2019年1月17日
アフリカおよび南アジアの不正医薬品とテクノロジーで闘う
蔓延する不正医薬品の被害によって、アフリカと南アジアでは何十万人もの人が亡くなっています。そこで、社会起業家であるBright Simons氏は、患者が簡単なテキストメッセージで医薬品の信憑性を検証できるテクノロジーを活用する企業を設立しました。
アフリカで不正医薬品と闘った功績により、Bright Simons氏は2016年に『Fortune』誌の世界で最も偉大なリーダー50人の1人に選ばれました。同氏の会社であるmPedigree社が提供するサービスにより、アフリカの患者は医薬品のパッケージに記載されたコードをテキストメッセージで送信するか、スマートフォンでバーコードをスキャンすることで、医薬品の信憑性を検証できます。これは、不正医薬品による致命的な被害と闘う強力な方法です。ある見積りによれば、低品質の抗マラリア剤によって、これまでに5歳未満の12万人以上の子どもが亡くなっています。
12の発展途上国の約20億個の製品パッケージに、mPedigree社のバーコードが記載されています。同社はシステムを拡大し、種子、医療機器、化粧品、農薬など、他の製品の信憑性も検証できるようにしました。また、スマートセンサーの分野にも進出し、イメージング、分析、ポリマーによってコールドチェーンをモニタリングすることで、効果のないワクチンや抗出血(分娩後出血)薬の注射から幼児や妊婦を守ろうとしています。
Simons氏の幼少期における科学への関心、テクノロジーと社会起業を組み合わせてmPedigree社を設立した過程、彼と彼の会社の次の目標について話を聞きました。
ご自身の幼少期について、どのように育ったか、どのように科学とテクノロジーに興味を持ったのかをお聞かせください。
私が育ったガーナでは、十代になると、基礎教育認定試験という全国規模の試験を受けることになります。通常、試験の結果がある範囲に入ると、ほぼ必然的に科学の道を進むことになります。私の場合もそうでした。高校を卒業した時、引き続きその道を進んで天文学と天体物理学を学ぼうと考えていました。しかしある時点で、純粋な科学は自分の関心とぴったり一致しないと気が付きました。そこで、社会科学を学ぶことにしました。
社会科学の分野ではどのようなことをしましたか?
ガーナの学生運動に多くの時間を費やしました。また、移民の権利運動にも参加して、マリー・キュリー奨学金を獲得しました。そこでは移民の権利運動と奨学金を結びつけることができたのです。しかし、テクノロジーへの関心は持ち続けていました。テクノロジーが人間の幸福に直接的な影響を持つことを知っていたためです。社会起業という概念について、また社会問題に直接取り組む方法としてテクノロジーを使うことに考えが至ったのはこの時です。
社会問題を解決するために最初に社会起業とテクノロジーを組み合わせたのはいつですか?
最初の試みは2004年にさかのぼります。仲間と協力して、テクノロジーを使用してアフリカの農家の生活を向上するというアイデアを思いつき、2005年にプロトタイプの開発を始めました。アフリカの農家は有機農法によって作物を生産していましたが、ヨーロッパで有機農産物として販売するには非常に高価な認定プロセスを経る必要がありました。私たちは、テクノロジーを活用してずっと安価でより効果的な認定プログラムを作成し、農家が認定済みの有機農産物をヨーロッパで販売できるようにすることで、彼らの収入を劇的に増加できるのではないかと考えました。残念ながら、私たちには現場にインフラストラクチャを構築して農家にテクノロジーを導入してもらうためのリソースがありませんでした。
そこからどのようにmPedigree社に至ったのですか?
有機農産物を認定するために私たちが構築したシステムは、農産物がどのように生産および処理されたかを示す詳しい情報を、生産した農家にまでさかのぼって確認できるタグを使用していました。それによって、信頼というものの力について考えるようになりました。ある製品が表記どおりの製品であるとどのように確認すればよいのでしょうか? 特に健康に関わる状況で、特定の商標をどうすれば信頼できるのでしょうか?
有機農業のアイデアの実現に失敗した後、ナイジェリアの痛ましい事故に関する記事を読みました。不凍剤が混入された小児用の医薬品を接種した幼児が死亡したのです。最初は、この事故が、有機農産物の認定に関する私たちの仕事と結びついているとは感じませんでした。しかし、後からこれらの問題が似ていると気づいたのです。片方の場合、これから食べる野菜が有機的に生産されたことを確信するために、誰かが認定プロセスを実施する必要があります。もう一方の場合では、特定の医薬品が自分を死なせるのではなく治すものであると確信するために、誰かが工場を訪れて検査をする必要があります。
共通点は、両方とも信頼の問題だということです。そして、産業時代において、信頼を維持および強化するシステムを導入することは可能です。つまり、これらは観点は大きく異なっていても非常によく似た問題なのです。そのことに気づいたら、自分たちのテクノロジーを再利用して不正医薬品の問題に適用できることは明白でした。
アフリカの不正医薬品問題について少し教えてください。
問題の一例は、ワクチンなどの医薬品が正しい温度で適切に保管されておらず、医薬品の効果がなくなってしまうことです。例えば、ある妊婦は、出血多量のために分娩台で死亡しました。止血のための薬が効かず、出血を止めることができなかったためです。
他にも、偽造者が本物の医薬品にそっくりな箱と本物そっくりな錠剤を作るという例もあります。本物に見えるものの偽物であるため、まったく効果はありません。驚くような話ですが、毎日何百万人という人がこの問題にさらされています。
また、公式には存在しない企業が医薬品を製造および販売しているのに、誰も製品を管理せず、誰も何の検査もせず、誰もその企業が医薬品を正しく製造しているかを確認しないということもあります。そして、これらすべての問題が相互に関連しています。どの問題も、信頼のシステムが崩壊していることを反映しているのです。
mPedigree社はどのようにこの問題を解決するのですか?
私たちは、医薬品がどのように製造されたか、製造者から小売業者までのサプライチェーンをどのように移動したかをすべて把握することに焦点を当てています。すべての医薬品の箱に一意のIDを記載し、その信憑性を確認します。その後、これらの製品の二次的な再梱包に対してもIDを記載します。例えば、20個の製品を入れた配送用の箱、400個の製品を載せたパレット(20個の製品を入れた箱20個)などです。サプライチェーンのすべての段階で、受領者はそれを受け取ったことと、問題がないことを確認する必要があります。これが、個々の小売業者まで、サプライチェーンのすべてで続きます。異なるレベルのサプライチェーンが相互にどのようにつながるかは、特定の管轄区の規制機関によって決まるか、特定の規制機関が存在しない場合は製造業者によって決まります。
小売業者側では、お客様は任意の携帯電話を使用して医薬品の信憑性を確認できます。スマートフォンがあれバーコードをスキャンすることもできます。スマートフォンがない場合は、製品特定用のIDを記載したSMSテキストメッセージを送信すれば、その製品が信用できるかどうかを確認するテキストの返信を受け取ることができます。すべてのIDが一意であり、データベースには不揮発性メモリが搭載されているため、偽のIDを生成してシステムを悪用したり、IDをコピーしたりすることは不可能です。システムを行き来するすべてのデータが相互に組み合わさり、予測的インサイトを生成します。
どのようなテクノロジーがそれを可能にするのですか?
製造業者はクラウドを利用しています。業者はデータレポジトリを所有し、当社が製造業者に代わってそれをホスティングするか、製造業者自身がホスティングすることもできます。流通業者は製造業者に付属していると考えられます。つまり、製造業者が独自のデータセンターを持っている場合、その流通業者のデータは製造業者によって保持されます。
多くの小規模および中規模の製造業者、つまりほとんどの企業が、クラウド対応のインフラストラクチャで当社にすべてのデータの管理を任せています。製造業者は一意のIDを適用し、どの医薬品がいつ製造されたかを記録します。このような情報のすべてが製造業社のレポジトリに保存されます。
次に、トランザクションレイヤーがあります。ここでは製品がサプライチェーンをどのように移動しているかが詳細に記録されます。これは、標準の電子データ交換フォーマットを使用するデータベースに保存されます。また、新しく実装した最新のブロックチェーン技術によって、医薬品を入れた箱またはパレットが1つの場所から別の場所に移動されたことを誰も否定できないようになります。ブロックチェーンのデータは取り消すことができないためです。
また、通信事業者ともパートナー関係にあり、当社はSMSフィードに直接組み込まれています。これは、消費者に無料SMSのホットラインを提供できることを意味します。消費者はSMSに料金を支払う必要がないため、収入が原因で医療サプライチェーンの信頼性改善の利点を受けることができないという可能性を排除できます。
mPedigree社の次の目標は何ですか? 医薬品以外に対してテクノロジーを活用したことはありますか?
当社では、農家が使う種子、民族固有の衣料、化粧品、自動車部品、農薬、医療機器など、さまざまな種類の製品の偽造を阻止するためにテクノロジーを活用しようと考えています。
また、最新テクノロジーの使用も検討しています。機械学習には大きな関心を持っています。当社では多くのデータを取得していて、これらのデータポイントは多くの人にとって非常に大きな利益となるためです。例えば、ケニアの農業部門のマイクロ保険に向けたデータをバックエンドで提供してほしいという話があります。当社は農家が何をいつ購入したかなどを把握できるためです。それに基づいて、mPedigree社は保険会社に特定の農家の不作の可能性や、信用照会先の情報を提供することもできます。これらすべてに堅牢なプライバシーおよびデータ保護システムが必要なため、それを刷新しているところでもあります。
mPedigree社の先例に倣いたい人に何かアドバイスはありますか?
多くのイノベーターが意識する必要がある新しい問題の一部は、有名なインターネット企業を裕福にしてきた問題とは別物だと思います。これらのデジタルで解決可能な「第一世代」の問題は、見つけるのがますます難しくなっていると感じます。
残された問題はソーシャルイノベーションに関わる問題です。これらは非常に複雑で、政治に関する深い理解と、社会学や人類学に関する豊かな知識が要求されます。つまり、多くの関係者と複数のレベルのエコシステムを巻き込み、場合によっては政府がより中心的な役割を果たす必要があるような、これまでよりも複雑なソリューションを生み出す必要があります。次のテクノロジー大手企業を作ることに成功するのは、この新しい現実にうまく適応できる人だと思います。
この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Preston Gralla
フリーの寄稿者、19件の記事
フリーライターであるPreston Gralla氏は、これまでにテクノロジーに関する数千もの記事を執筆し、50冊近い著書を上梓しています。同氏の著書は、Computerworld、PC World、PC Magazine、USA Today、Dallas Morning News、Los Angeles Times、およびその他の数多くの企業から出版されています。著書の販売部数は全世界で数十万部に達しており、約20の言語に翻訳されています。
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