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2021年3月19日

理想のスマートシティを目指して: Q&A

HPEのIoT部門チーフテクノロジストのLin Neaseによれば、IoTと「市民センサー」によって都市はよりスマートになります。ただし、プライバシーに関する懸念は、また別の問題です。

長らく、テクノロジーによって都市生活はより安全になり、混雑が緩和され、より健康的になると言われてきました。現在、超高速の5Gの登場とモノのインターネットセンサーの急増により、地球に住む35億人の都市生活者の多くにとって、これらの利点が現実になろうとしています。かつては市役所まで出かけなければ利用できなかった必要不可欠なサービスの多くが、現在はオンラインで利用できます。センサーによる広大なネットワークによって、都市の空気と水の汚染を測定し、エネルギーの消費を削減し、交通渋滞を緩和できます。スマート照明システムは、道路をより安全にすると同時にエネルギーコストを削減しています。AI駆動のセキュリティカメラによって、警察は犯行中の犯罪者を捕らえることができます。

IDC社は、世界中の都市政府が今年スマートシティテクノロジーの導入に費やす金額は1,350億ドルに上ると予測しています。しかし、たとえ何十億ドルを費やそうと、米国の都市は、テクノロジーを使用して市民の生活を向上することに関して、世界の大都市にまだ後れをとっています。

お分かりかもしれませんが、米国の都市をよりスマートにするための最大の課題は、テクノロジーとはほとんど関係ありません。スマートシティの発展に重要なのは市民、プロセス、そしてプライバシーです。今回は、ヒューレット・パッカード エンタープライズのIoT部門チーフテクノロジストであるLin Neaseに、米国のスマートシティの現状、直面している課題、今後の展望について聞きました。

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Q: まずは基本的な質問です。スマートシティの条件は何ですか?

A: スマートシティとは、どの都市でも提供している主要な一連のサービスをよりインテリジェントな形で提供し、市民の生活の質を向上できる都市です。

Q: スマートシティテクノロジーが最も発展しているのはどの分野ですか?

A: 過去15年間で最も発展に貢献したのは、LED街灯の導入でしょう。これは、単にLED街灯のメンテナンスが容易で、エネルギー効率に優れているからではありません。LEDの導入によって、同時に実現できることにも価値があります。トラックを巡回させてすべての街灯を取り換えるために予算を費やすのなら、LEDと併せて他のテクノロジーも設置することが合理的です。そこで、街灯には音響銃声検出器から空気品質センサー、監視カメラまで、さまざまなテクノロジーが設置されました。機器を設置するための電力源と経済的妥当性は、すでに確保できていたわけです。それが最大のブレークスルーと言えるでしょう。

Q: しかし、センサーはさまざまな要素の一部にすぎないのでは?

A: はい。センサーは過大評価されていると思います。本当の価値を得るには、さまざまなセンサーによって収集されるデータを活用し、そのデータに基づいてインテリジェントな推測をする必要があります。

COVIDを例に考えてみましょう。私たちの顧客には製造業者がいます。そこでは、製造に何千人という従業員が物理的に関わっています。製造業者は、従業員が施設内で適切なソーシャルディスタンスを保てるようにする必要があります。もちろん、従業員や市民が互いに接近する必要があるあらゆる環境に、これが当てはまります。たとえば公営の処理工場や、重要なインフラストラクチャの作業現場などです。

このような環境では、Bluetoothビーコンを使用して各従業員の位置関係を頻繁に測定しても、十分な正確さは得られません。ただし、履歴データを活用すれば、機械学習と統計的分析を使用して、従業員同士が2メートル以内に近づいた時期を推測することが可能です。そうすることで、感染の疑いがある場合は、自動的に接触者追跡を実施できます。それを迅速に行えば、シャットダウンや業務全体に支障が出ることを回避でき、行政サービスに大きな影響が出ることを防ぐことができます。AIを使用して、取得した不完全なデータから結論を推測することは、スマートシティを目指す上で非常に重要です。

別の大きなブレークスルーは、官民連携の成立です。私はこれを真水と海水の融合と呼んでいます。スマートシティで提供されるほとんどのサービスは、実際には民間企業によって提供されています。そこで、どのようなデータ共有契約が結ばれているのだろうか、という疑問が浮かびます。

市民にセンサーの役割を果たしてもらうことは、スマートシティの発展において最も可能性を秘めた分野の1つです。ボストンマラソン爆破事件の犯人は 市民の携帯電話で撮られた写真から逮捕につながりました。
LIN NEASE (HPE、IOT部門CTO)

Q: スマートサービスを展開する上で、どのような課題がありますか?

A: それは、企業がデジタルトランスフォーメーションを実践する際に直面する、変更管理の課題と非常によく似ています。大量のデータを収集できるようになった今、それをどう使えばいいでしょうか。現行のプロセスに活用できるでしょうか。できない場合は、プロセスを作り直す必要があります。多くのIoTの導入事例から分かったことですが、組織はテクノロジーの実装を開始するまでは、プロセスをどのように変更すればいいかを把握できません。鶏が先か、卵が先かという問題が起こります。

また、社会経済学的な懸念もあります。カメラを搭載したゴミ収集車を導入すれば、運転手がトラックをバックさせる時にぶつけないように目を配る助手が不要になります。彼らの仕事はどうなるのでしょうか。

Q: スマートシティを目指す上で、エッジコンピューティングはどのくらい重要ですか?

A: きわめて重要です。LED街灯に設置されたカメラなど、ビデオ処理に関連するあらゆることに、何らかの形の、物理的に近接したコンピューティング能力が必要となります。最も分散された形式として、エッジコンピューティングは都市圏全体のモバイルプロバイダーの基地局に設置されます。そこで、都市はサービスプロバイダーが収集したデータをどのように活用できるかという疑問が出てきます。

例えば、私がモバイルネットワークプロバイダーで、サンフランシスコの街の500か所に、ラック半分を占める小型サーバーを所有しているとします。都市とデータを共有する民間企業が運用するソフトウェアにキャパシティの一部を貸し出すことも、都市に直接貸し出すこともできます。複数のキャリアーが同じ基地局を共有するように、これらの小規模なエッジコンピューティングセンターは、民間企業と行政機関の両方に貸し出すことができます。

Q: HPEが取り組んだスマートシティプロジェクトで、特に印象に残っている例を教えてください。

A: HPEは、以前からボーパールで大きなプロジェクトに取り組んでいます。ボーパールはインドのマディヤ・プラデーシュ州の他の6都市のハブとして機能しています。我々は、クラウドベースの統合型指揮管制センター (ICCC) を設立することに協力しました。ここでは数千台のセンサーだけでなく、Googleマップのような公開ソースからもデータを収集しています。これによって州政府は、2,000万人を超える市民のためにスマート照明システム、交通状況、駐車状況、廃棄物管理、水の使用を1つの場所から監視できます。単一のICCCを設立することは非常に効率的で、地方行政は多額の費用を節約することができました。これは、今後数年で100か所のスマートシティを作るという、インド政府のより大きな計画の一部です。

Q: 多くの点で、他の国は米国の先を行っているように感じます。

A: その通りです。しかし、インドやアラブ首長国連邦のような国のスマートシティがより急速に進化している理由は、プライバシーの懸念と関係しています。実をいえば、これらの国では、米国ほどプライバシーを気にかけていないのです。そのため、彼らはより速く先に進み、より多くの機能を導入することができます。

中国ではさらに急速に進歩が続いています。プライバシーに関する懸念がまったくないためです。たとえば、中国には社会信用システムがあります。市民のふるまいに応じてポイントが割り当てられ、国外へ旅行する資格などが判断されます。北京の顔認識機能を搭載した監視カメラは非常に効率的で、それほど遠距離でなければ個人を特定できます。ビッグブラザー的な恐ろしいシナリオにつながってもおかしくはありません。

Q: 今後、スマートシティはどのように進化していきますか?

A: 市民にセンサーの役割を果たしてもらうことは、スマートシティの発展において最も可能性を秘めた分野の1つです。ボストンマラソン爆破事件の犯人は、市民の携帯電話で撮られた写真から逮捕につながりました。市民にセンサーの役割を果たしてもらうことで、全員が交通状況改善の恩恵を受けることができます。Google社がWaze社を買収したのはそのためです。私は、今ではランニングをする前に必ずPurpleAir.comをチェックします。このサイトでは、民間と政府両方のセンサーから空気品質指標のデータを集めています。

しかし、多くのプライバシー上の懸念も生まれます。最近我が家では、家の前の通りを監視できるRingセキュリティシステムを導入しました。現在では、米国の1,300以上の警察署が、AmazonのRingドアベルカメラのビデオフィードに直接アクセスすることができます。市民は、ボタン1つでこれを許可できます。特に顔認識技術の向上を考慮に入れた場合、これはちょっとした問題をはらんでいます。私のカメラは通りを映しています。私は通りを所有しておらず、通りを使用する人々に対して何の権利も持っていません。しかし、私のカメラは彼らを映すことができます。

市民がセンサーデータをクラウドソーシングする場合、所有権は誰にあるのでしょうか。政府はそれに対する権利をどのように手に入れるのでしょうか。民間企業とデータを共有する権利が政府にあるのでしょうか。政府が市民の権利を侵害することなく、このデータを使用して、市民に役立つサービスに関してより良い判断を下すにはどうすればよいのでしょうか。これらの疑問に対する答えが見つかった時にこそ、米国のスマートシティは本格的に発展を始めるはずです。

Lin Neaseは、HPEフェロー兼HPE PointnextサービスのIoTアドバイザリプラクティスのチーフテクノロジストです。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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