2022年3月18日

グローバルサプライチェーンの脆弱性とその解決策

現在および将来にわたってサプライチェーンの混乱を乗り越えるには、AIと人間の連携が欠かせません。

COVID-19による混乱が2年目に入った今なお、グローバルサプライチェーンの途絶が続いており、これまでのように物流を当たり前のものと考えることができなくなっています。

一般的にサプライチェーンとは、(最近では混乱しがちとはいえ) トイレットペーパー、玩具、自動車など、私たちが望む、あるいは必要とする商品を届けてくれるもの、というイメージがあります。しかしながらサプライチェーンの役割はそれだけにとどまりません。グローバルサプライチェーンは、命を救う医薬品を必要な場所に届けたり、カリフォルニア州の農家がアジアやヨーロッパの消費者に食料を供給したり、中国の工場が日常生活に必要なテクノロジーの部品を提供したりするなど、私たちの暮らしを支えるネットワークを形成しています。

「サプライチェーンは大きな役割を担っており、もはや後回しにできる問題ではありません」とHPEのグローバルオペレーション部門でシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャを務めるMark Bakker氏は指摘します。「サプライチェーンは大きな社会的影響力を持っています」。

「ニューノーマル」がノーマルではない理由

供給の混乱はすぐには解消されないと思われます。むしろサプライチェーンの途絶がより頻繁に発生することが、いわゆる「ニューノーマル」になる可能性さえあります。

Bakker氏は物流の中断を招く要因として、停電、工場火災、異常気象、津波、地震、火山、さらには船舶が立ち往生して他の何百もの船の航行を阻害するといった事案まで、さまざまな可能性を挙げています。「こうした事態が以前よりも頻繁に発生するようになり、その影響も大きくなっています」と同氏は指摘します。

気候変動の影響で、今後は異常気象が増えると予想されています。またグローバルサプライチェーンに依存する商品が増えるにつれて、エヴァーギヴン号のような大型船が新たな物流上の問題を引き起こす可能性も高まります。さらに地政学上の問題も混乱の原因となります。一例として英国のEU離脱 (ブレグジット) は英国との貿易に影響を及ぼしており、またトラックドライバーの不足により英国内の配送が滞っています。

COVID-19によって引き起こされた世界的な供給の大混乱は誰も予想できませんでしたが、パンデミックの発生以前から自動化やAIの導入を進めてきた企業は、消費者の需要やサプライチェーン運用の急激な変化によりスムーズに適応できました。テネシー大学ノックスビル校ハスラムビジネスカレッジでサプライチェーンおよび情報システム管理学の准教授を務めるRandy V. Bradley氏は、「自動化に加えて、ここ5年ほどの間のAIの進化がなければ、状況は今よりも悪化していたでしょう」と言います。

「AIや機械学習はシナリオのシミュレーションに役立ちます」とBakker氏は述べています。「問題が発生した場合に、どのような影響が下流に生じるかを予測できます」。デジタルツインのようなAIツールを使用することで、企業はサプライチェーンの運用を強化するためのシナリオを試すことができます。そして同氏が指摘するように、「より多くのデータを収集し、先進的なテクノロジーを活用することで、より迅速な計画および再計画が可能になります」。

サプライチェーン環境には、バリューチェーン全体にわたって豊富なデータが存在します。その中には顧客に関するデータ、例えば顧客が何を保有しており、何を求めており、何をいつ購入しているか、といった情報も含まれています。AIや機械学習を使用することで、サプライチェーンの責任者は将来の混乱に備えるための知見を獲得できます。

「HPEサーバーのようなテクノロジー製品は、多数のコンポーネントで構成されています」とBakker氏は言います。「個々のコンポーネントには、それぞれ固有のデータセット、特性、仕様が存在します。また最終製品に組み込まれる部品は、さまざまなサプライヤーによって製造されています。各ファシリティには個別の生産スケジュールが存在し、物品はA地点からB地点さらにはC地点へと運ばれていきます。こうしたことのすべてに大量のデータが付随しており、AIや機械学習などのテクノロジーによって、これらのデータを活用できる可能性があります」。

人間は依然として不可欠な存在

2021年のMHI年次産業報告書によると、COVID-19の発生を受けてサプライチェーンのイノベーション投資を強化した企業は約半数にのぼり、その主な内容としては、在庫とネットワークの最適化、クラウドベースのコンピューティングとストレージ、ロボティックとオートメーション、センサーと自動認識の導入などが挙げられます。この報告書では、ロボティックの使用は5年以内に2倍になると予測されています。また現時点でサプライチェーン管理の支援にAIを使用しているのは回答者の17%に過ぎませんが、今後5年以内にAIツールを導入する予定の組織は45%に達しています。

とは言え、優れたテクノロジーを導入するだけでは、サプライチェーンが抱える課題を解決することはできません。MHIの報告書で挙げられている主な課題の中には、予測精度の向上や応答時間の短縮といった、自動化の導入により改善できるものもありますが、最大の課題となっているのは優秀な人材の雇用と維持です。

Bradley氏が指摘するように、パンデミックの発生以前からサプライチェーンは労働力不足に悩まされてきました。「ここ5年間、労働力不足は常にトップ2~3に入る問題でした」と同氏は言います。「違っていたのは現在ほど大量の物資が動いていなかったことです」。例えば、現在の輸送コンテナやトラック輸送能力の不足は、物理的なキャパシティの不足よりも、労働者の数が足りないことを示しています。

「一般的に自動化を推進すればするほど、人間の仕事が奪われていくというイメージがあります」とBradley氏は言います。しかしながら同氏は、テクノロジーは人間に取って代わるものではなく、労働環境を改善してくれるものと捉えています。同氏が「インテリジェントアプライアンス」と呼ぶテクノロジーに日常的な作業を委ねることで、サプライチェーンを支える専門家の負担が軽減されて、最先端のAIにさえ欠けている直感力や創造力といった、人間ならではのスキルをより有効活用できるようになります。「人間はクリティカルシンキングが可能です」とBradley氏は言います。「AIは何を考えるべきかを助けてくれるだけです」。

同様に自動化されたプロセスも完全に孤立した環境では動作できません。「何かを独力で成し遂げられる機械学習モデルは存在しません」とBakker氏は言います。「機械学習についての最大の誤解は、人間の介入なしに必要なことを実行してくれる、というものです」。ロボットでさえ人間が動き方を教える必要があります。

言い換えれば、自動化によってサプライチェーンを改善することはできても、人手不足を解消するためのプログラムを組むことはできません。

自動化により「破壊される側」から「創造的破壊をする側」へ

「レジリエンスとは逆境にあっても前進し続ける能力です」とBradley氏は言います。「逆境を単に耐え抜くのではなく、より成長する方法を見出すことが大切です」。

パンデミックは企業にとってサプライチェーンを再構築するチャンスでもあります。既存のプロセスの上に新しいテクノロジーを投入するのではなく、最先端のテクノロジーを基盤とする新たな運用環境の構築を考えることが必要です。これによって企業は破壊される側から創造的破壊をする側へと進化できる、とBradley氏は述べています。

Technology as a serviceやRobotics as a serviceのようなフレームワークを活用すれば、中小規模の企業もサプライチェーンの自動化によるメリットを得て、大企業と競争することが可能になります。「これは中小企業にとってゲームチェンジャーとなります」とBradley氏は言います。「規模の大きい企業はトランスフォーメーションに苦労しています」。一方で小規模な企業はより身軽で俊敏に変化することが可能です。

グローバルサプライチェーンの未来には、大規模なイノベーションや運用の激変が待ち受けています。例えば、この2年間で多くの企業が、ジャストインタイムの在庫管理からジャストインケース (JIC) モデルへと移行しました。しかしながらJICのアプローチでは、持続不可能なほど大量の在庫を抱えることになり、そのコストが消費者価格を押し上げる可能性があります。Bradley氏は、これからの在庫モデルはジャストイナフ (JE) になると見ています。とは言え、こうした移行にはある程度の時間が必要です。同氏が述べているように「一晩で切り替えられるものではありません」。

サプライチェーンの責任者らは、今日の社会において最も深刻な技術的課題である雇用問題に最前線で取り組んでいます。「若い世代の人々には、サプライチェーンが専門的職業であることをぜひ認識してもらいたいと思います」とBakker氏は言います。「これは非常にやりがいのある仕事です」。

リーダーのためのアドバイス

  • サプライチェーンにとって人的資源はテクノロジーと同等に重要であり、両方に投資することが大切です。
  • サプライチェーンの混乱が増えると予想される中、企業は自動化やAIを活用することで、サプライチェーンの改革を進める必要があります。
  • サプライチェーンは企業および関連するコミュニティの健全性に欠かせない存在であり、サプライチェーンのイノベーションは、経営陣によって支持された中核的なビジネス原則として推進する必要があります。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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