営業の肝は、クロージングではない!?
驚くほど結果が出せるようになる、トークスクリプト(営業台本)の組み立て方
「新規の営業に行っても、次の面談につながらない」「クロージングがうまくいかなくて困っている」――。そんな悩みを抱えた営業マンは多いのではないでしょうか。またコロナ禍において、これまでの対面からオンラインの営業に切り替わり、思うように商談を進められない方も少なくないはずです。
では、どのように営業を進めれば、お客様の心を掴んで売上を上げることができるのでしょうか。『営業は台本が9割(きずな出版)』の著者で、多くのトップセールスマンを育て上げている営業コンサルタントの加賀田裕之氏に、「結果が出る営業トーク」について聞きました。
ミリオンセールスアカデミー®主宰 台本営業®コンサルタント 加賀田裕之 氏
(https://million-sales.com)
お客様の購買意欲を急上昇させる「ニーズの深掘り」と「ウォンツアップ」
――加賀田さんは、ご自身もトップセールスマンであり、多くの営業マンの成績アップを支援しているそうですが、売上を上げるためにはどのような営業方法が必要なのでしょうか?
営業の極意は、「ニーズ(必要性)の深掘り」です。これは、お客様に「この人(営業マン)の商品サービスを使わないと、大変なことになる」と、“地獄”を想像させること。そうすることで、「そんな大変な思いはしたくない!今すぐ本気で変えないとダメだ!」という状態まで持っていくことを目的としています。
この方法は、トップセールスたちの中では以前から行われていました。しかし、彼らは自分の営業トークを隠したがりますし、無意識で行っている人も多い。そのため、この方法は一般的にはあまり知られていません。
――具体的にどのような話をするのでしょうか。
例えば、あなたがIT機器などを扱う販売代理店の営業マンで、お客様は安全で利便性の高いテレワーク環境の整備に課題を抱える企業の社長だとします。その社長から「何に課題を感じているか」を聞き出していくうちに、「うちの会社のベテラン社員は在宅勤務でも仕事がスムーズに進んでいるのだけど、入ったばかりの従業員はなかなか生産性が上がらずに困っている」という話を聞いたとします。これは「ニーズの喚起」の状態です。この段階で商品説明に入ると失注してしまうので、要注意です。
「ニーズの深掘り」をするには、ここからさらに問いかけを行います。「もしも、そのベテランの従業員が病気になって仕事を休んでしまったら、現場はどうなると思いますか?どんなリスクがあるでしょうか?」「競合他社が揃ってテレワーク環境を整備するようになったら、どうなると思いますか?」など、テレワーク環境を整備しないことで起こる問題を投げかけ、お客様に考えていただきます。
その結果として、「現場の業務が滞ってしまい、顧客離れが起こるかもしれない」「そうなると、優秀な社員がより働きやすい環境を求めて辞めてしまうかもしれない」、さらには「倒産の上、自己破産しなければないかもしれない(地獄)」というところまで考えさせる。わかりやすいように単純化して説明しましたが、これが「ニーズの深掘り」です。
ニーズをしっかり深掘りして「そんな状況になるのは絶対に嫌だ!」と思わせたら、今度は「ウォンツアップ(欲求を刺激する)」で天国を見せていきます。「この商品サービスを買えば、すごく良いことが起こるに違いない」という幸せな状態をイメージさせる。このように、一度地獄を見せた後に天国を感じさせることで、「この商品サービスを買わなければ!」という具合に、お客様の本気度を上げていくのです。
――少し不安を煽っているようにも思われそうですね。
そうなんです。「ニーズの深堀り」は繊細さが要求される難易度が高いスキルです。アプローチを間違うとお客様の不安を煽っているようにも受け取られ、クレームにつながりかねません。そのため、世のセールストレーナーたちは「ニーズの深掘り」を指導できないんです。
これまでの営業トークは「ニーズの喚起した後で、ウォンツアップをしましょう!」と教えられてきました。しかし、ニーズを喚起しただけでは「今すぐ欲しい!」という切実な気持ちにならないので、「そのうち客」で止まってしまいます。成約率を上げるには、お客様を「今すぐ客」にする必要がある。そのためには「ニーズの深掘り」をする必要があるのです。
お客様と築くべきは、「医者と患者」の関係性
――お客様の不安を煽ることなく、上手に「ニーズの深掘り」をするには、どうしたら良いのでしょうか。
まず、人が物を買いたくなる「購買心理」には原理原則があることを押さえてください。購買心理に基づいた成約までのステップは5つあります。ステップ1は「人間関係の構築」。ステップ2は「ニーズの深掘りとウォンツアップ」。ステップ3は「商品説明」。ステップ4は「クロージング」。そしてステップ5は「反論解決(反論処理)」です。
つまり、いま説明した「ニーズの深掘りとウォンツアップ」は、2つ目のステップ。その前の「人間関係の構築」を行わないままステップ2に行くと、「物を売りつけるために不安を煽っている」と思われてしまうのです。ですから、「ニーズの深掘り」をするためには「人間関係の構築」が欠かせません。
例えば、相手が「10年来の親友」であれば、耳の痛いこともはっきり指摘してほしいと思うはずですし、他の人に言われたら腹が立つことでも耳を傾けるはずです。それと同じで、お客様ともしっかり人間関係が築けていたならば、本当のことを言わないことが失礼に当たります。ですから、「言うべきことが言える関係性」をつくることが、何よりも大切なのです。
――しかし、お客様との間に「言うべきことが言える関係性」を築くのは難しそうです。
「言うべきことが言える関係」になるためには、お客様から「この人に私の悩みを聞いてほしい」「この人の話(提案)をもっと聞きたい!」と思っていただく必要があります。
そうなるために、私たち営業マンが目指すべきは、「医者と患者」の関係性です。医者は専門性が高い職業ですから、みなさんお医者さんの言うことはよく聞きますよね。ただ、その医者が高圧的だったり「私は手術の天才だから任せておけば良い」といった態度だったりしたら怖いし、信頼できません。
一方で、患者の不安や悩みに熱心に耳を傾けて、わかりやすく解決法を提示できる医者であれば、患者は信頼して話に耳を傾けるはずです。つまり「熱心で親切なプロ」としての関係性を築くことで、お客様を「聞く姿勢」にさせることができるのです。
――なるほど。初めて会ったお客様とそのような関係性を築くコツはありますか。
「自分の強みを一瞬で伝える質問」が効果的です。自分で「私(弊社)はこんなにすごいんですよ!」と言ってしまうと売り込みっぽくなってしまいます。ですから、お客様と受け答えを通して、その強みにたどり着くようにするんです。例えば、次のような具合です。
あなた「〇〇さん、先日△△という雑誌に載っていた□□社長(知名度の高い企業の社長)をご存じですか?」
お客様「え? 知ってますけど」
あなた「□□社長の会社、うちのお客様ですよ」
お客様「えー!すごいですね!」
このように質問しながら強みにたどり着くようにすると、「え!この会社すごい!」という気持ちになって、お客様の方から「詳しく話を聞きたい」と言ってくれるはず。お客様に「この人は専門家として、すごい実力を持っている人だ」「この人の話は聞いておかないと損だな」と思っていただければ、初対面でも「医者と患者の関係性」を築くことができます。自社の強みを洗い出して、どんな質問を投げ掛ければ良いか、ぜひ考えてみてください。
クロージングよりも大切なのは、「人間関係の構築」
――成約につながらない原因が「クロージングがうまくないから」と考えている営業マンは多いのではないでしょうか。
多くの場合、契約を取れない原因は、クロージングの良し悪しではありません。営業において一番大切なのは「人間関係の構築」です。なぜなら、営業の肝になるのは「ニーズの深掘り」と「ウォンツアップ」だからです。「ニーズの深掘り」ができるようになるには、そもそもお客様に心を開いてもらって悩みを話していただかなければなりません。ですから、購買心理のステップも、ステップ1は「人間関係の構築」となっているのです。
――購買心理のステップで見ると、「人間関係の構築」と「ニーズの深掘り・ウォンツアップ」の次に、ようやく「商品説明」です。商品説明のコツはありますか。
私がお勧めしている商品説明の方法は、「FABEC(ファベック)の方式」です。これは、セールススキルが進化しているアメリカでできたもので、この方式で話すと非常に良い商品説明ができます。「FABEC」とは、「FEATURE(特徴)」「ADVANTAGE(特長)」「BENEFIT(利益)」「EXPLANATION(説明)」「CONFIRMATION(確認)」の頭文字を取ったものです。
「FEATURE(特徴)」は、他と比べて目立っている点、「ADVANTAGE(特長)」は、他よりも優れている点を説明することです。「BENEFIT(利益)」は、顧客のニーズとウォンツを満たすことでそれがどんな利益に繋がるのかを説明をすること。そして「EXPLANATION(説明)」は、お客様からの質問に対して「FEATURE(特徴)」と「ADVANTAGE(特長)」、「BENEFIT(利益)」で伝えたことを改めて説明することを意味します。最後の「CONFIRMATION(確認)」は、いわゆる「テストクロージング」。商品説明で何か疑問があるか、見込み客に確認します。
この中で一番重要なのは「BENEFIT(利益)」です。購買心理のステップを踏めていれば、商品説明に至るまでに人間関係を構築して、ニーズとウォンツをヒアリングしているはず。「BENEFIT(利益)」では、聞き出したニーズとウォンツをあなたの商品サービスに当てはめて説明してください。「こういう商品特徴と特長があるので、あなたが先ほど感じていた悩みを解消することができますよ、あなたのしたいことを実現できますよ」と話す。そうすることで、あなた(営業マン)の商品サービスを利用するとどんな利益があるかを、商品説明を通して伝えることができるのです。
――商品説明でも「ニーズの深掘り・ウォンツアップ」が生かされるのですね。
その通りです。だからこそ、その前提となる「人間関係の構築」が一番重要になります。ただ、お客様の中には、商品の説明が聞きたいだけであって、なかなかヒアリングの時間を取っていただけない方もいらっしゃいます。その場合は、事前に「このお客様はこんな悩みを持っているのではないか」と、その方のニーズを想定しておくのも有効です。それを織り交ぜながら商品説明をする。その中で良い解決策を提示することができると、お客様にも「この営業マンはすごいな」と思っていただけるはずです。
購買心理に基づいたトークスクリプトを作成し、自身の営業力を向上
――クロージングにも何かコツはあるのでしょうか。
私は、「選ばせるクロージング」をお勧めしています。これは、お客様に選択肢を提示して選んでいただく方法です。かつてのクロージング話法といえば「いかに決断させるか」という「決断トーク」を磨く方法が主流でした。しかし、その方法では営業マンもお客様もストレスがたまります。一方、「選ばせるクロージング」であれば、選択肢から選んでいくだけなのでストレスになりません。
例えば、「Aプラン、Bプラン、Cプランだとどれが良いですか?」と聞いて、お客様が「Bかな」と答えたとします。ここでお客様の選択を「さすがですね!」と褒めて、「なぜ、Bプランが良いと思われたのですか?」と理由を聞きましょう。すると、お客様は「こういう点が自社の実情に合うと思ったから」などと理由を教えてくれます。
これは、お客様は「自分はこの商品サービスのここが良いと思っている」と自己説得をしている状態です。お客様が自分で「Bプランの良いところ」を確認する作業になっているのです。
選んだ理由を聞いたら、またすかさず褒めましょう。褒めるのは、お客様に自信を持たせてあげるためです。「良い選択をされていますね!」と褒めることで、お客様は決断しやすくなるのです。
――もしも、お客様が選択する段階で、いまひとつ乗り気でない場合にはどうしたら良いでしょうか。
クロージングで初めて値段を提示するので、そこで購買意欲が落ちることは十分予測されます。その場合は、前のステップに戻りましょう。これは、工場のベルトコンベアーで不具合が起きた時と同じで、問題は不具合が起きた箇所の前工程にあります。ですから、もしクロージングがうまくいかなければもう一度「ニーズの深掘り・ウォンツアップ」や「商品説明」をすることで、お客様の気持ちを盛り上げなければなりません。
ただ、中には「このままだとどんな地獄が起きるか」「この商品を使うとどんな良いことがあるか」といったイメージが湧かないお客様もいます。その場合は第三者話法を使うと良いですよ。
例えば、「御社と似たような事業をされている会社が、弊社の商品を採用してくださったんです。そしたら大きな成果が上がって、担当の方のボーナスが1.5倍になったそうで、『君のおかげだよ、ありがとう!』と言われちゃいました」といった話、または「保険料を節約して生命保険に入らなかったばかりに、突然亡くなった時にご家族に何も残してあげられなかった人がいます。私も『もっと強くお勧めしておけばよかった』と後悔しているんです」といった話などです。
このように他の人の事例を話すことで、地獄や天国をイメージさせてあげるのです。こういった話も事前に考えて、書き出して台本にしておくと話しやすくなると思います。
――加賀田さんは著書『営業は台本が9割』でも、トークスクリプト(営業台本)を作ることを勧められていますね。
トークスクリプトは、いわゆる「型」です。中には、そういったものを作らなくてもセンスで実践できてしまう人もいます。しかし、私も含め、多くの人は「型」がないと軸がブレてしまってうまく話すことができません。だからこそ、これまでにお話しした購買心理に基づいた5つのステップを踏まえたトークスクリプトを用意して練習することで、ブレずに話せるようになるはずです。
最初は、お客様とのやり取りまで書き出すことは難しいかもしれませんので、その場合は骨組みだけでも良いと思います。その後、お客様との典型的な応酬を見つけた時には、気づいた時点で追加するなど、どんどんトークスクリプトの中身を濃いものにしていくことをお勧めします。
――そもそも営業がうまく行っていないと、良いトークスクリプトが作れないのではないでしょうか。
トークスクリプトを一人で作るのは大変なので、会社として取り組むことがお勧めです。トークスクリプトを作って、それをもとに営業部でロープレ大会などを開くとよいでしょう。トップセールスマンは自分のトークを隠したがりますが、彼らも人前では下手な様子は見せたくないので、普段は教えてくれない必殺トークを披露してくれたりもします。そういったトークが出てきたら、それをトークスクリプトにしてまた共有する。そのようにして組織全体でブラッシュアップしていくと、成約率も上げやすくなると思います。
コロナ禍の厳しい状況でも、一つひとつできることを積み重ねて
――コロナ禍でオンライン営業も増えています。オンラインの場合でも、すべきことは変わらないのでしょうか?
営業の「型」や「考え方」は同じですが、オンラインの場合は身振り手振りを大袈裟にしたほうが相手に伝わりやすいと思います。対面では大袈裟だと感じるほどの動作をして、やっと伝わる程度だと考えておくと良いでしょう。例えば、OKマークを手で作って示すとか、大きく頷くとか、そういった動作を示してあげることで、オンラインでも人間関係の構築がしやすくなると思います。
――最後に、悩みを抱える営業マンに向けたメッセージをお願いします。
私もそうですが、コロナ禍で営業がうまく進んでいない方も多いのではないかと思います。しかし、足掻きながらでも前進していくしかありません。例えば、オンライン営業を苦手に感じていても、チャレンジし続けることが重要です。ぜひ自分にできることを一つひとつ積み重ねて行っていただきたいですね。私の好きな言葉は、「できることしかできない」。当たり前のようですが、できることに取り組んでいくことしかできませんし、それを積み重ねていくことが成功につながります。一緒に頑張っていきましょう!
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