2022年3月25日
持続可能なIT: 大量のデータを必要とする世界でエネルギーの使用量を減らす
IT運用におけるエネルギー効率は大幅に向上していますが、さらなる改善が可能です。
リーダーのためのアドバイス
- 持続可能性の基本計画を立てる際には、ITマネージャーも参加する必要があります。
- 会社に併設された設備よりもスタンドアロンのデータセンターを利用するほうが、コスト削減と持続可能性を容易に実現できます。
- 持続可能なITは環境に優しいだけではなく、会社のROIを改善し、ITプロフェッショナルの業務満足度を高めます。
John Freyが20年前にヒューレット・パッカード エンタープライズの持続可能なITに取り組む部署で働き始めたとき、彼はその部署のただ1人の従業員でした。ここ5年間、彼はHPEで持続可能なトランスフォーメーション担当のチーフテクノロジストとしてチームと共に働いてきましたが、持続可能なITに関する学位を取得できるカリキュラムはいまだに存在しないので、この分野の教科書は10年前の時代遅れのものしかないと言っています。
そのため、多くのITプロフェッショナルが、持続可能性を見据えて機器を購入し、使用し、アップサイクルする効果的な取り組みに苦労しているのも当然のことといえます。
「ほとんどのお客様には、ライフサイクルの戦略がまったくありません」とFreyは言います。数年ごとに機器を置き換えているだけなのです。しかし、サーバー、ストレージ、ネットワーク機器のライフサイクルはすべて異なっており、電源の性能は世代を重ねるごとに飛躍的に向上しているので、そのような企業の方針は、「おそらく、ほとんどのケースで正しくなかったでしょう」と彼は指摘します。
Freyは、持続可能なITを実現できるように組織をサポートすることでキャリアを重ねてきました。そのような専門知識がこれまで以上に求められる時代になっています。
効率化を進めるためにITを強化する取り組み
データセンターは全世界のエネルギー消費量の約1%を占めています。この量は、人や物の輸送に使われる全世界のエネルギー消費量の25%に比べるとほんのわずかですが、国際エネルギースタープログラムのデータセンター製品開発およびマーケティング部門のマネージャーであるRyan Fogle氏は「グローバルなエネルギー消費について考えれば、それでも大きな数字です」と語ります。
「世界がデータセンターで埋め尽くされないように、電力を最大限に活用する必要があるのです」
RYAN FOGLE米国環境保護庁の国際エネルギースタープログラムのデータセンター製品開発およびマーケティング担当マネージャー
Fogle氏の指摘によれば、より持続可能なテクノロジーが登場すると、ITのエネルギー需要も増えていきます。クリーンテクノロジーの効率的な運用に必要なAIを管理するには、さらに多くのデータ処理能力が必要になるからです。これは、カーボンニュートラルを目指すグローバルな動きを巡るパラドックスであり、持続可能なITの取り組みを急がなければならない理由です。
「世界がデータセンターで埋め尽くされないように、電力を最大限に活用する必要があるのです」とFogle氏は説明します。
米国環境保護庁 (EPA) は、消費者が最もエネルギー効率が良い製品を選べるように、1992年に初めて国際エネルギースタープログラムのラベルの制度を導入し、最初に評価された製品はコンピューターとモニターでした。
「エレクトロニクス分野は成功事例として挙げられると思います」とFogle氏は言います。「特にIT分野では、自らエネルギー効率を高めようとする取り組みが見られます。テクノロジーが発展するにつれて、効率も改善されているのです」
ITの利用が拡大するにつれて、コンピューティング性能を提供するために必要なデータセンターが増加していきますが、ほぼそれに合わせてITのエネルギー効率も向上し続けています。ただし、将来に低カーボンやゼロカーボンを実現するには、ITだけでなくすべての業界でエネルギー効率を向上させる必要があります。
幸いなことに、Fogle氏とFreyによれば、現在利用できるテクノロジーでIT分野のエネルギー使用を減らす大きな可能性があります。
未使用のサーバー容量を 特定してコストとエネルギーを節約
データセンターに関する調査を毎年実施しているUptime Institute社によれば、サーバーの40%は設置されてから5年以上経過しています。これらのサーバーは、作業パフォーマンスが7%未満であるにもかかわらず、データセンターの電力の66%を消費しています。
サーバーのライフサイクルにおけるエネルギー消費の大部分は、使用フェーズの間に発生するので、企業は最適なタイミングで機器を入れ換えることで、エネルギー効率を大幅に高めることができます。ただし、使用フェーズであっても、データセンターはかなりの省エネルギーを達成できます。
たとえば、「お客様のデータセンターの使用レベルは非常に低いことが多く、実際に必要な数よりも多くの機器があります」とFreyは指摘し、多くのデータセンターでは、データセンター全体の機器の20%以上は、電源が入っていてもアイドル状態になっていると説明します。彼がゾンビサーバーの問題と呼んでいるものを解決すれば、オペレーターは使用されていない機器の電源を落とすことができ、エネルギーの節約になるだけでなく運用コストも抑えられます。さらに、データセンターは小さな設置面積でより多くの処理を実行できるようになります。
作業をこなしている機器であっても、その能力を最大限に発揮しているわけではありません。Fogle氏の見積もりによれば、ほとんどのサーバーでは1つのワークロードが処理され、使用率は10%であり、1台のサーバーで複数のワークロードを処理できる仮想化環境でも、最大30%の使用率となっています。
「このように効率が悪いのはコンピューティングだけではありません」とFreyは言います。HPEによれば、組織は通常、設置済みのストレージ容量の約40%しか使っていません。
「平均的なデータセンターには、設置されたIT機器に必要となる水準の2倍以上の冷却能力があります。この理由は、多くの場合、耐障害性の要件があるためです」と彼は続けます。Freyによれば、HPEの機器は周囲の温度が最大で摂氏35度の環境で動作するように設計されていますが、多くの場合、データセンターは最新のサーバーの要件よりもずっと低い温度に保たれています。
効率化を阻む要因の1つは、目標の立て方が正しくないことです。「組織の人員は、さまざまな理由で物事を進めます」とFogle氏は言います。たとえば、ITプロフェッショナルは、サーバーが期待どおりに動作していないと緊急の連絡を受けることを嫌って、機器の冗長性を確保するだけでなく、保険として温度を意図的に低く保とうとします。持続可能性の優先順位は、稼働時間やレイテンシほど高くはありません。
それでも、Fogle氏はITプロフェッショナルが持続可能性のメリットを理解するようになると楽観的に考えています。「エネルギーを効率化すれば、ITマネージャーは数多くの財政的なメリットを得られる可能性があります」と彼は言います。たとえば、10,000のワークロードを実行する必要があるとします。このジョブを終えるために、これまで100台のサーバーが必要だった場合、50台で済むようになれば、節約できるのはエネルギーの費用だけではありません。より少ない数のサーバーで多くの作業をこなせれば、ソフトウェアライセンスやハードウェアメンテナンスの費用も節約できます。EPAの示す数値によれば、サーバーの台数を減らせば、1台あたりの年間の節約額は、エネルギーで500ドル、ライセンスで500ドル、メンテナンスで1,500ドルになります。
効率が上がれば、従業員の満足度も高まります。「ほとんどの若いITプロフェッショナルは、データセンターで故障した機器を突き止めるような作業をしたくはありません。その機器がどこにあるのかわからず、故障の原因もわからないような場合には特にそうでしょう」とFreyは言います。「彼らは、会社が新しいビジネスチャンスを掴むのをサポートできる、やりがいがある仕事を求めています」
Fogle氏によれば、データセンターの運用でエネルギーの消費を減らすために簡単な方法がいくつかあります。「まずは、国際エネルギースタープログラム準拠の機器を使用することです」と彼は説明します。「次に、簡単に取り組めることの多くは、エアフローの管理に関するものです。つまり、暖気を集めて取り除き、冷気を取り込み、両者が混ざらないようにするのです」。たとえば、ブランクパネルで暖気と冷気の流れを分離し、電源コードをコンパクトに束ねて空間を空けることで、データセンターの冷却に必要なエネルギーを減らすことができます。
Fogle氏は、データセンターでリソース節約を実現するもう1つの有望な方法として、電力管理の進歩を挙げています。現在の国際エネルギースタープログラム準拠の製品には、きめ細かな電力管理機能が搭載されているため、オペレーターはワークロードに応じてシステムを調整して電力を減らし、パフォーマンスに影響を与えずにマイクロステップでエネルギー消費レベルを下げることができます。課題となるのは、ITマネージャーを教育して、省エネルギー機能を活用できるようにすることです。「これは、大きな改善が見込める領域の1つです」とFogle氏は言います。
コーディングの効率化でムーアの法則を支え、グローバルな持続可能性を目指す
HPEの持続可能なITフレームワークは、以下の3つの要素に基づいて開始されました。
- 機器効率
- エネルギー効率
- リソース効率
2020年に、HPEは4番目の要素である「ソフトウェア効率」を付け加えました。ほとんどの組織が、すぐに使用できるソフトウェアを購入していた時代には、これは実行可能な選択肢ではありませんでしたが、Freyは、効率的なコーディングこそが持続可能なITにおいて次に開拓すべき領域であり、ハードウェアの効率化よりも大きな省エネルギー効果を期待できると信じています。
ソフトウェア効率は、2つの方法で持続可能性に貢献します。まず、ソフトウェアの実行に必要なCPUリソースが減ることで、エネルギー消費を減らすことができます。次に、AIと機械学習を活用することで、最も効率的なパフォーマンスの状態を特定し、IT機器の動作をリアルタイムで再調整できるようになります。
持続可能なソフトウェアには、特定のハードウェアで効率的に動作するカスタムメイドのアプリケーションや、並列プロセッサーやベクトルユニットなどの最新チップの機能を使用したコードも含まれます。さらに、より洗練されたアルゴリズムができれば、ムーアの法則を支えるのに十分なほどにコンピューティング性能を高めることもできるかもしれません。
「私たちはハードウェアの面で大きな進歩を遂げました」とFogle氏は言います。「ソフトウェアの面には、まだ大きな可能性が残っています」
持続可能なITに向けた組織の取り組み
企業で持続可能なITを推進するには、持続可能性の目標についての情報交換を活発にするといった簡単な手段から、データセンターの共同配置によってエネルギーの節約と再利用を計るといった革新的な手段があります。
「ハードウェアによってある程度の目標を達成できますが、オペレーターができることも数多くあります」とFogle氏は指摘します。「現在、パートナーからよく見聞きしているのは、異なるグループ間のコミュニケーションが不足しているということです」。設備、持続可能性、IT管理の目標はそれぞれ異なりますが、持続可能性の面で協力しなければ、エネルギー効率を高めるチャンスを失うことになります。関係者全員が集まって、互いの目標を達成するためにどうすればよいかを理解することで、持続可能なITで大きな進歩をもたらすことができます。
持続可能性について、必ずしも高い目標を設定する必要はありません。たとえば、Fogle氏とFreyによれば、データセンターを最適化するのに効果的な方法の1つは、会社に併設された設備から専用の施設に移行することです。「データセンターの運用が、その用途に特化して建設された建物やその一角で行われるようになると、効率を高くなる場合が少なくありません」とFogle氏は言います。ほとんどの組織にとって、理想的なソリューションは、それぞれのニーズに合わせて異なる方式を組み合わせたものになるでしょう。共同配置、クラウドコンピューティング、オフサイトのデータセンターを組み合わせて導入すれば、大幅な省エネルギーを実現できます。
また、専用のデータセンターに移行すると、省エネルギーを実現するための別の可能性が生まれます。つまり、データセンターとその周囲の環境の間で熱を交換することができるのです。たとえば、Fogle氏によれば、アイスランドにある一部のデータセンターでは、冷たい外気のみを使って冷却しています。
さらに、ほかのリソースをデータセンターに共同配置することもできます。「ヨーロッパでは、IT設備から排出される温水や熱を受け取って、温室の暖房に利用している例もあります」とFreyは説明します。HPEではこの手法を実践しており、米国立再生可能エネルギー研究所とDaimler AG社の協力を得て、Daimler社の燃料電池を使って近隣の太陽光や風力から得られる電力をデータセンターの信頼できる電力源に変換しています。
持続可能なITソリューションの多くは、エネルギー消費を減らすためにすでに利用できるため、必要となるのは、使おうとする意思だけです。「ハードウェアによってある程度の目標を達成できますが、オペレーターができることも数多くあります」とFogle氏は指摘します。「必要なソリューションの導入を決断すれば、より簡単に目標を達成することができるでしょう」
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Laura McCamy
フリーランスライター、4件の記事
Laura McCamyはサンフランシスコのベイエリアを拠点とするフリーランスのライターで、Business Insider、GreenBiz、New America Media、Momentum Magazine、地域のニュース出版物などに寄稿しています。また非営利団体や企業と協力して、人々の士気や意欲を高める魅力的なストーリーを作成しています。
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