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2021年9月10日

自動製造から自律的な製造へ

旧来の自動化テクノロジーのモダナイズに取り組んでいるNestle社のように、製造業界では真の自律運用への移行が進んでいます。
チョコバーを手にする時に多くの人が思い浮かべるのは、チョコレート、キャラメル、ナッツなどが一体となったおいしさです。その製造工程に思いを馳せる人は少ないでしょうが、常に変わらぬおいしさを顧客に届けるためには精密な技術が必要です。

先進的な工場の大半は高度に自動化されていますが、それにもかかわらず、意図したとおりの製品が生産されないことがあります。材料の配合が少しだけ違っていたり、パッケージにミスがあったり、完成した菓子が規定重量をわずかに上回っていたり下回っていたりするケースです。自宅のキッチンでの出来事であれば、これらはいずれも大した問題ではありません。しかしながら菓子メーカーでこうしたエラーが検出された場合は、その対処方法について経済的な実行可能性を評価し、製造を一時停止する、正しい配合になるよう機械を再調整する、何千本ものチョコバーを廃棄する、といった判断を求められます。

ある程度のエラーは発生するにせよ、自動化は製造業者が年間数百万もの高品質な製品を生産することを可能にします。しかしながら製造業者は皆、数百万ドル規模の損失につながりかねない非効率性、無駄、停止などを回避するために、機器全体の有効性と品質の向上を望んでいます。

そのため最近では多くの製造業者が、明確にそうと意識していなくても、自動システムから自律システムへの進化を考え始めています。

私たちが求めているのはスマートフォンのようなシステム、すなわち誰もがその仕組みを特に考えることなく、必要な機能を手軽に利用できるシステムです。産業界でもこうした消費者エクスペリエンスが求められています。

RALF HAGEN氏NESTLÉ DEUTSCHLAND社、エンジニアリングマネージャ

自動と自律の違い

この2つのアプローチの違いは曖昧です。自動製造とは、人間の介入、停電、自然災害などにより中断されない限り、製造がほぼ独力で実行される、ある程度固定されたプロセスと考えることができます。メンテナンスの必要性や製造上の問題を検出するために、ラインを流れている製品が監視されていたり、中央データセンター内のアプリケーションにより制御される先進的なロボットがケージ内で作業を行っていたりする場合もあります。とは言え自動製造は、1~2種類の車種をほぼバリエーションなしに製造する従来の自動車組み立てラインのように、あらかじめプログラミングされた静的で明確かつ単純なものです。

一方、自律システムの場合は、産業用IoT (IIoT)、人工知能 (AI)、データ分析などのインダストリー4.0テクノロジーを活用することで、製造中に調整や最適化が行われ、さらには製造現場でのカスタマイズも可能です。実のところコンピューティングパワーは、データセンターからインダストリアルエッジ、すなわち工場内のマシンの近くへと移行しつつあります。

エッジでは、さまざまなアセットやサプライチェーンソースから得られるデータを、より効率よく収集、統合、分析、共有、および処理することができます。そのため、例えばチョコバーの型にチョコレートを流し込むマシンが、突然規定の9グラムではなく10グラムを流し込み始めた場合に、オペレーターの介入をほとんど必要とすることなく、迅速かつ自動的に配合を再調整することが可能です。潜在的なエラーが検出された場合はその原因が特定されて、AIまたは何らかのアルゴリズムにより必要な調整が決定され、時には問題が顕在化する前に自律的な修正が行われます。

このようなタイプの予測機能が普及するにつれて、より多くの製造業者が、品質管理の維持、サプライチェーンコストの抑制、廃棄物の削減、環境サステナビリティ体制の強化などの手段として、これらの機能を活用するようになると予想されます。さらに新たな世界規模のパンデミックや同様の危機が発生し、再び在宅勤務が求められるようになった場合にも、事業継続性の確保に役立ちます。

「自律システムの目的は、少ない負荷でより多くの成果を達成することです」とロンドンのABI Research社でシニアアナリストを務めるRian Whitton氏は述べています。「独力で動作できるマシンが普及して、人間の介入なしに実行できるユースケースやアプリケーションが増えれば増えるほど、現在および将来のニーズに応じた労働者の再配置が容易になります。高齢化が進む中、企業が厳しさを増す労働市場に対処するうえで、この柔軟性は不可欠です。」

自立型の工場

それほど遠くない将来、マシンが相互に通信して情報を共有し、生産環境全体の状態が監視される、自立したスマートファクトリーが実現すると予想されます。ロボットはプログラミングの枠から飛び出して、複雑なタスクを自ら学習して実行できるようになり、人間は煩雑な作業から解放されてより重要な業務に専念できるようになるでしょう。また企業データは、サプライチェーンやリアルタイムの生産データと統合されて、より確かな情報に基づくビジネス上の意思決定が促進されます。デジタルインテリジェンスは、エッジからクラウドまで、あらゆる場所に存在するようになり、セキュリティの重要性が増し、従量制モデルが主流になると考えられます。こうした変化が一体となって製造効率と成果の向上が促進され、さらに自己管理が可能なセルフサービス型のプロセスが増大すると予想されます。

Nestlé Deutschland社でエンジニアリングマネージャを務めるRalf Hagen氏は、多国籍食品企業であるNestlé社の複数のドイツ工場を自動システムから自律システムに移行する取り組みを進めています。自律システムの主な強みは、セキュリティやメンテナンスがバックグラウンドで処理されることであると同氏は指摘します。

「製造企業である当社では、こうした作業を行うのに十分な数の熟練したシステム管理者を確保することはできません」とRalf氏は説明します。「当社はIT企業でも インフラストラクチャ企業でもなく、食品メーカーです。私たちが求めているのはスマートフォンのようなシステム、すなわち誰もがその仕組みを特に考えることなく、必要な機能を手軽に利用できるシステムです。産業界でもこうした消費者エクスペリエンスが求められています。」

これが自動化から自律化への移行が目指すところであり、そのコンセプトを支える強固な基盤となるのが、人員 (スキル、プロセス、文化)、テクノロジー (エッジからクラウドまでのインダストリアルデジタル基盤とデータパイプライン)、および経済性 (成長を加速するための投資戦略と柔軟な財務/ビジネスモデル) です。この3つのダイナミクスをスマートファクトリー内で適切なバランスで実現することで、生産性の大幅な向上が可能になります。

事実、2019年のDeloitte社調査では回答者の86%以上が、スマートファクトリーイニシアチブが製造業界における今後5年間の主な競争上の差別化要因になると考えており、パンデミックからの回復が始まれば、停滞していた生産性向上が一気に加速する可能性があります。

「スマートファクトリーテクノロジーは、復興を劇的に加速させる可能性を秘めています」とDeloitte LLPの副会長兼米国工業製品・建設部門リーダーを務めるPaul Wellener氏は指摘します。「分析、センサー、ウェアラブルなどのテクノロジーをすでに試験的に導入していた製造業者は、職場の安全性を確保して、いち早く生産を再開することが可能です。」

Wellener氏は、多くの企業が財政難を理由に今後数ヶ月は予算を削減すると見ています。しかしながら同氏は、自動化あるいは自律化テクノロジーにはこの影響がそれほど及ばないと確信しています。

「製造業者が労働力の制約に直面する中で、こうした取り組みが加速していくと予想されます」と同氏は述べています。「製造業者らは、最適な生産レベルを維持し、将来の新たな危機に備えてプロセスの俊敏性や応答性を高めるうえで、デジタルツールやテクノロジーへのシフトが有効であることを理解しています。」

ただし、こうした取り組みが加速しているとはいえ、製造工場の大部分を自律システムが占めるようになるまでには、まだ長い道のりがあると業界ウォッチャーは見ています。

従来型のデータセンターからの進化

その理由として、ここ数年来の進歩にもかかわらず、大多数の工場はいまだ旧来の自動処理に依存しておりマシンや製造工場間でのデータやアプリケーションの共有が容易でない、計画や製造が柔軟性や将来性に欠ける直線的で限定的なものになりがち、セキュリティアーキテクチャーが最新のクラウドやIoTサービスではなく数十年前のオペレーティングシステムを中心に構築されている、マシンが遠隔地からのアクセスや管理を前提に設計されていない、といった問題が挙げられます。

Nestlé社のHagen氏によると、同社は複数年規模の取り組みとして、レガシーアーキテクチャーからより効率的な自律型デジタルテクノロジーへの移行を進めています。COVID-19の感染拡大により製造やリモートワークに対する新たなアプローチが求められる中、ここ数ヶ月で同社の取り組みは大きく進展しました。

「パンデミックの発生を受けて、(自律テクノロジーを提供するという) この取り組みは、単なる優先課題ではなく、すでに後れを取っている緊急課題となりました」と同氏は述べています。「以前は完了までに2年以上を要していた多くのことが、この6~7ヶ月で達成されました。私たちはこの変革スピードを今後も維持したいと考えています。」

ほとんどの製造業者にとって、自律システムへの移行を実現するためには、企業内外のさまざまなソースから得られる膨大な生産データを集約、正規化、および分析する能力が欠かせません。Gartner社によると、企業で生成されるデータのうち、従来の中央データセンターやクラウド以外で作成および処理されるデータの割合は、2018年にはわずか10%に過ぎませんでした。しかしながら2025年には、コンピューティングパワーの分散化が進み、インダストリー4.0プロジェクトが拡大するのに伴って、この数字が50%に達するとGartner社では見ています。

業務の改善やビジネス上の意思決定にデータを活用するためには、データを収集、集約、およびクレンジングしたうえで、組織全体で自由に使えるようにすることが重要です。

McKinsey Global Instituteによると、データフローの各タイプとGDP成長率の間には全体的に正の相関関係があります。McKinsey社の推計では、グローバルなデータフローは年間2,500億~4,500億ドルの成長をGDPにもたらしています。ミクロレベルでは、個々の企業内のデータフローが収益に貢献することは容易に想像できます。

製造業界では、自動モデルから自律モデルへの必然的な進化が着実に進んでいます。多くの大手企業が、自身の管理権限内にあるすべてのデータを管理し、有益な情報を引き出すためのテクノロジーに投資しています。さらに5G、AI、仮想現実、拡張現実、予測分析などの新興テクノロジーが成熟するにつれて、自律システムの普及が加速すると予想されます。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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