2021年12月10日

エッジの将来に関する6大予測

エッジは、人と人、人と世界の関わり方を変えていきます。
エッジコンピューティングのおかげで、世界は大きく変わろうとしています。

今後10年以内に、エッジはさらに多くのコンピューティング能力を備えるようになり、今日のクラウドをはるかに超える膨大なデータを生成すると、HPE FellowでIoT担当チーフテクノロジストを務めるLin Neaseは述べています。

エッジは、IoT、人工知能、超高速の5Gネットワークが集約される場所です。そのエッジが、今後数年間で私たちの生活を大きく変えていきます。

今後10年間に予想される6つの重要なトレンドについて解説します。

1. 大規模なファシリティが、独自のエッジデータセンターをもつようになる

IDCの予測によると、2025年までに世界のコネクテッドデバイスの数が560億台を超えます。また、公共部門と民間部門で使用されるIoTセンサーが急激に増加するのに伴い、生成されるデータの量も指数関数的に増加します。

そうしたデータをローカルで処理して、それをリアルタイムに活用しなければならなくなると、Neaseは指摘します。クラウドに送信せずに、サイトで独自に運用するデータセンターで処理することになるのです。そのため、必要な場所に設置できる、HPE Edge Centerのようなモジュラー型の内蔵ユニットが、さまざまな業界で広く利用されるようになります。

Neaseはこう続けます。「今後3年以内に、小売店、病院、倉庫を含む、すべての運用ファシリティ (企業の運用が物理的に行われるすべての場所) がデータルーム機能を保有し、カメラ、マイク、環境センサーからデータを取得するようになります。こうした小規模なエッジクラウドは、企業の大規模なデータセンターに以前からあるプライベートクラウドに似ていますが、稼働するサーバーは10台ほどです」。

また、多くの組織が、さらにインテリジェントなエンドデバイスを展開するのではなく、データを収集するだけの安価なセンサーを選択します。データはその後、小規模なプライベートクラウドを使用してローカルで処理します。

「この低コストのアプローチでは、パターン認識や赤外線検出が行える安価なセンサーを購入し、ファシリティ内のどこかでソフトウェアを実行します。たとえば大規模な小売企業であれば、3年後をめどに、店舗にこうした仕組みを取り入れることになります。競争に勝つにはそうした対応が必要です」とNeaseは指摘します。

2. インテリジェントなスペースで、スムーズな商取引が可能になる

HPEの子会社、ArubaでCTOを務めるPartha Narasimhanによると、公共の場にあるエッジデバイスが取得したデータから、人々の身元やそこにいる理由などのコンテキスト情報がわかるようになることで、こうしたスペースの設計方法も、人々の関わり方も変わっていきます。

Narasimhanはこう続けます。「現在は、一部のコンテキストがデジタル環境と物理環境に分かれています。その2つが完全に1つになります」。

Narasimhanによると、たとえば、銀行に来店した顧客をスマートカメラが識別して、来店理由をインテリジェントに推測します。顧客が前の晩に銀行のWebサイトで金利を検索していれば、融資担当者は取引状況を画面に表示して顧客を待つことができます。

同じように、クリニックの待合室に入った患者をエッジシステムが自動的に受け付けて、電子医療記録から患者の負担額を確認し、看護師に患者の到着を知らせます。

「治療が進む中で、病院はあなたの身元、住所、使用している資産 (車椅子やX線機器など) を把握します」と、451 ResearchでIoT担当リサーチディレクターを務めるChristian Renaud氏は述べています。「病院は運用コストを低減できますし、患者は早く診断してもらえます。医師は、電子カルテにデータを入力していた時間を、患者を診る時間に充てられるようになります」。

また、オフィス勤務が徐々に再開されると、ビルのエッジシステムが、従業員が職場にいる理由 (同僚と共同で業務を行うなど) を把握するようになります。その日一緒に働く必要のある同僚に応じて、異なるワークスペースを割り当てることもあります。オフィスの設計も大きく変わります。会議室が増えてブースが減り、高性能なビデオ会議システムや、電子ホワイトボードに加え、会話内容をインテリジェントに記録するさまざまな機能が導入されます。

Narasimhanはこう語ります。「人によっては、誰かが、自分のことや、そこにいる理由をすでに把握しているのは、少し気味が悪いと思うかもしれません。しかし、データが、プライバシーを尊重する方法で安全に管理されていれば、気にならなくなります。非常に便利になるので、気にならないのです」。

3. ロボットが私たちを監視し、学習する

Neaseによると、AI搭載カメラがとりわけエッジで応用される分野は、セキュリティ監視でも自動運転車でもありません。その用途は、従業員の業務効率化です。

Neaseはこう指摘します。「コンピュータービジョンを利用して、物理的なオペレーション環境が分析されるようになります。ただし、管理ツールとしてではなく、プロセスを再設計し、それらを効率化する方法を導き出す手段として導入されます」。

Drishtiをはじめとする企業はすでに、FordやHoneywellといった企業向けの手動の組み立てラインでこれを行っており、スマートカメラでプロセスを数値化して品質管理の問題を特定し、従業員のトレーニングを効果的に行っています。

HPEでハイパフォーマンスコンピューティングおよび人工知能担当CTOを務めるDr. Eng Lim Gohによると、ある大手高級車メーカーは、コンピュータービジョンとロボットを利用して職人たちの作業を模倣する方法を研究しています。このメーカーの目標は、人間の作業員を置き換えることではなく、各顧客の要件に合わせて、高度にカスタマイズした特注車を生産できるようになることです。

Gohはこう続けます。「これらのロボットは、人間から学ぶだけでなく、別のロボットからも学びます。複数の国に工場がある場合、学んだ内容を、国境を越えて共有できます」。

4. エッジデバイスが自ら学び始める

現在のエッジデバイスは、クラウドでの訓練の後に、エッジに配信された機械学習モデルを基に意思決定を推論しています。しかし、IoTデバイスのバッテリ寿命が延び、コンピューティング性能も向上しているため、こうしたデバイスが自ら学び始めるようになるとDr. Gohは語ります。

「その場合、デバイスが、収集したばかりのデータから学習できるというメリットがあります。意思決定の遅延を削減できるのです」とGohは続けます。

特定の訓練データを利用することで生じる偏りを防ぐため、エッジデバイスは、複数のセンサーから取得したデータに基づいて学習と分析を行えるようになります。こうしたコンセプトはスウォームラーニングと呼ばれています。Dr. Gohによると、デバイスは、そうしたデータから集めた有益な情報のみを共有するため、データ自体のプライバシーとセキュリティは維持されます。

たとえば、結核患者の多い病院でネットワークに接続されているX線機器が、肺炎患者の多い別の病院との間で、有益な情報を共有できます。両方の病院で肺のX線写真を分析する能力が向上する一方で、患者のデータは共有されません。

「今後も、データソースに限りなく近い場所を目指して、堅牢なコンピューティングや分析機能がますます導入されるでしょう。それは、カメラ、センサー、ドリルプレス、MRI装置など、どのような機器にも言えることです」とRenaud氏は予測しています。

5. 拡張現実と仮想現実が本当の現実になる

今日のARとVRの応用は、最新のコンシューマー向けテクノロジーによって、エンタープライズ環境でもすぐに価値を導き出せることを実証しています。エッジコンピュートとコネクティビティが高度化するにつれ、エクスペリエンスはさらに臨場感あふれるものへと進化し、それらの機器は存在を意識させないものになっていきます。それにより、ARとVRのアプリケーションは、今日では実現不可能と考えられているユースケースにも継続的に使用されるようになります。

エッジのコンピュート能力とストレージ能力が向上すれば、ローカルでキャッシュした画像やビデオを、超低レイテンシの5Gネットワークを介してすぐに提供できるようになります。

Narasimhanはこう予測します。「エッジでは、ユーザーに近い場所でのコンテンツ配信が必要な、ARやVRなどの新たなサービスを提供できます。仮想体験は、簡単で直感的に利用できるレベルにまで強化されます。さらに改良が進めば、ユーザーが仮想世界で簡単に会えるようになります」。

ARとVRの展開は、出張の削減だけでなく、ワークフローの改善、専門知識の需給バランスの調整、カスタマーエクスペリエンス変革を目的として、産業環境や商業環境で広範に行われています。

工場の作業員は、部品を組み立てる際に、ARグラスを使用して3D図面を確認できます。買い物客は、衣料品店に置かれたARミラーを使用して、さまざまな服をコンピューター上で試着できます。ARは医師による普及も考えられます。手術室から1,000km以上離れた場所にいても、遠隔操作で手術できるからです。テーマパークを訪れる人は、ARを利用して、お気に入りのキャラクターの等身大ホログラムと会話できます。

Reticle Researchの主席アナリストであるRoss Rubin氏はこう語ります。「ARによって、従業員がさまざまなデータセットについてよく考え、異なる視点から検討できるようになります。ARは、特定の時間に画面の確認が必要な作業からスタッフを解放する、あらゆる応用技術で役に立ちます。洞察を引き出すための情報の重ね合わせも可能にします。これは本来、その環境では行えないことです」。

6. 深刻なプライバシーの問題がついに解決される

場所を問わず、誰にでもデジタルサービスを提供できるということは、あらゆる場所であらゆる人の行動を追跡できるということでもあります。エッジコンピューティングを最大限に活用したいと考える組織は、こうしたプライバシーの問題を解決する必要があります。

Renaud氏はこう語ります。「この5年間で、50件以上のコンシューマーと企業の調査を行いましたが、プライバシーは常に、最大の懸念事項の1つに挙げられていました。懸命な規制によって、私たちのプライバシーが保たれる程度に、テクノロジーの野心的な利用が抑えられることを願っています」。

たとえばEUでは、データ主権関連の規則によって、情報を保管できる場所が物理的に制限されており、一部の国ではコネクテッドカメラの顔やナンバープレートの映像に自動的にぼかしが入るようにすることが求められています。

基盤となるデータを提供することなく有益な情報を共有できる、スウォームラーニングなどのテクノロジーでは、データ主権に関する懸念を軽減できます。Neaseによると、現在、HPEなどの企業は、ユーザーが自分のデータがどう利用されるのかをより厳しく管理できるようになる、新たなデータ標準の策定に取り組んでいます。

「こうした標準ができれば、ユーザーは、Googleで検索するたびにそうしているように、データの使用を許可するようになると思います」とNeaseは語り、次のように結びました。「とはいえ、プライバシーの問題は誰にも止められません。私たちは今、対応を求められているのです」。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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