2020年6月5日

モデル化とシミュレーション: AIによるさらなる成果の実現

人工知能ベースのアプローチは、モデルベースシステムエンジニアリングのメリットを実現するうえでの鍵となります。

今日の航空宇宙業界のエグゼクティブは、人工知能 (AI) にハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) テクノロジーとデジタルスレッドを組み合わせて活用することで製造プロセスを最適化できます。デジタルスレッドは、設計の開始、エンジニアリングと製品のライフサイクル管理、製造指示、サプライチェーン管理、そしてサービスイベントに至るまでの製品のライフサイクルを追跡するものであり、それを活用すれば、航空宇宙設計のプロセスを強化して予算を抑えたり、生産の停滞を防いだり、ビジネスで競合企業の一歩先を行ったりすることが可能になります。

さらに、航空宇宙設計が複雑化する中、AIは常にイノベーションを先取りするビジネスの実現に役立ちます。

モデルベースシステムエンジニアリング (MBSE) を最大限に活用する方法としては、次の3つが挙げられます。


1. 利害関係者の足並みを揃えることにより、最初から大きな成果を実現する

私は最近、ある大手製造企業のITインフラストラクチャ担当バイスプレジデントと話をしたのですが、彼からのメッセージは、モデル化とシミュレーションをサポートするHPCテクノロジーは、自身のビジネスユーザーにとって非常に重要であるという非常に明確なものでした。そして彼は、エンジニアリングチームが利用可能なリソースをすべて消費する (また多くの場合にそれを上回るリソースを必要とする) 傾向があったとしても、それらのリソースを有効活用できるようにすることが課題であると述べています。

モデル化とシミュレーションには、一般的に次のようなメリットがあります。

  • 物理システムと論理システムをデジタルで表現することにより、イノベーションが促進される
  • 設計と生産の段階で生成されるデータを分析することにより、品質が向上する
  • 製品設計で失敗が起きないよう実際に失敗例を示すことにより、コストが削減される
  • 複数のシナリオを数日ではなく数時間でテストできるようになるため、デリバリまでの時間が短縮される

今では、製品のデリバリまでの時間を短縮してコストを抑えるために、新しい設計のモデル化とシミュレーションに多額のIT投資が行われています。

ただし、モデル化とシミュレーションのアクティビティが高額なリソースの消費に拍車をかけ、新しい設計の可能性を実証することに多くの労力が費やされる一方、そのコストメリットは必ずしも明確であるとは限りません。

こうした事態は主に、利害関係者の意欲に差があり、モデル化とシミュレーションで可能性が実証されたものを提供できなことが原因で発生します。

投資、ビジネス、およびテクノロジーのコミュニティは、ビジョンに関して足並みを揃えているものの、各サイロが重点を置く部分は異なります。

製造部門のエグゼクティブは、リスクと投資に関する意思決定を行うため、そのような観点からリソースのコストとメリットを考えます。IT部門はテクノロジーを提供しますが、HPCやAIのリソースがビジネスにもたらすものの経済的メリットを直接生み出したり得たりすることはありません。そしてエンジニアは、IT機能を活用してイノベーションを実現しますが、リソースを提供するためのコストをそれほど気にしておらず、イノベーションの実現や製品の設計とデリバリの改善に重点を置いています。

2. デジタルスレッドを取り入れることにより、設計プロセスに一貫性を持たせる

航空宇宙メーカーはこれまで、分析とデータ収集を活用して生産工程を改善し、イノベーションを推進してきましたが、あるメーカーの取締役は最近、「未来の工場でもデジタルスレッドと関係のない接続物を介して多数の貴重な情報が生成され続ける」と発言しました。このようなデータを分析すれば、製品の逸脱の根本原因を把握したり、廃棄率や品質の問題に取り組んだりするだけでなく、機械を最大限に活用して生産性を向上させることもできます。

ただし、ここでも各バリューストリーム全体のデータの流れと統合ビューを示すデジタルスレッドが役に立つ可能性があります。デジタルスレッドは、設計などの製品のライフサイクル、パフォーマンスデータ、製品データ、サプライチェーンデータ、および開発した製品に組み込まれるソフトウェアにわたって追跡することが可能です。

ここでIoTと運用テクノロジー (OT) を連携させることにより、大きな変革がもたらされます。

OTには、デジタルスレッドを作成するために接続されることが多い、物理デバイスを監視して制御するハードウェアコンポーネントとソフトウェアコンポーネントが含まれます。

IoTとして接続されるOTのわかりやすい例としては、部品の製造と製造プロセスの成功に欠かせない、30年間使用している液体ポンプに重要な運用の情報が含まれているものの、それが上流と下流のプロセスで共有されていないといったケースが挙げられますが、そのデータを共有すれば、そうした設計を改善するための有益な情報がもたらされる可能性があります。

場合によっては、単一のOT機能のデータを収集するITリソースへの投資額が、その機能を使用するOTプロセスの価値を上回ることもありますが、多くのOT機能からデータを収集して流動的なデータストリーム、つまりデジタルスレッドに含めれば、モデル化とシミュレーションの多大なメリットを実現する大きな機会がもたらされます。これによって得られるメリットとしては、メンテナンスタスクを実行しながら最適化することで生産のダウンタイムを減らしつつ、部品の性能を高められるといったことが考えられます。

デジタルスレッドの概念とMBSE戦略を用いる航空宇宙メーカーは、後から処理して有益な情報を得るために、製品設計のライフサイクルにわたってデータ分析を制御できるようになるわけですが、これこそが前述の利害関係者の差をなくす解決策となります。

またそれにより、AIに対するアプローチを理解してさらなる成果をもたらすことができます。

 

3. データを戦略的に管理してAIを活用できるようにする

データ収集は非常に難しく、ビジネスの生産性に影響を与えることなく迅速かつ効率的に導入できる投資およびテクノロジー戦略が必要になることがあります。

ビジネスに貢献するデジタルスレッドを維持しながら、モデル化およびシミュレーションプラットフォームにAIを組み込むにあたっては、データに関して常識的なアプローチを取ることが重要です。

 

データを見つけ出す

使用可能なデータは無限にあります。そのため、必要なデータを特定して適切なタイミングで使用するのは非常に難しいこともありますが、明確に定義されたデータサービスアーキテクチャーを活用すれば、AI戦略に貢献するであろうモデルを迅速に構築できるようになります。

AIを導入するための準備を整えるには、分析を活用して最小限の変更ですぐに成果が得られる機能を特定するために設計プロセスとデータソースを評価し、必要なデータが揃っているのかどうかと得られたメリットを設計に活かす方法を明らかにする必要があります。

 

データを収集する

製造プロセスにおいて、従来のデータをキャプチャーして保存するモデルではなく、IoTのデータ収集および推論テクノロジーを活用すれば、(ほぼ) リアルタイムの推論が可能になります。データを適切なタイミングで適切な場所に届けるには、テクノロジーフレームワークを確立することが重要です。

 

データを統合する

IoTとOTのアプローチでデータ収集の問題を解決したなら、データを統合して管理し、上流と下流のコンシューマーが使用できるようにしなければなりません。そして最終的には各プロセスのデジタルツインを構築し、個々のプロセスがどのような依存または相互依存関係にあるのかを包括的に捉える必要があります。

最後に、成果を優先させて最初の重点領域の枠を超えるための自己資金調達戦略を策定します。このようなアプローチにより、すべての利害関係者が戦略を理解して支持し、その実現に向けて連携するようになります。

デジタルスレッドの概念を取り入れる

私たちは今デジタルの世界に身を置いていますが、製造業者の多くは、非常に有益と思われる完全なデジタルモデルとシミュレーションプラットフォームへの移行を進められずにいます。大部分の企業は、こうした問題を緩和するための組織戦略と財務戦略を個別に策定しており、通常は3~5年間のロードマップを描いていますが、人員とテクノロジーの変化が非常に速いため、ロードマップが実行されないことが少なくありません。

航空宇宙の製造プロセスで迅速に成果を得るには、物理テストの回数を減らして仮想テストに置き換える必要がありますが、デジタルスレッドの概念は、情報を共有し、最終的に開発コストとリードタイムを削減することでそれを可能にします。このように、デジタルスレッドの概念を取り入れてデータを活用し、異なるコンポーネントや互いに依存するプロセスを結合できるようになれば、ビジネス全体にわたる次世代のシミュレーションとモデル化が可能になります。

AIのアプローチは、コスト、生産、および競争の面でMBSEのプロセスにメリットをもたらす可能性があります。

接続された資産、拠点、および従業員からデータを収集して分析すれば、インダストリアルエッジでの有益な情報に基づく対応が可能になります。

 

航空宇宙業界のデジタルスレッド (英語資料)

航空宇宙の製造プロセスを最適化するIIoT、AI、デジタルスレッド

モデルベースシステムエンジニアリングを活用した次世代のA350 XWBの開発

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デジタルスレッドの連携: 適切なデータを適切なタイミングで適切な場所に

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