2021年3月19日
AIで山火事と戦う
消防士は、人工衛星、AI、ドローン、クラウドコンピューティングを使用して、これまでよりインテリジェントに山火事と戦っています。
葉っぱに価値のあるデータが含まれているとは考えられないかもしれません。しかし、葉っぱがどのくらい湿っているか、または乾燥しているかは、山火事の広がり方を予測するために役立ちます。
「乾燥した植物は燃えやすく、湿った植物は燃えません」と、スタンフォード大学の地球システム科学部博士課程に在籍するKrishna Rao氏は言います。当たり前のことのようですが、どのくらい乾燥していたら危険で、どのくらい湿っていたら安全かははっきりしていません。Rao氏が燃料水分を推定する深層学習アルゴリズムを開発したのはそのためです。
「火災を危険にするのは燃料です」とRao氏は言います。「燃料があるところに、火災が起こります」
火災がどれだけ広がるか、またどこに広がるかを予測するために、AIの役割はますます大きくなっています。すべては山火事に対する戦いを助けるためです。
戦いはこれまでに増して厳しくなっています。カリフォルニア州森林保護防火局によれば、米国西部の山火事は、年を追うにつれて発生時期が早くなり、消火時期は遅くなっています。今回の山火事のシーズンは、記録上最悪のシーズンとなるかもしれません。12月4日の時点で、5万2,834件の山火事が起き、被害面積は953万9,554エーカーに上っています。これは10年間での被害面積の平均よりも約220万エーカー多く、2019年のシーズンの同時点における被害面積のほぼ2倍となっています。
Rao氏が山火事の研究を始めた時、山火事は樹木の熱係数と、風や降水量などの気象学的要因の影響を受けることに気が付きました。もちろん人間も要因の1つですが、燃料水分も同じです。Rao氏は落雷や発火の予測に関する過去の研究を見つけましたが、燃料レベルを予測する研究はありませんでした。
「森がどれだけ乾燥しているかが分かれば、燃料となる植物の量を予測できます」とRao氏は言います。
そこで葉っぱが役に立ちます。枝や葉っぱには、それが発火するかどうかを判断するための数多くの要因があります。Rao氏と仲間の研究者は、葉っぱの色、人工衛星から送信され、葉っぱを通り抜けるマイクロ波の量、樹木の高さ、植物の種類などの20種類のデータポイントを組み合わせ、葉っぱや木の一部がどのくらい湿っているかを示すパーセンテージを割り出しました。
人工衛星のレーダーが、森林一帯に向けてマイクロ波を発射します。「樹木が乾燥していれば、何も起こりません。マイクロ波が通り抜けるだけです。樹木が湿っている場合、マイクロ波が反射して人工衛星に返されます」。つまり、火災の危険が少ないということです。
このモデルは、米国西部の山火事が発生しやすい約12の州で、100種類以上の樹木に対してテストされてきました。「百発百中とはいきませんが、現時点では、米国における森林の乾燥を予測する基準として最も優れています」とRao氏は言います。
Rao氏とその同僚は、米国森林局が収集したデータ (30年以上にわたって集められた約25万個のサンプル) を使用して、アルゴリズムを検証しました。現在、火事が発生する州、時期、樹木の種類に対して70パーセントの正確性を発揮しています。次のステップは、森林の乾燥度測定を活用して、山火事のリスクを予測する森林マップを実用化することです。「これまで、森林の乾燥度を示すマップは存在しませんでした」とRao氏は言います。
山火事との戦いにおける最も価値の高いAIの使用方法は、データを使用して火の燃え方と燃料モデルの状況を予測することです。
SIMON WEIBEL DRONE AMPLIFIED社
火には火を
AI駆動のドローンも効果的です。たとえばIGNIS from Drone Amplifiedというシステムは、グリコールを注入した、ピンポン玉サイズの化学薬品のボールを搭載しています。このボールは地面に落ちると爆発し、小さな火が起こります。この火によって、近づいてくる火から、延焼に必要な燃料を奪います。
Drone Amplified社の営業およびオペレーション部門に属する元消防士のSimon Weibel氏によれば、新しい火を起こせばほかの火が消えるというのがその仕組です。水をかけたところで、良くて火の手を遅らせるくらいだとWeibel氏は言います。同氏はオレゴン州森林局でホットショットクルーとして活躍し、延焼防止用の焼き払いを専門としていました。
ホットショットが用いる戦略にバックバーニングと呼ばれるものがあります。新しく封じ込めラインを作るか、既存の封じ込めラインを使用して、「火災の中心となる火にぶつける人為的な火を起こします」とWeibel氏は言います。「燃料は、一度燃えれば二度と燃えることがないというのがその理論です。たとえば、草原で火事がこちらに向かってきている場合、その火に向かって火を起こします。火と火がぶつかると、燃えるための燃料がなくなるため火は消えます」
IGNISはさまざまな商用ドローンプラットフォームと連携しています。またAndroidアプリケーションを使用して、飛行と着火を監視および制御しています。同システムは自動ミッションおよびマッピング、手動着火、調査が可能で、画像や記録を取ることもできます。
「弊社が目指しているのは消防士に置き換わることではありません。リソースの幅を広げることです」とWeibel氏は言います。「私たちは『戦力増強』という言葉を使っています」
Weibel氏によれば、山火事との戦いにおける最も価値の高いAIの使用方法は、データを使用して火の燃え方と燃料モデルの状況を予測することです。「火災が発生したら、地形、燃料タイプ、天候、地域などの変数を入力すると、AIモデルがその後の火の広がり方を教えてくれます」
また、調査の側面もあります。「ホットショットにいた頃、丘の向こう側を見ることはできませんでした。そのため多くのことを推測に頼っていました。今は、ドローンを上空に飛ばして丘の向こう側を確認し、火の手の状況を把握することができます。これは、防火線に関する適切な判断を下すための最初の一歩となります」とWeibel氏は言います。こうすることで、地上部隊の効率を最大化する戦略を取れるとWeibel氏はつけ加えます。
IGNISは、コロラド州で2020年に起こったパインガルチの火災で初めて使用されました。この火事は、コロラド州の歴史上最大の山火事となりました。その後、IGNISは複数のカリフォルニア州の山火事と、8月にオレゴン州で発生したライオンズヘッドの火災でも使用されています。
Weibel氏によれば、このシステムには何の問題もありませんでした。消防隊が3メートルごとにボールを落としたい場合、アプリケーションにそのように入力するだけです。「どのように移動しても、システムは3メートルごと、または設定した任意の間隔でボールを落とします。非常に賢いシステムです」とWeibel氏は言います。「標高データに基づいて構築されているため、山の中を飛び回ることができます」。そして、IGNISはフィードバックを提供します。
これが山火事との戦いの未来になると、Weibel氏は予測します。「今後AIは、予測の機能を極限まで高めていくと私は考えます。火の手がどのように進んでいくか、あらかじめ知ることができるのです」
予測に関する問題
しかし、AIの使用には確率と公平さへの懸念がつきまといます。フィラデルフィアの消防委員であり防災の責任者であるAdam Thiel氏によれば、当局はペンシルベニア州立大学と共同で火災予測の研究をしています。しかし、すべての火災は複雑であるため、同氏は「魅力的すぎるテクノロジー」には懐疑的であると言います。
現時点では、すべての変数を明確にして、それらの相関関係を理解することは不可能だと、これまで5つの州で消防士として働いてきたThiel氏は言います。同氏によれば、都市の火災も野山の火災も、どのように広がるかは究極的には物理と化学の法則によって決まります。
「これらの法則を理解できている限り、AIを含むテクノロジーは、特定の火災の深刻さと広がり方を予測するために大いに役立つでしょう」と彼は言います。
問題は、都市の場合も野山の場合も、火災の広がり方に影響を与える数多くの変数があることです。たとえば天候、温度、湿度、燃料、着火源、地形などです。そして、最も難しい変数は人間の行動です。「私は、複雑な問題がデータの問題に置換えられてしまうことに、直観的に違和感を覚えます。単にアプリケーションやAIで処理してしまえば、すべて無視されてしまう気がします」とThiel氏は言います。
「予測の代表選手」である天気予報でさえ、的中率はおそらく6割から7割くらいです。「それでも私たちはそれを妄信します」と彼は言います。
Thiel氏によれば、都市の火災であれ野山の火災であれ、たとえ火災の発生率が10パーセントしかなくても、消防士が思い通りにできる変数はほとんどありません。そして、日によってリスクは大きく変わる可能性があります。
しかし同氏は、予測分析の活用は今後より効率的になり、火災の軽減、予防、対策に役立つようになると前向きに考えています。火災の予防、対応、復旧の各段階で、リソースの配備を管理するためにAIを活用することに希望があります。
「しかし、対応の観点からは、あらゆる人に向けて公平に消防活動を行わなければなりません。火災のリスクにかかわらず、あらゆる場所に対してです。それが人々が期待していることだからです」とThiel氏は言います。「今後、消防活動の標的がより適切に決定できるようになることを望みます」
消防活動が進化するにつれて、AIは間違いなくこれまでよりも大きな役割を果たします。しかし、中心となるのはやはり人間です。なんといっても、敵である火は、天気と同じくらいあっという間に変化するのですから。
リーダーへのアドバイス
- AIと機械学習は、しきたりに囚われない分野を予想もしない形で変革しています。
- あるテーマに対してより多くのデータを集めるほど、そこから多くのことを学ぶことができます。
- 1つのシチュエーションに向けて開発したモデルは、類似のシチュエーションでも適さない場合があります。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Esther Shein
寄稿ライター、Shein Freelance、9件の記事
Esther Shein氏は、ベテランのテクノロジーライターおよびエディターです。彼女の活動は、Inc.、Computerworld、InformationWeek、CIO、Communications of the ACM、TechTarget、Forbes、The Boston Globeなど、多くの出版物に掲載されています。特集記事やニュース記事、深い洞察に基づくリーダーシップホワイトペーパー、顧客事例、業界のリーダーや革新的な初期段階のスタートアップのためにマーケティング資料を執筆しています。
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