2021年4月9日

COVID後の世界における非接触認証

世界的なパンデミックは非接触認証が普及する絶好の機会になっていますが、顔認識には多くの障害があります。

パンデミックの些細で変わった副作用の1つは、夏の間に国中で硬貨が不足したことでした。この理由の一部は、小売店の客が減ったことや、店舗で買い物をした人の多くがウイルス感染を恐れてお金に触れようとしなかったことにあります。

消費者は、現金やクレジットカードを手に取るのではなく、自分の携帯電話を使って支払いたいと考えるようになっています。昨年の春、19か国で17,000人の消費者を対象にアンケートを実施したMastercard社による調査では、回答者の79%が安全上の懸念から非接触型の支払い方法を使っていることがわかりました。また、ほぼ同数 (74%) の回答者が、パンデミックが終わってもその方法で支払いを続けるつもりだと答えています。

「安全性と利便性に対する意識から非接触型カードがますます好まれるようになっており、世界中の消費者がカードのタップによる支払いの便利さを再認識しています」と調査は結論づけています。この調査によると、回答者の46%が、最もよく使うカードを非接触決済に対応したカードに変えており、35歳未満では、その割合は52%に達しました。また、圧倒的多数の回答者 (82%) が、非接触型カードのほうが衛生的で手早い支払い方法であると答えています。

マスクを外す必要がある非接触システムは、他の顧客を危険にさらします。

電子フロンティア財団

 

現金を使うのを避けたいだけではなく、キーパッド、クレジットカード、ドアの取っ手など、あらゆるものに触れずに済む方法を探している人が増えています。また、非接触での支払いが増えていくことで、非接触認証を行う方法への関心も高くなっています。ユーザーにとって、非接触型の生体認証はその名のとおり従来の生体認証と同じように動作し、生体認証リーダーに触る必要がないという点だけが異なります。

非接触型の認証への大きな移行

いくつかの一般的な非接触型の認証方法がすでに使用されています。たとえば、リーダーから約15cmの高さに手のひらをかざす手のひらスキャン、音声認識や虹彩スキャンなどです。KBV Research社によれば、非接触型の生体認証の収益は毎年約19%成長し、2026年までに186億ドルに達する見込みです。同社は、より迅速で簡単な認証とCOVID-19による関心の高まりが売上の成長を後押しすると予想しています。

昨年の3月に、ニューヨーク市警察は本部へのアクセス認証に指紋認証を使用することを中止し、インドを含むいくつかの政府は接触型の生体認証の使用を厳しく制限しました。夏には、カリフォルニア州パサデナに拠点を置く顔認識決済プロバイダーであるPopID社のシステムが、CaliBurgerを含むおよそ25社の小売店やファーストフード店に導入されました。このシステムは、キオスクやレジのディスプレイ画面で動作し、店員がAndroidモバイル機器を使ってスキャンできるようになっています。同社は、ビルへの入館用にも同様のサービスを提供しています。

当然ながら、非接触型の生体認証を採用するにはいくつかの障害があります。それらの障害の多くは、接触型の生体認証を採用するときの障害と同様で、コスト、精度、規格、プライバシーの懸念などです。米国国立標準技術研究所 (NIST) は、数年前から非接触型の指紋認証技術について研究を続けていましたが、昨年の春に、非接触型の認証の精度と、従来の接触型指紋スキャンとの相互運用性をまとめた相互運用性評価を発表しました。

この研究では、非接触型の指紋認証は従来の指紋認証よりも精度が低いことがわかりましたが、これは指紋の読み取り方法が原因である可能性があります。従来型のリーダーでは、指を押しつけることで、指に固有の特徴を表す2次元の模様が生成されますが、非接触型の場合は、指に光を当てて3次元の表面をキャプチャするため、生体認証スキャナーに物理的に触れた場合よりも偏差が大きくなります。

従来型の指紋認証スキャナーの精度は100%ではありませんが、99.5%以上の精度を実現できます。一方、NISTの評価では、非接触型の生体認証デバイスの精度はわずか60~70%であり、デバイスで複数の指を使用した場合に90~95%まで上がりました。他にも、3次元の生体認証データを既存の2次元データベースと互換性があるものにするための業界標準がないことが障害になっています。

それでも、業界では非接触型の生体認証を、特に決済の分野で広めようとしており、大企業も迅速に動いています。

Amazon社は昨年の9月下旬に、店内で決済する顧客が非接触型の手のひらスキャナーシステムのAmazon Oneを利用できるようにすると発表し、手始めにシアトルにあるAmazon Goの2店舗にこのシステムを導入しました。入口にAmazon Oneが設置されており、買い物客は支払いやポイントカードの店舗チェックインに使うことができます。同社は、いずれスタジアムやオフィスビルでもAmazon Oneが導入されるだろうと予想しています。「Amazon Oneは、場所へのアクセスをすばやく簡単にするために既存の入口に設置されるようになるでしょう」とAmazon社はブログ記事の中で述べています。

Amazon Oneは、昨年の初めにWalmart社が発表した非接触型のWalmart Payと同じようなものと言えるでしょう。Walmart Payでは、買い物客はクレジットカードを使う必要も、画面に触れる必要もありません。代わりに、携帯電話を使ってキオスクのQRコードをスキャンし、Walmartのスマホアプリ内で支払いを行うことができます。「私たちの生活様式や買い物の方法は変わってきています。Walmartでは、お客様がこれまでとは違ったサービスを求め、必要としていることを認識し、変化するニーズに迅速に対応しています。私たちはこの取り組みを通じて、お客様がさらに安全に生活できるようになることを目指しています」と、Walmart社のエグゼクティブバイスプレジデント兼最高顧客責任者であるJaney Whiteside氏は声明の中で述べています。

非接触型の決済方法のもう1つの例として、生体認証クレジットカードがあります。これらのカードは現在、試験的に導入されており、指紋リーダーが組み込まれている点を除けば、従来のICチップカードと同じように見えます。カードの保有者は、カードの上に指をのせて、カードリーダーに差し込むかリーダーの上に置くことで、非接触での支払いを行うことができます。主な利点は、PINコードの入力が不要になることです。

昨年の夏、スペインの小売銀行であるCaixaBankは、顔認識機能を備えたATMを約100台導入し、非接触型の生体認証を採用した最大規模のATMネットワークの1つになったことを発表しました。同行の声明によると、顔認識により顧客の識別が効率化し、顧客はパスワードを記憶したりキーボードに触れたりすることなくATMを利用できるようになります。「このシステムによってお客様はキーパッドを使用する必要がなくなるため、COVID-19の流行下において、端末表面との接触を最小限に抑えながらATMから現金を引き出せるようになるという付加価値が得られます」と銀行は述べています。

もちろん、非接触認証を使ってもATMでのリスクをすべて解消できるわけではありません。「それでも、カードの問題や清潔でない現金の扱い方はまだ解決されていません」と指摘するのは、S&P Global Market Intelligence社の傘下の451 Research社でID管理を担当するシニアリサーチアナリストのGarrett Bekker氏です。彼によれば、非接触認証に興味を持っている業界の1つは医療関係です。特に病院や診療所で医師、看護師、技師が巡回する際に非接触認証が役立ちます。ただし、このような環境では明らかにマスクが顔認識の障害になってしまいます。

非接触認証の懸念点

ほとんどの生体認証には、プライバシーに関する懸念があります。電子フロンティア財団 (EFF) は顔認識による決済に警告を発しており、そのようなシステムは「他の決済方法よりも安全性が低く、プライバシーに関する懸念があり、COVID-19にかかることを心配する人にとってはリスクが高くなる可能性がある」と述べています。

EFFの主張によれば、決済に生体認証を使用することはプライバシーのリスクがあり、顔認識ではマスクを外す必要があるため、ウイルス感染のリスクが高くなります。「これは特にPopIDにあてはまります」とEFFは指摘しています。「マスクを外す必要がある非接触システムは、他の顧客を危険にさらします。皮肉なことに、PopIDが設置された店では、その認証システムを利用するときに少しの間マスクを外す必要があるので、顧客はマスクを外さないほうが安全です。できれば、他の店で買い物を済ませるほうがいいかもしれません」

顔認識のためにマスクを外すと、ウイルスとの接触を避けるためにマスクを付けるという目的に反してしまうので、非接触型の生体認証の実装の容易さを別にすれば、専門家は、虹彩、瞳孔、歩行、耳といった特徴を通じて人を認証する生体認証が増えることを期待しています。

マスクは、公共の認証だけでなく、コンシューマー向け電子機器にとっても問題であることがわかっています。最近のiPhoneでは、2018年に発売されたiPhone XからTouch IDの代わりにFace IDが搭載されています。マスクを付けたiPhoneユーザーは顔認証がうまくいかないため、自然に予備のパスコードを入力してロック解除するようになり、Appleはこの操作を簡単にするためにiOSを更新しました。

パンデミックにより、公共の場所での非接触型決済やその衛生面に注目が集まると、生体認証もその影響を受けることになるでしょう。人が触れ合う場所にあるセンサーやキーパッドは、最終的には非接触型の生体認証に取って代わられるかもしれません。唯一の問題は、どのテクノロジーがいつ普及するかということです。

非接触認証: リーダーへのアドバイス

  • 非接触認証が必要であることは明らかですが、最適な実装方法はまだ定まっていません。
  • パンデミックが起こる前は、顔認識がデバイス認証の主流でしたが、皆がマスクを付けるようになった今では、そうではありません。
  • プライバシーの懸念は認証につきまとう問題であり、生体認証ではその懸念が高まると考えられます。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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