テクノロジー部門のシニアエグゼクティブがキャリアの初期に学んでおけばよかったと思うこと
もう一度同じことをするなら、どのような点を改善しますか。読者の皆さんが同じ道を歩まなくて済むよう、CIOをはじめとするエグゼクティブが過去に得られなかった教訓を振り返ります。
かつてジョージ・バーナード・ショーは、「若者は若さを無駄にしている」と言いました。こうした気持ちは、テクノロジー部門のシニアエグゼクティブに広く受け入れられており、私が何人かのエグゼクティブにキャリアの初期にしてしまったミスや失言を伺ったところ、いつも最初に「どれだけ話を聞く時間があるのか」という返事が返ってきました。
お察しのとおり、そこにはいくつかの共通点があります。このような成功を収めたエキスパートのほとんどは、テクノロジーを活用することでありとあらゆる問題を解決できるという揺るぎない信念を持って自らのキャリアをスタートさせており、当初はその中における人間の役割を誤解、または軽視していました。
これについて、Ogilvy & Mather Worldwide社のシニアパートナーであり、以前CIOを務めていたYuri Aguiar氏は、次のように述べています。「キャリアの前半は、その日の問題を解決することにかなりの重点を置き、最高の成果を得るために、徹底的にSDLCモデルやOSIモデルに従っていました。言うまでもありませんが、ハンマーを持つ人には、すべてが釘に見えてしまいます」。
「私は、香港のオフィスでホワイトボードの前に立ち、いくつものボックス、円形、データベース、コネクター、そして稲妻の図形を手で描いた、緻密な地域ネットワークの図を見つめていた何年も前のことを鮮明に覚えています。そのとき私は、自分たちがそれを使用するであろう人々をそこに描いていないことに気付いたのです」。
重要なのは、人々が目標とビジョンを理解する文化を築き、各自の成果がそうした目標の達成にどのように貢献するのかを示すコミュニケーションプロセスでそれを支えることです。
DELPHIX社CTO、ERIC SCHROCK氏
人間のために設計を行う必要があることを認識したからといって、必ずしもその方法をわかっているとは限らず、2010年から2016年までFacebook社のCIOを務めたTimothy Campos氏は、「人が伝えたことと相手の認識が大きく異なる場合ある」ことに気付くまでに長い時間がかかったと述べています。
Campos氏は、半導体業界のプロセス制御および収益管理システムのプロバイダーである、KLA-Tencor社でCIOを務めていたキャリアの前半において、同社のシニアエグゼクティブが集まる会議でプレゼンテーションを行いました。
同氏は、このときのことを次のように振り返っています。「すべてのビジネスグループの後にプレゼンテーションを行った私は、安定性、フォールトトレランス、高可用性、ディザスタリカバリという、いずれも私たちが実現してきた、技術面の素晴らしい成果について話をしました。しかし、プレゼンテーションの最後に調達責任者が首を横に振り、『最新型のサーバーを大量に購入したいと思っているようにしか聞こえない』と言いました。私はこのとき、自分が伝えようとしていることと相手の認識が一致する可能性を最大限まで高めたいのであれば、相手の言葉で話さなければならない、ということを最終的に認識するまでに、このようなやり取りを3~4回繰り返したのではないかと思います」。
安全地帯から出る
ほとんどのテクノロジー部門のエグゼクティブは、工学か科学の知識を持っており、キャリアの初期段階は、ハードウェアやソフトウェアに携わっていますが、上級職に昇進すると、安全地帯の外に押し出されることになります。
多くのエグゼクティブにとって、この瞬間は正念場であり、変化を受け入れずに抵抗すると、エグゼクティブのとしてのキャリアは短くなってしまいます。一方、柔軟に新たなスキルを学ぶことができれば、生き残って成功を収められます。
これについて、世界銀行でCIOを務めていたShelley Leibowitz氏は、「安全地帯から出ると、多くの場合に最高の報酬を得られる」と述べています。ワシントンD.C.に本部を構える、国際的な金融機関である世界銀行に入行する前、ニューヨークの大手銀行で務めていた同氏は、次のようにも語っています。「世界銀行で役割を果たすということは、間違いなく安全地帯から出ることを意味していました。開発分野、あるいは公共部門の環境で働いたことがなかった私にとって、世界銀行は新しく、それまでとは異なるものでしたが、信じられないほど刺激的なことができる機会があるなら、安全地帯を出るべきです」。
Leibowitz氏は、金融サービス業界で数年を過ごす中で得た自信から決断を下しましたが、キャリアの初期では、同じような飛躍を遂げるのに必要な自信を持っていなかったかもしれません。これについて同氏は、「最もつらく新鮮で困難な経験は、見返りも一番大きいことが次第にわかるようになった」と述べています。
McAfee社でCIOを務めたPatty Hatter氏は、自分の決断に疑念を抱かないことがどれだけ重要であるのかを知り、次のように述べています。「キャリアの初期では、間違いなく自分の決断を後悔し、頭の中で会議を振り返って、そのときのすべての発言や出来事について考えました。今では、決断を下して最善を尽くし、悩まずに先へ進むことを早い段階でできていればと思います」。
エンジニアとしてトレーニングを受けた同氏は、無駄な自己分析の繰り返しを避けるために、意識的に自分自身の「再トレーニングを行いました」。これについて、現在新興企業にアドバイスを行っている同氏は、「自分の決断を後悔することをやめれば、本当に気持ちがすっきりして力が得られ、肩の荷が下りる」と述べています。
Hatter氏が初期の段階で学んでおけばよかったと思うもう1つの教訓は、リスクを承知で賭けに出ることの重要性であり、これについて同氏は、次のようにアドバイスしています。「できるときに思い切りなさい。今していることとの一番の違いは、そうした機会から最も多くを学べるということです。そしてリスクを受け入れて、それを活かす方法を見出しなさい。機会がいつ訪れるのかは本当にわからないため、そのときに備えておく必要があります」。
Hatter氏は、ベル研究所で技術職としてのキャリアをスタートさせてから間もなく、ヨーロッパで新規ビジネスを立ち上げる機会を与えられました。これについて同氏は、次のように語っています。「そのときまで、ヨーロッパでの経験はドイツで4日間休暇を過ごしただけでしたが、私は一歩前に踏み出すことを決めました。最悪の場合、計画がうまくいかず、ニュージャージーに戻ってくることになるわけですが、結果的に、ヨーロッパでのビジネスの立ち上げは、私の人生の中で最も大きく学びの多い経験の1つとなり、これがきっかけで本当に世界観が大きく広がりました」。
社交術を磨く
この記事を執筆するにあたってインタビューを行ったエグゼクティブの多くは、やり直す機会を与えられたら、社交術を磨くことに一層の努力を傾けると述べています。これについて、戦略コンサルティング会社であるAVOA社でCIOの戦略的アドバイザーを務めるTim Crawford氏は、「相互に強い結びつきがある、人脈の重要性と人間関係の重要性の2つについて学んでおけばよかったと思う」と語っています。
さらに同氏は、次のように述べています。「技術者はテクノロジーに重点を置き、人間関係をあまり重視しない傾向にありますが、多くの場合、人間関係はテクノロジーの成功に欠かせないため、それは間違いです。また人間関係は、技術者としての成功を後押しする有益な情報の源となる、人脈の形成にも役立ちます」。Crawford氏の場合、人間関係を構築するためにソーシャルメディアも活用しており、2016年には、最も社交的なCIOトップ100の1人に選ばれています。
Cybric社の共同創設者兼CTOであり、Yahoo社でCIOも務めたMike Kail氏は、すぐにテクノロジーに「没頭」してしまい、それが原因で、「テクノロジーに関する決定をビジネスと収益の増加に直結させる」役割の最も重要な部分を見落とす可能性があると述べています。
また同氏は、組織の「政治状況と権力の力学」を常に注視するよう、テクノロジー部門のエグゼクティブに促すとともに、多くの場合、自分自身が運用を担当するITシステムのステータスより、それらを把握することの方が難しいと指摘しています。
Delphix社のCTOであるEric Schrock氏が学んだ重要な教訓の1つとして、組織全体にテクノロジー戦略を明確かつ継続的に伝えることの重要性が挙げられます。これについて同氏は、次のように述べています。「戦略は1回限りのものではないため、伝えるのが実に困難です。全員参加の会議を1回開いたり、Googleドキュメントを作成したりするだけで『終わり』ではなく、継続的に話し合いを持たなければなりません。重要なのは、人々が目標とビジョンを理解する文化を築き、各自の成果がそうした目標の達成にどのように貢献するのかを示すコミュニケーションプロセスでそれを支えることです」。
何人かのCIOは、キャリアの初期に「事業部門側の言葉で話す」方法を学んでおけばよかったと思っており、Leibowitz氏は、テクノロジー部門以外のエグゼクティブが理解できる言葉で話すことが重要である、という点に同意しています。
しかし、さらに重要なのは (そして学ぶのが難しいのは)、組織の他のリーダーの状況に合わせて話をすることです。つまり、Leibowitz氏によると、テクノロジー部門のエグゼクティブは、他の部門のエグゼクティブが関心を持つトピックや問題について話す必要があり、同氏は次のように述べています。「私たちは技術者として、クラウドやアジャイルといった、ありとあらゆることを話したがりますが、テクノロジー自体が心を動かすことはないため、それが重要な理由やそれに注目すべき理由を人に説明する必要があります。これこそが、私たちのほとんどがキャリアの初期に学んでおけばよかったと思うことなのです」。
CIOのキャリアプランニング: リーダーのためのアドバイス
- キャリアアップにつながったテクノロジーのスキルは、必ずしもエグゼクティブになったときに必要なスキルになるとは限りません。
- 社交術を磨いて人脈を築くことが重要です。キャリアの次のステップを上回る成果につながる、次の機会がどこからもたらされるのかはわかりません。
- チャンスを活かして、安全地帯の外に出なければなりません。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

Mike Barlow
フリーの寄稿者、6件の記事
受賞経験のあるジャーナリスト、著者、コミュニケーション戦略コンサルタントであるMike Barlow氏は、『Learning to Love Data Science』(O'Reilly社、2015年) の著者であり、『The Executive's Guide to Enterprise Social Media Strategy』(Wiley社、2011年) と『Partnering with the CIO』(Wiley社、2007年) の共著者でもあります。また、リアルタイムのビッグデータ分析、スマートシティ、アンビエントコンピューティング、予測メンテナンス、機械学習、AIなど、数多くのトピックについての記事、レポート、ホワイトペーパーを執筆しています。
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