2019年10月25日
組織の人員-クラウドにとって最も手強い障害をナビゲートする
この記事でご紹介するシンプルなモデルでは、クラウド導入プログラムで直面する組織の障害と、導入の成功に必要なソリューションを定義できます。
同じストーリーが企業内で何度も繰り返されています。人とプロセスが、クラウド導入の足かせになっているのです。原因の1つは、私たちクラウド技術者が、純粋なテクノロジーソリューションに賛同しがちなことにあります。私たちは、自分の設計が持つ力に非常に自信があります。オンデマンドかつAPI主導型のクラウドインフラストラクチャがもたらす明らかな利益に、あえて疑問を呈することはありません。
残念ながら、「導入すれば何とかなる」と進められ、失敗に終わった多くのプロジェクトを、私たちの誰もが知っています。では、なぜ、アジリティとスピードを約束するクラウド導入プログラムのほとんどが滞るのでしょうか。私たちが気付いたのは、最も一般的な「障害」に対処するためのリソースが、クラウドイニシアチブの大部分で十分に費やされていないことです。「障害」とは、技術やプロセスの変化に抵抗しようとする、人々の自然な反応です。彼らは、変化を妨げようとさえします。
人々は、なぜクラウドに抵抗を持つのか
結論を言えば、クラウドが変革を伴う技術だからです。クラウドによって、大規模エンタープライズでこれまで果たしてきた役割と責任という、技術者の現状が脅かされます。また、企業は、新たな枠組みを採用して、インフラストラクチャの消費とプロビジョニングに対応しなければなりません。まったく新しい一連のサービス機能の構築が必要になることで、新たなプロセスと人材の採用を余儀なくされます。インフラストラクチャで重要なのは、もはや、物理的な資産でも、運用とサービスの管理でもありません。クラウド時代のインフラストラクチャでは、ソフトウェア設計と開発管理が重視されるのです。
大規模なクラウドイニシアチブでは、まったく新しい一連の技術が導入されます。そのため、担当者は、スキル向上や新たなスキルの取得を求められます。たとえば、ネットワークエンジニアは、ファイアウォールとルーターのハードウェア構成を管理しなくてもよくなります。しかし、新たに、仮想プライベートクラウドの管理と、コードとして設計されるネットワークアーキテクチャーの構築を学ばなければなりません。
クラウドにより、需要がなくなる役割もあれば、増加する役割もあります。企業でコンピューティングとネットワークを使用するユーザーは、セルフサービスポータルを通じた、インフラストラクチャのプロビジョニングを期待できます。ハードウェアのプロビジョニングの際に、サービスチケットや一元的な指示は、もう必要ありません。自動化すれば、多くのシステムエンジニアとプロジェクトマネージャーが、会議で長時間を費やすこともなくなります。クラウドでは、すべてのプロビジョニングタスクを、簡単な操作や、ソフトウェアAPIの呼び出しによって削減可能です。
組織における変革管理パフォーマンスモデルの概論
クラウド導入イニシアチブと、組織で実施するその他の変革管理プロジェクトには、異なる点があるでしょうか。ここ数年で分かったのは、クラウド導入に見られる人々の抵抗が、企業で行われるどの大規模な移行プロジェクトの場合とも、まったく同じであることです。つまり、組織の変革管理と、プロセス再設計の分野で利用するツールと同じものを活用できます。図1に、組織における変革管理のパフォーマンスカーブ、と一般に呼ばれる概論を示します。
典型的な移行フェーズを従業員の観点から順に見ていきましょう。
初期のフェーズでは、人々はまず歓喜をもって迎え、クラウド導入プログラムが企業にもたらす利益に、先入観を持っていません。この段階では、現状にまったく変化がないように見えます。直接または間接的に関係するチームは、自分たちへの期待と反応の仕方を大まかに理解しています。新しいイニシアチブは通常のプロジェクトのように見えます。参加者全員が、既存のプロセスガイドラインを使用して、プログラムの各通過点を簡単に進むことができます。
詳細が明らかになると、従業員は、イニシアチブが自分とチームの役割に与える影響について、質問するようになります。情報が増えるにつれ、詮索し始め、プログラムによって日々の業務が変わる可能性に気付きます。想定される変化の範囲と程度を認識します。協力するよりも、抵抗することが多くなり、拒否や牽制といった、さまざまな否定的な態度で逃避しようとします。その後、「どの道すぐに終わる」や「私たちの業務は特別。独自のビジネス要件を考えると、クラウドは役に立たない」などと言い始めます。
こうした「気付き」のフェーズは、クラウド導入のライフサイクルで最も重要な時期です。質問に答えないままでいると、従業員はその後の展開を勝手に描き始めます。多くの場合それは不適切な情報に基づいています。こうした誤ったストーリーと、関連する恐れやパニックなどの感情が、モチベーションに大きな影響を及ぼすようになります。非現実的な目標や詰めの甘い実行計画を立てて、自分やチームを不利な立場に置こうとする場合もあります。行き過ぎた分析や設計を行ったり、物事を不要に複雑にしたりなど、牛歩戦術を採るかもしれません。もはや個人の目標が、企業の目標と一致しません。雇用者のビジネス目標にかかわらず、何としても現状を維持しようとします。
そのうち、気付きによる混乱はなくなります。「統合」のフェーズは、従業員と関係者が、クラウド導入プログラムで得られる利益を、具体的に理解し始める時期です。彼らは、クラウド関連スキルは需要が多く、それにより、自身の市場価値が高まることを知ります。プロジェクトの成果に、常に前向きな関心を持つようになります。また、他の人に対して、期待したり基準を設定したりし、企業の新しい方針に従おうとします。
この段階のチームメンバーは、予想以上の支援を必要としている場合があります。最初に完璧な結果を出せないと、すぐにストレスを感じてしまいます。心地よさを感じつつも、イニシアチブが失敗する可能性を気にして、「気付き」フェーズの不安定な状態に、どうしても戻ってしまいます。このフェーズの予想外の困難を乗り切るために、安心感と、新たな手段を必要としています。
パフォーマンスカーブに見られる4つのフェーズのうち、最後のフェーズは、クラウドが新しい規範となる転移点です。変革を十分に理解し受け入れると、チームは、意見を一致させ、クラウドに基づく新たな慣行に、完全に従い、行動します。達成感を得るともに、失敗した場合の影響について、包み隠さず、率直に話します。プロジェクトの開始に直接関わったメンバーは、新たな支持者を活発に獲得し始めます。クラウド導入は、やや速いペースで進むようになります。
従業員の参加を促す計画: 関係者の参加を促す時期と方法を定義する
従業員と関係者の参加を促す綿密な計画は、クラウド導入プログラムで成果を得るための重要な要素です。リーダーは、ヒューレット・パッカード エンタープライズの子会社であるCloud Technology Partnersがクラウドビジネスオフィス (CBO) と呼ぶ、クラウド導入に関する意思決定の運営組織に、計画の立案を委任する必要があります。これにより、適切な人が適切なメッセージを適時に受け取り、今後に備えられるようにします。
綿密な変革戦略では、従業員の参加の問題に3つの側面から対処する必要があります。何よりもまず、経営者は、クラウドの影響を受ける関係者を特定しなければなりません。たとえば、プログラム主催者、変革推進者、影響を与える人、抵抗する人、変革の影響を直接受ける人といった、明確な関係者グループに従業員を分類する必要があります。
2番目に、経営者は、従業員が導入に前向きになるように、多数の活動を明確にする必要があります。こうした活動は、複雑さと、導入の取り組み方によって異なります。各活動のメッセージと目的を、主要な担当者と、関係者のグループごとに細分化しなければなりません。以下に示す、組織の変革管理における6つの規律に従って整理し、分析を行うと、きわめて効果的に計画を進められます。
- リーダーと経営陣からの支援
- 関係者の管理
- コミュニケーション計画
- スキルアップ、教育、トレーニング
- パフォーマンスとインセンティブプログラム
- 組織的な連携
最後に、経営者は、どの従業員または関係者を、いつ、どの活動に参加させるかを特定する必要があります。図2で、人を重視して考えた活動の時期を、どのように4つの個別の参加段階に割り当てるかを示します。
- 評価と絞り込み
- 設計と方向性の決定
- 検証、学習、実証 - 実用最小限のクラウド (MVC)
- 大規模な移行と全面的な運用
従業員の参加を促す効果的な計画がもたらすもの
クラウド導入プログラムの成功は、従業員の参加を促す綿密な計画で示したとおり、従業員が参加する重要な活動と移行フェーズを、把握できるかどうかにかかっています。従業員は、クラウド導入の取り組みで、変革が自分に及ぼす影響を把握するための支援を求めています。最終的に、組織のクラウド導入変革管理プログラムでは、影響を受ける従業員と関係者に参加を促し、以下を把握してもらう必要があります。
- クラウドプログラムが必要な理由、およびそのプログラムがビジネス価値の提供と効果に与える影響
- クラウド導入の準備、およびクラウドのプロセスと技術的機能を成熟させるのに必要な手順
- クラウドに関連する変更を実施する方法、時期、理由
- ソーシャル、プロセス、テクニカルスキルの教育とトレーニングの要件。これにより、クラウドで、設計とデリバリを維持し、ソフトウェア設計サイクルを実行する
- 従業員のパフォーマンスと行動を、クラウドプログラムと、望ましい最終的なビジネス成果に一致させるための測定基準と測定尺度
従業員の抵抗を認識し、その問題を克服することは、クラウド導入プログラムを成功させるための重要な側面です。単に「クラウドに移行中である」と伝えるだけでは、変革の成功を目指す出発点としては配慮に欠けます。従業員と関係者に変更プロセス全体を丁寧に示せば、従業員ひとりひとりが、不安や懸念を取り除く機会を得られます。そうなると、クラウドプログラムの成功に向けて、彼らのパフォーマンスと熱意が向上します。希望を見いだし、自信を深めることができれば、抵抗していた従業員も、すぐにクラウドの支持者となります。
従業員と関係者の参加を促す綿密な計画は、クラウド導入プログラムで成果を得るための重要な要素です。クラウドの意思決定を行う運営組織に、計画の立案を委任する必要があります。これにより、適切な人が適切なメッセージを適時に受け取り、今後に備えられるようにします。
この記事は、Cloud Technology Partnersチームが発行するThe Dopplerに掲載されていたものであり、許可を得てこのページに再掲載しています。
この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Paul Barnhill
ヒューレット・パッカード エンタープライズの子会社、Cloud Technology PartnersのDevOpsストラテジスト兼VP、プリンシパルクラウドアーキテクト
Paul Barnhillは、主に、DevOpsと、継続的インテグレーション/デリバリに重点を置き、DevOpsストラテジスト兼VP、プリンシパルクラウドアーキテクトとして、顧客に対応する技術の提供と、一貫したアジャイル手法によるプロジェクト遂行の責任者を務めています。ソフトウェアとインフラストラクチャの設計に18年以上携わり、メトリック主導型プロセスの導入、数百万ドルの予算管理のほか、コンシューマー、広告技術、財務、アドバイザリ関連サービスの分野でインターネット規模のソリューション構築を行ってきました。 CTPに入社する前にも、CTO、VPなどさまざまなリーダー職を務めています。最近では、PayPal社で、買収したWhere.com社のサービスデリバリ責任者として、DevOpsとテスト自動化の設計チームを指揮し、需要創出に尽力しました。 ボストン大学で文学士号を、サフォーク大学で経営学修士号を取得しています。
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