2019年1月17日

AIテクノロジーの特許出願が急増

これまで実現に取り組んできた新しいAIテクノロジーのアイデアは、特許を出願すべきなのでしょうか。特許ポートフォリオを所有していないよりは所有している方がよいと言うエキスパートもいれば、量より質を重視することを勧めるエキスパートもいます。この記事では、そうした決定を下すときに検討すべきポイントを紹介します。

近年、大手テクノロジー企業をはじめとするインベンターは、膨大な数のAI関連の特許の取得に力を注いできました。その結果、一部の小規模企業や特許にそれほど重点を置いてこなかった企業は、この新しいテクノロジーの市場から締め出されてしまうのではないかと頭を悩ませています。 

最近実施された全米経済研究所の調査では、AIと機械学習に関する特許の出願数が2000年台の初頭から急増していることが明らかになりましたが、人間の脳の学習プロセスをモデルとするコンピューティングシステムである、ニューラルネットワークに関連する特許の出願でも同じような傾向が見られます。

2004年の時点でわずか58件だった米国の機械学習関連の特許出願数は、2011年には197件に急増しました。その後この数は、2016年に594件にまで増えましたが、米国特許商標庁(USPTO)が登録後18か月で特許出願書類を公開することになったため、さらに増加すると思われます。 

ニューラルネットワーク関連の特許の出願は、それほど劇的には増えていませんが、近年もかなりの増加が見られ、1990~2008年の出願数は、年間100~200件とかなり堅調でした(2015年には346件、2016年には485件に急増しました)。

 

豊富な資金を持つ大手ベンダー

ただし、特許の多くは大手テクノロジーベンダーが取得しており、この調査の報告書によると、上位10社に含まれるテクノロジーベンダーが2000~2015年に取得した機械学習の特許は、Microsoft社とMicrosoft Technology Licensing社が合計206件、IBM社が117件、Google社が66件、Amazon Technologies社が37件となっています。

ニューラルネットワークに関しては、この15年の期間にIBM社が112件、Google社が78件、Microsoft社とMicrosoft Technology Licensing社が71件の特許を取得しています。

最近では、一部のテクノロジー企業が競合企業に対抗するための手段として特許訴訟を利用しており、それがAIユーザーの悩みの種となっています。

これについて、デジタルトランスフォーメーションのコンサルティングを行うCulminate Strategy Group社の社長であるKarrie Sullivan氏は、次のように述べています。「新興企業の創設者である私は、特許出願のための豊富な資金を持ち、私に多額の訴訟費用を負わせることで現状を維持しようとする大企業から訴訟を起こされることを常に恐れています。このような企業は、特許訴訟、規制、ロビー活動などで私を葬り去ることができるのです」。

Sullivan氏が経営するもう1つの企業は、雇用者医療市場向けのAIとブロックチェーンテクノロジーの開発に取り組んでいますが、「今の時点では50件の特許を出願して知的財産を守るための資金がないため、優先順位を決めなければならない」、と同氏は述べています。

それでも同氏は、AIの未来とイノベーションの機会について楽観的な考えを持っており、AIと他のテクノロジーを組み合わせることができる「余地はまだ十分」にあると語っています。

 

AIの領域には手付かずの機会が豊富にある

またSullivan氏は、次のように付け加えています。「AIについては、まだ実際に検討を進めておらず、活用もしていません。人間が価値の低いタスクに縛られている限り、私たちは、将来の特許出願につながるであろう人間の可能性の限界や新しい経済モデルを本当の意味で理解することはないでしょう」。

他の特許やAIのエキスパートは、AIの特許の取得を急ぐことでもたらされる可能性がある悪影響を重要視しておらず、2011年に連邦議会が米国特許改正法を可決したことで、企業は競合企業の特許に異議を申し立てやすくなりました。また、2014年の最高裁の事例により、企業がソフトウェアの特許を取得するのがさらに難しくなりました。

それに加え、エンタープライズAIベンダーのCoseer社のCEOであるPraful Krishna氏によると、AIの特許自体は必ずしも使用可能なAIテクノロジーになるとは限らず、優れたAIシステムには、基本的なアルゴリズムだけではなく、データサイエンティストのチームや多数の関連データが含まれます。

これについて、同氏は次のように述べています。「特許訴訟で何が起きるのかを予測することはできませんが、現在出願されているAIの特許の多くは、今後使い物にならないということがわかると思います。AIソリューションの真の価値は、ほとんどの場合、テクノロジーのイノベーションによってもたらされることはありません」。

同氏によると、AIを使用している企業の大部分は、パズルの最も重要なピースであるデータをすでに保有しており、「企業は、市場から締め出されてしまうのではないかという懸念を抱かなくて済むよう、それぞれがAI戦略を策定して優秀なベンダーと連携し、独自のソリューションを開発する必要があります」。 

小規模企業には特許ポートフォリオも必要

準大手の企業や小規模企業は、革新的なAIテクノロジーを大企業に譲ってはならない、と他のエキスパートは述べています。

法律事務所のHarness Dickey社で知財弁護士として働くJoe Lafata氏は、AIユーザーは異議を申し立てて特許を取り消させることに重きを置くべきではないと述べるとももに、小規模企業は独自のAIテクノロジーの開発に注力すべきであると助言しています。

同氏によると、小規模企業が独自の革新的なAIテクノロジーを開発すれば、ニッチ市場への参入の機会がもたらされる可能性があるだけでなく、特許を取得したAIの発明を他のAIベンダーとのライセンス取引や法的交渉の切り札として使用し、「御社のテクノロジーを使用できるのであれば、当社のテクノロジーを使用してもらってもかまわない」という昔からよくある条件を出すことができます。

また同氏は、次のように述べています。「特許ポートフォリオを所有しているに越したことはありません。特許ポートフォリオを所有していれば、特許の権利を主張しようとしてくるかもしれない大企業に対して、ある程度強い力を持てる可能性があり、無謀な戦いに挑む必要がなくなります」。

テクノロジーに関して助言を行う、新興企業のGood Robot社の創設者であるAlan Majer氏は、特許をトレーディングカードのようなものだと考えるべきであるとしたうえで、次のように語っています。「自らが締め出されないようにするための強い手札が必要です。出願中のAIの特許の多くは、すでに防衛手段として利用されているのではないかと思います」。

そして小規模企業は、AIシステムに対する自社の取り組みを見落としてはならない、と同氏は付け加えています。小規模企業が2年間AIテクノロジーの開発に取り組んだ場合、その中で1つか2つの発明が生まれる可能性があり、同氏は、「企業がAIを応用するのに必要な手段を持っていた場合、それはAIの領域でイノベーションを実現するのに必要な手段があるということになると思う」と述べています。 

大企業が特許の量を重視する一方、小規模企業は発明の質を重視すべきであり、これについてLafata氏は、「予算が限られている場合、小規模企業は特定のデバイス、または問題を解決するための特定のソリューションに関して、必ずしも10~15件の特許を出願できるとは限らないが、2~3件なら可能である」と述べています。

法律事務所のKnobbe Martens社で知財弁護士として働くLauren Hockett氏は、AIの特許が少数の大企業に集中することを懸念してはおらず、次のように語っています。「私が携わる業務では、どの企業も機械学習を活用するための新たな方法を調査しています。その数は非常に多く、規模の大小も関係ありません」。

ただし、特許申請のコストは、数万ドルに達することが少なくないため、一部のAIユーザーはそのプロセスを完全に避けなければならないことがある、と同氏は付け加えています。そのため企業は、特許を出願するかどうかを決定する前に市場分析を行う必要があります。

特許出願のもう1つのマイナス面として、同氏はインベンターが発明を公開する必要がある点を挙げており、AIのインベンターは、場合によってはテクノロジーを保護するために企業秘密に頼らなければなりません。

Majer氏は、独自のイノベーションを開発するだけでなく、他社と連携するようAIユーザーに提言しています。また、いくつかの既存のプロジェクトではAIツールに自由にアクセスできると述べたうえで、次のように語っています。「制限を受けることなくイノベーションを実現し続けるには、こうしたプロジェクトを支援して利用するのが最適です。また、すべての組織がイノベーションの可能性を断ち切らないようにするために、同じ目的を持った組織と連携し、オープンソースツールや共有プラットフォームを利用(あるいは構築してプロジェクトに貢献)すべきです」。

注記: ここで述べた調査では、特許の情報源としてIFI CLAIMS Patent Services社の特許データベースが使用されました。このデータベースには、USPTOの大容量ファイルから取得した、2018年2月までに公開された米国のすべての特許文献の全文が含まれています。詳細については、調査結果をダウンロードしてご確認ください。

AIの特許: リーダーのためのアドバイス

  • 近年、米国ではAI関連の特許の出願数が急激に増加しています。
  •  小規模企業は、独自のAIテクノロジーを開発することにより、他社の特許が原因で市場から締め出される事態を回避できます。 
  • 特許を出願することにより、企業は他の特許権者に対して強い力を持てる可能性があります。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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