2019年1月17日

バスの利用: 公共交通機関のサービスの改善に役立つ新しいデータ手法

交通が麻痺して環境問題が起きる中、多くの都市は、新しいテクノロジーを活用して、バス、タクシー、地下鉄などの公共交通機関のサービスの改善を図っています。

2018年10月10日、ニューヨークのMetropolitan Transportation Authority (MTA)は、「ニューヨークの公共交通網のモダナイゼーションを加速させ、サービスとカスタマー・エクスペリエンスの改善に貢献する、将来有望な新しいテクノロジーや製品」を特定して検証することを目的に新たなTransit Tech Labを立ち上げたことを発表しました。この計画では、(11月30日を期限に) MTAが新しいテクノロジーを活用してバスや地下鉄の遅延を解消する方法についての提案を募り、採択されたプロジェクトには、1年間の(無報酬の)パイロット期間が与えられます。

改善が必要な交通機関があり、それを改善するための新しい形式のデータクランチングなどのデジタルテクノロジーに期待を寄せている中核都市はニューヨークだけではありません。また、交通渋滞の悪化やそれが環境に与える影響に対する懸念から、通勤に公共交通機関を利用することを再検討する人が増えつつあります。

バージニア州アーリントン郡で交通問題への対応を支援する、Mobility Labの調査マーケティングマネージャーであるJenna Fortunati氏は、郊外の人口が多い都市も公共交通機関を改善したいと考えているとしたうえで、次のように説明しています。「米国では、実に多くの公共交通機関が、都市の中心部に乗客を送り出し、1日が終わったら、車を運転しなければならない郊外に送り返す設計になっています」。

ライドシェアリングサービスは、交通渋滞を緩和するとアピールしているかもしれませんが、状況を悪化させている可能性が高く、Schaller Consulting社の調査によると、ニューヨークでは、Uber社やLyft社などの交通ネットワーク企業のサービスによって2016年に交通量が6億マイル増加し、交通渋滞が悪化しています。これについて、この調査のレポートでは、公共交通機関の老朽化が進み、不満が高まりつつある中で交通量が増加すると、「交通渋滞が原因で企業やコンシューマーのコストが増大し、ニューヨークが掲げるモビリティ、経済成長、および環境に関する目標の達成に向けた歩みが妨げられる可能性がある」と述べられています。 

 

最初に考えるべきこと

では、どのような対策をとるべきなのでしょうか。都市部の鉄道網を改善するには、何年にも及ぶ大規模な再構築プロジェクトが必要です。たとえば、ニューヨークの新しいSecond Ave.地下鉄線の第1段階は、(1972年にプロジェクトが中止されてから) 2007年に再開されましたが、この線は2017年まで開通しませんでした。その結果、多くの都市は現在、市民による公共交通の利用を促すべく、(自転車シェアリングなどの選択肢とともに)バス網のアップグレードと改善の可能性について検討を進めています。

ただし、そのためにはまず、バスの台数、バスの種類、自転車シェア用のスタンド、さらにはその他のサービスの変更も含め、どのルートを調整するのが最も効果的なのかを見極めなければなりません。

そしてそのためには、データが必要です。

これについて、ワシントン郊外に拠点を置く、交通計画企業のFoursquare ITP社でシニア交通プランナーとタスクリーダーを務めるSandy Davis氏は、次のように述べています。「交通機関が大規模な交通網の評価に利用できるデータと情報が急増しました。以前は1つの都市を3人の交通プランナーが担当し、それぞれにその都市のわずかな区域が割り当てられていましたが、テクノロジーによって状況が大きく変化しました」。

 

Davis氏によると、特にバス網では、手動で収集して処理するのが難しいほど膨大なデータが使用されていましたが、新しいシステムを導入することにより、バス会社は、これまでより簡単に交通機関の動向に関する多くの情報を収集して把握できるようになります。

公共交通機関の利用を推進する、非営利団体のAmerican Public Transportation Associationでテクニカルサービスおよびイノベーション担当アシスタントバイスプレジデントを務めるJeff Hiott氏は、次のように述べています。「交通機関は、サービスを最適化できるようにするために、常にスケジュールを分析してルートに目を向けてきました」が、データ収集の質が向上すれば、交通機関のプロフェッショナルは、乗客が出発地点から目的地に向かうまでのルートのパターンを的確に把握できるようになります。「さらにAIを使用すると、こうしたデータのすべてがさまざまなアルゴリズムに組み込まれ、交通の効率が向上する可能性があります」。

 

乗客の情報の収集

こうしたデータを収集する方法は数多くあります。Washington Metropolitan Area Transit Authority (WMATA)は最近、乗客が乗車時と降車時にタップする、同機関の再チャージ可能なSmarTripカードを使用する、Traceと呼ばれる新しいプログラムを開始しましたが、これについて、Fortunati氏は次のように説明しています。「(WMATAは)システムで匿名の乗客を追跡し、バスが混雑していたかどうか、スケジュールより遅れていなかったかどうか、そして乗客がどこでバスを乗り換えるのかを評価できるよう、SmarTripのデータと車両のローカルデータを組み合わせて使用しています。こうしたデータを使用することにより、WMATAではスケジュールを微調整し、混雑する停留所でのバスの停車時間を延ばしたり、そのルートにより大型のバスを走らせたりすることが可能になりました」。

カリフォルニアでは、Los Angeles County Metropolitan Transportation Authority (LA Metro)が、四半世紀にわたって大規模な見直しが行われることがなかったバス網の新しい路線の設計を支援するため、2018年の春にNextGen Bus Studyを開始しました。この地域では、広く知られているように車中心の交通網が敷かれていますが、地下鉄網が拡大しつつあるうえ、自転車シェアアプリやライドシェアアプリの利用も増えています。また、自動車を運転できない、または運転したくない南カリフォルニアの居住者がこれまでよりはるかに簡単に地域内を移動できるよう、バス網もアップグレードされました。

LA Metroのサービス開発、スケジューリング、および分析担当上級役員であるConan Cheung氏は、「バス網を再設計し、今日の交通手段を反映したより適切なものにすること」がこの調査の目的であると述べています。約18か月間にわたって行われる予定のこの調査は、乗客の習慣と移動パターンを把握することから始まりましたが、調査を担当する部門はそのために、ソーシャルメディアベースの調査、携帯電話の位置データ、ネットワーク端末のアクセスポイントのデータ、そしてモントリオールに拠点を置くGIRO社のHASTUS Planning Platformをはじめとする、さまざまなツールを使用しています。

Cheung氏は、ソーシャルメディアベースの調査を利用するメリットとして、短時間で結果を得られるうえ、現在のバス網の利用者だけでなく、「以前の乗客や乗客以外からも情報を入手できる」点を挙げ、「まだ調査中ではあるものの、これまでにはなかった、いくつかの大きな成果が示されている」と述べています。

また、乗客の情報を収集するために、通勤者にニーズや習慣についての情報の提供を促す、MetroQuestと呼ばれるオンラインアプリケーションが開発されました。このアプリケーションでは、ユーザーがさまざまな回答に仮想コインをドラッグアンドドロップすることにより、「ロサンゼルス郡のバス網で100ドル使えるとしたら、それをどのように使いますか」といった質問に答えます。

これについて、Foursquare社のシニア交通プランナーであるWylie Timmerman氏は、「交通プランナーが利用できる新しいデータソースが増えつつあることを特に嬉しく思う」と述べるとともに、数あるツールの中で、AirSageとStreetLight Dataの2つは、「匿名化した携帯電話のデータや位置データを処理し、乗客の位置や乗客がどこに行こうとしているのかを明確に示してくれる」と語っています。

乗客のデータを入手することなく新しいルートやアップグレードをテストする方法の1つとして、合成された交通データを使用し、さまざまな選択肢のテストに利用できるモデルを作成するというものがあります。これについて、Foursquare社のDavis氏は、「Transport Foundry社が、乗客数の観点から見たさまざまなシナリオの結果と乗客の移動方法やサービスの利用状況を確認できるツールを開発してくれた」と語っています。そして同氏は、そのソフトウェアによって「合成ユーザー」が作成され、各ユーザーがどの経路を選択するのかをテストするシナリオが作られると説明したうえで、次のように述べています。「このソフトウェアにより、サービスのプランニングに関するすべての決定をテストしてからそれらのシナリオを比較し、そのエリアで最善の解決策を見出せるようになりました」。

 

多くの企業と従業員が参加

都市部や郊外の交通機関の変革は、政府、州、市の機関、さらにはプロフェッショナルのプランナーや地方組織の協力が必要とされる一大事業ですが、こうした変革には、それを利用する企業や従業員だけでなく、多くの場合にテクノロジーツールが寄与します。

Mobility Labは最近、企業が費用便益比を最大限まで高められるように交通手段の選択肢を分析する、TDM Return on Investment Calculatorをリリースしましたが、これについてFortunati氏は、次のように説明しています。「たとえば、私がGoogle社のCEOだったとして、1日中汗まみれで過ごしたくないと思っている従業員が自転車で通勤しやすくなるように、自転車通勤者用のシャワーを設置するとした場合、短縮される通勤時間、節約される燃料、削減される炭素排出量、軽減される騒音公害、軽減される大気汚染といった、あらゆる評価基準の観点から、その投資収益率を評価することが可能です。このツールは、本当に素晴らしいと思います」。

その一方、一部の通勤者は自ら物事を進めており、Transportation Techiesと呼ばれるワシントンエリアのミートアップグループには、(同グループの説明によると)「交通データを分析するのが好きなプログラマや交通、自転車、ウォーキングに関心を持つ人」など、2,500人を超えるテクノロジーや交通機関の愛好家が参加しています。また一例として、ソフトウェアエンジニアのJames Pizzurro氏は、アーリントン郡エリアの通勤者がリアルタイムで地下鉄の位置情報を入手し、到着までの時間を見積もることができるMetroHeroというアプリケーションを共同開発しました。このアプリケーションでは、利用しているルートのバスが遅れていないかどうかを示す、Bus Operations Control Centerも提供されます。この他にも、ニューヨークでは、バスと地下鉄両方の路線図を組み込んだわかりやすい地図がないという理由から、多くの居住者がバスを利用していないと確信したAnthony Denaro氏が、どのようにすればユーザーフレンドリな方法で情報を提供できるのかがわかる、Bullet Mapアプリケーションを開発しました。

 

最終的には人間の手に委ねられる

もちろん、すべてのデータが揃ってその情報を利用するアルゴリズムが完成したら、大部分の人にとって最善の利便性、コスト、および快適性の組み合わせ実現するための解決策を考えるのは、交通機関の職員、アナリスト、政治家、そして乗客をはじめとする人間の責任です。

これについて、Timmerman氏は次のように述べています。「公共交通機関の計画を立てるというのは、乗客を目的地まで送り届けるようにするということです。今では、乗客の目的地に関する膨大なデータを入手し、強力なツールでそうした新しい情報のすべてを分析したり、ビジュアル化したり、解釈したりすることが可能です。このような新たな資産やテクノロジーを活用できるようになったことを嬉しく思います」。

ただし同氏は、「交通プランナーが関係者と連携したり、コミュニティとやり取りしたり、コミュニティと連携して交通サービスを改善するための提案を行ったりしなければならない、スプレッドシート上では解決策を見出せないこともある」と付け加えています。

そしてDavis氏は、「私たちがすべての人にとって最善であると考える解決策を見出すには、こうした分析の結果と一般の人々や乗客が求めていることのバランスを取り、そのすべてを調整する必要がある」という点に同意しています。

 

公共交通機関とテクノロジー: リーダーのためのアドバイス

  • 新しいデータ収集とデータ分析の手法により、地上交通を改善して都市部の企業や居住者のニーズに的確に対応することが容易になりつつあります。
  •  企業は、費用便益比を分析して従業員にインセンティブを与えることにより、公共交通機関や自動車通勤に代わる選択肢の利用の促進に積極的に貢献できます。
  • 結局のところ、公共交通機関でどのように変革を進めるのかを決定するにあたっては、(特にそれが明らかになっているのであれば)企業や従業員のニーズを重視しなければなりません。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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