2021年3月19日
エッジはマンゴーの皮に: 環境発電とIoT
周囲の環境からエネルギーを集めるデバイスは、スマートなIoTが織りなすコネクテッドワールドの基盤となります。
センサーやスイッチをあらゆるところに設置できると想像してみてください。部屋の中のあらゆる場所や工場現場だけでなく、衣服、かみそり、大量のビンに入ったワクチン、取れたての新鮮なレタスなど、従来の有線での電力供給が現実的でなかったり、不可能だったりするあらゆる場所にです。
そして、これらのデバイスがバッテリーなしで動作し、劣化や故障の心配もないと考えてみてください。これが、環境発電によって実現可能な未来です。
「セットしたらそれでおしまい」
環境発電デバイスは、周囲の環境からエネルギーを集め、他のデバイスにシグナルを送る電子機器です。
環境発電デバイスは設置が非常に簡単で、設置後はメンテナンスが必要ないため、ヒューレット・パッカード エンタープライズの子会社であるAruba Networks社でIoTおよび戦略的パートナーシップ部門バイスプレジデントを務めるMichael Tennefossは、その仕組みを「セットしたらそれでおしまい」と表現しています。
このようなデバイスで最も人気が高いのは、切手サイズの薄いセンサーで、低電力、800~900 MHzの無線周波数、環境発電システムを活用し、以下のような多様なエネルギー源から電力を生成します。
- 振動や運動
- 太陽などの光エネルギー
- 気温の変化などの熱エネルギー
- 無線周波数 (RF)
このようにさまざまなエネルギー源を活用できるという利点により、非常に優れた汎用性を発揮します。お客様は、アプリケーション、デバイスとロケーションの物理的および空間的要件、設置する環境などに応じて、適切なエネルギー源を選択することができます。以下にその例を示します。
- RFエネルギーが豊富な工場現場などのロケーションでは、デバイスは電波そのものからエネルギーを集めることができます。
- 暖房装置は周囲の光を使って人感センサーに電力を供給し、オフィスの室温を調整できます。
- スイッチは、ユーザーがスイッチの電源のオンとオフを切り替える際の力学的エネルギーを活用できます。
あらゆる種類の「物事」を監視し、アクティブ化し、インターネットに接続するために必要な電子センサーデバイスの総数は、すぐに1兆台を超えると予測されています。
古の概念、最新のテクノロジー
現代の環境発電は比較的新しいテクノロジーですが、周囲の環境からエネルギーを集める自己駆動装置という概念は何世紀も前から存在していました。
少なくともアレクサンダー大王の時代から、古代ギリシャでは水の流れを利用してひき臼を回し、小麦の製粉から木材の切断、石の研磨まで、さまざまな作業に使用してきました。時計の運動から動力を得る自動巻き時計は、何十年も前からあります。
そのため、この最古の機械的概念が現代でも活用され、エッジコンピューティングやIoTの爆発的な拡大に伴う根本的な問題の解決に一役買っていると知っても、驚くことはないはずです。
米国電気電子学会 (IEEE) は、2020年末現在、インターネットに接続されたデバイスの数は500億台を超えると見積もっています。この数字は地球の人口の6倍以上です。そして、これはまだ始まりにすぎません。あらゆる種類の「物事」を監視し、アクティブ化し、インターネットに接続するために必要な電子センサーデバイスの総数は、すぐに1兆台を超えると予測されています。さらに、今後30年以内になんと50兆台に達すると見込まれています。端的に言って、接続されたIoTの世界とはセンサーに依存した世界です。
それでは、何兆ものセンサーデバイスにどのように電力を供給すればよいのでしょうか。環境発電システムこそ、この課題を解決するための強力な新しいツールです。
現在、7,000種類以上の環境発電デバイスがすでに市場に出回っています。そして、環境発電は、スマートシティへの流れと切り離すことができない、エネルギーおよび環境のサステナビリティの概念を支えるキーテクノロジーとなっています。
環境発電デバイスは、すでに世界中の100万か所を超える商業ビル、マンション、家屋に設置されています。最も人気の高いアプリケーションには、ビルおよび産業オートメーション、スマートホーム、LED照明システムなどがあります。一例がPhilips Hueのスマートスイッチです。照明そのものが電力源となり、スイッチは単に接着剤で壁に付いているだけです。スイッチのボタンを押すと証明に無線信号が送られ、ライトの点灯および消灯や、明るさの調整が可能です。スイッチは部屋の中の任意の場所に設置でき、壁の中に配線を走らせる必要はありません。
これらのデバイスのグローバル市場の規模は、全体で約4億5千万ドルに達しています。さらに、2027年までには10億ドルを超えると予測されています。IoTとエッジコンピューティングの導入によって、物理的な世界とデジタルな世界の境界線が曖昧になる中で、環境開発デバイスの可能性と利点は大きくなり続けています。
組織の物理的なオペレーションのリアルタイムコピーであるデジタルツインの活用は、そのような可能性の1つです。メンテナンスのコストが非常に低いセンサーを活用して、デジタルツインはITの現状とインフラストラクチャに関する詳細な情報を提供してくれます。人工知能や機械学習と組み合わせることで、従来の手法よりもずっと早く問題を浮かび上がらせることができます。
クラウドネットワーク、IoTデバイス、オペレーショナルテクノロジー (OT) ネットワークの処理能力と環境発電センサーを併せて使用することで、企業はリアルタイムのデータを収集できます。それによって、基礎的な接続性の段階から、組織のデジタルコピーをリアルタイムで作り出すために必要な新しいレベルのコンテキストデータ分析へと移行できます。これは、Arubaがハイパーアウェアネスと呼ぶものです。
スマートなIoTの世界
環境発電センサーを使用して、グローバルなサプライチェーン内の実質的にあらゆるものをタグ付け、追跡、トレースすることで、消費者に向けた新しいモデルを実現できます。環境発電デバイスにより、店舗を含むサプライチェーン全体を継続的に可視化する、グローバルな消費者中心のデマンドチェーンが可能になります。商品や製品に取り付けられたセンサーからリアルタイムで需要のシグナルが送信されるため、単なる物ではなく、クラウドに接続された「スマートな」物事による新しいコネクテッドワールドが生まれます。
たとえば、サプライチェーンを進み、店舗に納品されるマンゴーを動きによって監視するタグを想像してみてください。そのタグによって、マンゴーの熟し加減を測定し、サプライヤー、小売り業者、さらにはお客様にまで知らせることができます。
このようなタグは直接インターネットと通信するのではなく、ローカルの監視デバイスと通信し、そのデバイスが小売り業者やサプライヤーに知らせます。お客様が適切なハードウェアを持っていて、自身のネットワーク接続の追跡に同意して有効にした場合、追跡は販売後も続いていきます。製造された場所から、製品ライフサイクル全体にかけてシャツを追跡するタグを想像してください。これには販売後にお客様によってどのように使用されたかも含まれます。これはすべて実現可能ですが、お客様が追跡に同意する利点はまだ明確ではありません。
本質的に、何にでも取り付けられるというセンサーの偏在性によって、サプライチェーンなどあらゆるものに対する認識を新しいレベルに引き上げることができます。
すべてを接続する
環境発電の分野で最も革新的な2つの企業といえば、ヨーロッパの工業生産最大手Siemens社から1998年に枝分かれしたEnOcean社と、2017年に創業されたスタートアップ企業のWiliot社です。
EnOceanは、環境発電とエネルギー制御に関する特許を100件以上取得しています。同社は、IoTおよび産業オートメーションに向けて自家発電のバッテリー不要デバイスを開発し販売する400以上の企業から成る、EnOceanアライアンスの中核です。Aruba社を含む同アライアンスのメンバーは、ワイヤレス標準を使用して、大手のクラウドプロバイダーやその他のテクノロジーパートナーとの互換性を保証するために努力を続けています。
EnOcean社のソリューションで特に人気が高いものには、運動エネルギーを使用してスイッチをトリガーし、それによってデバイスを起動してデバイスからの無線伝送を可能にするセンサーがあります。そのほかに、ビル、家屋、オフィスなどの閉じられた環境で使用する、光度が低い屋内照明専用に設計された一連の光エネルギーによる発電デバイスもあります。
Wiliot社は、消費者の製品エクスペリエンスに焦点を当てた、防水のバッテリー不要なBluetoothタグを製造しています。Wiliot社は、アクセスポイントそのものから発せられる無線周波数によって発電し、タグを稼働させてデータを送信するセンサータグの開発におけるパイオニアです。
周囲の環境からエネルギーを集めるデバイスは、スマートなIoTによるコネクテッドワールドの基盤となります。IoTとエッジコンピューティングへの投資の価値を最大化したいと考えている組織にとって、環境発電という実証済みのテクノロジーは、真剣に検討するに値するはずです。
リーダーへのアドバイス
- 電力やメンテナンスの要件がない大量のセンサーを使用することで、インテリジェンスと効率性を新しいレベルに高めることができます。
- 環境発電センサーによって非常に効率性に優れた建築物を実現できるため、建物の新築に新たなインセンティブが生まれます。
- 環境発電センサーを活用することで、ビジネスプロセス全体のコストを削減できる可能性があります。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

James P. Woods, Jr.
ライター、クリエイティブディレクター
Jim Woods氏は受賞歴のあるライターであり、エンタープライズテクノロジーに関するコンテンツ作成に豊富な経験を持っています。
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