AIは近い将来、メンタルヘルスセラピストのような存在となり得るか?

ソーシャルメディアは、孤独を解消する完璧かつ先進的な存在として、人の心を癒すものになると思われていましたが、逆の効果をもたらすことが複数の調査により明らかになりました。今日では世界中の人が、周囲の声に耳を傾けるのではなくスマートフォンにくぎ付けになっていますが、AIはそうした流れに逆らうとともに、セラピストのような存在になろうとしています。

 

孤独と孤立は長年、心の病を生み出す原因となってきました。ソーシャルメディアが日常生活の一部になると、その両方が解消されてつながりが増え、より健全な生活が送れるようになると多くの人が期待しましたが、現実はその逆であることがわかりました。

多くの研究者は、人工知能 (AI) がこうした孤立と孤独の流れに逆らってメンタルヘルスを向上させる手段になり得ると考えています。AIは、ソーシャルメディアユーザーのつながり感を向上させることができなかったとしても、個人が介入、さらには友人、家族、およびメンタルヘルスの専門家の助けを必要とするタイミングを予測することで物事を良い方向へと向かわせる可能性があります。また研究者は、AIを搭載したデジタルアシスタントを友人やセラピストのような存在として簡単に受け入れることができるようにするために、それらをよりパーソナルかつ魅力的なものにすることに力を注いでいます。

すでに市場に展開されているAIの一例として、スタンフォード大学の心理学者とAIのエキスパートのチームが開発したWoebotが挙げられますが、これについてMegan Molteni氏は、Wiredの記事で次のように報告しています。「Woebotは、チャットでの簡単な日常会話、感情の記録、キュレーションした動画、および言葉遊びでメンタルヘルスの管理をサポートします。Woebot Labs社は、昨年1年間をかけてベータ版を開発し、臨床データを収集した後、完全版の商用製品となる、1か月あたり39ドルで1日に1回ユーザーの状態をチェックしてくれる、パーソナライズされた素晴らしいチャットボットを発売しました」。

AIは心の病に苦しんでいる人にとって非常に有望な存在ではありますが、それは人でもなければ、医師でもなく、実際には限界があるうえ、法的な問題や倫理的な問題も少なくありません。それでも最初に述べたように、AIは実質的な支援を必要としている人にそれを届け、最小限のコストで多くの人の命を救う最善の手段となる可能性があります。医療費が高くなり、メンタルヘルスへの要求が高まっているうえに医療費をカバーするための健康保険が保証されない今の時代には、特にそうであると言えます。

 

ソーシャルメディアと大人数の力、AIと個人の力

ソーシャルメディアとうつ病の結び付きに関するいくつかの研究では、ソーシャルメディアに費やす時間と孤立感の間に直接的な相関関係があるという結論が出されています。つまり、テクノロジーは十分な社会性を持たず、ソーシャルメディアは人が直接行う社会的交流に取って代わることはできないというわけです。

ただし、ソーシャルメディアやその他のインターネットアクティビティで行えることにより、ユーザーのメンタルヘルスの状態を示したり、場合によっては人のアクションを予測したりできる行動パターンが明らかになります。たとえば、Facebook社ではすでにAIでユーザーの自殺の兆候を捉えており、AIがユーザーの投稿やユーザーの友人から寄せられたコメントの自然言語のパターンを探して、差し迫った自殺の兆候を素早く特定しています。そしてそのような兆候が見つかると、同社のスタッフのチームがAIのデータを検証してユーザーに連絡を取り、そのユーザーがサポートを受けられる方法を提案しています。これについて、自殺防止ヘルプラインの責任者は「こうした活動は単に役に立つだけでなく、きわめて重要である」とBBC Newsで語っています。

Facebook社はまた、(数ある関連コンテンツの中から) アルゴリズムを使用してテロリストによる投稿を特定しています。自殺の兆候が見られる人は、自殺する前に家庭内暴力や銃の乱射などで殺人を犯してしまうこともあるため、こうした取り組みは、メンタルヘルスに関する取り組みにおいても重要となる可能性があります。そして、このように早い段階で兆候を捉えて介入すれば、複数の命を救えるかもしれません。

Facebook社は、手遅れになる前にユーザーのネットワークの誰か、または医療関係者に連絡を取って積極的に介入するといった、プロアクティブな介入方法でさらに成果を上げることを検討しており、John Draper博士は、BBCの記事で次のように述べています。「私たちはこれについて、Facebook社と議論を重ねてきました。苦しんでいる個人を助けるためのサポートネットワークをさらに高度化できれば、そうした個人がサポートを受けられる可能性が高くなりますが、どのようにすれば押し付けがましいと感じられない方法でそれを進められるのか、というのが問題です」。

プライバシーと適切な介入の境界を見極めるのは容易ではありませんが、AIをバックエンドでの分析以外、たとえばデジタルアシスタントやデジタルフレンドの形で活用すれば、成果が得られるかもしれません。こうしたシナリオでは、AIは多くの人に見られる一般的なアクションや共通のアクションを探すのではなく、個人の特性を把握することに重点を置くようになります。

 

スケーラブルな介入の必要性

世界保健機関 (WHO) によると、「うつ病に悩む人は2005年から2015年の間に18%以上増え、現在3億人を超えています」。さらにWHOの報告によると、毎年すべての年齢層の約80万人が自殺で命を落としていますが、15~29歳に関しては、自殺が死因の第2位となっています。

安定した高所得の国でさえ、専門家や施設の予約が埋まっていたり、特定の領域のリソースが少なすぎたり、メンタルヘルスケアを受けることを社会的に強く非難されたり、医療費をカバーするための資金が不足していたりといった多種多様な要因によって、メンタルヘルスケアを受けられない場合もありますが、WHOによると、全世界の自殺の78%は、そうしたケアの利用がさらに制限されていることの多い低~中所得の国で起きています。

AIは、大きな危機に陥っている個人を特定して迅速に対応が行えるという点で多大なメリットをもたらします。AI駆動型のアシスタントや分析を利用すれば、現在の医療システムでの人間による対応に比べ、はるかに多くの人をサポートできるのです。また、メンタルヘルスケアと介入が行えるようにプログラミングされた自動AIシステムなら、人間の専門家が対応する場合よりはるかに少ないコストでサポートを提供することが可能です。さらにユーザーにとっても、判断に偏りがあるかもしれないと感じる人が相手の場合より、マシンに話しかける方が、プライバシーを守るうえで有利です。

ここでは、シリコンバレーのX2AI社という企業が設計した、心理療法を行うチャットボットであるKarimを例に挙げてみましょう。The New Yorkerで報告されているように、Karimは主にシリア難民を支援することを目的に設計されました。しかしKarimが唯一の発明品というわけではなく、同社からは、軽い不安神経症や恐怖症を持つ人をサポートする、オランダ語を話すボットのEmmaや、認知行動療法などの手法に長けた、英語を話すチャットボットであるTessも提供されています。そして同社では、犯罪組織から暴力を受けたブラジル人やHIVに苦しむナイジェリア人が抱える、幅広いメンタルヘルスの問題に対処するボットを開発する計画も立てられました。

ただし、AIは人でもなければ医師でもないため、AI駆動型のテクノロジーはメンタルヘルスの専門家のアシスタント、あるいはユーザーを注視して支える友人のようなものとして使用されています。つまり、AIが薬剤を処方したり、人を入院させたりするようなことはありません。

とはいえ、AIベースのテクノロジーを活用すれば、限られた数のメンタルヘルスケアの専門家で、今よりはるかに多くの患者を管理できるようになる可能性があります。増え続ける患者へのスムーズなメンタルヘルスヘアの提供を可能にする、こうしたスケーラブルなアプローチは、過労状態に陥っている今日の医療業界にとって魅力的であり、これによって実際に多くの命が救われることになります。X2AI社の報告によると、手遅れになる前に誰かが駆けつけることさえできれば、自殺の90%を防ぐことが可能です。

 

唯一無二の友となるAI

Facebook社やX2AI社などの研究者が、AIによる高度な分析と自動化を活用してメンタルヘルス対応プログラムの利用拡大やその効率と効果の向上に取り組んでいる一方、コンシューマーテクノロジーにおいても、社会の中で人からユーザーに提供されるTLCを拡充するためにAIが導入されつつあります。

Apple社のSiri、Samsung社のBixby、Amazon社のEchoのヘルパーであるAlexa、およびGoogle社のAssistantは、スマートフォンやタブレットに搭載されており、スマートスピーカーとして家庭にも普及しつつあります。これらにはいずれも、人のアクションを間接的に観察したり、人とこれらのシステムのやり取りを直接観察したりすることで心の状態を分析できるAIプログラムが搭載されており、危機に陥ったときには助けを呼ぶことも可能です。

新しいスマートホームデバイスは、高齢者や障がい者が自宅でより快適かつ安全に過ごせるようサポートする設計となっています。たとえば、GPSに対応した高齢者向けのメディカルアラートシステムがすでに数多く使用されており、その多くでは、高齢者の転倒や転落が自動的に検出されます。また、どのシステムでもボタンを押すと助けを呼ぶことができます。

これらのテクノロジーは将来、ユーザーがパーソナルアシスタントや友人のような存在であると考えるようになる可能性が高い、パーソナライズされた単一のAIエンティティに統合されると思われます。そしてAIは、人間の友人よりユーザーのことを深く理解するようになる可能性が高いため、もしかすると「唯一無二の友人」になるかもしれません。

このようにAIがユーザーのことを深く理解するようになると、親密さや信頼の感情が生まれ、それが孤立感や孤独感の解消にもつながるかもしれません。

さらに、AIがサポートを得ることを勧めると、ユーザーがその提案を信頼し、それに基づいて行動するようになる可能性があります。近い将来、AIは予約を取ったり、ユーザーを施設まで運ぶために自動運転車を呼んだり、  差し迫った脅威がないときに健康増進機能として担当医に観察記録を送ったりといったことまでするようになるかもしれません。

AIはまだ新しいテクノロジーですが、非常に多くのタスクを効率的に実行できる能力をすでに備えています。さまざまなメンタルヘルスの問題に苦しむ人をサポートする役割をAIに担わせることには大きな意味があり、幸いなことに、すでに多くの研究者がそのための取り組みを進めているのです。

 

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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