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2020年6月12日

コンテナとクラウドネイティブによるテレコムネットワークのモダナイズ

これまでテレコムネットワークは、リスクを嫌いベンダー間の競争が少ない市場の性質により、最先端のネットワーキングに後れを取りがちでしたが、クラウドネイティブな技法とコンテナ化による改革が進行しています。

テレコム事業者およびそのベンダーエコシステムにおいて、今後のテレコムネットワークの設計および開発は、クラウドネイティブと呼ばれる先進的なプログラミング技法を基盤とすることがコンセンサスになりつつあります。

ハードウェアアプライアンスにより広範なテレコム機能を実装する旧来のアプローチは拡張性に限界があり、また期待が高かったクラウドアプローチであるネットワーク機能仮想化 (NFV) は想定されていたよりも実装が難しいことが判明しています。

昨年10月に開催されたSDN NFV世界会議のパネルディスカッションは、テレコム業界の現状とクラウドネイティブの課題を浮き彫りにするものでした。私たちは現在、真のクラウドネイティブ インフラストラクチャ上で実行される完全な5Gネットワークの入口に立っているに過ぎません。

 

従来のテレコムネットワーク

テレコムネットワークは、ITプロフェッショナルが慣れ親しんでいるコンピューターネットワークとは大きく異なります。

テレコムネットワークでは、エンタープライズネットワークと同じOSI 7階層モデルが使用されますが、ネットワークアーキテクチャーは複雑でテレコム向けに特化されています。この違いはいわば当然で、両者は物理的なアーキテクチャーとアプリケーションが大きく異なります。4Gおよび5Gのアーキテクチャーは標準化団体である3GPP (3rd Generation Partnership Project) によって定義されています (名称に3rdとあるのは、3GPPがもともとはGSMと呼ばれる3Gアーキテクチャーの定義を目的に設立された組織であるためです)。

ネットワーク機能が3GPPなどによって詳細に定義されているため、ネットワーク事業者はさまざまなベンダーから購入した製品を適宜組み合わせて使用することが可能です。そうした意味では、テレコムネットワーク事業者の手法は、一般的なクラウドサービスプロバイダーよりもシステムインテグレーターに近いと言えます。

テレコム事業者の数は歴史的に少なく、また複雑なデバイスの構築や購入に莫大な資金が必要なことから、市場への新規参入者も少数にとどまっています。

HPEはAs-a-Serviceの形で提供されるクラウドネイティブの5Gコアソフトウェアスタックにより5Gの導入を加速します。

この業界においては信頼性が非常に重要なため、テレコム事業者がネットワークに何らかの変更を加える際は、時間をかけて慎重に計画が進められます。小規模なプロジェクトでさえ数ヶ月を要することも珍しくありません。

既存のネットワークでは、ネットワークの容量と特性は静的です。特別なイベント (ホリデーショッピングやスポーツイベントなど) のために容量を一時的に増加するのは難しく、多大な手間と費用を要します。

 

5Gの要件

5Gネットワークの要件を、レガシーなネットワークモデルで満たすことはほぼ不可能です。従来のネットワークは階層構造で、コンピューティングリソースとストレージリソースの大半がコアに保持されています。これに対して5Gネットワークはよりフラット化され、コンピューティングリソースとストレージリソースが、サービスデリバリポイントのできる限り近くにプッシュされます。5Gネットワークはコアからエッジにまで広がります。

5Gネットワークでは、高帯域幅と低レイテンシの維持、ニーズの変化に応じた迅速なスケールアップ/スケールダウン、さらにはエンタープライズWi-Fiネットワークとの統合が必要とされます。テレコム業界は既存のアプローチの限界を承知しており、10年近くにわたって改善のための取り組みが進められてきました。

その取り組みとは、ネットワークをクラウドアーキテクチャーに移行し、NFVを使用してネットワーク機能をソフトウェアで実装しようというものです。仮想ネットワーク機能 (VNF) は一般的なサーバー上で実行されるソフトウェアにすぎないため、ハードウェアアプライアンスを使用する場合に比べて迅速かつ低コストに、新たなVNFインスタンスの実行に必要な仮想マシンをクラウド内に展開できます。さらにクラウドモデルを使用すれば、ネットワーク通信やアプリケーションのための追加の容量を、ネットワークのコアおよびエッジのどちらにも簡単に割り当てられます。

過去10年間の早い時期には、大多数の業界観測筋が、今頃までには多くの主要なネットワークがオールNFVモデルで運用されていると予想していましたが、この予想は未だ実現に至っていません。プロセスの進行は遅く、道のりは険しく、多大な費用を要します。

NFVアプローチにおける問題点の1つとして、仮想マシンが拡張の単位としては比較的高価であることが判明し、そのためキャパシティプランニングの問題が解消されないことが挙げられます。仮想マシンのインスタンス化には比較的時間がかかり、完全に占有するのが難しく、エンタープライズエッジにさまざまなサービスを提供するために必要な柔軟性も欠けています。

 

コンテナ

テレコム業界にとってより優れたアプローチとして注目されるのが、クラウド開発の世界を席巻している新しいプログラミングモデルであるコンテナです。コンテナは他のすべてから完全に分離された名前空間とプロセスリストを持つ特殊な軽量環境です。ほぼすべてのコンテナ開発と運用は、コンテナ構築のための基本的機能が最初に実装された環境であるLinux上で行われています。コンテナは、完全な仮想マシンに比べてCPUとメモリの消費量がはるかに少なく、インスタンス化と割り当て解除もより迅速に実行できます。またコンテナは厳密に定義されたメカニズムを通じてのみ相互に対話することが可能です。

テレコム業界は、NFVの実装に向けた取り組みを通じて多くのことを学んできました。NFVが機能的にはニーズを満たせるとしても、このモデルでは、拡張性、経済性、およびアジリティの目標を達成するのは困難であることが判明しています。コンテナはこれらの目標を達成するためのより優れた手法として期待されており、その能力は大規模なインターネットクラウド上で実証されています。

コンテナ同士の分離にはもう1つの利点があります。複数の一般的なプログラミング環境とサポートライブラリを同一のオペレーティングシステムインスタンス上で実行すると競合が発生することがありますが、コンテナを使用すればこの問題を回避できます。VMを使用しても同じメリットを得られますが、オーバーヘッドがはるかに大きくなります。典型的な例として挙げられるのが、バージョンの異なる複数のPythonまたはその他のプログラミング環境の実行です。すなわちコンテナを使用すれば、異なるバージョンのPythonを必要とするアプリケーションを、非コンテナ環境の場合に発生しがちな諸問題を引き起こすことなく、同一システム上で実行できます。

またその特性上、開発者はコンテナ内に必要なソフトウェアのみを含めることが可能です。完全なVM内には、目的のアプリケーションの実行に必要のない大量のソフトウェアが否応なしに含まれます。

コンテナ環境では、ソフトウェア設計者はシンプルかつステートレスな機能の作成を推奨されます。これらの機能はマイクロサービスと呼ばれ、クラウドアーキテクチャーに非常に適しています。こうした設計理念は、ソフトウェアの移植性と信頼性に加えて、拡張性の向上にも役立ちます。

ステートレスとは永続的なローカルデータが存在しないことを意味します。コンテナには外部から呼び出し可能なインターフェイスが存在し、呼び出しに対して結果を返しますが、処理が終了すれば機能を停止します。ステートレスプログラムはデバッグが比較的容易で、リソースの消費も少なめです。ただし多くのプログラムではデータの処理が必要であり、永続的なデータストアとコンテナ間のインターフェイスは複雑な問題です。

ステートレスアプリケーションの大きな利点の1つとして、データが別の場所、例えばHPEの共有データ環境などに存在することが挙げられます。そのため、ある時点でネットワーク機能を変更するような場合も、すべての加入者データを専用データベースから取り出す必要がなく、古いネットワーク機能を新しい機能 (または新しいバージョン) に置き換えてから、元のデータを再びポイントするだけで済みます。

 

クラウドネイティブ アーキテクチャー

コンテナは、この10年間で進化したソフトウェア/OS設計手法の1つであり、クラウドネイティブとして知られています。コンテナはこうした進化の集大成であり、いわば「キラーアプリケーション」的存在です。

マイクロサービスベースのクラウドネイティブ アーキテクチャーの主なコンポーネントおよび特性を以下に紹介します。

  • 宣言型API (一般的にはRESTful API) が使用され、標準的なインターネットプロトコルを介してインターネット上のどこからでもプログラムを呼び出せます。
  • プログラミング機能が、明確に定義されたマイクロサービスにまとめられて、コンテナ内に実装されます。
  • DevOpsはソフトウェア開発アプローチの1つで、プログラミング、テスト、デリバリ、および展開が継続的な単一プロセスに統合されます。この領域で使用されるその他の用語としては、「継続的開発」、「アジャイル開発」、「継続的統合」、「継続的展開」などが挙げられます。これらの手法で必要とされる高水準の自動化を旧来のテクノロジーで実現するのは不可能です。こうしたコンセプトはいずれも、ソフトウェア変更の開発、テスト、および展開の迅速化に貢献します。テレコム業界では、新しい物理ネットワークエレメントの計画と展開に時間がかかり、老朽化したエレメントのアップグレードでさえ、9ヶ月以上を要することも珍しくありません。継続的な開発、テスト、および展開手法を導入することで、テレコム事業者は新しい機能の追加や修復をより頻繁に行えるようになります。
  • クラウドネイティブ アプローチのメリットは、オープンソースのソフトウェアスタックから直接的にもたらされるものではありませんが、主要な構成要素にオープンソースを使用することで、開発者にとってのクラウドネイティブの魅力が高まることは明らかです。その意味でクラウドネイティブはオープンソースとの関係性が強いと言えます。
  • オーケストレーションおよびその他の手法によるシステムの自動化とリソースの管理は、クラウドネイティブな実装で広く見られる特性であり、テレコムのコアとエンタープライズエッジの統合を促進します。
  • ほぼすべてのクラウドネイティブ ソリューションが、大規模環境内に一般的に存在している以下のようなソフトウェアコンポーネントを使用します。
    • Linux (オペレーティングシステム)
    • Docker (基本的なコンテナ管理)
    • Kubernetes (コンテナオーケストレーション)
    • GitHub (開発と展開)
  • 高価でニッチなハードウェアからクラウドネイティブ アーキテクチャーへとインフラストラクチャを移行させ、Amazon、Microsoft、Googleなどのクラウド向けに世界中の開発者が使用しているツールを導入することで、テレコム事業者は膨大な人材プールを活用できるようになります。

Cloud Native Computing Foundation (CNCF) は、「クラウドネイティブコンピューティングをユビキタスにする」ことを目的に、非営利団体であるLinux Foundationにより設立された組織です。クラウドネイティブは (少なくとも現時点では) 標準ではありませんが、クラウドネイティブテクノロジーの開発とアプリケーション内での使用の促進において、CNCFは調整的な役割を担っています。HPEをはじめとして業界をリードする数多くの大企業がCNCFに積極的に参加しています。

 

よりアジャイルなネットワークの実現

5Gネットワークは、サービスベースアーキテクチャー (SBA) を基盤とし、自身のアドバタイズと他のサービスへのサブスクライブが可能なソフトウェアサービスで構成されます。5Gのもう1つの目標は、ネットワーク機能間のテレコムスタイルのプロトコル接続を、REST APIおよびその他の標準的なインターネット手法に移行することです。これによりネットワーク設計者は、仕様で厳密に定義された特殊なインターフェイスによる制約から解放され、クラウド開発において一般的なソフトウェア手法とツールを使用して、新しいネットワーク機能に接続できるようになります。一例として挙げられるのが、コールセットアップおよびその他の機能のために使用されているSS7 (Signaling System 7) とDiameterプロトコルから、インターネットHTTP2標準への移行です。

ネットワークの一部をハードウェアからクラウドネイティブなソフトウェアに移行すると、システム内の柔軟性が向上して、新しいネットワーク機能の実装が可能になります。一例としてネットワークスライシングを使用すれば、テレコム事業者は異なる特性を持つネットワークの仮想コピーを作成できます。そのため帯域幅とレイテンシのニーズが大きく異なる用途、例えばスマートメーターと自律運転向けに、それぞれのニーズに適したネットワークを構築するといったことが容易になります。

 

ネットワークのコストとリスクの軽減

クラウドネイティブ アーキテクチャーで構築されたソフトウェアベースのテレコムネットワークには、旧来の設計に比べてコストとリスクの面で多くの利点があります。その1つが標準的なサーバーとネットワークハードウェアによる運用が可能なことで、開発コストとメンテナンスコストの両方を削減できます。また特殊な専用ツールと知識から業界標準のツールと技法への移行がもたらす効果は、この10年間にインターネット規模で実証されたとおりです。

SBAはその性質上、重要かつ非常に高価なハードウェアに影響を及ぼすことなく、ごく下位レベルでの修正やアップグレードが可能なため、リスクの軽減にも貢献します。ネットワークの柔軟性が向上し、また業界標準のハードウェアを使用することで、ネットワークに対する変更のテストを、希少なリソースを事前にスケジューリングすることなく、自動化されたツールを使用して継続的に実施できるようになります。

 

未来の構想はいつ実現するか

クラウドネイティブ アーキテクチャーは、テレコムネットワークのアジリティとエンタープライズエッジにおけるユーザーエクスペリエンスを確実に向上させますが、その実現までにはある程度の時間が必要です。しかしながら、コンテナによるテレコムネットワークとエンタープライズオーケストレーションの開発、さらには実装もすでに開始されています。解決すべき課題はまだ多く残されているものの、テレコム事業者はクラウドネイティブな5Gの「島」を自身のネットワーク内に、特定の都市や企業向けのパイロットプログラムの形で展開し始めています。

モバイル事業者により達成された成果は目覚ましいもので、今日の私たちはそれらの成果に大きく依存しています。しかしながら旧来の手法のままでは、将来的なニーズに対応できないことは明らかです。クラウド革命がITにもたらしたアジリティとスケーラビリティをテレコム事業者が実現するためには、DevOpsやコンテナなどのクラウドネイティブテクノロジーの導入が欠かせません。

 

テレコム、コンテナ、クラウドネイティブ: リーダーのためのアドバイス

  • テクノロジーの革命的変化が、高度化するソフトウェアによって引き起こされるケースが増えています。
  • 新たなテクノロジーにいつ移行すべきかの判断は重要であり、自身のニーズの観点から継続的に評価することが求められます。
  • クラウドアーキテクチャーは、より効率的なコンピューティングを可能にします。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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