2020年1月10日
インターネットの誕生から50年、今後の展望を探る
インターネットの誕生から半世紀が経過しました。これからの数十年にわたってインターネットを形作るのは、どのようなテクノロジーでしょうか。最前線の取り組みをご覧ください。
インターネットは、大多数の人々にとってもはや生活の一部であり、独自の経済圏が生み出されています。その一方で、インターネットの影響が拡大するのに伴い、急増するトラフィック、プライバシーとセキュリティに関する懸念など、インターネットの未来を脅かすさまざまな課題も深刻化しており、早急な対策が求められています。
こうした課題への取り組みをご紹介する前に、まずはインターネットの歴史を簡単に振り返っておきましょう。
インターネットの誕生日と言われるのは1969年10月29日で、この日、驚異的なテクノロジーの旅路が始まりました。今年はLeonard Kleinrock教授率いるチームが、米高等研究計画局 (ARPA) が構築したARPANETの2つのノード (カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究室とスタンフォード研究所) 間で最初の通信に成功してから50年の節目を迎えます。これが今日のインターネットの基盤となっているネットワークテクノロジーの出発点です。
米高等研究計画局 (ARPA) がARPANETの構築に着手したのは1968年で、この年ARPAは最初の通信で使用された初期ルーターを構築するため、BBN Technologies社と契約を結びました。その後1969年末までに、2つの新たなノード (カリフォルニア大学サンタバーバラ校とユタ大学) がARPANETに接続されました。
後に米国防高等研究計画局 (DARPA) と改名されたARPAは、米国防総省下の組織であり、極超音速機から先進的医療システムまで、さまざまな分野の先進テクノロジーを研究開発しています。DARPAは今なおインターネットテクノロジーの開発を最前線で牽引しています。
以下では進行中のプロジェクトをいくつかご紹介します。この他にも数多くのプロジェクトが存在しています。
データ保護とTim Berners-Lee卿
インターネット上のプライバシーは重大な問題となっており、インターネット関連主体によるプライバシーの管理や取り扱いの方法を改善する努力が続けられています。
その1つが、World Wide Webの創始者として知られるTim Berners-Lee卿が、オンライン上のプライベートデータの取り扱い方法の変革を目指すオープンソースプロジェクト「Solid」を推進するために立ち上げたスタートアップ企業であるInruptです。
「Solidは、ユーザーが知覚価値と引き換えに個人データを巨大デジタル企業に渡さなければならない現行のモデルを刷新します。誰もが気付いているとおり、現行のモデルは人々にとって最善のものではありません。Solidは、よりバランスの取れた形にWebを進化させる革新的な仕組みであり、我々1人1人が個人情報を含めたあらゆるデータを完全に制御できるようになります」と、このプロジェクトについてBerners-Lee卿は述べています。
「Solidは既存のWebを使用して構築されるプラットフォームで、データの保管場所、特定の要素にアクセス可能なユーザーとグループ、使用するアプリケーションなどを、個々のユーザーが自由に選択できます。またユーザーが家族や同僚とリンクしてデータを共有するのも容易になり、同じデータを異なるアプリケーションから同時に見ることも可能になります」と同氏は説明しています。
プライバシーの保護に関するその他の取り組みとしては、MIT Media Labおよびパートナーグループ (Imperial College London、Orange、World Economic Forum、Data-Pop Allianceなど) が推進しているオープンアルゴリズム (OPAL) プロジェクトが挙げられます。このグループは、先進的なプライバシー保護テクノロジーとガバナンスの構築を目標に掲げており、同グループの言葉を借りれば、「安全、倫理的、スケーラブル、かつ持続可能な方法で、公共の利益のために、民間セクターが保有するデータの可能性を解き放つ」方法を探求しています。
セキュリティとアイデンティティを巡る戦い
インターネットの将来を展望するうえで、セキュリティは避けて通れない問題です。増加するボットネットや悪意のあるウイルスから、暗号通貨のハイジャック、保護されていないIoTデバイスを介した侵入に至るまで、私たちを取り巻く脅威は多岐にわたっています。
「現在および近い将来のインターネット開発において、セキュリティとアイデンティティが最大の課題であることは言うまでもありません」と、MITスローンマネジメントスクールのリサーチアフィリエイトで、デジタルエコノミーおよびMIT Connection Scienceイニシアチブ担当フェローであるIrving Wladawsky-Berger氏は指摘します。「インターネットは柔軟性を重視して開発されたことで驚異的な成功を収めましたが、その一方で、セキュリティとアイデンティティに関する統一された標準は今に至るも存在していません。このことが今日のデータ盗難、データ漏洩、およびその他のセキュリティ脅威の増大を招いています」。
Wladawsky-Berger氏は、既存のテクノロジーを活用することで、少なくとも今後5~10年はインターネットの安全性を強化できると見ています。
例えば、より多くの重要なアプリケーションでブロックチェーンを使用すれば、ネットワーク上を移動しているデータおよび保管中のデータが暗号化されるため、安全性が高まるとWladawsky-Berger氏は指摘します。「インターネット上のあらゆるアプリケーションが通信と保管にブロックチェーンを使用するようになれば、それだけでインターネットの安全性は格段に向上します。また事実上あらゆる場所での暗号化が実現すれば、安全性はより一層高まります」。
ピアツーピアトポロジを使用するブロックチェーンは、数千台のサーバーにデータをグローバルに保管可能な分散型台帳テクノロジーで、ネットワーク上の誰もがほぼリアルタイムで他のユーザーが台帳に書き込んだ内容を見ることができます。そのため誰か1人がネットワークを不正操作するのは極めて困難です。
重要性を増すAI
このようにインターネットのセキュリティを強化する手段としてブロックチェーンが注目されていますが、さらに大きな期待が寄せられているもう1つの発展中のテクノロジーが人工知能 (AI) です。
「AIを使用すれば、膨大なデータを収集して、この課題の解決に役立つ高度なソフトウェアエージェントを開発できます」と、DARPAでディレクターを務めた実績を有する独立系コンサルタントのBrian Pierce氏は指摘します。例えば、AIを使用したアクティブなソーシャルエンジニアリング対策として、一連の信頼できるエージェントにより、スピアフィッシング犯などと対話するアバターを作成することで、攻撃を阻害し、犯罪者の情報を収集し、企業を脅威から保護することが期待されています。
「こうしたエージェントにセキュリティを委ねることも可能です。問題は私たち人間がエージェントを信頼して役割を委任できるかどうかですが、この点に関してAIが大きな助けになると思われます」とPierce氏は述べています。
AI、機械学習、および自動化は将来のインターネットに欠かせない要素ですが、もう1つ忘れてはならないのがアイデンティティの検証機能です。
「アイデンティティを確立および保護する適切な方法が存在していないことは深刻な問題です」とWladawsky-Berger氏は指摘します。「我々は毎日のように、送信者のアイデンティティを信用できないメールを受け取っています。IoTデバイスなどの新しいアイテムの急増が予想されるなか、アイデンティティ検証機能の重要性が増しています」。
現在および近い将来のインターネット開発において、セキュリティとアイデンティティが最大の課題であることは言うまでもありません。
Irving Wladawsky-Berger氏 MITスローンマネジメントスクールのリサーチアフィリエイト、デジタルエコノミーおよびMIT Connection Scienceイニシアチブ担当フェロー
無限の成長
将来のインターネットにおいて、IoTに関連する課題が増大することは疑いありません。注目すべき統計をいくつかご紹介しましょう。
- Gartner社は、ネット接続されたモノの数が2019年には142億、2021年には250億に達し、膨大なデータを生成するようになると予測しています。
- IDC社は、2019年にはIoT関連の支出が7,450億ドルに達し、2018年の6,460億ドルを15.4%上回ると予測しています。さらに同社によると、全世界のIoT支出は、2017年から2022年にかけて2桁の年間成長率を維持し、2022年には1兆ドルを突破すると見込まれます。
- マシンツーマシン (M2M) およびIoTトラフィックの急増も予想されています。2017年の時点でM2MがIPトラフィックに占める割合は3.1%でしたが、2022年には6.4%になると見込まれます。さらにCisco社の年次グローバルモバイルデータトラフィック最新予測 (2017~2022年) では、2022年までにM2M接続がインターネット上のデバイスおよび接続全体の51%を占めるようになると予測されています。
未来は明るいが課題も存在する
インターネットの未来は大きく開かれていますが、課題も存在しています。
「広く認識されているとおり、インターネットは今なお大きなチャンスを提供しており、(とりわけ発展途上国では) 多くの人がコミュニティを向上させる重要な手段と捉えています。しかしながらその一方で、インターネットに対する失望も広がりつつあります」と、Internet Societyレポートは将来的なインターネットの課題について指摘しています。
「かつて『民主化に役立つと期待されていた』ツールは、今や社会をコントロールする手段として使用されています。こうした失望は、インターネットが新たなテクノロジーと永続的なセキュリティ問題によって大きく変化しつつある先進国において、より強く実感されています。そのため、インターネットポリシーから情報格差への対応、セキュリティアプローチ、経済的規制に至るまで、幅広い領域で、新たな考え方、新たなアプローチ、および新たなモデルが必要とされています」。
インターネットの未来: リーダーのためのアドバイス
- インターネットの今後を考えるうえで、とりわけ重要なテクノロジー分野がセキュリティであり、その取り組みの中核となるのがブロックチェーンと暗号化です。
- プライバシー保護のために多くの努力が続けられていますが、課題は依然として解消されていません。
- インターネットに関する多くの将来的な課題の解決に、AIの活用が期待されています。
この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Michael Cooney
Michael Cooney氏はフリーランスのデジタルジャーナリストであり、25年以上にわたりIT業界についての記事を執筆しています。
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