2018年6月11日
車のエンジンの未来とは
自動走行車が脚光を浴びていますが、今後数年間で大きく様変わりするのは、運転中に人々がどのように過ごし、何を体感できるかです。
「大変な速さで開発が進んでいます。モデルTの時代以降、これほどまでに自動化の技術が進歩したことはありません」。ミシガン大学で機械工学の教授を務めるAnna Stefanopoulou 氏はそう語ります。
こうした変革を支えるのは3つの興味深い傾向です。1つ目は、ムーアの法則の影響です。これにより、コンピューティングの性能が向上し、ついに完全な自律性が実現しました。性能を強化されたコンピューティングは車線維持や自動ブレーキにも姿を変えます。2つ目は、携帯電話の技術により、自動車が世界規模の情報ネットワークに接続されたことです。このおかげで、ドライバーは相乗りの顧客になったり、多彩な情報に囲まれて運転したりできるようになりました。そして3つ目は、電気エンジンとハイブリッドエンジンの急速な進化で、それが、交通経済学を大きく変えています。
つまり、自動車は、ますます賢くなり、ネットワークに依存し、効率化されます。こうした過程が何十年と続く中、これからの数年間は最も劇的な進歩を期待できる時期になります。
ネットワークでつながる自動車
そうした技術の例として、車車間通信が挙げられます。トヨタ社のエンジニアは、この十年間、狭域通信 (DSRC) システムの開発に取り組んできました。このシステムにより、無線の周波数帯を利用して、約400mの範囲内に位置する車やトラック間で、速度、位置、環境などの情報を共有できるようになります。同社は、2021年に、この技術をアメリカで展開する予定です。Toyota Motor North Americaで製品の計画と戦略を担当するグループのバイスプレジデント、Andrew Coetzee氏は「2020年代の半ばには、当社の自動車の大部分がこのシステムを搭載するでしょう」と語ります。
DSRCを備えた自動車はその数が増えるほど、道路環境を示す詳細な情報を提供でき、ますます便利になります。たとえば、現世代のセンサーは、直前の車がブレーキをかけたかどうか検知できますが、DSRCを搭載する自動車は、そこからは見えないはるか先で発生した問題を特定できます。また、Coetzee氏はこうも語ります。「安全面で成果を上げたほか、動的なクルーズコントロールの機能も展開しました。これにより、ほかの車と相互に通信することで、最大限の快適さと効率性を得られます」。
日本ではすでに、DSRCを備えた車が10万台走っており、ゼネラルモーターズ社とフォルクスワーゲン社も、独自のシステムの展開に取り組んでいます。車車間通信について、自動車メーカーはある時期、政府がその技術を新しい車両に導入することで需要が高まると見込んでいましたが、成果は得られませんでした。そこで、そのメリットが受け入れられることを今度は消費者に期待しています。「トヨタが目指しているのは、お客様に納得いただける技術であると伝えることです。そのためには、ほかの車にも普及させることが重要です」 と、Coetzee氏は語ります。
変革には時間がかかる
もちろん、ある機能が新しい自動車に展開された後、新たなシステムが定着するまでには時間がかかります。Center for Automotive Researchは、2016年に利用されていた自動車の、購入後の年数は平均で11.6年であったと指摘しています。つまり、今日走っているほとんどの車はiPhoneが世に出る前に製造されています (購入者はメーカーのラインナップの変更にこだわりがないのです)。
人々が最新の開発を理解し、受け入れるのにも時間がかかります。さらに、すべての技術がどの環境、ユースケース、市場セグメントにも等しく当てはまるとは限りません。
エレクトリックパワートレインへの移行が、長期的に根強く続く傾向にある中、たとえば、ボルボ社は、来年から電気自動車のみを製造するが、すぐに、ガソリン車とディーゼル車が、電気自動車に完全に置き換わるわけではないと発表しました。ところで、電気自動車の影響は続いています。昨年ひらかれた気候変動の会議で、ヴァージンレーシングフォーミュラEチームは、ルノー社が、フォーミュラEチーム向けに開発した技術をコンシューマー向けの車種に適合させたと述べました。
一方で、自動車工学に取り組むEnvera社の創設者、Charles Mendler氏はこう語ります。「アメリカの自動車メーカーの幹部は、2030年頃に、アメリカ国内における新車の80~90%に何らかの内燃機関が使用され、新車の40%がハイブリッド車になると予測しています」。つまり、今のところ、全体効率を最も高める方法は内燃機関の最適化であるというのです。また、自動車エンジニアは、すでに難題に挑んでいます。たとえばインフィニティでは、各ストロークでピストンが最も高くなるときの位置を変更できる可変圧縮比エンジンが発表されました。現在は、コンセプトカーのみに展開されているこのエンジンは、開発に20年かかりましたが、以前のモデルと比較し、燃費を27%改善できると大いに期待されています。
マツダ社は、従来のガソリンエンジンとディーゼルエンジンの要素を組み合わせたSKYACTIV-Xの開発に取り組んでおり、現在の最高値から27%高めた56%の理論熱効率を目指しています。それを実現できれば、このシステムのwell-to-wheel (原油の採掘から自動車の走行まで) 効率 (つまり、燃料生産と配電に関連するエネルギー費を含む) は、すべてを電動化したパワートレインの効率に匹敵します。
ダイヤルはもういらない
効率は確かに重要ですが、顧客は、純粋な実用主義よりも感情によって意思決定する、というのが現実です。結局のところ車は単なる移動手段ではなく、経験によって育まれた環境でもあるのです。乗る人は、車に美しさを求め、自分に反応することや、楽しませてくれることさえ期待します。また、自動車はアイデンティティを示すものでなければなりません。アイデンティティの感じ方がモバイルコンピューティングによって形作られる時代になると、車は、住むことのできる車輪付きの巨大なスマートフォンのような存在になっていきます。インターフェイスも、一定の機能のノブやボタンではなく、大きなタッチスクリーンとボイスコマンドが活用されることが多くなります。すべてがスムーズな操作やカスタマイズが可能で、無限にアップデートできるものに変わります。
このような移り変わりは、人とソフトウェアを結ぶインターフェイスが、可能な限り直感的で、適応力を備えたものなければならないことを意味します。ドイツの自動車機器メーカー、ボッシュ社は、2018 Consumer Electronics Showで、未来の自動車がそうした問題を回避するビジョンを提示しました。同社のコンセプトインテリアの1つである音声起動型の制御システムは、声のコマンドに反応するだけでなく、誰の声なのかを特定し、それに応じて動作します。たとえば、「今日のスケジュールをおしえて」と尋ねられると、クラウドにある、その人自身のカレンダーにアクセスします。
また、ドライバーの前にある直接さわって入力できる機能が、通常の運転台の計器類に取って代わります。触覚的なスクリーンに、プログラミングできる動くボタンを、なめらかにしたり、陰影や起伏を付けたりして表示でき、それをタッチして手探りで操作できます。ボッシュ社によると、ドライバーが道路から視線をそらす頻度をこのシステムによって15%~20%抑制できます。
ドライバーを運転に集中させる、さらに未来的な試みとして、システムにはスマートフォンのロックアウトシステムが含まれます。このシステムは、スマートフォンが車内のどこにあるかを突き止め、その場所がドライバーに近い場合は画面をロックします。また、ドライバーがスマートフォンを手に取ったときにのみ再度使用できるようになります。
もちろん、ボッシュ社のようなシステムでは、旧世代のシステムとは徹底的に異なるエクスペリエンスが得られるだけでなく、ソフトウェアを調整するためのダウンロードとインストールを自動的に行うことで、継続的にアップデートできます。
あらかじめ設定されたラジオのボタンが最先端の技術だった頃とはすべてがかけ離れています。運転台、パワートレイン、ネットワークコンピューティングの性能を基に、エンジニアが今構想を練っている自動車が形になれば、消費者は車の運転の本質について考えを改めます。そして、そうした予想は間違いなくすぐに覆されることにもなります。私たちは、今後何が起こるかを正確に予測できませんが、1つだけ確かなことは、未来はいつも急速に変化するということです。
未来の自動車: リーダーへの教訓
- コンピューターの性能、モバイルネットワーキング、パワートレインエンジニアリングの進歩が形になって市場に出ると、自動車技術は急速に進化します。
- 車車間通信システムでは、自発的に絶えず変化するネットワークが形成されます。これにより、車やトラックが相互接続できるようになり、安全性と効率が高まります。
- 車内のエクスペリエンスの鍵を握るのがコンピューターの性能になると、ユーザーインターフェイスが、ノブやダイヤル式のものから、スマートフォンのようなスクリーン型のシステムに変わります。
自動車の未来への貢献: フォーミュラEのドライバー、Sam Bird氏にとって、電気レーシングカーの運転は仕事であるだけでなく、環境保護につながる情熱そのものです。変革を進めるには最先端のテクノロジーが不可欠なのです。
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Jeff Wise
フリーの寄稿者、8件の記事
Jeff Wiseは、航空、探検、心理学などを専門とするジャーナリストで、新聞雑誌、ネット、テレビなどで活躍しています。JeffはShowtimeで放送されたドキュメンタリー「グリンゴ: ジョン・マカフィーの危険な生活」のエグゼクティブプロデューサーで、CNN、Fox News、MSNBCなどの番組で航空アナリストとして活躍しているほか、PBS、History Channel、National Geographic Channelなどのドキュメンタリーにも出演しています。Jeffの記事は、Businessweek、New York、The New York Times、Nautilus、Men's Journal、Popular Mechanics、Psychology Todayなど、さまざまな新聞雑誌に掲載されています。
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