2019年7月19日
バスケットボールの世界で中心的な役割を果たすテクノロジー
NBAは、テクノロジーと、新しいことに進んで挑戦するテクノロジーに精通したチームオーナーのおかげで、試合とファンの体験を向上させることに成功しています。
スモールフォワードは、3ポイントサークルのすぐ内側で一瞬ボールをキープし、ゴール方向にフェイクしてディフェンスを振り切り、3ポイントラインの後ろに静かに後退してシュートを放ちます。ボールは高い弧を描いてネットを揺らします。それは完璧なシュートです。そして、彼にパスを送ったポイントガードにアシストが与えられます。しかし、シューターはコート上の目に見えない6人目の選手、つまりテクノロジーからも同じくらい大きな助けを得ています。ビッグデータ分析は、コーチによるプレイの指示を支援します。デジタルビデオカメラやIoTセンサーは、試合や練習で選手のシュートの動きを追跡し、選手が技術に磨きをかけて、狙いが正しかったことを確認するのに役立ちます。
現在のいちかばちかのパワフルなバスケットボールの世界では、このようなプレイは珍しくありません。テクノロジーによって、試合のプレイ方法やファンの視聴方法は劇的に変化しています。バスケットボールは、1891年にマサチューセッツ州スプリングフィールドのYMCAでJames Naismith氏が空の桃の収穫かご (バスケット) を取り付けたときに発明されました。そしてプレイには13のルールが定められました。このゲームには120年を超える歴史がありますが、多くのルール変更で内容が変化しており、プレイする男女の活動性、体格、体力を高めるのに役立ってきました。しかし今や、ビデオやセンサーテクノロジー、クラウドコンピューティング、ビッグデータ分析、AIの発展と、その他のテクノロジーのブレークスルーは、わずか数年の間にバスケットボールを別の方法で大きく変革しています。テクノロジーに精通した世代のオーナー (よく知られたテクノロジー企業のビリオネアであるSteve Ballmer氏やMark Cuban氏など) に刺激されて、テクノロジーは中心的な役割を果たすようになりました。この流れが後戻りすることはありません。さらに大きな変化が今後5年間にわたって予定されています。
存在感を増すデータ
このような変化の背後にある大きな要素の1つは、ビジネスのテクノロジー革命を推進するのと同じものです。つまり、大量のデータです。ここ10年間の初めに、全米バスケットボール協会はSTATS SportVUと呼ばれるビデオとデータのシステムをリーグに所属する30の競技場のすべてに設置しました。カメラはすべての選手とボールの動きをキャプチャーします。収集されるデータには、点を決めた選手、どのようなシュートが放たれて失敗したか、選手の位置や移動速度などが含まれます。
SportVUがなかった時代、チームは入手したデータを手作業で追跡していました。SportVUが導入されると、チームは大量のデータを手にして、それらのデータの意味を理解するためにAIなどの新しいツールを必要とするようになりました。SportVUの公開に関わったスポーツエグゼクティブであるBrian Kopp氏は、バスケットボールでのAIの使用について、Inside Scienceの記事で「SportVUが登場すると、収集したデータはもはやMicrosoft Excelに保存できなくなりました」と説明しています。
大学とプロレベルのチームは、今や数多くのデータと分析ツールを使用しています。たとえば、SportVUとは異なるデータ収集アプローチを採用したShotTrackerでは、センサー対応のボール、選手が装着する小さなセンサー、コート周囲の垂木に設置されたセンサーが使用されます。このシステムは、ライブデータと分析をコーチに提供し、ライブデータをファンに提供し、カスタマイズされた独自の分析を選手に提供します。これにより、選手は自らの長所と短所を発見して学ぶことができます。
NBAのオーナーはテクノロジー企業の出身であることが多いので、テクノロジーと、分析を使用した意思決定に慣れており、新しい物事に取り組む熱意にあふれています。
Courtney Brunious、南カリフォルニア大学スポーツビジネス研究所の副所長
ShotTracker社の共同創業者兼最高執行責任者であるDavyeon Ross氏は、同社の製品のような分析システムは試合のプレイ方法に大変革を起こしていると語ります。
「コーチは今や、たとえば、3、4、5、または6回ボールをパスしたときにチームがスコアを得る効率を知ることができ、さらに、試合中にリアルタイムで戦略を変えることができます」と彼は言います。そしてこれは基本的な事柄に過ぎません。そこから、さらに洗練された情報が得られます。
Ross氏によれば、ヒューストン・ロケッツのようなNBAチームでは、分析を活用してチーム内のシュートの選択が劇的に変わりました。このチームでは、3ポイントシュートかゴールに近い位置からのシュートのいずれかが主なシュート方法になっており、その中間の距離からのシュートははるかに少なくなっています。彼らは、この方法がスコアを伸ばすために最も効率的だとわかったのです。
Ross氏によれば、データと分析はチームによって試合の戦略以外にも使用されています。「チームは分析を元に最適な選手をスカウトするかドラフトで獲得し、試合に足を運ぶ人のプロファイルを把握してチケットの売り上げを増やします」と彼は言います。サクラメント・キングスはその代表的な例です。2013年に、このチームはVivek Ranadivé氏に率いられたグループによって買収されました。彼はシリコンバレーのテクノロジー起業家です。それはちょうどチームがチケット販売に苦労していた頃でした。Ranadivé氏の指示により、このチームはConversicaと呼ばれるAIおよび分析プラットフォームを活用してチケット購入者の候補をより優れた方法で特定し、ファンとの関わりを深めるためにAI主導のバーチャルアシスタントを導入しました。このアプローチで売上が増加し、フランチャイズを立て直すことができました。
選手は自らのシュート技術を高める以外のことにもテクノロジーを使っています。Ross氏によれば、心拍モニターのようなテクノロジーを使って選手は自分の健康状態を追跡し、睡眠の状態を追跡して管理しています。
「NBAのシーズンは非常に長いのです」と彼は言います。「そのため、選手たちはテクノロジーを利用して、シーズン中に健康を損なわないようにしています。彼らは、自身のキャリアを延ばすために、寒冷療法のような手法さえも使っています。これは、極低温を使って試合による物理的なストレスから急速に回復する療法です」
ゴールデンステート・ウォリアーズは、建設中の新しい本拠地であるチェイス・センターでコネクテッドエクスペリエンスを実現するために、ヒューレット・パッカード エンタープライズと提携しています。
ファン体験の向上
ファンがいなければ、リーグは成り立ちません。そのため、チームは拡張現実や仮想現実のようなテクノロジーツールを導入し、AIが生成したインスタントリプレイを客席に流して、ストリーミングメディアやインスタント統計に慣れ親しんだファン層を満足させているとCourtney Brunious氏は言います。彼は、南カリフォルニア大学のスポーツビジネス研究所の副所長です。
「NBAは新しいやり方でファンと関わっているのです」と彼は言います。「一部のNBAの試合は家庭で仮想現実のヘッドセットを使って視聴できるようになっており、まるで競技場にいるかのように感じることができます」。次に到来するのは拡張現実だと彼は信じています。そこでは、没入型の仮想現実アプリケーションにデータが重なって表示され、たとえば、放たれたばかりのシュートが成功する確率がわかります。
これだけではありません。ゴールデンステート・ウォリアーズではFacebookメッセンジャーのボットを使って、プレイオフの間、プレイのわずか数秒後にハイライトビデオをファンに送信します。さらにNBAではWSC Sportsのサービスを使ってAIを活用し、人間が介入しなくてもハイライトビデオを自動的に作成できるようにしています。
テクノロジーは、より現実的な理由で試合の体験を向上させるためにも使われているとRoss氏は言います。たとえば、ファンが携帯電話を使って席にいながらビールや食べ物を注文できるようにし、競技場の地図を呼び出してさまざまな施設を簡単に見つけられるようにします。
試合の視聴方法の変化: 試合に賭ける
ファンが試合を楽しむ方法は、さらに変わっていこうとしています。連邦最高裁判所で2018年にプロスポーツに賭けることが合法であるという判決が下されました。各州では、それが合法化どうか、どのように規制するかを決定することになります。ESPNのレポートによれば、すでに8つの州で合法化されており、ワシントンD.C.とその他の30の州は合法化に向けて動いています。
ファンは賭け事が大好きです。New York Timesでは違法なスポーツ賭博の額が1年に1,500億ドルになると見積っています。ファンが試合に賭ける場合、自分たちのお金がかかっているので、試合に一層没入する傾向があるとRoss氏は言います。一方的な試合内容で、結果がわかりきっているような場合でも、たとえば、ある選手が試合中に20ポイントを獲得するかどうか、次のシュートが3ポイントになるかどうかなどを試合中に賭けるとエキサイティングになります。このような試合中の賭け事は、統計と分析で支えられています。つまり、ギャンブルが多くの州で合法になったときに、テクノロジーはバスケットボールでさらに中心的な役割を果たすことになるのです。
「ギャンブルに関わる人は、自らが優位に立つために、高度な分析モデルを含め、できる限りの情報とデータを手に入れたいと考えます」とBrunious氏は言います。「そのため、さらに多くのデータが収集されてファンの間で共有されるのを目にすることになるでしょう」
Ross氏によれば、これによってある種のデータ戦争が起こる可能性がります。そこでは新しい企業が賭け手に最も高度なデータへの最も迅速なアクセスを提供するために争います。
「最終的には、最も早くデータを手にするのは誰か、最適なアルゴリズムを構築するのは誰かということが重要になるでしょう」と彼は言います。
オーナーが先頭に立つ
バスケットボールの世界でテクノロジーの浸透は止められないものになっており、鈍化する兆候もありません。この理由の一つとしてバスケットボールチームのオーナーが挙げられます。彼らはテクノロジーで財を成した人物や、ビジネスと自らの私生活でテクノロジーを活用している人物です。クリーブランド・キャバリアーズ、ダラス・マーベリックス、サクラメント・キングス、ロサンゼルス・クリッパーズ、メンフィス・グリズリーズ、そしてポートランド・トレイルブレイザーズはすべて、テクノロジー企業の元経営陣によって所有されており、その他の多くのチームも、テクノロジーに強いオーナーに率いられています。
彼らは、新しいテクノロジーの導入に意欲的であるだけでなく、意外な方法で新しいテクノロジーを試そうとしています。一般に知られていない1つの例は、eスポーツのプロフェッショナル向けビデオゲームの急成長するビジネスへの進出です。ゲームとeスポーツのマーケティング分析企業であるNewzoo社によれば、この分野への進出は、2018年におよそ10億ドルの収益をもたらしており、全世界で3億8,000万人の視聴者がいます。NBAは、プロフェッショナル向けバスケットボールビデオゲームのeスポーツリーグであるNBA 2Kのスポンサーになっており、NBAの21チームがエントリーしています。Brunious氏によれば、このリーグは従来の競技よりもビデオゲームに興味を持っているファンのために立ち上げられたもので、彼らが実際の競技場のチームのファンになってくれることが望まれています。また、このリーグではNBA 2K自体が最終的に重要な収益源になると期待しています。
ここまで説明したような内容から、テクノロジーがバスケットボールでさらに中心的な役割を果たすようになることが期待されます。この先、障害にぶつかる可能性もあるだろうとBrunious氏は言います。たとえば、選手の睡眠の習慣、健康情報、練習方法など、選手に関するデータのプライバシーと所有権についての問題が生じつつあります。しかし、そのような問題はやがて解決され、私たちがいまだ想像もしていないやり方でテクノロジーが使用されることになると彼は期待しています。
「NBAチームのオーナーたちは、野球やフットボールのチームのオーナーよりもテクノロジーに精通しています」と彼は言います。「野球やフットボールのリーグのオーナーは、多くの物事について自分たちのやり方にしがみついています。場合によっては、チームは何十年にもわたってそのチームを所有してきた家族によって運営されています。NBAのオーナーはテクノロジー企業の出身であることが多いので、テクノロジーと、分析を使用した意思決定に慣れており、新しい物事に取り組む熱意にあふれています」
バスケットボールで使用されるテクノロジー: リーダーのためのアドバイス
- ビッグデータ分析は、コーチによるプレイの指示を支援することから、選手の技能を高め、チケットの売上を増やすことにいたるまで、あらゆる物事に使用されており、バスケットボールのテクノロジー革命を推進しています。
- テクノロジーに精通したバスケットボールチームのオーナーは (6人のオーナーはテクノロジー企業の元経営陣です)、しばしば分析に基づいて意思決定を行い、革新的な方法で新しいテクノロジーを試すことに意欲的です。
- 合法的なスポーツギャンブルは、ファンとのつながりを深めることができる見込みがあり、ギャンブラーに試合のデータと分析ツールを提供するスタートアップ企業の火付け役となるかもしれません。
この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Preston Gralla
フリーの寄稿者、25件の記事
フリーランスのライターであるPreston Gralla氏は、これまでにテクノロジーに関する数千の記事と約50冊の著書を執筆してきました。同氏の著作は、Computerworld、PCWorld、PC Magazine、USA Today、The Dallas Morning News、Los Angeles Times、およびその他多くの出版物で発表されています。また著書の販売部数は全世界で数十万部に達しており、約20の言語に翻訳されています。
enterprise.nxt
ITプロフェッショナルの皆様へ価値あるインサイトをご提供する Enterprise.nxt へようこそ。
ハイブリッド IT、エッジコンピューティング、データセンター変革、新しいコンピューティングパラダイムに関する分析、リサーチ、実践的アドバイスを業界の第一人者からご提供します。