2020年9月25日

COVID-19の影響で増加するサーマルイメージングの導入

サーマルイメージングに関するプライバシーと公衆衛生の懸念が対立しようとしています。2020年代の生活の現実に適応するために、私たちには何ができるでしょうか。

COVID-19の感染を検出および抑止するパイロットプロジェクトの一環として、ロサンゼルス国際空港 (LAX) の各セクションに入る旅行者は、非接触式のサーマルイメージングカメラで体温をチェックされます。組み立てラインの再稼働後にフォードとゼネラルモーターズの工場に戻る自動車製造工も、まもなく同じスキャナーを通ることになります。アトランティックシティ、ラスベガス、南フロリダのカジノホテルの宿泊客も、「空の目」によって体温を測られています。同じことが、カーニバルクルーズラインの船、シックスフラッグスの遊園地、ホールフーズのスーパーマーケットでも起きています。ペンタゴンのビジターズセンターにさえ、サーマルイメージングカメラが設置されています。

数十年前から存在し、これまではニッチなソリューションと呼ばれることもあったサーマルおよび赤外線カメラシステムは、組織が安全にビジネスを再開しようとしている現在、以前よりずっと広く普及しようとしています。

IDCのリサーチディレクターであるMike Jude氏は、世界のサーマルイメージングシステム市場が、2025年までに現在の60億ドルから80億ドル規模に拡大すると予測しています*1。5年間という期間では25パーセントの成長はそれほど大きくないと考えるかもしれませんが、Jude氏によれば、コロナウイルス流行前の市場の成長はごくわずかでした。

この市場の大手には、Athena、Draganfly、Electro Optical Industries、FLIR Systems、IPVM、Optotherm、Seek Thermal、Thermoteknix Systemsなどの企業があります。

「大きな市場になりつつあります」Jude氏はそう言います。「COVID-19の流行前にも、何社かの大手企業はサーマルイメージングカメラに関心があると話していました。現在では、多くの企業がこのようなシステムを来年の予算に組み込むことを検討しています。この分野に勢いがあると考えるのはそのためです」

 

サーマルイメージングの仕組み

精度が完璧とは決して言えないものの、サーマルカメラは、施設に入ったり屋外を歩き回ったりする大量の人の中から具合の悪い人を特定する有効な手段のひとつです。目的は、アメリカ疾病予防管理センター (CDC) による熱がある人の現在の定義である、体温が38度以上の人を見つけることです。多くの場合、LAXのように、特定された人には任意で通常の体温計によって再度体温を測定してもらいます。通常、COVID-19の疑いがあるとされた人は、外出を控えて医療機関を受診するように助言されます。

サーマルカメラは、使用目的が限られているため、熱検知に応用されるツールとしては数多くの1つにすぎません。たとえば、サーマルカメラでは病気は検出できません。このカメラは、レンズ、センサー、電子処理、ソフトウェア、サーバーを組み合わせ、人間の肌から放出される赤外線加熱またはエネルギーを測定して分析します。熱が高い人や物ほど、多くの赤外線を放出しています。サーマルカメラはその赤外線を捉え、人間が視認および分析可能な画像に変換します。通常、温度が低い場合は青、紫、緑で表示されます。温度が高い場合は赤、オレンジ、黄色、白で表示されます。

このような画像が太陽の熱や寒い日の冷たい風など、多くの要因によって影響を受ける可能性があることを踏まえて、一部のカメラは最も正確で適切な情報を取得するために特に額と涙管を捉えます。データベース分析や人工知能などのテクノロジーを追加適用することで、個人に関する情報を平均体温 (誰もが37度の体温で生きているわけではありません) から地理、年齢、性別、民族性、さらに食事までのあらゆることに関する巨大なデータセットに照らしてすばやく比較および調整することも可能かもしれません。

 

適切な導入

赤外線ツールメーカーのFLIR Systems社でグローバルビジネス開発部門のディレクターを務めるChris Bainter氏は、サーマルイメージングツールの使用は複雑ではあるものの、突き詰めれば基本的な要件は3つだと言います。1つ目は、システムによって常に正確に測定するには、適切なレベルのサーマルカメラのパフォーマンスが必要です。2つ目は、体温を正確に測り、偽陽性を避けるために、適切な位置を測定する必要があります。3つ目は、ツールを運用してデータを取得するスタッフは、ツールの展開、使用、保守方法に関して適切な訓練を受けている必要があります。

「営業を再開しようとしているお客様は、これらの3つの要件を達成できる統合型のソリューションをますます求めています」Bainter氏は言います。「また、お客様はAIや機械学習アルゴリズムを使用してこれらの要素を自動化したいと考えています」

Bainter氏によれば、たとえば一般的な目線に沿ってカメラを置いて人間の顔のあたりに測定装置を配置するのではなく、AIやMLの顔認識機能を利用すれば、常に正確に体温を測定できます。または、たとえば過去10人のスクリーニング結果と自動的に情報を比較し、同じまたは近くのチェックポイントを通過した他の人との違いを確認することもできます。

『私の経験では、何かをするならうまくやろうとするのが雇用主というものです。単に、従業員に関して通常は不要とされる情報を急にたくさん集めるということに関心がないだけです。そうすることはできるものの、実行する動機がないのです。』
Boris Segalis 法律事務所Cooley LLPのニューヨーク在中パートナー )

 

コスト対効果の考慮事項

IDCのJude氏によれば、多くのサーマルイメージングのベンダーがこれらすべてを踏まえて、自社のサービスを改善および拡張するために懸命な努力をしています。そこに市場シェア獲得のチャンスがあると見ているためです。しかしベンダーは、偽陽性の原因となる一般的な問題を解決するために、引き続き多くのことに対応しなければならないことにも気づいています。

さらにJude氏によれば、業界全体で協力し、プロバイダーが全体的な価格を下げて、このテクノロジーの恩恵にあずかる平均的な組織にとって手が届くものにする必要があります。

「このようなサーマルイメージングシステムの1つの平均コストは1万2000ドルから1万4000ドルと、非常に高価です」Jude氏は言います。「建物のすべての入り口と出口にカメラを設置するとしたら、コストはあっという間に増えていきます。非常に複雑なAIシステムが加われば、すぐにコスト対効果はそれほど高くなくなってしまいます。状況によっては、警備員がそれぞれの人の足を止めて、非接触式体温計で熱を測ったほうが安価で速やかな場合もあります」

Jude氏によれば、ますます多くの企業がサーマルイメージングのコスト対効果の分析を行っており、それには単純なコスト的考慮事項以外も含まれます。

「ある時点で、このテクノロジーへの投資はそこから得られる利点と釣り合いが取れなくなる可能性があります」Jude氏は言います。「しかし、業種や営業形態によっては、体温が高くコロナウイルスに感染している恐れがある人間を1人特定できるだけで、十分に投資の価値がある場合もあります。たとえば、重要な研究所での感染を避けることにはかなりの価値があるでしょう。たとえ療養期間がわずかだとしても、非常にスキルの高い従業員を多く失うわけにはいかないはずです。私たちが話した企業の多くがこのような問題に取り組んでおり、ベストプラクティスを判断しようとしています」

 

プライバシーの問題

企業は、このテクノロジーに関するプライバシーの問題にも重点を置いています。識者によれば、組織が個人に知らせたり承認を得たりすることなく画像を撮影する度に、論争の的となる可能性があります。サーマルイメージングカメラに関しては、プライバシーの擁護派はまだそれほど声高に主張していません。なんといっても、世界的なパンデミックの真っ最中なのです。

さらに、政府が公共の場にカメラを設置する権利や、雇用主が会社に出入りする従業員を監視する権利は、これまで何度も擁護されてきました。実際、Sun Microsystems社のCEOであるScott McNealyが1999年に言った「私たちにプライバシーはない。そして、それに慣れるべきだ」という有名な皮肉は現在さらに真実味を帯びていますが、専門家は状況的なものに過ぎないと言っています。

アメリカ人の大半は、サーマルカメラによってプライバシーが脅かされることよりも病気になることをより心配しているようです。事実、3月28日~30日までにかけて実施されたHarris Poll社の調査では、84パーセントの回答者が、人々が混雑する公共の場に入る前に必要な健康チェックを行うことを支持しています。また、80パーセント近くの人が、レストラン、オフィス、映画館などの特定の場所に入る前に健康チェックを行うことを支持しています。

法律事務所Cooley LLPのニューヨーク在中パートナーであり、オンライン、データ、プライバシー問題が専門であるBoris Segalis氏によれば、職場における懸念はデータの収集および使用方法に行き着くことが多いと言います。しかし、Segalis氏はサーマルイメージングと体温測定についてはそれほど問題があると考えていません。雇用主がこのような情報をずっと保持していたいとは思えないためです。

「私の経験では、何かをするならうまくやろうとするのが雇用主というものです」Segalis氏はそう言います。「単に、従業員に関して通常は不要とされる情報を急にたくさん集めるということに関心がないだけです。そうすることはできるものの、実行する動機がないのです」

Segalis氏によれば、多くの場合、体温データは保存されません。確認したら、ほとんど即座に破棄されます。組織にデータを長期保存する理由がある場合、潜在的な問題のリスクを最小化するために、Segalis氏は保存期間を30日以下にし、決して共有しないようにすることを推奨しています。組織が適切に対応できるように、一部のサーマルシステムにはプライバシー制御機能が組み込まれています。

Future of Privacy ForumのシニアカウンセルであるGabriela Zanfir-Fortuna氏によれば、利用可能な一部のツールは「他のツールよりもプライバシーを脅かします」 しかし、最も大きな懸念は、それらのツールが差別や機会の損失につながることです。

「想像してみてください。たとえば、司法試験を受けようと部屋に入ろうとしている人がいます」Zanfir-Fortuna氏は言います。「体温に影響する別の基礎疾患がある場合でも、[COVID] のスクリーニングによってテストを受けることが不可能になってしまいます。これは、その人物のキャリアに重大な結果を及ぼしかねません」

そのような結果になるのを阻止するために、Future of Privacyは、サーマルカメラの利点がそのようなスクリーニングを受ける個人の人権を侵害するリスクを上回るかどうかを慎重に分析することを推奨しています。Zanfir-Fortuna氏によれば、これらの懸念は、組織が人々をまとめてスクリーニングする場合に特に深刻です。そのため、公衆衛生機関、公衆衛生の専門家、その他の規制機関からの助言をこの評価の一環として考慮する必要があると言います。

「常に安全対策を講じる必要があります」Zanfir-Fortuna氏は強調します。「誰も、ある場所に入ることを自動的に拒否されるようなことがあってはなりません。スキャンによって特定の体温に達しているとされたことで、機会を損失してしまう恐れがあるためです」

*1「サーマルイメージングと疾患検出: 急速に成長する市場と残る課題」IDC、2020年6月

 

サーマルイメージング: 概要

  • 企業は、長期的な視点で何らかの体温測定機能を実装する準備をする必要があります。
  • 公共機関の場合は、許容レベルの保護を提供するには単純なサーマルイメージングでは十分でありません。
  • 一般大衆に対しては、プライバシーの懸念に対処する必要があります。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

enterprise.nxt

ITプロフェッショナルの皆様へ価値あるインサイトをご提供する Enterprise.nxt へようこそ。

ハイブリッド IT、エッジコンピューティング、データセンター変革、新しいコンピューティングパラダイムに関する分析、リサーチ、実践的アドバイスを業界の第一人者からご提供します。

enterprise.nxt
ニュースレターのご登録

enterprise.nxtから最新のニュースをメールで配信します。