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2022年1月14日

ローコード/ノーコードのツールによる技術者不足の解消

非プログラマ向けのツールは、開発を加速し、ユーザーが問題を自分で解決することを可能にします。

Vermont Electric Power Company (通称Velco) 社は約150人の従業員を擁し、今ではその全員がプログラマです。パンデミックの影響で、同社ではプログラミングの人材が不足しており、厳格な労働基準が問題をより深刻化させていました。Velco社の人事部が求めていたCOVID-19のスクリーニングアプリなど、新しいアプリケーションの開発には通常数ヶ月を要します。しかしながら、ローコード/ノーコードのプラットフォームであるVolt MXのおかげで、アプリケーション開発者兼データインテグレーターのJarrod Harper氏は、わずか60時間でシステムを立ち上げることができました。

ローコード/ノーコードのアプリケーション開発は、プログラミングスキルがほとんど、またはまったくなくてもプログラムを作成できるプラットフォームを使用するもので、新しいアイデアではありませんが、近年注目が高まっているテクノロジーです。開発者の不足、ハイブリッド環境の増加、デジタルイニシアチブの加速に対する要求などが、こうしたツールの導入を後押ししています。事実Gartner社は、2021年には世界のローコード開発テクノロジー市場は23%成長し、138億ドル規模に達すると予測しています。

市民開発者の台頭

ローコード/ノーコードのプラットフォームは、IT部門内のアプリケーション開発を加速させるだけのものではありません。推進派は、こうした手法は企業全体にわたってテクノロジーを民主化し、(市民開発者と呼ばれる) 一般の従業員がコードを作成して、ビジネス上の課題を自分で解決できるようになると考えており、とりわけITプロフェッショナルが不足している今日では大きな効果が期待されます。またITプロフェッショナルは、売上や生産性を向上させてビジネス目標を達成することを目的とした、より戦略的なデジタルトランスフォーメーション プロジェクトに集中できるようになります。

COVID-19が流行する以前、CIOらはローコード/ノーコードのプラットフォームにあまり積極的でなく、サードパーティのプラットフォーム上でアプリケーションを開発する場合のオープン性やセキュリティを懸念する声が多かった、とデジタルコンサルティング企業StarCIO社社長のIsaac Sacolick氏は述べています。多くのCIOは使い慣れた実証済みのアプローチを好む傾向にありました。

「COVID-19以降はそうした余裕がなくなりました」とSacolick氏は説明します。「どのCIO調査を見ても、企業のCIOにとって最も大きな課題は人材の確保であり、とりわけ最新のテクノロジーに関する人材不足は深刻です」。Sacolick氏によると、こうした状況に対処するため、賢明なCIOらは、優れたデータサイエンティスト、エンジニア、インテグレーターなどを、戦略上重要性の高いプロジェクトに絞って投入しています。そして第2の対処方法として注目されているのが、従業員のオンボーディング用モバイルアプリの作成など、テクノロジーの利用が欠かせない分野におけるローコードプラットフォームの活用です。この方法はスタッフのスキルセットの拡大を可能にすると同氏は指摘します。

ローコードツールを使用すれば誰でもソフトウェアを開発できる可能性があるとSacolick氏は付け加えます。難しいのは、問題の解決にテクノロジーを使用することよりも、インパクトを与えられる適切なビジネスケースを見出すことです。

この点は組織で使用されている他のシステムにも影響されます。Sacolick氏は「ローコードパラダイムにはプラットフォームが欠かせませんが、CRM、ERP、e-コマース、エンタープライズ検索、CMSなど、柔軟な構成やカスタマイズが可能なSaaSシステム内の機能として利用できるようになりつつあります」と指摘します。

Schneider Electric社は、ローコード/ノーコードのプラットフォームにより市民開発者を支援することで、IT部門以外のデジタル人材を大幅に増員できたと、同社デジタルテクノロジー担当シニアバイスプレジデント兼CIOのAbha Dogra氏は述べています。具体的には、このアプローチを採用することで、カスタムアプリケーションの作成に専門の開発者を投入する必要性が減少したことによる経費の削減に加えて、市民開発者の強みを生かしてビジネスニーズにより即したカスタムアプリケーションを開発できるようになり、またさまざまなテクノロジーを駆使してカスタムアプリケーションの開発をスピードアップできたと同氏は説明します。

Sacolick氏は、ローコード/ノーコードのプラットフォームの導入に先立って組織が解決すべき点として、以下の4つの事項を挙げています。

  1. ビジネスユニット内に、新たなプラットフォームを使用して自分たちが必要とするワークフローを構築することに前向きな人々はいるか。
  2. 部下がこの取り組みに時間を費やすことを支持してくれる上司はいるか。
  3. 新しいテクノロジーを進んで使用してくれそうな同僚はいるか。
  4. IT部門によるサポートは得られるか。

「この4つが重要なポイントです」とSacolick氏は説明します。「このうち2つ以上が欠けていれば、ローコード/ノーコードのソリューションを導入する準備ができていないと判断されます」。

「私たちは必要な新機能を、以前より少ないスタッフではるかに短期間で提供できるようになりました。またローコードで作成できる機能に特に制約はありません」
LENDR社、テクノロジーリーダー兼プロジェクトコーディネーター、NICK MATES氏

少数のスタッフで新機能を構築

中堅・中小企業向けのマーチャントキャッシュアドバンスや請求書ファクタリングサービスを提供しているLendr社はスタートアップ企業であるため、開発者を雇用する予算がありませんでした。ソフトウェア開発は契約ベースで行われており、その後社内開発に移行しても「スループットやビジネス価値が期待されたほど向上しませんでした」と同社のテクノロジーリーダー兼プロジェクトコーディネーターであるNick Mates氏は振り返ります。「私たちはビジネスサイドが望むスピードで、顧客に新機能を提供できずにいました」。

そこでLendr社はローコードアプローチを試すことを決断し、フルカスタマイズが可能なプラットフォームであるOutSystemsを選択しました。OutSystemsを選択することで同社は「ブランドエコシステム内で独自のUIを構築でき、またローコードソリューションの使用をやめる場合は、コードをC#言語でエクスポートすることも可能」で、さらに強固な統合ニーズにも対応できるとMates氏は述べています。

金融サービスを主事業とするLendr社は、サードパーティから多くのデータを収集し、それらのデータを使用して意思決定を行い、ビジネス向けのコンテキストを開発しているため、堅牢な統合機能は非常に重要であると同氏は説明します。

ローコードプラットフォームならではの開発スピードも、重要な判断材料でした。Lendr社は2019年からローコード開発を導入し、プラットフォームは主として開発チームが使用しています。ただしビジネスユーザーが、自身が必要とする機能を開発するケースもあると同氏は述べています。

パンデミックの間、Lendr社はスタッフを80%削減しましたが、このプラットフォームはスタッフ不足を軽減するうえで大きな力を発揮しました。

Harper氏と同様にMates氏も、ローコードの基本的理念は、ビジネス価値をより迅速に提供することであると考えています。「私たちはビジネスに必要な新機能を、以前より少ないスタッフではるかに短期間で提供できるようになりました。またローコードで作成できる機能に特に制約はありません」。

例えば開発者らはローコードを使用することで、信用調査、身元調査、銀行分析などのコンポーネントをはじめとして、融資の申請や適格性評価のプロセス全体を合理化しました。「ローコードで実装する以前は、これらのプロセスは統合されておらず、多くの手作業が必要でした」とMates氏は振り返ります。Lendr社では顧客が融資を申請してから承認されるまでの平均時間が、8時間から80分に短縮されたとのことです。

「ローコードで実装したテクノロジーにより、組織全体の効率性が向上しました」とMates氏は説明します。

このテクノロジーは今やLendr社の技術的インフラストラクチャの中核を担っています。同社の開発にローコードが使用される割合は約5%から85%に大きく増大しており、「従来型の開発に戻すつもりはありません」と同氏は明言します。

IT部門の役割はいまだ大きい

オンボーディングを成功させるために、ローコードのプラットフォームは直感的に操作できる必要があるとSacolick氏は指摘します。「プラットフォームだけでなく、人々やユースケースについても双方向の評価が必要です」。

利用が広がるローコードのプラットフォームについて、「こうしたプラットフォームは1時間程度で理解できなければならない」と同氏は述べています。

またトレーニング、テスト、文書化などを規定するITガバナンスに加えて、必要に応じたロールバックも可能でなければなりません。「市民開発者はこうした分野に詳しくないため、導入したローコードをどのように運用すべきかについて、ガバナンスグループが、ガイダンス、知識、トレーニング、テクノロジーなどを提供する必要があります」とSacolick氏は述べています。

当局者によると、セキュリティは (ローコード開発者も含めて) 開発者にとって重要な責務の1つです。ローコードプラットフォームを使用する場合は、そのプラットフォームに潜在するセキュリティ問題に留意し、何らかの問題が発生した場合は、IT部門によるアップデートや顧客への通知を行う必要があります。ローコードベンダーによりアプリケーションがアップデートされて、エンドカスタマーによる対応は不要な場合もありますが、自社の顧客のためにも、最新状況を常に把握しておくことが大切です。

非技術系の社員がノーコード/ローコードのプラットフォームを使いこなせるようになるまでには、ある程度の学習時間が必要であるとDogra氏は指摘します。この点に関してIT部門は「プラットフォームをスケーラブルかつ効果的に導入するうえで重要な役割を担っています」。

またフルスタックのソフトウェア開発よりも、ノーコード/ローコードのプラットフォーム開発の方が適しているユースケースについて、明確なガイドラインと基準を規定しておくことも重要です。「私たちはこうした課題にも取り組んでおり、アプリケーションのライフサイクル管理を含めて、プラットフォームに関する明確な運用モデルの定義を進めています」とDogra氏は説明します。

Lendr社のビジネスユーザーは、「戦略的重要性が低いイニシアチブ」にローコードを使用する傾向があるとMates氏は述べています。一例として、同社のあるセールスマネージャは独自のレポートスイートの作成に取り組んでいます。必要な機能をマネージャが自分で作成できれば、技術チームと何度もやりとりする必要がなくなりますが、技術的なバックグラウンドを持たない人はSQLクエリの仕組みに慣れていないため、ローコードの習得に時間がかかります。

「ローコードでは、ビジュアルな操作によってデータを結合したりフィルターを設定したりすることができます。とはいえビジネスユーザーは、通常の業務とは異なるマインドセットを求められます」。

しかしながらHarper氏と同様に、技術的バックグラウンドを持たないMates氏も、約1年間にわたり同社で唯一のローコードプラットフォーム開発者として活躍しています。「プラットフォームは直感的に操作できますが、ローコードによる開発にはプロセス指向の考え方が求められます」と同氏は述べています。

もう1つの問題として、「ローコードは真の開発ではないと考える従来の開発者の抵抗がありました」とMates氏は説明します。当初、ローコードに対する開発者の賛同はあまり得られず、「その点が苦労の種でした」と同氏は振り返ります。しかしながら、Mates氏によるコード作成のスピードと、「本格的なアプリケーションを作成できるという事実により、そうした問題は徐々に解消されていきました」。

ローコード/ノーコードの次のステップ

ローコードの波に乗り続けるVelco社は、ローコード手法を使用して7ヶ月間で開発した、送電システムの熱定格に関する新しいアプリケーションを近日中に発表する予定です。7ヶ月というのは長期間に感じられるかもしれませんが、Harper氏が説明するように「サポート対象外のシステムからアプリケーションを再構築しているため、新しいユーザーインターフェイスが内部顧客のニーズを満たしているか、アプリケーションに必要なすべての計算が旧システムと一致しているかなど、多くの検証作業が必要になります」。

Velco社は来年、アプリケーション開発チームを拡大する予定ですが、必要なITプロフェッショナルをすぐには確保できない可能性があることをHarper氏は承知しています。

多くのソフトウェア開発者はビジネス価値を提供し、人々の仕事を支援することを望んでおり、「そのために役立つツールであれば、活用しない理由はありません」とMates氏は述べています。技術者の不足がすぐに解消されるとは考えられませんが、「開発者のニーズがそれほど高くならなければ、均衡を取り戻すことができるでしょう」。

リーダーへのアドバイス

  • 非プログラマ向けのソフトウェア開発ツールの有効性は、すでに高レベルに達しています。
  • ローコード/ノーコードツールを使用すれば、非プログラマでも有用なソフトウェアを作成できますが、ソフトウェアを効率よく作成するためには、IT部門をはじめとする他の部門のサポートと協力が欠かせません。
  • 組織内のニーズによって、最適なローコード/ノーコードツールは異なる可能性があるため、特定のツールにこだわることなく幅広く検討することをお勧めします。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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