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2021年1月15日

電池の次の時代へ: 新しいテクノロジーがエネルギー貯蔵を推進

エネルギー貯蔵の発展には電池が大きな役割を果たしていますが、エネルギー貯蔵テクノロジーの可能性を最大限に高めるうえでは、電池以外のイノベーションの貢献も目立っています。今回は、明るい未来につながる3つのテクノロジーをご紹介します。

深刻さを増す気候変動の中で、太陽、風、波、地熱などの代替エネルギー源が注目を集めています。しかし、焦点はこれらのエネルギー源を活用してエネルギーを生成する方法から、生成したエネルギーをどのように貯蔵するかに移っています。貯蔵によって、再生可能エネルギーの力を最大限に引き出せるためです。

現在、エネルギー貯蔵をけん引しているのはリチウムイオン電池です。その開発者は、2019年のノーベル化学賞を受賞しました。「リチウムイオン電池は、電子を持ち運び可能にすることで、その使い方を根本から変えました。そのことがもたらした興奮は収まる様子を見せません。リチウムイオン電池によって、電気自動車のさらなる商業化が可能になるでしょう。電気自動車は、メンテナンスとパフォーマンスの観点から魅力的です」と、ノースカロライナ州立大学の物質理工学部助教授、Veronica Augustyn氏は言います。しかし、リチウムイオン電池にも短所はあります。リチウムの採掘に伴う環境的影響、電池の経年劣化、リサイクルに関する課題などです。

リチウムイオンはエネルギー貯蔵の発展への道を作ってきたかもしれませんが、他のテクノロジーも、エネルギーの変換と貯蔵の明るい未来への道を少しずつ切り開いています。ここで紹介する3つのテクノロジーは、革新的で、これまでとはまったく異なるアプローチでエネルギー貯蔵を刷新しようとしています。

 

水素、その固形、ドローン

水素にはエネルギー貯蔵の大きな可能性があります。国際エネルギー機関 (IEA) は、水素が「軽量で、貯蔵可能で、エネルギー密度が高く、直接的に汚染物質や温室効果ガスを排出しない」と書いています。

従来の水素貯蔵の手法は、水素ガスを高圧下で圧縮します。しかし、このプロセスには安全面での懸念がつきまといます。「水素は最も小さな分子であり、圧縮してガス分子としてシリンダーに貯蔵すると、何らかの形で漏れてしまう可能性があります」と、H2GO Powerの創設者でありCEOであるEnass Abo-Hamed氏は言います。水素は簡単に発火し、可燃性も非常に高いため、漏れやシリンダーの損傷が起こると危険です。

この安全性の懸念を緩和するために、Abo-Hamed氏は、英国のケンブリッジ大学で化学の博士課程の研究の一環として、水素を固形で保存できる、高度に多孔質なナノ粒子ベースのスマート素材を開発しました。この素材はスポンジとして機能し、室温で水素を吸収して貯蔵します。貯蔵された水素は、加熱することで燃料電池にリリースされ、電気に変換されます。「そのため、漏れや圧縮のコストについて心配する必要がなく、適切なエネルギー密度で十分な量の水素を貯蔵できます」と彼女は言います。

Abo-Hamed氏の発明は、H2GO Powerのテクノロジーの基盤となりました。このスタートアップ企業は現在、固形での水素エネルギー貯蔵を大量のエネルギー貯蔵だけでなく、ドローンの動力供給にも活用しています。

「エネルギー貯蔵分野の多くの人間にとって、ゴールは常に化石燃料の先へ進むことでした。私は、電力を大量に生成および貯蔵する方法を改善するための出発点として、エネルギー貯蔵を捉えています」
ノースカロライナ州立大学物質理工学部助教授、VERONICA AUGUSTYN氏

「去年私たちは、ドローンに搭載した3Dプリントの水素貯蔵システムを飛ばすことに初めて成功しました。ストレージリアクターと燃料電池をつないだのです」とAbo-Hamed氏は言います。「それによって、ドローンが空を飛ぶための動力を供給できます」

普通、ドローンの動力には通常の電池が使用されますが、長い時間ドローンを飛ばすには大きな電池が必要です。しかし、そのような電池はドローンには重すぎる場合があります。H2GO Powerのコンパクトな水素貯蔵システムは、ドローンの離陸重量の制限内に収まり、より多くのエネルギーを供給できるため、ドローンは長い時間空を飛び、より重い積載物を運ぶことができます。

H2GO Powerの固形水素エネルギー貯蔵は、リチウムイオン電池に取って代わる可能性のある技術に思えるかもしれませんが、より大きな視野で、大規模に適用できるエネルギーの再生システム、貯蔵システムを開発している企業もあります。

 

道路、車両、運動エネルギー

車両のエネルギーを吸収するスピードバンプ (自動車を減速させるための路上の隆起) のように、Constructisは道路の車両から運動エネルギーを集めます。

創設者でありCEOのJim Nigg氏は、1994年にワシントン州運輸局で工事技術監視官の仕事をしていたときにこのアイデアを思いつきました。「運輸局が交換した、州道99号線沿いのシアトル・タコマ国際空港近くの橋梁に設置されたエキスパンションジョイントの調査に、上司の命令で向かいました」とNigg氏は言います。「評価と書類作成が終わった後、私は道路脇に立って考えていました。このジョイントはどれほどのエネルギーにさらされているのだろう。この無駄にされているエネルギーを集めることができたらどれほどいいだろう、と」

20年以上経って、Nigg氏とそのチームはこのアイデアを実現させました。ConstructisのRoadway Energy X (REX) プラットフォームは道路の下に設置され、路面にはゴロゴロ動く複数の横棒が頭を出しており、自動車がその上を通ると横棒が前方向に回転します。車両の運動と質量は電気に変換され、蓄電池群に貯蔵されます。余剰の電力は送電網に供給されるか、交通システムに使用されます。

「弊社のREXプラットフォームは、走行している車両のエネルギーの2~20%を集めることができます。また、車両分析、通信、リモートモニタリングの機能はますます改善されています」とNigg氏は話します。貯蔵されたエネルギーは、ガソリンスタンドや料金所などの道路および関連インフラストラクチャに電力を供給するために使用できるだけでなく、緊急時に送電網を通じて政府組織や民間組織に電力を供給できます。

 

積み上げたレンガ、クレーン、重力

国際エネルギー機関によれば、揚水式貯蔵発電所は「下の貯水池から上の貯水池にポンプで汲み上げた水を使用」し、それを「上の貯水池からタービンを通して下の貯水池に戻すことで電気を生成」します。このメカニズムからインスピレーションを得たEnergy Vaultは、同様の規模の設備を経済的なコストなしで、また生息環境の破壊や、ダムによって作られる貯水池から排出される温室効果ガスのような環境問題を発生させずに構築したいと考えました。

同社が、120~160メートルの高さのクレーン、35トンの重さの合成レンガ7,000個、そして重力によって揚水式貯蔵発電所の仕組みを再現できるとしたらどうでしょうか。これらは、Energy Vaultの重力エネルギー貯蔵システムを構成する重要な要素です。このシステムは余剰な風力または太陽エネルギー、またはその他のあらゆるエネルギー源を使用してクレーンを動かし、レンガを持ち上げて積み上げます。

「レンガの中に電子が貯蔵されているわけではありません」と、Energy Vaultの共同設立者でありCEOであるRobert Piconi氏は説明します。「重量のあるものが高いところに積み上げられていることが重要です。その高さでは、すべてが潜在的なエネルギーとなります。これは古典物理学の基本です」

送電網に電力を供給する場合は、クレーンが連続的にレンガを降ろします。高い場所にあった潜在的なエネルギーが、レンガを降ろすことによって生まれる運動エネルギーに変換され、その運動エネルギーがモーターを回し、電力が生成されて送電網に供給されます

このシステムは送電網からの供給および要求信号に応答して、いつレンガを積み上げ、いつ降ろすかを認識します。送電網に余剰な電力がある場合、レンガを持ち上げて積み上げるようにAI駆動のクレーンに命令が出されます。送電網が電力を必要としている場合は、レンガを降ろすように命令が出されます。マシンビジョンによって、システムはレンガを配置する正確な位置を認識できます。さらにAIが、突風、ケーブルの伸長、クレーン自体の傾きなど、クレーンの動きに影響を与える可能性のある要因を計算し、動きを調整します。

蓄電池とは異なり、Energy Vaultの重力ストレージシステムは経年劣化しません。「30~40年稼働しても、貯蔵容量に劣化はありません。基本的に、積み上げて長い年月使用できるレンガを利用しているからです」とPiconi氏は言います。同氏によれば、コストも利点の1つです。同社の貯蔵コストはキロワット時あたり5セントです。Energy Vaultにとって、環境的な持続可能性も重要です。そのため、同社は合成レンガを作るためにフライアッシュ、コンクリートのがれき、採鉱によって発生する尾鉱、レンガの塔を作るために掘り起こした地面の土などの廃棄材料を使用しています。

2020年7月、Energy Vaultは、スイスで商用デモンストレーションユニットを完成させました。これは、スイスの電力系統に接続された重力エネルギー貯蔵システムです。このシステムは現在、最終的な試験の最中です。

 

エネルギー貯蔵の時代

これらのプロジェクトはまだメインストリームではなく、それぞれが解決するべき一連の課題を抱えています。H2GO Powerの固形水素エネルギー貯蔵には資金調達と市場投入時間、Constructisの道路エネルギープラットフォームには収益化と販売推進、Energy Vaultの重力エネルギー貯蔵には大規模運用と需要への対応という課題があります。しかし、これらの革新的なテクノロジーの出現は、エネルギーの変換と貯蔵の時代への明るい幕開けです。

「エネルギー貯蔵分野の多くの人間にとって、ゴールは常に化石燃料の先へ進むことでした」と、ノースカロライナ州立大学のAugustyn氏は言います。「私は、電力を大量に生成および貯蔵する方法を改善するための開始点として、エネルギー貯蔵を捉えています」

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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