2021年1月15日
新しいテクノロジーが場所を問わずインターネットを高速化
低帯域5G、低軌道 (LEO) 衛星インターネット、DOCSIS 3.1、G.fastという4つの新しいテクノロジーにより、もうすぐかつてないスピードが実現します。
自宅で高速のインターネットを利用できることは常に重要視されています。高速インターネットのゴールドスタンダードである光ファイバーがあれば、そのための準備は整いますが、多くの地域ではまだ、コストが原因で光ファイバー接続が導入されておらず、近いうちに導入されることもなさそうです。
しかし幸いなことに、低帯域5G、低軌道 (LEO) 衛星インターネット、DOCSIS 3.1、G.fastという4つの新しいテクノロジーにより、もうすぐかつてないスピードが実現します。
私たちにはできる限り高速の接続が必要なため、これは朗報です。しばらくの間は在宅勤務が標準になる可能性があり、スタンフォード大学の経済学者であるNicholas Bloom氏は、「現在では、米国の実に42%もの労働者が終日在宅勤務をしている」と述べたうえで、「私たちが従来のオフィスに戻ることはない」と付け加えています。
リモートワークが普及
Bloom氏の言っていることは間違いではありません。Bloombergによると、Google社のCEOであるSundar Pichai氏は、10月から場合によっては年末まで、Googleの従業員はリモートワークをする準備ができていると述べています。その発言を受け、同社の広報担当者は、大部分の従業員が2021年まで在宅勤務をする予定にしていると発表しましましたが、こうしたスタンスを取っているのは、同社だけではありません。
最近スタンフォード大学、Atlanta Federal Reserve、およびシカゴ大学が実施したSurvey of Business Uncertaintyによると、多くの雇用主が、従業員の20%が当面在宅勤務を続けると見ていることがわかりました。
リモートワーカーが在宅勤務をスムーズに行うには、当然のことながら、できる限りインターネットブロードバンドを導入する必要があります。一般的に、インターネットサービスプロバイダー (ISP) はこうした需要に対応しており、グローバルなエンタープライズインターネット分析企業であるThousandEyes社によると、Comcast社やAT&T社の回線でいくつか局所的な障害が起きているものの、インターネットバックボーンなどの高度な接続によってブロードバンドのニーズは満たされています。
ただし、ラストマイル (ユーザーとローカルISP間の距離) は別問題です。
インターネットのパフォーマンスをエンドユーザーに
連邦通信委員会 (FCC) は、ブロードバンドを下り25Mbps、上り3Mbpsと定義しており、その数値からすると、住宅の固定接続の3分の1はそれより低速です。また別の調査によると、FCCはあまりにも楽観的であり、BroadbandNow社の調査でFCCのデータを確認したところ、「4,200万人のアメリカ人が有線または固定ワイヤレスブロードバンドにアクセスできない」ことがわかりました。さらに、Microsoft社が顧客のインターネットの使用状況を調査したところ、「1億6,280万人がブロードバンドの速度でインターネットを使用していない」ことが判明しました。
問題の1つとしては、大都市、その郊外、または主要な大都市圏に位置する地域から離れると、高品質のインターネットブロードバンドを利用できないことが挙げられます。光ファイバーは素晴らしいものですが、その導入コストが多くの地域で普及を阻む要因となっており、実際、一部の地域では、2020年の今でもDSL、モデム、そして昔ながらの衛星回線だけが使用可能なインターネット接続となっているのが実情です。
既存のテクノロジーのパフォーマンスは、最近まで2010年台と同レベルのままでしたが、今では、場所にかかわらず大幅にスピードを向上させる、新しいネットワークのアプローチが導入されつつあります。
BroadbandNow社の調査によると、4,200万人のアメリカ人が有線または固定ワイヤレスブロードバンドにアクセスできません。
5Gファミリー
ギガビット毎秒の速度を実現するミリ波 (mmWave) 5Gが注目を一身に集めていますが、オフィスや自宅の接続では、600MHzのスペクトル帯域で動作する低帯域5Gがより重要になってくるでしょう。mmWave 5Gは、数十メートルの範囲しかカバーせず、窓ガラスさえも通り抜けないため、ラストマイルではなく、オフィスや自宅の接続で使用されるWi-Fi 6と競合することになると思われます。
低帯域5Gは、4G LTEやその他のワイヤレスネットワークよりはるかにカバレッジが広く、1つのアンテナで数百平方マイルをカバーできます。またパフォーマンスにばらつきはありますが、通常は少なくとも、4G LTEと同じように20Mbpsを超える速度となっており、最大250Mbpsの通信が可能です。
現在のところ、低帯域5Gをサポートしている米国内の企業はT-Mobile社だけですが、同社は今後3年以内に5Gサービスを展開し、米国のコンシューマーの97%をカバーすることを約束しています。さらに、今後6年以内に50Mbps以上の速度ですべてのアメリカ人の99%を、また100Mbps以上で米国の90%をカバーする計画を立てています。
T-Mobile社の5Gの使用料は、1か月あたり60~85ドルとなっており、AT&T社は、1か月あたり75ドルの追加プランの一部として5Gプランを提供しています。
LEOインターネット
衛星インターネットは、数十年前からあるテクノロジーであり、最初のコンシューマーリリースからパフォーマンスは向上してきましたが、今もなお問題があります。HughesNet社とViasat社の衛星インターネットは、静止軌道によって最大で下り25Mbps、上り3Mbps、そして平均550ミリ秒のレイテンシを実現していますが、ビデオ会議やリアルタイムアプリケーションで利用するには十分ではありません。
一方、SpaceX社のStarlinkのLEOインターネットは、カナダと米国の大半をカバーする、はるかに高速かつ低レイテンシのインターネットを実現することを約束しています。LEO衛星インターネット企業は他にもありますが、7月までに422基の衛星を軌道に乗せたStarlink社は、群を抜いています。また同社は、その年のうちにベータテスターに門戸を開きました。
では、それはどれほど高速なのでしょうか。SpaceX社によると、Starlinkの速度は1秒あたり1ギガビット、レイテンシは25~35ミリ秒になると見られていますが、アップロードの速度がどの程度になるのかについては、まだ同社から発表されていません。
Starlinkがベータから本稼働に移行したら、SpaceX社は少なくとも100万ユーザー分の端末を導入する計画を立てています。この端末には、直径0.48mの平らなディスクが搭載されており、Starlink社とSpaceX社のCEOであるElon Musk氏は、それが「棒の上に乗った小さいUFO」のように見えると述べています。またこれらの端末のアンテナは、自動的に向きを変えて最適な衛星信号を受信します。
ただし、すでに高速のケーブルや光ファイバーブロードバンドが導入されている地域ではStarlinkを利用できない可能性があり、SpaceX社は、「Starlinkは、アクセスが不安定、高額、または不可能な場所に高速ブロードバンドインターネットを提供するものになる」と公言しています。もちろんこれに関しては、Musk氏が従来のISPと競合することを決定すれば変わる可能性があります。
Starlinkの使用料は、1か月あたり約80ドルになると見込まれています。
従来の信頼できるテクノロジーの速度も向上している: ケーブルとDSL
ケーブルに関しては、新しいData Over Cable Service Interface Specification (DOCSIS) 3.1によってスループットが向上しています。DOCSISは、ケーブルインターネットの基本的な規格であり、年月とともに速度が向上してきました。
今日では、広く導入されているDOCIS 3.1によって、ダウンロードでは10Gbps、アップロードでは1Gbpsの速度が実現されており、実際、DOCSIS 3.1を使用するケーブルISPでは、下りと上りがそれぞれ、最高で940Mbpsと35Mbpsとなっています。また、従来のDOCSIS 3.0モデムを使用するいくつかのプロバイダーでも同じような速度を実現できます。DOCSIS 3.1モデムには、DOCSIS 3.0との下位互換性があるため、ISPがまだ3.1をサポートしていなかったとしても、現在のプランでこれらの新しいモデムを使用することが可能です。
まだDOCSIS 3.0を使用しているのであれば、現在のISPの利用可能な速度とケーブルモデムの仕様を詳しく調べるべきです。DOCSISの実装は当初、データのダウンロード用とアップロード用として、それぞれ1つのチャネルしかサポートしていませんでしたが、この規格では現在、複数のチャネルを束ねることができるため、ブロードバンドの全体的な速度が向上します。
たとえば、8x4モデムであるNetgear社のDOCSIS 3.0 N600 Wi-Fiケーブルモデムルーターは、最大8個のダウンストリームチャネルと4個のアップストリームチャネルをサポートしており、それは実際のところ、343Mbpsの高速通信が可能であることを意味します。ただし、これはどのケーブルモデムとインターネット接続にも言えることですが、ISPがそれらをサポートしていなければ、そのような速度になることはありません。
最新世代のDOCSIS 3.1ケーブルモデムであるMotorola社のMB8600、ARRIS SURFboard SB8200、およびNetgear社のCM1000では、速度は理論上最大10Gbpsになりますが、実際のところ、1Gbpsを超えることはありません。ただしこれらはすべて、32x8のチャネルボンディングをサポートしているため、ISPがまだDOCSIS 3.1を提供していなかったとしても、ギガビットレベルのダウンロード速度になる可能性はあります。
DOCSIS 3.1は、かなり前の2013年に規格として承認されましたが、ケーブルインターネット企業がそれを展開するまでには、非常に長い時間がかかりました。その理由は、地域のインターネットと国中のインターネットバックボーンを接続するのに必要となる、バックエンドの機器 (ケーブルヘッドエンド) のアップグレードと高速ファイバーの提供に数年の作業と数億ドルのコストを要したからです。
また今では、DOCSISの新しいさらに高速のバージョンであるDOCSIS 4も登場しようとしています。この新たに承認されたバージョンは、最大10Gbpsのダウンストリーム速度、そしてDOCSIS 3.1のアップストリーム速度の4倍となる最大6Gbpsのアップロード速度を実現しますが、DOCSIS 3.1が展開されるまでに要した期間と既存のケーブルインフラストラクチャでDOCSIS 4.0を使用するうえでの技術的な問題を考えると、2020年の終わりまでに広く導入されることを期待してはなりません。
DOCSIS 3.1の価格はさまざまですが、ハイエンドのものだと、1か月に100ドルを超えることもあります。
Fastではなく、G.fast
多くのユーザーにとっては、ダウンロードとアップロードの速度がそれぞれ3Mbpsと256Kbpsのデジタル加入者回線 (DSL) が「高速」インターネットの始まりでしたが、年月とともにケーブルテクノロジーが進化して、ダウンロード速度が最大5~35Mbps、アップロード速度が最大1~10Mbpsとなり、DSLは後塵を拝しました。しかし地方では今もなお、DSLが唯一のブロードバンドオプションとなっています。
今日では、DSLはAT&T Internet社、CenturyLink社、Frontier社などの電話会社によって提供されており、既存の銅線の電話回線を利用しています。DSLは、残念ながら他のオプションよりかなり低速ですが、G.fastのおかげで息を吹き返す可能性があります。
G.fastは、新たなアプローチで古い銅線を有効活用します。従来の周波数分割多重 (FDD) 方式のDSLテクノロジーとは異なり、時分割多重 (TDD) 方式を採用しているG.fastは、その言葉の枠を超えて、1980年台のネットワークテクノロジーでは素晴らしいレベルであった、150Mbps~1Gbpsのブロードバンドのニーズに対応するようになると見られています。
ただし、そのような速度には代償が伴い、従来のDSLテクノロジーなら2マイル (3km強) のネットワーク接続が可能ですが、G.fastでカバーできる範囲は、わずかに約1,200フィート (350m強) です。
さらにそのために、G.fastはインターネットへの主接続を光ファイバーに依存しているため、DSLを使用する地方のユーザーは、ほぼ確実にG.fastの恩恵を受けられません。なお、AT&T社やFrontier社などのG.fastを導入している主な企業は、高速インターネットでマンション、オフィス、アパートなどを接続するための手段としてのみG.fastを利用してきました。
英国では、G.fastが大規模に導入されつつあり、同国のISPであるOpenreach社とそのパートナー企業は、G.fastを広範囲に導入しています。さらに、米国のISPはこれから、市街地と住宅のファイバーのギャップを解消するための安価な手段としてG.fastを取り入れる可能性があります。
利用できる場合、G.fastの価格は70ドル程度となっています。
最新の接続
長い目で見て、これらのテクノロジーのどれが生き残る (可能性がある) のかはわかりません。私たちは、数十年にわたって多種多様なラストマイルのインターネット接続を使用してきましたが、どのテクノロジーによってもそれが変えられることはないでしょう。これらのテクノロジーは、それぞれが新しく、そして多くの場合により高速のオプションを提供してくれますが、総合的に見ると、どのテクノロジーもこの上ないタイミングで登場しているのではないかと思います。
この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Steven Vaughan-Nichols
Vaughan-Nichols & Associates社CEO、49件の記事
(sjvnとしても知られる) Steven J. Vaughan-Nichols氏は、CP/M-80が最先端のPCのオペレーティングシステムであり、300bpsが高速インターネット接続だった頃、そしてWordStarが最新のワープロであり、それが人気だった頃から、テクノロジーやテクノロジービジネスに関する執筆を続けています。同氏の著作は、ハイテク関連の出版物 (IEEE Computer、ACM NetWorker、Byte) やビジネス関連の出版物 (eWeek、InformationWeek、ZDNet) から、人気のテクノロジー雑誌 (Computer Shopper、PC Magazine、PC World) や主要な新聞 (Washington Post、San Francisco Chronicle、Businessweek) に至るまで、あらゆる媒体で公開されています。
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