2019年10月11日

GPSの将来展望

米国政府の全地球測位システム (GPS) プログラムは大成功を収めており、さらなる技術強化が進められています。しかしながら、その成功に伴い、GPSが抱えるリスクも増大しています。
今日では大多数の人が、移動中のナビゲーション手段としてGPSを知っていますが、その影響の大きさは目的地までの最適なルートを探すといった範囲をはるかに超えています。ご存知のとおり、GPS衛星から送出される信号は、航空、海運、遠洋航海などの業界に変革をもたらしました。さらにGPS信号による変革は、農業、製造業、さらには宇宙飛行に至るまで、思いがけない領域にまで広がっています。
GPSテクノロジーに関してとりわけ注目すべき点はその普及ぶりで、今では世界中のほぼすべての携帯電話にGPS受信機が組み込まれています。また環境センサー、パイプライン制御装置、そして言うまでもなく自動車 (ナビゲーションシステムが設置されていない車両の多くも含む) にもGPS受信機が搭載されています。GPSテクノロジーは、農業からサメの追跡、ジオキャッシングゲームに至るまで、多種多様な分野に貢献しています。
今ではGPS機能付きのクーラーボックスまで登場しています。

GPSの仕組み
GPSが広く普及している理由として、そのコンセプトのシンプルさが挙げられます。個々のGPS衛星は基本的には非常に精密な時計であり、それぞれの位置で正確な時刻を発信しています。各衛星から発信されるデータには、他の全GPS衛星の軌道上の位置も含まれています。GPS受信機は、GPS衛星の位置と時刻を知ることで、衛星までの正確な距離を算出できます。3個以上の衛星の時刻を比較できれば、受信機は地表上の自分の位置を特定できます。
より多くの衛星から情報を得られるほど、測位精度は向上します。また4個以上の衛星の信号を利用できれば、GPS受信機は地表からの自身の高度も算出できます。位置を求めるために、受信機は信号が各衛星から発射された瞬間の時刻を比較します。信号は光の速さで伝搬されるため、これらの時刻から距離を算出できます。

ハワイ大学で行われたテストでは、GPS時刻信号により光の速さを測定することで、マイクロ波信号のレイテンシを決定しています。写真はWayne Rash氏提供。

現行のGPSテクノロジーは、1メートル以内の誤差で位置情報を提供できます。この精度は、空気密度の変化による光の速さの変動、あるいは地球の電離層の干渉によって制約されています。
GPS IIIとして知られる次世代の衛星がGPS衛星群に加わり始めたことで、精度のさらなる向上が期待されています。

高く高く遠くへ
次世代のGPS衛星の運用は開始されたばかりです。最初の打ち上げは、2018年12月23日にSpaceX社のFalcon 9ロケットの搭載ペイロードとして実施されました。GPS III衛星の打ち上げは2025年頃まで続けられる予定です。
次世代のGPS衛星には、測位精度の向上につながる最新の原子時計のセットが搭載されています。また送信機の出力も大きいため、屋内や密集した都市部でもGPS信号をより確実に受信でき、信号のジャミング耐性も向上しています。さらに宇宙空間でのナビゲーションにGPSを利用しやすくするための初の改善も加えられています。
そうです。今や宇宙空間におけるGPSの利用が可能になりつつあります。

宇宙空間での活用
GPSは地球上でのナビゲーション用に開発されましたが、月、あるいは火星までの道程の最初の部分では、同じGPS信号を宇宙船でも活用できることがわかってきました。
GPS信号は地球に向けて直接放射されていますが、その一部は宇宙空間に漏れ出ています。「私たちは残り物に頼っています」と退職した元NASA宇宙航行部門長Frank Bauer氏は述べています。「残り物、すなわち漏れ出たメインビームとサイドローブが私たちの頼りです。」
同氏は現在もコンサルタントとしてNASAに関わっています。
Bauer氏率いるチームはそれらの「残り物」の活用方法を見出しました。「私たちは特殊なGPS受信機を開発しました」とBauer氏が説明するように、宇宙空間では標準的なGPS受信機は機能しません。NASAは現在、宇宙空間でGPSを使用して、国際宇宙ステーション用ペイロードのドッキングを制御することで、GOES気象衛星およびその他多くの科学衛星の正確なポジショニングに役立てています。
「NASAは、月への中間地点まではGPSを使用できることを既に実証しています」とBauer氏は述べており、NASAでは月面およびその周辺で使用するための受信機とアンテナの開発にも着手していると付け加えます。「私たちはジョンソン宇宙センターのスタッフとともに、月軌道ゲートウェイでの活用を目指しています。」
NASAは測位衛星の国際的互換性にも力を入れており、国連委員会を通じて、米国、欧州、ロシア、中国、日本、およびインドの測位衛星で使用される共通の信号定義セットの開発を推進しています。「私たちは宇宙空間で衛星を相互運用することを目指しています」とBauer氏は述べています。
相互運用性が実現されれば、受信機はすべての測位衛星を有効活用できるようになり、位置決め精度の大幅な向上が期待されます。結果として、これまで1メートルの精度が得られていた場所で、誤差数インチの測位が可能になると予想されます。
さらにGPS III衛星の新しい信号は、より多くの、かつ、より正確な測位信号をユーザーに提供することで、位置決め精度のさらなる向上に貢献します。

GPSが直面しているリスク
ただし、こうしたメリットの実現には、OCXと呼ばれる新しい地上管制システムの完全運用が不可欠であり、その開始は2021年頃と予想されています。
制御システムの運用開始の遅延は、GPSが抱える数多くのリスク要因の1つにすぎません。GPSサービスは、サイバー犯罪者や外国政府による攻撃、あるいは官僚の内紛によってさえ停止に追い込まれる恐れがあります。
米会計検査院のContracting and National Security Acquisitions部門の責任者を務めるCristina Chaplain氏は、「調達面の課題が増している」と述べています。Chaplain氏は米連邦議会の要請を受けてGPSプログラムを監視しており、衛星の製造における管理上の問題点とスケジュールの遅れを指摘しています。さらに米空軍は、必要最小限の衛星数を保持する必要がありますが、調達計画にあたって設計寿命を超える衛星に依存せざるを得ない状況が続いています。
さらにGPSは別の領域の課題にも直面しています。「第2の懸念事項は、宇宙空間が危険な場所になりつつあるということです」とChaplain氏は述べています。他国がGPS衛星の損傷や破壊を企む可能性があり、現にインドおよび中国が軌道周回衛星を破壊する能力があることを実証していると同氏は指摘します。
しかしながら、より差し迫った脅威はGPS信号に対するジャミングで、その原因は他国政府による攻撃とは限らないとChaplainは説明します。事実、過去にニューアーク空港で発生したフライトの中断は、トラック運転手らが、雇用主による車両追跡に使用されているGPS受信機を混乱させようとして、ニュージャージー州ターンパイクで市販のGPSジャミング装置を作動させたことが原因でした。
Chaplain氏が指摘するように、OCX地上管制システムの運用が開始されると、GPS III衛星のジャミング防止機能を軍が利用できるようになります。ただし、この機能に対応した受信機を何百もの兵器プラットフォームに装備する必要があるため、この機能が実際に効果を発揮するまでには、さらに10年はかかると同氏は見ています。「データや衛星に干渉する目的で宇宙に展開できるものは他にもあります」とChaplain氏は指摘します。「これは米国防省が取り組むべき重大な脅威です」。(注記: ジャミング防止機能は軍事目的で提供されます。)
「GPSおよびその他の軍事衛星に対する脅威が増すなか、宇宙軍の創設を求める声が高まっています」とChaplain氏は付け加えます。「国防総省は、現行の体制では宇宙資産に対する攻撃に効果的に対抗できないと考えています。これは1つには、宇宙におけるリーダーシップがその性質上、細分化されていることが原因です。宇宙軍が創設されれば、より統合された体制が確立され、衛星の保護に対する最高幹部の意識も高まると期待されます。脅威が増す環境で、大切な資産を保護するために、宇宙軍にはさまざまな構成要素を統括する役割が求められます。」
単純な時間の経過もリスク要因の1つです。「将来的には、GPSおよびその他の軍事衛星に関連する、高度に特殊化されたペイロードやテクノロジーについての知識が失われる恐れがあります。既にいくつかのプログラムで、重要な専門知識の喪失による影響が生じています」とChaplain氏は警告します。「宇宙に関わっている人員は年齢層が比較的高く、その一方でペイロードは、芸術品と言えるレベルにまで特殊化されています。」
(現行のGPS衛星に責任を負っている) 米空軍、およびその他の機関は、GPSの補完または代替手段を模索しているとChaplain氏は述べています。その候補の1つが、民間が推進している超低高度の地球周回衛星群です。
さらに先頃、国防総省内に宇宙開発局 (SDA) が新たに創設されました。6月の会議で、当時SDAの長官であったFred Kennedy氏は、GPSとは完全に別個の航行衛星群を構築する計画があることを発表しました。これにより政府がGPSを使用できない事態に陥った場合も (Kennedy氏はこうした事態が起こり得ると述べています)、GPSとは異なる周波数で動作する代替の測位信号を使用できます。(Kennedy氏はその後、SDA長官を辞任しました。)
現段階では、SDAが独自の測位衛星を構築できるかどうか、また構築できるとしても、既存のGPSプログラムから資金提供を得られるかどうかは不明です。今のところ、米連邦議会はSDAの予算を削減する傾向にありますが、関係者によるSDAのためのロビー活動や、宇宙軍の創設に向けたより広範な努力が続けられています。
ただしSDAの計画が前進できたとしても、GPSとの真の競争が可能なレベルになるまでには、数十年はかかると見込まれます。

GPSの今後の展望
一方GPSについては、GPS IIIの投入により、近い将来に衛星群の能力が大幅に改善されて、受信の信頼性が向上し、また国際的な相互運用性の実現により、測位精度が大幅に高まることが期待されています。GPSが米国および世界の経済で果たしている重要な役割、さらには農業から航空の安全性に至るまで、あらゆる領域で担っている役割の大きさを考えると、米国政府がGPSの運用を終了する可能性は極めて低いと考えられます。
しかしながらChaplain氏が指摘するように、GPSに対する脅威がこれで解消されたわけではなく、GPS衛星およびその制御システムがサイバー攻撃の標的となる可能性も忘れてはなりません。国家支援のハッキングであれ、身代金目的の犯罪であれ、GPSに対するサイバー攻撃が成功した場合は、全世界のさまざまな活動に甚大な影響が生じます。GPSを守るために宇宙軍、あるいは他の航行衛星の運営主体による同様の部隊が必要かどうかについては、今しばらく状況を見守る必要があるでしょう。
現時点で確かなことは、GPSは商取引をはじめとするあらゆる領域で必要不可欠なものとなっており、その喪失リスクは計り知れないということです。
 

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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