2020年6月19日
有害な労働文化の発見と燃え尽き症候群の回避にAIを活用
AIの利用が拡大する今日、私たちが自分の正体を隠すのは難しくなる一方です。事実一部の企業は、AIを使用した顧客の評価をすでに開始しています。
ソーシャルメディアや母親からのメールを見ればおわかりのように、私たちは四六時中、他者からの評価を受けています。この評価を効率化する方法として人工知能 (AI) の利用が注目されています。何と言っても、AIは人間が考えもしなかったつながりを見出すことができ、また人々とその周囲の状況を冷静に (かつ人間よりもはるかに高速に) 評価することが可能です。
将来的にはAIを利用することで、人間に関する潜在的な問題点を、燃え尽き症候群や有害な労働文化へと発展する前に特定できるようになると期待されています。実のところ、AIによるナルシシズムやマキャヴェリアニズムといった人格特性の発見は可能なだけでなく、「今現在すでに」行われています。
こうした特性は金銭的および感情的な問題を引き起こす恐れがあるため、その傾向を発見するのに役立つ特殊なタイプのAIアプリケーションの開発が進んでいます。これらの厄介な特性による悪影響がとりわけ大きいのが職場であり、ストレスから多大な損失が生じる可能性があります。マトリックスからの人類の解放にマシンが役立つとは驚きです。
AIによるこうした判断はどのように行われるのでしょうか。マシンは、哀れみ、悔恨、恐れといった人間の感情を理解することはできず、また魅力的な人を好きになることと、おいしいサンドイッチを好きになることの区別もできません。
中核となるのは言葉
人間は性格上の欠点を自らの言葉によって暴露しますが、AIによる欠点の捕捉にも同じ手段、すなわち言葉が役立つことが判明しています。
従業員の感情的状態を判別できる分析プラットフォームを提供しているReceptiviti社の共同創設者兼CEOであるJonathan Kreindler氏は、言葉は「人々とその感情的、心理的、および認知的な状態を把握する」のに役立つと述べています。Receptivitiプラットフォームは、従業員が疲れてストレスを感じているか、あるいは満足して意欲にあふれているかを判別でき、その評価に際しては、コンテンツから名前や住所などの個人情報が取り除かれ、グループ、チーム、および部門が処理対象とされることで、すべての個人が完全に匿名化されます。
Receptiviti社は独自のAIを使用して、Microsoft Office 365、Exchange、Gmail、Slack、Skypeといった、オフィス内のコミュニケーションシステム上で使用されている2つの異なるタイプの単語に注目します。2つの異なるタイプの単語とは、内容語と機能語です。
- 内容語とは、名詞、動詞、および形容詞です。
- 機能語とは、代名詞、前置詞、および助動詞 (am、is、haveなど) です。
Receptiviti社のAIでは機能語に重点が置かれています。Receptiviti社の共同創設者兼主任科学者であるJames Pennebaker氏による2013年TED Talkによると、英語には約500の機能語しか存在せず、これは私たちが知っている単語の1%未満にすぎません。しかしながら機能語は私たちが使用している単語の55~60%を占めます。(ご興味がありましたら、Pennebaker氏およびCindy K. Chung氏共著の調査レポートをこちらでご覧いただけます。)
Kreindler氏は、ユーザーの感情状態を示すのは (より親しみやすく説明的な内容語ではなく) 機能語であると述べています。
「うつ病の兆候を示している人々は、…代名詞「I、me、my」を「he、she、they」よりも頻繁に使用する傾向があります。こうした人々は意識が内向きになりがちです」とKreindler氏は指摘します。
さらにKreindler氏によると、燃え尽き症候群の兆候を示している人々は「未来よりも現在に集中する傾向があります」。例えば前置詞に関しては、beforeなどの単語が多く、afterはあまり使用されません。「ストレスを受けている人は、未来に関係する前置詞を使わない傾向にあります」と同氏は述べています。
AIはソーシャルメディアの投稿内容に基づく人物評価が可能
AIが言葉から判断できるのは、私たちの感情やストレスだけではありません。Airbnb社のAI (スタートアップのTrooly社から取得) は、問題性の高い特性であるナルシシズムとサイコパシーを特定することが可能です。
Evening Standardの記事によると、Airbnb社のAIは予約客について分析し、「その人物に関連するキーワード、画像、またはビデオに、ドラッグやアルコール、ヘイトサイトや組織、セックスワークなどが含まれている」場合には評価を下げます。Airbnb社は自身のWebサイト上で、「弊社は予測分析と機械学習を使用して何百ものシグナルを即座に評価することで、発生する可能性がある問題行動について、事前のフラグ付けと調査を行っています」と明言しています。
このことは、Airbnb社のアルゴリズムでは予約客のソーシャルメディア投稿がスキャンされることを意味しています。したがって、もしあなたが飲酒について、あるいはヘイトクライムに関係しているセックスワーカーの常連客であることをしばしばツイートしているような場合は、Airbnb経由の民泊利用は諦めてホテルを予約した方がよいかもしれません。
AIは、人間のもう1つの問題行動である嘘を見破ることも可能です。カーディフ大学とマドリード・カルロス3世大学の研究者らが開発したVeriPolと呼ばれるAIは、偽の盗難届を80%の精度で見破ることができると言われています。VeriPolは嘘をついている人を発見するために、内容語、さらには句読点や頭字語も使用します。
カーディフ大学によると「VeriPolは偽の盗難届に共通する数多くの特徴、例えば、事件よりも盗まれた資産に重点を置いた短い供述、事件自体に関する正確な詳細情報の欠落、犯人に関する情報の少なさ、目撃者またはその他の確かな証拠の欠如 (例えば事件直後に警察官や医師に連絡していない)、などを特定しました」。
研究者らは、この嘘発見AIにより、人々が偽の盗難届の提出を思いとどまることを期待しています。(そもそも人が偽の被害届を出すのはなぜなのかも、別途考察すべき問題でしょう。)
AIとメンタルヘルス
AIは犯罪が発生する可能性を未然に指摘できるだけでなく、ある種の精神疾患も特定できる可能性があります。The Atlanticの記事によると、ある研究者チームが開発したAIモデルが、若者の集団のうち精神疾患を発症するリスクがある者を正しく予測できたとのことです。
精神疾患の患者は、うつに悩まされている人々とは言葉の使い方が異なることが判明しています。彼らは短いセンテンスを使用し、言葉が不明瞭になりがちで、this、that、aといった単語の使用頻度が高い傾向にあります。
ただし、NeuroLex社CEOのJim Schwoebel氏によって開発されたこのAIモデルでは、AIのトレーニングに書き言葉ではなく、話し言葉が使用されます。
Schwoebel氏は、「一般的に声は (精神疾患を含む) さまざまな疾病のバイオマーカーとして使用できます」と述べています。何らかの絵や1日の出来事について説明するよう患者に求めることで、「私たちはテキストだけでなく、さまざまな特徴も抽出します」。ここで言う特徴とは、声のピッチ、大きさ、リズムなどを指します。
AIの助けを借りて、精神疾患に悩まされている人に対して、より迅速かつ正確に診断を下すことができれば、適切な治療をより早期に開始することが可能になります。
Smithsonian Magazineレポートによると、AIは患者の声からうつ病を発見することも可能で、これは気分障害の特徴として声がよりフラットで単調になることを利用するものです。しかしながら、書き言葉は音声以上に多くの情報を提供してくれる可能性があります。『Detecting Depression with Audio/Text Sequence Modeling of Interviews (インタビューの音声/テキストのシーケンスモデリングによるうつ病の発見)』という論文で取り上げられているAIは、音声のみの場合よりも書き言葉のサンプルがある方がうつ病を迅速に予測できます。
AIが使用する手がかりは言葉だけでなく、目をスキャンすることで、その人物についての情報を得ることも可能です (1982年公開の映画『ブレードランナー』に登場するフォークト=カンプフテストのようなものです)。
研究者らは、AIがビッグファイブ人格特性のうち4つ、すなわち (開放性を除いた) 誠実性、外向性、協調性、および情緒不安定性を、瞳孔の直径、瞬きの速度、眼球の動き、視線の着地点などを指標として判別できることを発見しました。
以上でおわかりのとおり、AIは、従業員が燃え尽き症候群に悩まされているかどうか、誰かが嘘をついているかどうか、あるいはAirbnbの予約客がアパートの部屋を破損する可能性があるかどうかを教えてくれます。ただし人間は機械とは異なります。多くの場合、気分や行動は一過性のもので、状況によって変化するため、AIにできるのは特定された行動モデルに基づく最良の推測にすぎません。そのため、こうしたツールは最終判断を下せるものではなく、あくまで評価手段の1つであると認識することが大切になります。
AIによる人間の評価方法: リーダーのためのアドバイス
- 使用される言葉は人格特性の重要な指標となります。
- 書き言葉のスタイルを分析することで、行動や気分だけでなく、うつ病などの問題も発見できます。
- 言葉以外の指標による評価も可能です。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Carol Pinchefsky
フリーの寄稿者、25件の記事
Carol Pinchefskyは、ニューヨーク市在住のフリーランスライターで、夫とともに本に囲まれて暮らしています。執筆では、テクノロジーとギーク文化の接点をよく取り上げています。
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