2020年10月16日

天気予報でAIの活用が進んでいる理由

AI、大量のデータセット、ハイパフォーマンスコンピューティングは、予報能力の大幅な向上に役立っています。

人工知能は、天気や気候のデータを分析するために長年にわたって使われてきましたが、現在、強力なハイパフォーマンスコンピューター (HPC) と膨大な量のデータを利用できるようになったので、科学者たちはさらに正確できめ細かい広範囲の予報を行うためにAIを活用し始めています。

これらのテクノロジーを組み合わせて利用すると、今後100年間にわたる気候予測の精度を高め、よりきめ細かな天気予報によって竜巻やハリケーンなどの災害から避難できるように詳しい警報を出せるようになります。この強力な予報テクノロジーの組み合わせは、すでにテスト中なので、今後3~5年以内に実用化されるかもしれません。

「私たちは真のブレークスルーを目にしようとしているのだと思います」とSue Ellen Haupt氏は言います。彼女はコロラド州ボールダーにあるアメリカ国立大気研究センター (NCAR) 研究応用研究所の上級研究員兼副部長です。「AIを使った予報自体は新しいものではありませんが、これまでとは異なる方法でより積極的にAIを活用することは、新しい取り組みです。私たちはAIを使って、どのような嵐でひょうや竜巻のような災害が発生するのかを特定しようとしています。警報を数分以上前に出せるようになるかもしれませんし、数時間以上前に出せるようになることも期待しています。AIはより優れた予報を行うための鍵となるでしょう」

異常気象の予報を数分でも早めることができれば、生命や何百万ドルもの資産を守ることができるかもしれないとDavid John Gagne氏は言います。彼はNCARの機械学習の科学者であり、さまざまな天気および気候の研究室の科学者と協力して、AIや機械学習のシステム開発を支援しています。

「竜巻の警報をさらに2分早く出せるようになったとしたらどうでしょう」と彼は言います。「避難所に駆け込む時間ができるかもしれません。さらに的確に予報できるようになれば、竜巻はこの進路に進むと考えられますが、向こうへ行く可能性もあるので、こちらに避難したほうがよいでしょう、などと細かい予測を出せるようになるでしょう」

 

AIと天気の歴史

NCAR、NOAA (アメリカ国立海洋大気庁)、アメリカ国立気象局などの組織で天気予報や気候予測に取り組んでいる科学者たちは、テクノロジーにも精通しており、強力なコンピューティング性能とAIを利用することで、予測を改善し、気象、気候、海洋、宇宙天気に関するより正確で広範囲な情報を提供しています。

毎日の天気予報や悪天候の警報を正確なものにするために、優れたアルゴリズムとスーパーコンピューターが利用されています。天気予報では、膨大な量のデータの管理、分析、ビジュアル化が必要なので、長年にわたってAIが利用されてきました。20年前、気象データを取り込んで正確な予報を自動的に出力するためにDICast (Dynamic Integrated foreCast) システムが構築されたときにも、AIが組み込まれており、このシステムは大手の商業気象サービス企業によって使用されてきました。

「AIは長い間、天気予報で使用されてきましたが、近年、大量のデータとGPUのパワーを利用できるようになり、機械学習が進歩したことで、再び注目されるようになっています」とIlene Carpenterは言います。彼女はヒューレット・パッカード エンタープライズの地球科学部門のマネージャーです。「天気予報センターは、スーパーコンピューターを最初に使い始めた組織の1つです。現在、予報の精度を高めるために、彼らはスーパーコンピューター上の物理モデリングと、AIおよびデータ主導の手法を組み合わせています」

単独のテクノロジーでは目標を達成できないので、それぞれのテクノロジーは互いに連携しています。天気予報や気候予測でのテクノロジーの活用方法は、世界中の他の業界にも波及していくと考えられます。

「これらのテクノロジーの進歩によって、天気や気候だけでなく、今後はあらゆる分野で最適なテクノロジーの組み合わせを活用できるようになります」と業界の独立系アナリストであるJeff Kagan氏は言います。「もちろん、AIは以前から利用されてきましたが、今や飛躍的に成長しており、さらにHPCも新しいレベルに進化しています。これらのテクノロジーの力をまとめて利用できれば、物事を処理するための新しい方法、つまり新しいパラダイムが生まれるでしょう。このようなテクノロジーは今後、あらゆる業界を変革するために使用されるようになると考えられます。私たちは、新しい世界への最初の一歩を踏み出したばかりです」

「まもなく真のブレークスルーを目にすることになるでしょう。私たちはAIを使って、どのような嵐でひょうや竜巻のような災害が発生するのかを特定しようとしています」

Sue Ellen Haupt氏アメリカ国立大気研究センター研究応用研究所の上級研究員兼副部長

 

AIを使ってひょうの予報に取り組む

Gagne氏とNCARの他の科学者たちは、嵐の要因を分析する気象モデルの一部にニューラルネットワークを使用してきました。そのような要因には、さまざまな高度での温度、風向と風速、上昇気流、湿度などがあります。このモデルでは、嵐がひょうを発生させるかもしれないことを表すパターンを検出します。ひょうの落下速度は最大で時速190キロに達し、ワシントン・ポストのレポートによれば、米国だけでも年間約80億ドルから100億ドルの損害を生み出しています。

ひょう予報プロジェクトのリーダーであるGagne氏によれば、彼らは、特定の地域にひょうが降る可能性を最長で1日前に推定するために機械学習を利用しています。彼はオクラホマ大学のチームと共同で機械学習モデルのトレーニングを行う最初のコードを書きました。このモデルでは、大量のデータセットからさまざまな情報を見つけ出すことができ、それらの情報を集約することで、ひょうの嵐が発生することがわかります。さらに、嵐によって発生するひょうの大きさを予測することもできます。

このシステムは、オクラホマ大学でリアルタイムで稼働しており、NOAAから得られるデータを使用してテストされています。「ひょうの嵐の予報には成功しました」とGagne氏は言います。「とてもうまくいっています」

このような予報システムをうまく機能させるために、科学者たちは大量の気象データを収集して分類し、分析する必要があります。さらに、高度なAIとHPCのテクノロジーも欠かせません。

 

テクノロジーの連携

世界中で、衛星、地上、海上の気象センサーは大量の気象データと気候データを提供し続けています。これらのデータは膨大な量なので、人間や従来のコンピューターシステムでは分析してパターンを検出することはできません。問題はそこにあります。大量の情報の意味を理解できなければ、収集したデータが無駄になってしまうのです。

「非常に多くのデータを得られるのですが、予報士は予測を行うために調べなくてはならない情報量に圧倒されています」とGagne氏は言います。「人間が大量のデータと情報ノイズを処理してパターンを検出できる段階はとっくに過ぎています。私たちは、優れたビジュアル化分析ツールを開発し、データを詳しく調べる手法を見つけ出す必要があります」

科学者たちはそのために、AIシステム、機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニングを活用し、目的に合わせてパターン認識機能を作り込んでいます。このシステムは大量のデータを取り込むことができ、雷や竜巻が発生する可能性がある嵐を特定する方法を学習できます。壊滅的なハリケーンや激しい吹雪が起こる可能性のあるパターンを見つけ出すことができるようになるのです。このようなパターン認識は、天候と気候の両方のデータセットで機能します。

しかし、そのような大量の処理をどのように行えばよいのでしょうか? ここでHPCの出番になります。

「気候変動に関する一般的な議論では、気球規模での年間の地表温度の上昇や、海面上昇量など、非常に単純化されたおおまかなデータを扱います」とPrabhat氏は言います。彼はアメリカ国立エネルギー研究科学計算センター (NERSC) のデータおよび分析サービスチームのグループリーダーです。「しかし近年、自分が住んでいる地域に気候変動がどのように影響するかということを知りたいと思う人が増えているため、より細かいレベルで正確に現象を解明できるシミュレーションが必要になっています。このようなモデルでは大量のデータセットが生成されるので、「メイン州にはどのような影響がありますか?」「私の住んでいる都市にはどのような影響がありますか?」といった質問に答えるために精密な分析を行う必要が生じます。AIは、より正確なシミュレーションと精密な分析を行う際に私たちを支援してくれます」

過去3年間に、NERSCが保有する最高性能のスーパーコンピューターは、Coriという名前のCray XC40マシンでした。このマシンは622,336個のインテルプロセッサーコアを搭載しており、理論上、毎秒3京回の演算を実行できます。(ヒューレット・パッカード エンタープライズは2019年にCray社を買収しました。)

米国エネルギー省の科学部門でトップの科学計算施設であるNERSCは、マシンのアップグレードを準備中です。今年の後半に、この組織では次世代のHPE CrayスーパーコンピューティングアーキテクチャーであるShastaの一部の納入が始まる予定です。ShastaにはAMD社のEPYCプロセッサーとNVIDIA社のGPUが搭載されています。

このマシンのコンピューティング性能は、NERSCが目指しているアップグレードされた気象および気候シミュレーションを実行するために、彼らがまさに求めていたものです。

NERSCの科学者たちが取り組んでいるプロジェクトの1つに、小さなスケールでの予報がありますが、これには地理的には狭くても非常に高いコンピューティング性能が求められます。

このような予報では、微気候について考えます。たとえば、サンフランシスコの気温は21度で曇りになるでしょうといった予報ではなく、微気候の予報では、どの地区で雲がかかって湿度が高くなり、どの地区で晴れて湿度が下がるでしょうといったものになります。

「このような予報は、最新のスーパーコンピューター上でAI (GPUで実行) と古典的な偏微分方程式 (PDE) ソルバー (CPUで実行) を組み合わせることで可能になるかもしれません」とPrabhat氏は言います。「理想を言えば、このスケールで地球規模のモデルを実行できるようになることを期待しています。私たちは世界中で現在よりもはるかに精密な予報を必要としていますが、現在のマシンでは、まだその目標を実現できないでしょう」

生命にかかわるような大きな気候変動がある時代に、気候モデルを改良する際にも、高度なAIとスーパーコンピューターが必要になると彼は付け加えます。

NOAAの地球システム研究所のJebb Stewart氏は、情報科学およびビジュアル化部門の責任者であり、ラボにおけるクラウドコンピューティングと機械学習の取り組みのリーダーを務めています。彼は次のように述べています。「機械学習の一部のアプリを処理するには、ハイパフォーマンスコンピューティングの活用が不可欠です。私たちが開発しているいくつかのニューラルネットワークをうまく機能させるには、深さとデータサイズの両方で拡張性の高い並列処理が必要です。単一ノードで処理を実行すると、その種のデータを数テラバイト処理するために、数日とはいかないまでも数時間かかる可能性がありますが、HPCを活用すれば、数分から数時間に短縮できます。これにより、さまざまなニューラルネットワーク構造を使用できるようになります」

 

テストを重ねる

天気予報や気候予測を行うさまざまな組織が機械学習やディープラーニングに取り組んでいますが、毎日の予報にすぐに大きな変化が起こることは期待しないでください。特に天気については、科学者はたくさんのテストを重ねて、新しいテクノロジーを採用しても重要なサービスに問題が発生しないことを確かめる必要があります。

「研究者は、AIの手法を天候や気候のシミュレーションコードに組み込む最適な方法について慎重に検討しています」とPrabhat氏は言います。彼は、5年以内に天気予報や気候予測で高度なAIが活用されるのを目にすることになるだろうと考えています。「科学的な探求を行っているあらゆる分野に言えることですが、何らかのテクノロジーが流行しているからといって、すぐに採用するというわけにはいきません。私たちは40年以上にわたって、AIではなく主に応用数学に基づいてシミュレーションを活用してきました。PDEソルバーをすぐにAIに置き換えずに、まずはAIについて慎重に調査する必要があります」

Gagne氏によれば、NCARで取り組んでいる分野でAIの可能性を最大限に引き出せるようになるには数十年かかる見込みです。

「天気予報に関わる組織の動きは遅いですが、AIへの投資は増えているので、今後5年間で大きな変化があると予想しています」と彼は付け加えます。「場合によっては、予報の精度がさらに10%向上するかもしれません。これは大したことではないように思えるかもしれませんが、小さな改善でも大きな違いが生まれます。私たちが期待している成果は、竜巻から逃げる時間を確保でき、ひょうの嵐が始まる前に車をガレージに入れておけるようになることです」

Stewart氏は、天気予報の進歩がゆるやかであっても、個人や農業従事者、会社にとっては大きな意味があるだろうという点に同意します。それはまさに彼が望んでいることです。

「現在、いくつかのAIアプリケーションがテスト中ですが、さらに多くのアプリケーションが開発中です」と彼は指摘します。「今後数年で、私たちは天気予報の精度がAIによって大幅に向上するのを目にすることになります。まずは、AIを導入しても気象モデルに悪影響がなく、モデルが改善されることを確認する必要がありますが、最終的にはたくさんの成果が得られるでしょう。ワクワクする話ですね」

 

天気予報にAIを活用: リーダーのためのアドバイス

  • AIを機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニング、ハイパフォーマンスコンピューティングと組み合わせる取り組みによって、今後3~5年で天気予報の精度が大幅に高まることが期待されています。
  • 気候科学者や気象予報士は、大量のデータを選り分けて悪天候や気候変動を示すパターンを見つけ出すために、これらの新しいツールに注目するようになっています。
  • この強力な予報テクノロジーの組み合わせは、天気予報の精度を飛躍的に高めるだけでなく、他の業界でも応用できるようになるでしょう。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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