新たな医療テクノロジーは、看護師の職場にどのような変化をもたらしているのか

テクノロジーが治療の成果をどのように向上させるのか、ということについてはたびたび話題になりますが、テクノロジーは看護師にも影響を与えており、プラスの影響としては、精度が向上したり、スタッフのけがが減ったり、情報が広く伝達されるようになったりといったことが挙げられます。

医療業界では、看護師の不足を補うとともに、治療の成果を向上させるためにテクノロジーが活用されています。しかし今、一度立ち止まって、医療テクノロジーが世界で最も人数の多い医療従事者である看護師にどのような影響を与えているのかを確かめるべきときが来ています。医療テクノロジーは、期待通りの成果をもたらしているのでしょうか。それとも、看護師の負担を増大させているだけなのでしょうか。

医療従事者の役割は数多くありますが、その中で最も数が多いのが看護師です。実際のところ、米国の看護師の数は陸軍に匹敵し、労働統計局によると、2016年の正看護師の数は、295万人でした。また、その数は急激に増加し、National Council of State Boards of Nursing (NCSBN) によると、2017年末の時点で有効な正看護師免許の数は460万枚でした。それにもかかわらず、看護師は不足しており、その状況は悪化の一途をたどっています。

医療のデジタル化とそれに関連するテクノロジーの普及は、ある程度このような人手不足の解消に貢献していますが、Healthcare IT Newsで報告された、Healthcare Growth Partners社が半年に1回実施する医療IT市場のレビューによると、昨年は「医療ITの当たり年」でした。また、新しい診断や医療IoTなどの医療テクノロジーに対する投資も同じように急増しています。

あらゆる面で成果を得ようと努力を重ねている看護師は、今まさにこのような状況を目の当たりにしています。

 

昔と今の看護師の1日

MSNとMBAを持つ、正看護師のSandra Bogenrief氏は、ミネソタ州セントクラウドのラスムーセン大学で看護部長を務めています。43年間にわたって看護に携わる中で多くが変わったと語る同氏は、「点滴数を数えたり、7日間から10日間にわたって虫垂を切除した患者のケアをしたり、腹帯を洗って患者の浴室で乾かしたりしたことを思い出す」と振り返っています。

また同氏は、次のように付け加えています。「テクノロジーの進歩に伴って、看護の多くの面が改善され、精度や治療の成果が向上したり、スタッフのけがが減ったり、情報が広く伝達されるようなったりしています」。

輸液ポンプ、オムニセル、電子カルテ、携帯型テレメトリモニターなどのテクノロジーは、看護師の職場を大きく変えてきました。輸液ポンプは、投薬量と点滴数を自動的に制御し、電子カルテは、多忙な医療従事者が急いで走り書きした手書きのカルテに取って代わります。またオムニセルは、ビジネスオペレーションと患者の安全対策を自動化し、携帯型テレメトリモニターは、看護師や患者が移動中でも患者の状態を監視することを可能にします。

これについて、Bogenrief氏は次のように述べています。「タッチ操作で効率的にカルテを確認したり、非常に重要な看護の思考プロセスをサポートしてくれるアルゴリズムを活用したり、私たちの代わって正確な投薬量を計算して投薬管理を行ってくれるポンプを使用したりできるという点で、看護師の仕事は以前より簡単になりました。そしてテクノロジーが導入される中で看護師の教育の重要性が高まり、コミュニケーションが改善されてマニュアルが拡充されました。また、証拠に基づく医療が可能になり、質の面で多くのイノベーションがもたらされました。テクノロジーのおかげで、職場環境の安全性と効率が向上したのです」。

患者にとってのメリットはかなり明らかですが、看護師にとっての日常的な作業 (特に一見簡単そうに思えるタスクの追跡) におけるテクノロジーのサポートの重要性は、それほど明確ではありません。

これについて、RN-BC、PhD、DNP、CNS、CPHQ、CENP、CPHIMSであり、健康情報学とデジタル戦略のフリーコンサルタントやベイラー医科大学の教授としても活躍する、Linda Harrington氏は次のように説明しています。「たとえば、午前9時頃に5人の患者に薬を出すというのは、シンプルでわかりやすく、決まりきった作業のように思われるかもしれませんが、思うように進まないケースが少なくありません。このとき、1人目の患者がレントゲン検査中、2人目の患者が吐き気を催しているか嘔吐している、3人目の患者が薬を拒否する、4人目の患者が薬を服用できない臨床検査を受けている、そして5人目の患者が処方しようとしている薬に影響する別の薬を服用している可能性があったり、患者が倒れたり亡くなったり、薬が手に入らず、看護師がその薬を取りに行かなければならなくなったりする可能性があるなど、さまざまな状況が考えられます」。

テクノロジーは、看護師にとって非常に重要なものかもしれませんが、それらがもたらす変化は、状況を良い方向へと向かわせる場合もあれば、悪い方向へと向かわせる場合もあり、その両方が少しずつ見られるケースもあります。

これについて、論文審査のある看護専門誌である、AACN Advanced Critical Careのテクノロジー部門のエディターでもあり、過去にAACN Certification社の取締役会の議長を務めたこともある、Harrington氏は次のように説明しています。「看護師が、電話やページャーに応答しながら、廊下を歩いて患者の薬を管理しに行ったり、話しかけてきた患者、家族、医師、臨床医、または清掃係とやり取りしたりするのは、よくあることです」。

テクノロジーが機能しなくなると、看護師はより一層仕事に追われることになりますが、これについて、同氏は次のように述べています。「アップグレード、アップデート、メンテナンス、または故障など、何らからの理由でテクノロジーが停止すると、複数の作業を並行して行う、非常に多忙な看護師は大きな混乱に陥ってしまいます。また、テクノロジーが復旧したときに、手動でのデータ入力が必要になるなど、しなければならない作業が増えてしまいます」。

 

ハッカーとしての看護師

ただし、テクノロジーが適切に機能していたとしても、それほど役に立たないこともあり、Harrington氏は、「私が説明してきたのは物理的な作業の部分ですが、看護師の仕事の大部分は経験的知識に基づいて行われるものであり、テクノロジーの設計段階では、必ずしも看護師の知識的経験に基づくワークフローが考慮されているわけではない」と述べています。

看護師は一般的に、このような欠点に文句を言うことはありませんが、それを無視することもありません。  同氏は、数年前にある大規模な医療センターの優秀な看護師長 (CNO) と話をしたときのことを、次のように振り返っています。「複数の看護師がリスクの高いテクノロジーの安全装置を使用せず処置を行っていたことを彼女に伝えたところ、そんなことがあるはずはなく、病院の各部門の看護師の代表者が月に2回集まって話し合いを行う特別委員会を設けている、という答えが返ってきました。このCNOからは、看護師同士が話し合いのたびにテクノロジーの問題を具体的に尋ねており、報告が上がることはほとんどなかった、という報告を受けましたが、私は、看護師がそうした処置を問題と捉えていなかったことに原因があると彼女に言いました。それまで問題を修正してきた、というのは思い違いだったのかもしれません」。

事実を把握しておかなければならないHarrington氏は、情報科学者として、行動やテクノロジーの使用方法を監視するために看護師を追跡しています。

 

エッジでの看護

看護の分野では、看護のためのテクノロジーと看護技術の両方が必要とされますが、Bogenrief氏はこれについて、「医療ビジネスでは、看護の直感的で思いやりのある、気遣いの部分がいともたやすく失われる」と述べています。

医療向けのモノのインターネット (IoT) は、看護技術と看護のためのテクノロジーの両方の役に立ちますが、その理由は、テクノロジーがバックグラウンドで動作し、看護技術に必要とされる人間同士のやり取りの部分に再び注力できるようになるためです。

これについてHarrington氏は、「多くの研究者やイノベーターを抱えるテクノロジー企業やコンサルティング会社では、さまざまなことが同時進行しており、テクノロジーに精通したコンシューマーも、ウェアラブル、アプリケーション、およびデータを利用して、医療や看護にIoTを取り入れている」と述べています。そして同氏は、IoTの「リアルタイムのビッグデータ、ディープデータ、およびダークデータ」によって、テクノロジーが人に情報を伝達したり、人を監視したりする存在から、実際に人の行動に変化をもたらす存在に変わる日を心待ちにしています。

これについて、同氏は次のように述べています。「多くの病気や早死にの原因は、喫煙、食生活、運動といった、変えることのできる行動にあるため、これは重要なポイントとなりますが、私たちはテクノロジーによって行動を変えられることをわかっています。またテクノロジーは、早い段階で健康の問題を特定するのにも役立ちますが、それによって早期介入が可能になるため、治療の成果が向上します」。

患者のケアや治療の成果に最大限の効果をもたらすとともに、看護師の仕事を効率化して監視の必要性を減らすには、多くの医療IoTでエッジコンピューティングや機械学習を活用しなければなりません。なお、エッジコンピューティングとは、ソースの近くでデータを処理することを意味します。

ここで、自動運転車とそこに内蔵された自動運転を可能にするセンサーや分析機能について考えてみてください。データの収集、処理、およびそれに基づく動作の決定は、すべて車両に搭載されたシステムで行われますが、こうしたデータは、ルートを変更して工事中の道路を迂回したり、早い段階で機器の問題を特定する方法を見つけたりといった、他の車の機能を改善するために、別の分析でデータを使用できるクラウドにも送られます。またどちらのケースでも、危険が及ぶ可能性がある差し迫った状況に素早く対応し、人間が自力では確認できないほど大規模なデータベースの有意義なパターンを見出すうえで、機械学習が重要な役割を果たします。

これと同じように、医療で活用されるエッジコンピューティングでも、患者の病状のごくわずかな変化を検知して、素早く対応を行うことができます。たとえば、エッジコンピューティングを使用すれば、わずか1滴の体液でがんを検出したり、パーソナライズした理学療法に対する体の反応を読み取ったり、その場でわずか数分のうちに、患者のDNAを解読したり、後成的変化を特定したりすることが可能です。

看護師の不足が深刻化すると同時に革新的なテクノロジーが増えつつあるため、これは看護に不可欠です。こうしたギャップは日々広がり続けていますが、それについて、Harrington氏は次のように述べています。「変化しつつある看護師の職場を正しく理解するには、看護師のためにテクノロジーが導入されてきた背景を理解しなければなりません。テクノロジーは、それだけが導入されたわけではなく、私が40年間看護に携わる中で、数千の薬や手順、さらには数多くの新しい診断方法も導入されてきたのです」。

さらに同氏は、次のように付け加えています。「患者は、さらに多くの併存疾患 (複数の慢性疾患) を患い、より多くの薬、市販薬、ハーブ系サプリメントなどを服用しているという点で変化しましたが、こうした状況に合わせて、新しいテクノロジーや進化し続けるテクノロジーを追加すれば、複雑化しつつある職場環境を把握できるようになります」。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングを導入すれば、このような現在の課題が解決されるだけでなく、将来の進化も可能になります。たとえば、エッジコンピューティングでは、リモートから患者の監視とケアを行うだけでなく、そこで得た情報を使用して他の患者をサポートできます。他の患者は、現在同じ病気を患っている場合もあれば、最初の症状が現れてから数年経っている場合もありますが、こうしたデータは、病気の検出と治療法の特定だけでなく、予防医学にも役立てることが可能です。

これについて、Harrington氏は次のように説明しています。「遠隔医療も看護師に新たな機会をもたらしてきました。現在では、遠隔ICUで全国の数千人の重病患者を監視していますが、遠隔ICUを担当する看護師は、きめ細かい管理を行って病室の看護師に高度な専門知識を提供しています。テクノロジーは、地方から都市部に至るまでのあらゆる場所で遠隔ICUモデルを利用できる機会を生み出したのです」。

未来の看護は魅力的なものとなる一方で課題も多く、その職場は今と同じように多忙であると思われます。テクノロジーは、さらに重要性を増すだけでなく、看護師がこれまでにない独自のケアを提供できるよう、より包括的かつ透過的なものになるでしょう。

 

デジタルテクノロジーの活用: リーダーのためのアドバイス

  • 看護師は、誰よりも先に患者ケアに対するデジタルテクノロジーの影響を目の当たりにしています。
  • デジタルテクノロジーは、患者に直接影響を与えるだけでなく、より効率的に看護を行えるようにすることで治療の成果を向上させます。
  • エッジテクノロジーは、すぐに影響をもたらす可能性があります。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterprise Companyの見解を反映しているとは限りません。

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