2019年7月19日

より詳細な道筋を描いてデジタルトランスフォーメーションを推進

エッジはディスラプターであり、詳細な道筋を描いたプロセスが成功の鍵となります。

船旅に慣れている人なら誰でも、出航してからすぐに携帯電話のサービスが停止することをわかっています。船旅ではときどきWi-Fiに接続できればいい方で、デジタル世界とのつながりはほぼ失われてしまいます。

このような状況は、いらいらすることはなかったとしても不安なものですが、Carnival Cruise Line社をはじめとするいくつかの船旅会社は、クラウドとエッジコンピューティングを活用して関心を持つ乗客に上質のサービスを提供することにより、こうした状況を変えたいと考えています。

同社のMedallionClass Experienceを利用した場合、乗客はPrincess Cruisesの2隻の大型船(まもなく3隻目が就航予定)でさまざまなサービスを提供するOceanMedallionという小さいウェアラブルデバイスを身に付けます。船の至る所に取り付けられた7,000台超のセンサーや4,000台超の高解像度画面に接続されるこのガジェットは、道順を示したり、パーソナライズされたエンターテインメントを提供したり、商品を勧めたりするだけでなく、場所を問わず乗客のカスタマー・エクスペリエンスを向上させます。たとえば、乗客が客室に近づくと、システムが自動的に到着を感知してドアを開け、画面上にパーソナライズされた出迎えのメッセージを表示します。また、船上での支払いが決済システムに結び付けられているため、カードを機械に通したりサインをしたりしなくて済むうえ、接客係がそれぞれの乗客に合った軽食を勧めたり、先を見越してさまざまな食べ物や飲み物を届けたりしてより良いサービスを提供できるよう、旅を通して飲食の注文のデータがキュレートされます。

これらはすべて、海岸と海上両方の複数の場所で収集して保存されるデータを目に見えない形でシームレスにやり取りすることで実現しています。

これについて、Carnival Cruise Line社の最高エクスペリエンス/イノベーション責任者であり、フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールドで同じようなMagicBandと呼ばれるテクノロジーの展開を指揮したJohn Padgett氏は、「ここで最も注目すべきイノベーションの1つは、船上でクラウドとエッジコンピューティングの両方を同時に活用する手法である」と述べています。

Carnival Cruise Line社は、現在増加しつつある、このようなデジタル時代の機能を活用して革新的なサービスを提供している企業の1つにすぎません。しかしこうした企業は、これまでとは違うアプローチを取っており、実際デジタル時代においては、どのようにデータを生成、使用、収益化するのかが最も重要となっています。

 

データセンターの隆盛と衰退

大部分の企業組織はつい5年前まで、オンラインサービスの提供やその過程で収集されるデータの集約と分析をサポートするためのクラウドインフラストラクチャの構築に力を注いでいました。そしてカスタマー・エクスペリエンスを追求しようとするブランドの競争が激化するのに伴って、ビジネス、運用、およびITプログラムのすべてをこうした取り組みに合わせて展開することが不可欠となりました。

その当時予想されていたクラウドサービスとその関連データの急増に対応すべく、大規模なハイパースケールデータセンターの構築に企業の膨大な資金が投入されましたが、相互接続デバイス、クラウドプロバイダー、モノのインターネット(IoT)デバイス、Software-as-as-Serviceソリューション、およびエッジコンピューティングが普及したことにより、多くのアナリストは、以前ほど従来のデータセンターですべてを維持する理由はないと述べています。

実際のところ、Gartner社によると、2025年までに従来のデータセンターを閉鎖する予定にしている企業の割合は、現在の10%に対して80%となっています。

またIDC社は、従来の考え方に基づいて中央のエンタープライズデータセンターからオンラインサービスを提供することに意味はないため、組織が企業の所有する数百万のサービスデリバリエッジに展開する資産の数が、早ければ2021年にコアデータセンターの資産の数を上回ると指摘しています。

これについて、IDC社のデータセンター/クラウド調査担当バイスプレジデントであるRick Villars氏は、次のように述べています。「エッジはすべてのビジネスに破壊的な変革をもたらします。エンドポイントとコアだけで実現できる興味深いことやものの大部分はすでに実現されており、あとは効率化するだけですが、これからは、エッジのIT環境でしか機能しない新たなイノベーションを生み出すことが重要になってきます」。

 

エッジがすべてを大きく変える

エッジへの移行が急速に進んでいる理由の1つはそこにあります。

エッジコンピューティングは迅速に問題を解決するものであり、企業はコンピュート、ストレージ、データ管理機能、および制御機能をエッジで維持することにより、望ましくないデータ転送の遅延と転送に必要な帯域幅を抑えることができます。またその過程において、地域のデータセンターとクラウド間の定期的なデータチャンクの移動が必要なくなるため、全体的な運用コストが最小限に抑えられます。

エッジに移行することで得られるメリットとしては、スピード以外にデータソースの規模と幅広さが挙げられます。クリティカルな機能をエッジに配置すれば、デジタル時代の要求により迅速に対応できるようになるだけでなく、より的確に対応することが可能になります。

これらはいずれも利便性の向上に貢献するため、需要の増大に対応して卓越したカスタマー・エクスペリエンスを向上させるうえで非常に重要です。たとえば、スマートキーを持った乗客が近づいてきたときにクルーズ船の客室のドアがすぐに開かなければ、それが好印象と悪印象の分かれ目になる可能性があります。

エッジが持つ非常に大きな可能性からメリットを得るには、企業はビジネス、運用、およびインフラストラクチャモデルの一部を根本から変える必要があります。

デジタル時代を迎える前のビジネスモデルは、どちらかといえば企業の方向性を定めるものであり、運用担当リーダーは、IT部門と連携してさまざまなビジネスの優先事項を進めるのに何が必要なのかを見極めていました。そしてそのような目標の実現をサポートするテクノロジープロジェクトに多額の資金が投入されていたわけですが、こうしたアプローチでは、CIOが率いるIT部門はほとんどの場合にコストセンターとみなされており、その目的は、望ましいテクノロジー資産で最適な価格性能比を実現することにありました。

一方、現在のデジタル時代においては、すべての企業が新たなテクノロジーによって変わりつつあるビジネスモデルに頭を悩ませており、こうした変化に後れを取らないよう(そしてまたその機会を捉えるため)、イノベーションがもたらす機会を特定してビジネスの方向性を定めるのに役立つテクノロジーに目を向ける企業が増えています。

ただし一部の企業では、IT部門が自らの部門や製品領域に利益をもたらす可能性がある一方でより広範な自社の目標に一致していないシャドーITプロジェクトを独自に立ち上げて進めるケースが多く見られます。IDC社のVillars氏は、同社がそれを「デジタル化を決定した企業」と呼ぶのとは対照的に未熟な組織の証であると述べています。

そして同氏は、これについて次のように語っています。「この5年間、ほとんどの企業はデジタル化に重点を置いてきましたが、さまざまなニーズだけでなく問題もあり、それらに対応する必要があることに気づきました。ただしそうした企業は、ビジネスとアーキテクチ

ャーに関して完全な決定を下すレベルにまでデジタル化を決定しておらず、現時点でデジタル的に成熟している企業は半数に満たないと私たちは考えています。そしてそれが半数を超えるのは4年後になるのではないかと思います」。

 

デジタルジャーニーの道筋を描く

企業がデジタルジャーニーのどの段階にあるのか(そしてどこを目指す必要があるのか)を見極める方法の1つとして、組織内で進行中のデジタルイニシアチブの道筋を描いてそれらのイニシアチブをビジネスの優先事項に結び付ける独自の手法を適用するというアプローチがあります。このデジタルジャーニーマップを使用すれば、企業がトランスフォーメーションに向けた取り組みのどの段階にあり、デジタル成熟度を向上させるために何を行う必要があるのかを明確にできます。

このジャーニーマップは、データ主導、エッジ中心、クラウド対応という完全なつながりを持つ3つのカテゴリに分類されます。

クラウド対応とは、ネイティブのクラウド開発でイノベーションを加速させて価値実現時間を短縮することであり、ご存知のようにEverything-as-a-Serviceソリューションによってビジネスに大きな変革がもたらされます。クラウドは、レガシー環境を最新化して移行するものでもあり、そこにはハイブリッドクラウドのアジリティによるサービスデリバリコストの最適化も含まれます。

一方、エッジ中心のアクティビティでは、新たなビジネスモデルを設計するとともに、新しいパーソナライズされたカスタマー・エクスペリエンスの創出と提供によって売上高を増やすことに重点が置かれます。またそれと同時に、企業が運用をより的確に制御して向上させることができる方法でエッジデータから有益な情報を取得します。

この手法は、組織がクラウド対応のジャーニーとエッジ中心のジャーニーの両方を進められるようサポートすることに狙いを定めたものであり、組織はトランスフォーメーションに関する2つの独自のアプローチから最適なものを選択できます。1つ目は、特定と予測が可能な成果と投資収益率を実現できるよう設計された「予測可能な」アプローチであり、一般的にはIT部門が予算を持つことになります。2つ目は、多くの場合に事業部門が予算を持つ「探索的な」アプローチであり、このアプローチでは、要件は明確に定義されないものの、組織は進むべき方向とテクノロジーが果たす役割を大まかに把握できます。そのため、コンサルタントは製品管理の手法で重要なデジタルの機会を特定して追求し、それらを確保するための適切な道筋を定めます。

 

デジタルの課題を克服する

ただし、企業がどれだけ適切にクラウドテクノロジーとエッジテクノロジーの両方を実装したとしても、必ず継続的に監視して対処しなければならない課題が生じます。

たとえば、企業はよりパーソナライズされたカスタマー・エクスペリエンスを実現するために、AIや機械学習などの新たなテクノロジーを応用する必要があります。また、それに伴って必ず個人データが使用されることになるため、企業は個人情報の使用方法を規定する欧州の一般データ保護規則(GDPR)のフレームワークをはじめとするプライバシーに関するルールや規制に対応しなければなりません。

クラウドとエッジコンピューティングのプロセスを整合させるには、運用モデルを進化させて同じ目的の下でITのキスパートと運用テクノロジーのエキスパートを連携させることも企業に求められます。それぞれのチームは、他のチームの作業の詳細を掘り下げ、業務のプロセスを把握したうえで連携する必要があります。

もう1つの問題はセキュリティです。データを収集してクラウドインフラストラクチャとエッジインフラストラクチャで共有するときは、絶えず傍受と悪用の脅威が存在しますが、Futurum社とヒューレット・パッカード エンタープライズが実施した調査では、デジタルセキュリティに関して2つの対照的な見解があることが明らかになりました。調査対象組織の約90%は、クラウドに転送するよりローカルで処理した方がデータのセキュリティを確保しやすいと考えているものの、セキュリティの欠如もエッジコンピューティングの最大の障害の1つに挙げられています。

デジタル化の面で組織を成熟させるには、絶えずアジリティを向上させるとともに、新しいテクノロジーモデルが登場したときに、かつて広く普及していたテクノロジーモデルから脱却する意志を持つ必要があります。

これについて、Villars氏は次のように述べています。「課題は、デジタル化に関する決定事項が動く標的であるということです。2年前にすべての顧客が気に入っていた素晴らしい最先端のモバイルインターフェイスが、今では陳腐化した古いものになっている可能性があります。デジタル化を決定するというのは、新しいインターフェイス、インタラクションモデル、およびケーススタディが生み出されたときにそれらに迅速に対応できるよう投資を続けることであり、デジタル化を進めるには、これまでの状況やこれからの目標ではなく、その目標の達成方法を明確にすることが重要なのです」。

出典:『The Data Center Is Dead, and Digital Infrastructures Emerge』、Gartner社、2018年4月13日

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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