2020年6月5日

メディカルセンターホテルで患者の治療成果を向上

患者用ホテルは、入院治療よりも高級な治療方法です。しかし、最新のテクノロジーによって患者の治療成果を向上させ回復時間を短縮できるため、幅広い医療改革の一端を担うものとなっています。

患者用ホテルは、騒がしくスパルタな入院治療に代わる、より高級な、より静かな治療方法です。そのようなハイブリットな施設は、すばらしい医療への継続的なアクセスと、豪華ホテルならではの要望に応じた快適さを兼ね備えていますが、価格は世界中のほとんどの患者の手が届かないほど高価です。そのデータフローは、すべての収入レベルの患者に対して最大の利益を届けるための医療をどのように提供するかについて、再考を促しています。

貧乏ではなく裕福な患者が実験台になるという、この予想外の展開において、患者用ホテルは、新しい医療モデル、テクノロジー、メディカルブレークスルーの格好の試験場となっています。最も豪華で最もリソースが豊富な環境において、パーソナライズされた薬からロボティクス、3D医療画像まで、理論が応用科学へと姿を変えています。

 

患者用のホテルとは

現在も稼働している患者用ホテルがあります。スカンジナビアではそれが特に盛んです。

スウェーデンのルンド大学病院は、入院患者のためにより多くの病床を確保する手段として、1988年に患者用のホテルをオープンしました。Quartzのレポートによれば、これが最初の患者用ホテルであると広く認められています。

デンマークの特別治療病院であるRigshospitaletの構内にも、2015年に患者用ホテルがオープンしました。単純に患者用ホテルと呼ばれるこのホテルには、長期治療の患者、自立した患者および通院患者、自国にはない最高品質のケアと治療を求めるメディカルツーリズムの患者が滞在しています。

Norlandiaは、4つの施設を持つ、地域最大の患者用ホテルチェーンの1つです。ノルウェーに2つ、スウェーデンに1つ、フィンランドに1つの施設があります。Norlandiaの患者用ホテルの部屋は、患者、患者の親戚、出張者、観光客など、誰でも予約できることで知られています。

患者用ホテルは医療施設ですが、高級ホテルの豪華な宿泊施設に対抗できるよう、特別な考慮が払われた設計となっています。例えば、床や壁は掃除が簡単で、殺菌されている必要があります。寝たきりの患者や身体障がい者を収容するために、バスルームはインテリア雑誌的な見た目ではなく機能性を重視した設計でなければなりません。また、宿泊客とスタッフの連絡は場所を問わず可能で、緊急時には複数のスタッフが部屋にアクセスできる必要があります。

「患者用ホテルでの宿泊は老舗の三ツ星ホテルの体験と似ていて、レストラン、ラウンジ、駐車場、フリーWi-Fiなどが利用できます。部屋は整然とした、シンプルでモダンな装飾となっていて、デスク、ミニバー、フラットスクリーンのテレビ、寝室と一続きになったバスルームが備え付けられています」と、Quartzのレポートには書かれています。

統合型ソリューションおよびサービスを活用すれば、医薬品や研究の精度を高め、よりパーソナライズされた医療を実現できます。

Gatehouse Capital社は、患者用ホテルを所有して投資する米国企業の一つです。これは、一般的にメディカルホスピタリティと呼ばれるビジネスです。2017年、Gatehouse社は、ベイラー大学メディカルセンターのダラスキャンパスに132部屋のホーム2スイートbyヒルトンをオープンしました。

ただし、米国では、「メディカルホスピタリティ」という言葉には単なる患者用ホテル以上の意味があります。米国の病院は、より高い患者満足度を得るために、ホスピタリティによる快適さを兼ね備える傾向にあります。これは、メディケアとメディケイドを中心とする保険からの病院への払い戻しに直接影響します。

「患者の需要の多くが、治療の質よりも快適さにあることがわかりました」南カリフォルニア大学のLeonard D. Schaeffer保健政策および経済センターの研究教授であるJohn Romley博士は、New York Times誌の記事でそう書いています。「これは、医療よりもホスピタリティに焦点を当てることで、病院は収益と評判を高めることができることを意味しています。例えば、医療ミスの確率を下げるよりも、有名シェフによるオーガニック料理を提供するのです」

患者用ホテルとメディカルホスピタリティの概念はまだ初期段階ですが、進化を続けるテクノロジーによって医療の効率性が向上し、医療プロセスから患者へと焦点が切り替えられつつあるのを見ると、この医療の将来は約束されているように思えます。

 

患者用ホテルの由来

患者のホスピタリティは贅沢で、表面的には突飛なSFのようにも見えますが、患者用ホテルとメディカルツーリズムには現実的な、実際的なルーツがあります。世界中の病院は相変わらず、良くて回復への障害となり、悪くてあからさまな害悪となっています。病院の問題は多様で、患者の転倒や院内感染から、スタッフの不足や患者の安全のための手順の見落としまで、多岐にわたります。

American Nurse誌のレポートによれば、入院患者の約3パーセントが転倒し、転倒した患者の約25パーセントが負傷します。負傷は、軽いあざから、骨折や硬膜下出血などの深刻な怪我までさまざまです。

医療関連感染も増加していて、多くの場合に抗生物質への耐性のために、治療が、場合によっては患者の生存さえもが難しくなっています。health.govに掲載された疾患予防および健康促進局のレポートによれば、「常時、入院患者の25人に1人が、入院治療に関連する感染症を患っています。 このような感染によって毎年何万という命が失われ、米国の医療システムには何十億ドルというコストがかかっています」

病院内での有害事象は世界中で見られます。世界保健機関 (WHO) の患者の安全に関する最近のレポートでは、 高所得国で入院治療を受ける患者の実に10人に1人が危害を受けています。そして、それらの事象の半分近くは防ぐことができたと考えられています。低所得国および中所得国では、病院での有害事象の割合は8パーセントで、これらの事象の83パーセントが回避可能と考えられており、30パーセントの事象は患者の死亡と関連しています。

入院患者への有害事象の一部は、慢性的なスタッフ不足が原因です。米国医科大学連盟の予測では、2030年までに、米国だけで、現役の医師が10万人不足します。さらに、WHOの見積りでは、全世界における現在の医師、看護師、その他の医療従事者の不足は430万人で、不足によって最も影響を受けているのは発展途上国です。「ますます厳しくなる移民の制限によって、需要を満たすことができる他国出身の医師を排除してしまう可能性がある」ため、問題はエスカレートすると考えられています。

看護師や技師など、その他の職務の人手不足も同じくらい深刻です。2017年7月に公開されたナーシング・レギュレーション・ジャーナル誌の記事で、研究者は「2030年までに100万人の登録看護師が退職する」こと、また「そのような、経験豊富な看護師の一斉退職は、患者ケアの現場や登録看護師に頼るその他の組織で、看護に関する知識と専門技術が大量に失われることを意味し、その影響は何年間も続く」ことを予測しています。一方で、サイエンティフィック・アメリカン誌のレポートによれば、米国労働省労働統計局は、研究員の需要が過去1年で13パーセント増加しており、この割合は「米国のその他の仕事の約2倍」に当たると見積もっています。

WHOの患者の安全に関するレポートによれば、退院後の死亡や再入院の原因として最も多いのは薬物有害事象、院内感染、処置合併症です。さらに、40パーセントの患者が検査結果を保留したまま退院しており、疾患を迅速に治療することが難しくなっています。WHOのレポートによれば、入院患者と外来患者の治療の分断は世界中に共通しており、さらなる有害事象の引き金となっています。このような有害事象の一部は、処方の確認不足や、薬剤の不一致が原因となっています。

さらにWHOは、「ストレスの多い入院環境は、退院後症候群につながる心配があります。これは、衰弱とストレス増加による病態生理学的な症候群で、患者は転倒や感染などの臨床的な有害事象の被害を受けやすくなります」と付け加えています。

そのような問題を考えれば、患者の治療成果の向上を目的とした、ストレスの多い入院環境に対する代替案の出現は当然だったといえるでしょう。

病院に共通する有害な状況は、営利目的のビジネスモデルでは解消されます。病院は、どこかの時点で、利益を向上してリスクを下げるという、すでに確立された道筋に従うことになるかもしれません。コアコンピテンシーに焦点を当ててその他の機能はアウトソーシングし、機械学習、ロボティクス、オートメーションの導入率を上げるのです。

国全体の予算も、病院の有害事象から悪影響を受けます。WHOによれば、例えばカナダでは、7ドルごとに1ドルが「病院治療における患者被害の影響に対応するために使用されています」

最新の医療テクノロジーを導入する予算を持ち、最先端のテクノロジーで市場に参入できる患者用ホテルは、少なくとも概念上は、患者の懸念、病院の目標、拡大する国の予算に対応できるように思えます。

 

医療のホスピタリティを推進するテクノロジーのトレンド

病院がサービスを向上するために、ホテル業者と連携して自らの構内に患者用ホテルを建てるべきか、既存の施設内でホテルのような快適さによって病院のサービスを拡張するべきかについては、意見が拮抗しています。

最初のシナリオでは、病院は基本的に、回復とリハビリテーションのサービスを別の事業体にアウトソーシングしていることになります。病院は、この事業体を完全に、または部分的に所有することもできます。このアプローチでは、主軸となる病院事業体は重大で緊急な外科治療に絞って集中しながら、第2の事業体から新しい収益源を得ることができます。

2つ目のシナリオでは、病院はすばやく患者の満足度を向上し、それによって保険の払い戻しを迅速化してキャッシュフローを改善できます。ただし、治療の質よりも快適さを優先すると、結果的には払い戻しが再度滞る場合があります。院内感染や、高い再入院率などの問題に対するペナルティのためです。

どちらのケースでも、きめ細かいサービスと最先端の医療テクノロジーが利用できることが、長期的医療の前進にとってプラスとなります。最先端で導入されるテクノロジーの多くは、最初は一般的な使用に向かないほど高額ですが、これらのテクノロジーの多くに付随する利点 (患者の入院期間の短縮、患者の再来院の減少、長期的な生活の質の向上) が費用効果を発揮し、導入が進むにつれて導入率の増加が規模による費用効果も生むため、コストは下がっていきます。

ホテルがパートナーと連携して患者用ホテルを提供する場合も、既存のサービスを拡張する場合も、一連のテクノロジーを戦略的に活用することで患者の治療成果と満足度を向上できます。以下は、医療におけるホスピタリティのトレンドを推進している4つのテクノロジーです。

 

  • オーダメイド医療 — ゲノミクス。オーダメイド医療とは、患者固有の遺伝子に基づいた、カスタマイズされた医療を提供することを意味します。この方法では、一般的に治療がより効果的になり回復が速くなるだけでなく、危険な副作用やアレルギー反応を軽減または排除できます。この現代の奇跡のような治療法を実現するために必要なテクノロジーとツールには、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、集団ゲノミクス、ビッグデータ、アナリティクス、機械学習、エピジェネティックな製薬などがあります。
  • プロバイダーの携帯電話アプリケーション。医療の携帯電話アプリケーションによって、プロバイダーは、レントゲンなどの医療画像や多くのラボ検査結果などをプロバイダーの携帯電話で直接表示できます。また、このような情報のデジタル化によって結果をより速く得ることができるため、患者の治療を迅速化し、患者の待ち時間を短縮できます。アプリケーションに機械学習機能が搭載されたり、統合されたりした場合、診断や治療法を提案することもできます。患者アプリケーションは遠隔医療セッションを促進し、それによってコストと待ち時間をさらに削減できます。また、患者用ホテルとメディカルホスピタリティの概念の利便性を高めます。
  • エッジコンピューティング。エッジコンピューティングは、データセンターではなくデータが生成される場所で実行するコンピューティングです。これにより、自動運転車両を事故が起こらないように操作するなど、リアルタイムでのアクションが可能になります。医療分野では、患者の汗を分析するスマートシーツや、患者の状態を把握したり必要に応じて薬を投与したりできるさまざまなポータブル機器を実現するために、エッジコンピューティングを使用します。エッジコンピューティングによってモノは「スマート」になり、リアルタイムで応答できるようになります。今後は、より多くの医療機器がスマート機能を搭載するように進化することが予測されます。
  • スウォームコンピューティング。スウォームコンピューティングは群知能とも呼ばれます。これは、定義された「群れ (スウォーム)」の中でコンピューティングパフォーマンスと知識を共有する究極的な方法だと言えます。医療の場合、群れを作るのは蜂ではなく、病院システムもしくは医療エコシステム、医師グループ、または患者支援グループです。群れの定義にかかわらず、1つのデバイスを使用するよりも強力で、速く、優れたコンピューティングという概念は同じです。医学の分野では、最も将来性のあるスウォームコンピューティングの使用方法は、群れのすべてのメンバーがただちに知識にアクセスできるようにするために、群れの中の各病院、プロバイダー、研究所がアルゴリズムの結果を共有することです。これによって時間を節約し、命を守ることができます。例えば、ある地域で特定の病気が流行した場合、すべての病院の救急救命室がその病気の情報と治療法を数分で知ることができます。

 

メディカルホテルの隆盛: リーダーのためのアドバイス

  • メディカルホスピタリティは、最先端のテクノロジーを幅広い患者に届けることができます。
  • 入院のストレスが軽減されるため、患者の治療成果を向上できます。
  • 新しいテクノロジーを導入するのは、きめ細かい医療をより提供しやすくするためであり、結果的に誰もがそのようなテクノロジーを利用できるようになります。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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