2018年6月20日

精度の高い農業で収益向上とリスク低減を実現

え続ける人口を養うために、農業はテクノロジーによって変わりつつあります。農業経営者は、農産物に関するデータを利用して、その価値を高めることができ、栄養素の含有量や持続可能性などを実証できるようになります。

現在、新たな緑の革命が進行中です。ただし、今回その原動力となるのは、より効果的な肥料、優れた耕作機械、収量の多い品種ではありません。スマートセンサーとビッグデータを組み合わせることで、農業経営者は世界の人口増加や食糧難に対処できるようになります。国連食糧農業機関によれば、2050年には、2006年に比べて70%多い食糧を生産することが求められます。

このような動きを、モノのインターネット(IoT)によって推進される「農業4.0」として捉えてみましょう。

たとえば、農業経営者はセンサーを使用して土壌の水分量を監視し、水の使用量をさらに効率化できます。各種のセンサーを活用すれば、詳細な地形図、土壌の酸性度や温度といった重要なデータも入手できます。スマート灌漑テクノロジーで、いつ、どのように作物に散水するかをスケジュールし、IoTシステムで、家畜の健康状態をリアルタイムで確認して飼料を効率よく与えることができるようになります。さらに、IoTテクノロジーで農業機械を監視し、その稼働効率を最大限に高めることができます。

今後必要となる、さらに多くの取り組みが進行中です。農業テクノロジー企業のOnFarm社によれば、標準的な農場では、2050年に平均で1日あたり410万のデータポイントを生成することが求められます。これは、2014年の時点の19万に比べてはるかに多い量です。さらに、BI Intelligenceによれば、農業でIoTデバイスを使用する割合は、2015年から2020年までの間に20%の複合年間成長率で増加すると予測されています。

私たちは、農業の変革にIoTがどのように使用されるかを予測するため、専門家の意見を聞きました。以下に、その内容を紹介します。

 

今日の農業におけるIoTの使用状況

今日の農業では、工業と同じようなやり方でIoTが使用されています。農場は、野外にある大規模な生物学的製造工場と考えることができるからです。農場では、センサーによって作物、天気、土壌に関する膨大な量のデータが集められます。収集されるデータには、土壌の水分量、すべての作物が受け取る正確な水の量、湿度、土壌の塩分濃度、与えられる肥料、作物の生育状況などがあります。このような状況は、製造プラントで重要なすべての統計情報を収集することに似ています。

農業が工業と異なる点の1つは、ドローン、固定翼機、人工衛星といった他の方法で収集されたデータでセンサーを増強できることです。そのようなセンサーで収集されるデータのタイプは多岐にわたっており、その中でもとりわけ重要な情報の1つは画像分析で得られるものだとMick Keyes氏は説明します。彼は業界コンサルタントであり、Hewlett Packard EnterpriseのIoT OEMビジネスの元主任技術者です。たとえば、「ハイパースペクトル画像を活用すると、地表の状態をリアルタイムの画像で確認できます」と彼は説明します。「この画像では、畑の中でさらに水分が必要な場所や、栄養が欠乏しており肥料が必要な範囲、その他の同種の情報を示すことができるので、作物の生育状況を監視して、どのような世話が必要なのかを知るための非常に効果的な手法になります」

ほかのビジネスデータや製造データと同じように、地表のセンサーやハイパースペクトル画像から得られる生のデータは、そのままでは価値がありません。情報が分析され、意思決定で使用されて、はじめて役に立つようになります。たとえば、さらに多くの肥料を与える、散布する水の量を増減する、収穫量を予測する、収穫の時期を見積もるといった事柄について意思決定が必要になります。企業は、農地が特定の作物の生産に適しているかどうかを判断するために、そのようなテクノロジーを導入しようとしています。考慮に入れるべき要素の一部として、水や栄養素の利用可能性、発根の条件、浸食危険度を評価するためです。大手の食品会社は、異常気象、気候変動、国際的な貿易摩擦などの問題が自社のサプライチェーンに悪影響を及ぼす可能性について十分に認識しているため、代わりとなる生産元について世界規模で常に検討する必要があるとKeyes氏は語ります。

農業経営者がIoTから収集するデータは、自分たちの作物を管理できる力となります。農産物にデータを関連付ければ、その価値を高めることができます。たとえば、IoTデータがあれば、作物が持続可能な環境で生産されたことを証明できるため、より高い値付けが可能になるのです。

Adam Wolf、Arable Labs社の創業者兼CEO

 

クラウドやエッジでデータを処理

IoTデータを処理する方法の1つは、センサーのデータをワイヤレスでクラウドに送信し、クラウド上で分析を行うことです。分析結果は農業経営者に送り返され、コンピューターやモバイルアプリを介してダッシュボードで結果を確認することもできます。このようなサービスに取り組んでいるのが、IoT農業のスタートアップ企業であるArable Labs社です。この会社では独自開発のデバイスを使用してデータを収集します。測定対象となるのは、気象情報、日照データ、作物の成長率、栄養素の含有量、含水量、その他の農業に関する重要な情報です。データはクラウドに送信されてArable社で処理され、農業経営者はダッシュボードを通じて作物に関する膨大な量の情報にアクセスできます。

Arable Labs社の創業者兼CEOであるAdam Wolf氏は、「このようなデータがあれば、作物の収穫時期、生育状況、収穫される1エーカーあたりのブッシェル数、作物の品質などの情報を導き出すことができます。さらに、日々の欠かせない作業にも役立ち、特定の害虫に殺虫剤を散布する必要性、使用する肥料の量、今週の灌漑で使用すべき水の量といった情報を把握できます」と語ります。

Keyes氏によれば、データをクラウドに送信せずに処理する方法もあります。データのローカル処理、つまり、エッジコンピューティングを使用するのです。このテクノロジーは、企業では一般的なものになりつつあります。

「農業はマージンベースの産業なので、地表から得られた大量のデータをセルラーネットワーク経由でクラウドに送信し、分析結果を同じ経路で農業経営者に返すような方法は、コストがかかりすぎる場合があります」とKeyes氏は語ります。「そのため、私たちはこれまで以上にエッジコンピューティングに注目するようになっています。この方法では、農場や農業経営者の共同組織の元でデータのローカル処理が行われます」

Keyes氏によれば、エッジコンピューティングのモデルでは、一部の処理はクラウドで、残りの処理はローカルで行われます。「しかし、より大きな目標は、農業経営者がリアルタイムの情報にアクセスして、大量のデータ処理と意思決定のプロセスを農場で完結できるようになることです」

Keyes氏は、最終的にエッジコンピューティングのサーバーが農場の管理で中心的な役割を果たすようになると確信しています。このようなサーバーの役割は、ローカルデータの処理と分析だけではありません。散布量を調整できる肥料や灌漑の設備などの農業機器を直接制御し、農場の設備が正常に動作して適切にメンテナンスされていることを確認します。やがて、エッジコンピューティングのサーバーは農業経営者が正しい判断を下せるようにサポートするだけでなく、そのような判断を自ら実行に移すようになるでしょう。

 

収益向上から始まる農業経営者のメリット

生産高の向上とコスト削減は、IoTによるメリットの一部です。たとえば、OnFarm社の調査によれば、IoTを使用する平均的な農場では、生産高が1.75%増加し、エネルギーコストを1エーカーあたり7~13ドル節約でき、灌漑用の水の使用量を8%削減できます。利益率が低い業界では、このようなメリットによって農場の収益に非常に大きな違いが生じます。

しかし、メリットは生産高の向上とコスト削減にとどまらないとWolf氏は言います。「農業経営者がIoTから収集するデータは、自分たちの作物を自ら管理できる力となります」と彼は続けます。「農産物にデータを関連付ければ、その価値を高めることができます。たとえば、IoTデータがあれば、作物が持続可能な環境で生産されたことを証明できるため、より高い値付けが可能になるのです」

Wolf氏は付け加えます。「将来の生産高について正確な情報を得られると、より良い契約を結ぶことができます。また、どのような肥料や種の組み合わせがもっとも適しているかを自分で判断できるようになり、肥料や種の販売員の言葉をそのまま信じる必要がなくなります。農業経営者のメリットを増やすことができる、数え切れないほどの方法があるのです」

 

現代の農業を支える複雑なエコシステム

自営の農業経営者が独力で世界の食糧供給に役立っているというイメージは、米国の大衆文化に深く根付いています。しかし、特に現代においては、そのような考えの大半は誤りです。銀行、保険会社、種や肥料の販売会社、大手の食品会社、食品小売業、消費者はすべて、複雑な網の目となって現代の農業を支えています。さらに、Wolf氏によれば、IoTはそのような構造において極めて重要で意外な役割を果たします。リスクの管理と軽減に役立つのです。

「現在、農産業のあらゆる関係者はリスクにさらされていますが、IoTはそのリスクを軽減できます」とWolf氏は語ります。「作物を購入する会社は、対象の作物があらかじめ指定された基準を満たしているかどうかを知る必要があります。銀行は農業経営者に融資しているので、作物に問題が起こるとリスクにさらされ、農業経営者も、約束したものを出荷できない場合はリスクを背負うことになります」

Wolf氏は付け加えます。「IoTがあれば、これまで決して入手できなかったような情報が手に入るので、リスクを大幅に軽減できます。作物を購入する会社は、農場から出荷された作物が支払った額に見合ったものであることがわかり、銀行や保険会社は、自らの投資の安全性を認識できます。さらに、農場の管理を大幅に効率化できるようになるため、農業経営者のリスクははるかに少なくなります。IoTを検討するにあたって、生産高の最大化よりもリスク管理に注目することもできるのです」

Keyes氏によれば、農業経営の財政面は複雑な網の目のような仕組みになっているため、IoTは自営の農業経営者だけでなく契約農場でも利用されます。そのような農場では、大手の食品会社が農業経営者と契約し、所定の価格と品質で決まった量の農産物を購入しています。契約農場では、種、肥料、農薬は農業経営者ではなく食品会社によって用意される場合があります。食品会社は多数の農場と契約しており、すべての農産物の品質が一定であることを求めているため、このような大企業は、農業経営者向けのIoTシステムの購入層になり得るとKeyesは言います。

「グローバル企業では、自社のサプライチェーンを効率化しようとしているため、求める品質の生産物を農業経営者から正しいタイミングで確実に入手できる効率的な方法を探しています」とKeyes氏は説明します。「IoTを活用すると、そのようなニーズを満たし、作物の成長サイクル全体を監視できるようになります」

最終的に、消費者はIoTによる農業革命を推進する重要な原動力の1つになるかもしれません。多数の人々が、購入する食品について多くのことを知りたいと思うようになっています。作物が持続可能な環境で栽培されており、家畜は苦痛を軽減するよう扱われているか。本当にオーガニックか。作物を生産するためにどのような農薬や肥料が使用されたか。出荷前に貯蔵されていた期間はどのくらいか。どの程度栄養分に富んでいるか。このような需要に応えるためにIoTを導入できるとKeyes氏は言います。

「IoTがあれば、オレンジ、りんご、じゃがいも、その他の農産物の一つ一つについて、あらゆる情報を得られます」とKeyes氏は説明します。「このような農産物にセンシングテクノロジーを導入すると、消費者は個々の農産物をスマートフォンでスキャンして、求めている詳細情報をすべて得られるようになります」

医療産業も、農業で使用されるIoTのメリットに興味を持つようになっています。「現在、医療産業で起こっている大きな動きは、薬と健康管理のパーソナライズを目標としています」とKeyes氏は言います。「食品に高度なセンサーテクノロジーを導入することは、人の健康にとって重要なファクターになります。健康管理の専門家が、人々が口にする食品について、その化学成分にいたるまで詳しい情報を入手できるようになり、個人の健康面の特徴と関連付けることができれば、パーソナライズ医療を実現する薬の開発を目標とすることができます。さらに、その「薬」は食品になるかもしれません」

このような分野の新たな領域では、人の健康の分析と新しい作物や食品の開発に遺伝子編集テクノロジーを使用できます。この領域には大きな可能性があるとKeyes氏は付け加えます。

 

保守的な業界へのIoT導入

これまで説明してきたような多くのメリットがあるにもかかわらず、なぜIoTは農業での普及が進まないのでしょうか。理由の1つに、農業が非常に伝統的な産業であることが挙げられます。「新しい種、新しい肥料、新しいトラクターが次々に利用できるようになっていますが、農業経営者は生活がかかっているため、新しい手法にすばやく切り替えることに積極的ではありません」とWolf氏は言います。「そのため、農業を変革するには、ある程度の時間がかかります。多くの成功例が必要であり、農業経営者は同業者の取り組みに注目しています」

一方で、Wolf氏とKeyes氏はいずれも、農業でIoTが普及するのに時間はかからないだろうと信じています。このテクノロジーはすぐに利用することができ、確固としたニーズがあるためです。「さらに多くの食料を生産する必要がある世界で、農業経営者は持続可能性と収益の両方の目標を達成したいと考えており、消費者は、倫理的な方法で生産され、味と栄養価が優れた食品を求めています。農業におけるIoTの導入は必然的な流れなのです」とWolf氏は語ります。

 

農業におけるIoT: リーダーへの教訓

  • 増え続ける世界の人口を養うために、2050年には2006年より70%多い食料を生産する必要があります。
  • エッジコンピューティングを使用すると、データのローカル処理が農場内で完結するのでコスト削減に役立ちます。この特徴はマージンベースの業界にとって重要なメリットです。
  • 最終的に、消費者はIoTによる農業革命を推進する重要な原動力の1つになるかもしれません。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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