2020年1月24日

デジタルトランスフォーメーションを成功させるカギ

新しい競合他社が出現し、規模を拡大し、市場シェアを奪いはじめるスピードは、今日さらに加速しています。勝ち抜くためには、古い考え方を捨て去る必要があります。

「デジタルトランスフォーメーション」という用語は、過去数年の間に企業に広まりました。しかし、多くの企業は、それが現在、近い将来、そして遠い未来において何を意味するのかを完全には理解していません。CIOとIT部門にデジタルテクノロジーの提供方法と使用方法を変更することを迫り、企業を全体的に変革する可能性があるビジネス上の要請、テクノロジー、現実の状況を理解することが重要です。ここでは、企業をデジタル時代へと押し進めている最近の進歩について、また企業がイノベーションと変化を受け入れることで、いかにトランスフォーメーションを達成できるかについてご紹介します。

現在のビジネスの世界はデータ駆動型で、エッジ中心で、クラウドが活用されています。ほぼすべてのCIOが、テクノロジーを使用することで、企業がより少ない資源でより多くのことをできるようにする責任を負っています。ただし、本当のデジタルトランスフォーメーションは、単に生産性を上げることではありません。企業が従事しているビジネスを根本から変えることを含めて、古い仕事の進め方を覆すことを意味します。また新しいビジネスモデル、新しい収益源、顧客と競合他社との新しい関係を作り出すことを意味します。これまでもそうではありましたが、新しい参入者が出現し、規模を拡大し、市場シェアを奪いはじめるスピードは、さらに加速しています。

企業がデジタル時代に移行するためには、新しいテクノロジーの適用によって促進される、これまでにない革新的な考え方が要求されます。企業を変革するためには、テクノロジーごと、あるいは部署ごとの手法に頼るのではなく、包括的なアプローチを取ることが必要です。

以上を念頭に置いて、詳しく見ていきましょう。

 

重要なのはデータ


これまでとは異なる、デジタル時代の特色の1つは、データが重要だということです。大切なのは、企業がデータを作成する方法、データを消費する方法、データからインサイトを得る方法、データを活用して差別化とイノベーションを生み出す方法、データを収益化する方法です。デジタルトランスフォーメーションに対して真剣に取り組む以上は、トランスフォーメーションの重要な側面として、データを非常に強く意識する必要があります。

業界は長年にわたり、ホッケーのスティックのような形を描く、データ作成量の急増という軌道に乗っています。現在のでは、企業はデータを使用して新しい収益の流れを促進するようになりました。また、企業はデータを使用して物理的な世界とデジタルの世界の境界線を曖昧にしています。企業はこれによって、たとえば顧客の行動と使用パターンを分析することで、彼らが企業のサービスをどのように使用するかをより正確に把握するなど、過去には得ることができなかったインサイトを取得しています。

IoTと、私たちが世界を計測する方法の発達によって、利用可能なデータの量は急増し続けています。また、データの量だけではなく、私たちがほとんどリアルタイムでデータを見ているという事実も革新的です。

私たちはちょうど今、それらすべてのデータを分析するために必要なツールを得ようとしています。企業のデータのうち、現在分析されているのはわずかな割合のみです。つまり、組織の間を流れるデータセットの、ほんの表面をなでているだけにすぎません。

大量のデータを収集して分析することには多くの利点がありますが、倫理、プライバシー、またEU一般データ保護規則 (GDPR) のような規制に関する、多くの問題が生まれることにもなります。デジタル時代を生き抜き、そこに移行して成功する企業は、データの処理と作成に優れているだけでなく、倫理的にデータを使用することに長けた企業でもあります。

 

エッジで価値を作成する


また、デジタルトランスフォーメーションを推進することは、データと価値がますます企業のエッジで作成されることを意味します。新しいデジタル時代に移行すると、革新の多くは、巨大なデータセンターの建物の外で起こります。自社のCRMが競合他社のものよりも優れているからといって、自社を差別化することはできません。差別化は、新しい価値を創出することで達成できます。そして、その価値はエッジで創り出されます。

Gartner社によれば、2022年までに、企業で生成されるデータの半分以上がデータセンターとクラウドの外で生まれ、処理されるようになります。デジタルトランスフォーメーションを推進しているのはデータであり、ほとんどのデータはエッジで取得、処理されるため、デジタルトランスフォーメーションは中心で始動してエッジに移行するプロセスではなく、エッジでのプロセスである必要があります。

この例の1つとして、自動車データが収益化される方法が挙げられます。最新の自動車には120~140個のセンサーが搭載されており、自動車と周囲の環境についての大量のデータを収集しています。その量は、1時間の運転で25ギガバイトにも上ります。このデータは、高度なドライバーモビリティの安全サービスと娯楽を提供するために使用できます。しかし、自動車製造業者は、せいぜい自社の自動車のデータにしかアクセスできません。地域によって市場のシェアは異なるため、製造業者には、わずかなデータしか持っていない地理的なエリアがかなりあります。そして、そのような地域では、顧客に優れた運転体験を提供することができません。

ある新しいプラットフォームは、製造業者がデータを購入または交換することで、ずっと幅広いデータプールにアクセスすることを可能にします。製造業者はそのデータを使用して、たとえば路面凍結やハイドロプレーニング現象につながる悪天候が見られる場合にドライバーに警告するなど、車両内のサービスの質を高めることができます。これによって生命が守られ、さらに自動車製造業者は、以前は使用していなかったデータを収益化できます。そして、それはすべてエッジで起こるのです。

 

クラウド時代はデジタル時代に道をあける


デジタルトランスフォーメーションを推進する3つ目のテクノロジーは、クラウドコンピューティングです。クラウド時代を迎えることによって、ITはコストがかかり、トランザクションが重く、サイロ化された体験からユーティリティとしてのITという新しいサービスモデルに移行しました。電気が消費されて料金が支払われるのと似たようなモデルです。ほとんどのアプリケーション、レコードのバックインスタンス、大規模なトランザクションエンジンはコアのどこかに存在していたため、中心と外のやり取りが生まれました。この目的でクラウドを利用することで、企業はよりアジャイルとなり、よりすばやく効果的に行動できるようになりました。

クラウド時代の恩恵は、何よりもリスクの削減でした。企業はもはや、新しいプロジェクトを開始するために巨大なデータセンターを建築し、数百、数千台のサーバーを購入する必要がなくなったのです。代わりに、必要な数だけ、クラウドベースのインスタンスを起動できるようになりました。プロジェクトが失敗に終わった場合でも、大量の時間と資金が使われたわけではないため、損失は少なくすみます。これにより、成功のための革新的な考え方ができるようになりました。何か新しいことに挑戦する際のリスクとコストが削減されたためです。

ただし、クラウド時代はまだコア中心であり、それ自体はトランスフォーメーションではありませんでした。企業がデジタルのサプライチェーンを再設計し、それによる貯蓄をビジネスに回すことを可能にしたものの、ビジネスを大きく変革したわけではありませんでした。ビジネスをクラウドに移行するだけでは、デジタルトランスフォーメーションを達成したとは言えません。どちらかといえば、デジタルのサプライチェーンを最適化したにすぎません。それは良いことですが、企業を変革するわけではありません。

 

デジタルトランスフォーメーションの意味


デジタル時代はクラウド時代とは違い、単に生産性を向上し、コストを削減し、より少ない資源でより多くのことをするだけではありません。デジタルトランスフォーメーションとは、本当の意味でビジネスを変革することです。デジタルトランスフォーメーションの達成を目指す企業は、単にテクノロジーを使用して業務をさらに最適化しようとしているわけではありません。テクノロジーを使用して、収益を得る方法と新しい収益の流れを作る方法を根本的に見直そうとしています。また、テクノロジーによって、自社を次のレベルに引き上げる方法を模索しています。

デジタルトランスフォーメーションの達成は、口で言うほど簡単ではありません。企業が新しいデジタルプロジェクトを立ち上げる理由を明確にできないことはよくあります。立ち上げの前に、そのプロジェクトが最適化を目的としているのか、それともトランスフォーメーションを目的としているのかを判断する必要があります。コストを削減し、より少ない資源でより多くのことをしようとしている場合、プロジェクトは最適化を目的としています。ビジネスを変革し、新しい収益源を見つけようとしている場合、それはトランスフォーメーションを目的としています。

あるいは、最適化プロジェクトは、ビジネスで何をするかを根本的には変えない、と考えることもできます。ビジネスを行う「方法」は変わるかもしれませんが、それだけです。それに対して、ビジネスのデジタルトランスフォーメーションプロジェクトは、企業が何をするか、何を販売するか、どのように販売するかを変えます。

ただし、新しいプロジェクトの目的を知るだけでは十分ではありません。企業は、プロジェクトに対して取るアプローチについて判断する必要もあります。これには、予測可能なアプローチと探索的なアプローチがあります。探索的なアプローチは、ビジネスのデジタルトランスフォーメーションの目的と、直接的にではなくゆるく結びついています。予測可能なアプローチは、デジタルビジネスの最適化と、直接的にではなくゆるく結びついています。

「予測可能」とは、テクノロジーの影響が比較的明確な、定義されたROIのあるプロジェクトを意味します。探索的なアプローチでは、ROIとテクノロジーの影響は定義されません。最大の機会は、探索的なアプローチによって生まれます。探索的なアプローチでは状況を一変させることができます。一方、予測可能なアプローチでは、どのような結果となるかが予測できます。そして、プロジェクトを行う企業に結果が予測できるということは、市場の他の企業にも結果が予測できます。他社にも同じことができるのです。

自動車データの収益化は、デジタルトランスフォーメーションプロジェクト (探索的) と最適化プロジェクト (予測可能) の違いの完璧な例です。自動車製造業者がお互いにデータを購入/販売できるようにするプラットフォームを構築した企業は、自動車パーツを製造するビジネスをしています。この企業がより優れたCRM、より迅速な設計分析、物理的なサプライチェーンのデジタルによる最適化、新しいアプリケーションによってより多くのパーツをより安価に製造するプロジェクトを立ち上げていたとしたら、それは最適化プロジェクトです。収益の増加につながったかもしれませんが、企業のビジネスモデルを変えることはなかったはずです。しかし、そうではなく、この企業はモビリティサービスのプロバイダーになるというビジョンに従い、そのために探索的なアプローチを使用しました。テクノロジーを使用して企業の将来のビジョンに沿った新しい収益の流れを作り出したため、これは本当の意味でのデジタルトランスフォーメーションです。

 

自社のトランスフォーメーションの目的


人工知能、機械学習、クラウド、エッジテクノロジーが、デジタルトランスフォーメーションという新しい時代への道を整えてきました。この時代には、企業はデータを使用して、どのように働くか、何を販売するか、どのように販売するかを変革します。しかし、それを達成するには、企業は最適化ではなくトランスフォーメーションの目的に明確な焦点を当て、新しいプロジェクトに対して予測可能なアプローチではなく、探索的なアプローチを取る必要があります。そうすることではじめて、新しいデジタル時代にビジネスを成功させることができます。

 

デジタルトランスフォーメーションの成功要因 リーダーのためのアドバイス
 

  • 予測可能なアプローチを取るのは、テクノロジーの影響が比較的明確な、定義されたROIがあるプロジェクトです。 
  • 探索的なアプローチではROIは定義されていません。
  • 最大の機会は探索的なアプローチによって生まれます。 
  • デジタルトランスフォーメーションの重要な側面として、データを非常に強く意識する必要があります。


この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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