュレーションや新規発見が実現します。
C. HPCワークロード向けのAI主導管理および最適化:
- 自律HPC管理: AI主導オーケストレーションとリソース管理ツールはさらに高度になり、リソース割り当てとワークロードスケジュール設定を最適化します。
- 予測分析: 機械学習モデルは、HPCワークロードパターンを予測し、プロアクティブなスケーリングおよびリソース割り当てを実現します。
- エネルギー効率の最適化: AIは、HPCワークロード実行中の動的なリソース調整とエネルギー使用率の最小化を実施し、エネルギー消費量の最適化において重要な役割を果たします。
- 自動化調整: AI主導ツールは、HPCアプリケーションのパラメーター調整プロセスを自動化し、パフォーマンスを向上させ、手動の最適化作業を削減します。
- 異常検出およびセキュリティ: AIを活用した異常検出機能により、異常な挙動、セキュリティ脅威の可能性、パフォーマンスボトルネックをリアルタイムで特定することが不可欠になっています。
クラウドでのHPCの未来を形作るのは、ハードウェアの進歩、量子コンピューティングなどの新興テクノロジー、AI主導の最適化と管理の統合です。これらの傾向が相まって、さらに強力かつ効率的で、研究チームや組織向けに利用可能なさまざまなHPC機能が実現していきます。
HPEとHPCクラウド
HPEはHPCとHPCクラウドのサービスの幅広いポートフォリオを提供しており、HPCを可能にするハイパフォーマンスのハードウェア、ソフトウェア、ストレージ、およびトランスフォームを加速するための専門知識やマネージドサービスなどがあります。
企業は、コンバージドモデリング、シミュレーション、AIの最新の需要に対処できるように設計されている、HPE CrayエクサスケールスーパーコンピューターまたはHPE Apolloシステムから選択できます。ストレージについては、コスト効率とスケーラビリティに優れた独自の従来型のオールフラッシュファイルストレージを収容できるHPEコンピュート HPCストレージがあります。
完全なエンドツーエンドのソリューションを必要としている企業は、どのような規模の企業でもスムーズに展開してHPCのメリットが得られるスケーラブルなマネージドソリューションであるHPE GreenLake for HPCを選択することもできます。HPE GreenLake for HPCは企業のオンプレミス (エッジ、コロケーション、またはデータセンター) で稼働するため、オンプレミスのインフラストラクチャに備わっているセキュリティと制御性のメリットが得られます。また、従量制課金であるため、企業は新たなチャンスを追い求めるための柔軟性は損なわず、使用されていないリソースへの支払いは不要であることが分かっているため、安心感が得られます。