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2021年12月17日

Mercedes-AMG Petronas Formula One Teamがエッジの価値を実証

ハイテク化したF1の世界で成功するには、数百万ものデータポイントを活用する必要があります。
F1ドライバーのLewis Hamiltonが、3月にバーレーンで行われたF1の2021年シーズン開幕戦で、Mercedes-AMG Petronas Formula One Teamの車に乗り込んだとき、優勝を期待されていたわけではありませんでした。

チャンピオンのマシンが最速ではなかったことは、本人も認めています。ライバルのF1ドライバーMax VerstappenとSergio Perezcarsが運転するRed Bull Racing Hondaのマシンは、シーズン前のテストで好タイムを出し、早くから本命と目されていました。しかしいずれにせよ、Mercedes F1やRed BullのようなF1チームは優位に立っていました。

たとえば、イベント前に、Mercedes F1はハイパフォーマンスエッジコンピューティング、分析、およびセンサーテクノロジーの組み合わせを導入して、出場するすべてのマシンとドライバーに関するデータポイントを高速処理しました。理想的なピットストップ時間からタイヤの選択まで、あらゆるものに注目しながら数千件のレース状況を分析し、チームから参戦する2台のマシンと2人のドライバーにとって最適なプレーブックを完成させました。そしてレースが始まると、リモートスタッフとオンサイトスタッフがデータの収集、分析、対応を繰り返すことで、パフォーマンスを向上させました。

最後は、エッジ主導のさまざまな準備が実を結び、ドライバーのLewisとMercedes F1チームにチェッカーフラッグが振られて鮮やかな勝利を収め、ライバルのF1ドライバーVerstappenとRed Bullチームをコンマ1秒の差で退けました。

「これまでサーキットで経験した中で、最もスリリングで緊迫感のあるレースでした」と話すのは、Mercedes-AMG Petronas Formula One Teamでテクニカルディレクターを務めるJames Allison氏です。「Lewisがついにフィニッシュラインを通過したときは、チームのガレージでは、喜びのあまりまるで集団ヒステリーが発生したようでした」。

エッジにコンピューティングを配置することのメリットは、車両とデータをやり取りする際のレイテンシを削減できる点にあります。
IEEE SENIOR MEMBER兼OKU SOLUTIONS社CEO DAVID WITKOWSKI氏

サーキットの枠を超えて

F1レースは、長年、世界で最もテクノロジーが発展しているスポーツの1つとされてきました。しかし最近は、よりローカルなデータ処理、分析、インテリジェンスの活用をサポートするエッジコンピューティングが登場し、近い将来、すべての自動車にそのメリットがもたらされるようになります。

実際に、自動車市場におけるエッジコンピューティングの規模は、Mordor Intelligenceによれば、2026年まで毎年27.5%ずつ拡大する見込みです。[1] こうした動きは、自動運転車やコネクテッドカーの登場などにより、さらに加速すると予想されており、さまざまな情報やエンターテインメントをドライバーに提供しつつ、膨大なデータを安全かつ確実に処理することが求められるようになります。

「エッジにコンピューティングを配置することのメリットは、車両とデータをやり取りする際のレイテンシを削減できる点にあります」と話すのは、IEEEのSenior Memberであり、ワイヤレス専門サービス企業のOku SolutionsでCEOを務めるDavid Witkowski氏です。「自動運転車やコネクテッドカーを動作させる場合、応答時間を非常に短くする必要があります。だからこそ、このように自動車メーカーの関心が高まっているのです」。

Witkowski氏は、エッジコンピューティングと新たな5G無線機能の組み合わせによって既存の自動車が一変する可能性のある、「スイートスポット」を業界が捉えつつあると話します。近くのセンサーとつながっているインキャビン拡張現実による安全警報および指示から、近づいてくるもの (または人) を検知する、自動運転車のLiDARシステムに至るまで、Witkowski氏はこうしたテクノロジーが想像もできない効果をもたらすと考えています。

しかし、エッジテクノロジーの効果は、最終製品だけに及ぶわけではありません。エッジデバイスの発展、中でも産業用IoT分野における発展は、AIおよび自律エッジテクノロジーが製造工程で一段と重要な役割を果たすようになる中、すでに高度に自動化された工程である自動車製造に、さらなるインテリジェンスと柔軟性がもたらされることを意味します。

業界もピットインか

しかしWitkowski氏は、そのような夢も遠のくかもしれないと話します。自動車メーカーがレーシングカーの投資を進めているにもかかわらず、それをサポートできるインフラストラクチャがまだ存在しないからです。それが実現するまでは、今以上に「自動車メーカーが積極的に対応する気にはならないでしょう」。

IDCのIoTおよび自動車アナリストであるMatt Arcaro氏も同意見です。

「エッジコンピューティングは、自動車業界にとっては興味深い提案であると同時に、難しい課題でもあります」とArcaro氏は話します。「増える一方のセンサーやインターネットに接続されたシステムから、驚くほど大量のデータが入ってきます。しかし自動車は、ネットワークへのアクセスが制限されているか通信速度が遅い、またはアクセスできないエリアを含め、あらゆる場所に移動できます。このため、自動車メーカーとサプライヤーは、テクノロジー企業およびエコシステムベンダーと連携し、そのソリューションによって自動車に関する厳しい要件をサポートしていく必要があります」。

その間も、自動車メーカーは、増え続けるさまざまな課題に常に直面することになると、Arcaro氏は語ります。たとえば、業界に損害を与えている現在の半導体不足は、自動車メーカーがコンピュートとストレージの統合を進めるべく、ソフトウェア デファインド アーキテクチャーを増やすことを検討するきっかけになっていると、Arcaro氏は指摘します。また、「それが、車内にある個別の処理ノードを減らすことにつながるだけでなく、自動車は『動くデータセンター』であるという名言とも合致します」と話します。

デジタルと人間のダンス

HPEのハイパフォーマンスコンピューティングおよび人工知能担当CTOであるDr. Eng Lim Gohは、自動車メーカーが、先例として、すでにサーキットで起こっていることに目を向けてみたらどうかと語ります。特にF1カーは、究極の動くエッジデバイスとみなすことができます。センサーやプローブが大量に詰め込まれ、あらゆるアクションの中で、ハイテクのエッジコンピューター、ソフトウェア、ストレージとやり取りするからです。

しかし、こうした各種テクノロジーと人間との間には、「デジタルダンス」も起こっていると、Dr. Gohは指摘します。これには、その運動能力、経験、スキル、勘、迅速な判断力のすべてによって勝敗を大きく左右する、ドライバーも含まれます。たとえば、Verstappenの最後の挑戦を先延ばしにしていたHamiltonとチームによる一瞬の判断が、バーレーンで表彰台に上がるために重要だったと広く評価されています。また、チームにはITスタッフも含まれています。レース中はデジタルデータを常に評価し、早めにピットインして新しいタイヤにより性能面で優位に立つことで、ライバルのドライバーがピットに入ったときに前に出ることを狙う (アンダーカットと呼ばれる戦略) など、リアルタイムの調整を行っています。

Mercedes-AMG Petronas Formula One TeamのITディレクターであるMichael Taylor氏は、まさにそれがバーレーンで起こったことだと述べます。

「Lewisが言うように、その日のマシンは最速ではありませんでしたが、利用できる機能を最大限に活用することで、パフォーマンスを最大限に高めるようにしました」とTaylor氏は話します。「それによって優勝できましたが、別の日であれば、正直なところ優勝は難しかったでしょう。人的要素も含まれていましたが、人間とエッジテクノロジーが連携したからこそ、そのレースに勝つことができました」。

レギュレーションへの対応

エッジテクノロジーは、F1や大規模なレースで広く使用されるようになってきました。「この10年間は、競争が激しくなっていました」とTaylor氏は話します。「処理能力、チップ、メモリが飛躍的に進歩する中、どのチームも、テクノロジーに多額の投資を行うことで勝率を高めようとしました」。

「一方で、材料科学 (設計) の発展と製品が、これらのマシンを製造しているファクトリーでの通常業務にもメリットを及ぼしています」とTaylor氏は付け加えます。「15年前のF1カーの形状や表面を見てみると、現在とは大きく異なることがわかります。デジタルテクノロジーがそのすべてを支えており、エッジコンピューティングによってさらに進化していくと考えています」。

Taylor氏によると、チームによっては、こうしたテクノロジーに他のチームよりも多くの資金を投入できることから、モータースポーツの運営団体であるFédération Internationale de l’Automobileは、公平性を確保するために財務面の規制を設けました。このため、Mercedes F1チームは、認められた制限範囲内で最も高度なテクノロジーを導入することにしました。また、これらのシステムを最大限に活用できるようにサポートしてもらうため、「チームのビジネスの複雑さを理解している」パートナーとコンサルタントを選びました。

こうした道をたどることで、Mercedes-AMG Petronas Formula One Teamの競合チームにはないもう1つの強みを得ました。

「競合チームはどこも同じテクノロジーを購入していますが、私たちはエキスパートにサポートしてもらうことで、チームの能力を最大限に引き出すことができました」とTaylor氏は話します。「F1では、時間が最大の課題です。エキスパート、エンジニア、技術者たちは、時間があればあるほど、適切な判断を下せるようになります」。

HPEは、Mercedes-AMG Petronas Formula One Teamのスポンサーです。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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