2022年3月18日

利点をキープしながら移行するには: ハイブリッドクラウドシステムにAIOpsが必要な理由

今日のハイブリッドクラウドシステムは複雑になるばかりで、IT部門では問題の調整や解決が困難になっています。そこで役に立つのがAIです。

ハイブリッドクラウド プラットフォームの利点は非常に大きく、それがさらに拡大していくことは間違いありません。しかし、適応性、拡張性、信頼性などの利点には複雑さの問題が伴います。そうした複雑さの原因は、ハイブリッドクラウドアーキテクチャを構成する多数のコンポーネントがアーキテクチャ内のさまざまな場所に存在していることにあります。しかも、こうしたコンポーネント間のやり取りによって、ハイブリッドクラウド導入当初は大いに期待された効率性や精度、利点が移行中に損なわれる可能性があります。

このような非常に困難な状況を軽減してくれるのが人工知能 (AI) です。AIは根本的に、人間の脳では到底処理できないパターンや問題を認識することを目的としています。AIなら、こうしたきわめて複雑な問題を、ハイブリッド環境運用での障壁を取り払うことで解決できます。このようにAIを利用して運用を診断し最適化することをAIOpsと呼びます。

ハイブリッドクラウド プラットフォーム導入を進めているそれぞれの組織が、独自の移行上の課題にぶつかります。このブログでは、こうした課題のいくつかに加え、移行を容易にする過程におけるAIOpsの役割を十分に理解できるように例を挙げて解説します。

レガシーシステムとアプリケーション

確立された組織では、独自の技術プラットフォームがシステムやアプリケーションとともに構築され、数十年でなくとも数年は稼働し続けています。しかし、ミッションクリティカルな独自の従来型コアアプリケーションで現在の形態を取る場合、真のクラウド運用モデルを常に活用できるとは限りません。

当然ながら、ハイブリッドモデルでは、コンポーネントの一部をクラウドに配置できないことが前提とされています。しかし、移行上の課題が生じる可能性があります。たとえば、オンプレミスデータセンターの1か所ですべての資産 (ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク) が稼働し、そのデータセンターがシステム内の他のアプリケーションとさまざまに相互依存している場合です。こうした相互依存があると、一部のアプリケーションをクラウドに移行するときに、展開が遅延し信頼性の問題が発生することがあります。

レガシーアプリケーションを構成するサブコンポーネントの中には、パブリッククラウドにないサービスや、そこにまだ移行されていないサービスに、どうしてもアクセスするものがありますが、アクセス先が存在しないためエラーが返り処理は失敗します。そうした状況でも、クラウドのマイクロサービスアプリケーションは一時的に稼働できます。スピンアップ後、おそらく短時間存在し、その後スピンダウンします。しかも、可能な限りの可用性と効率性を考慮して、リソースのあるさまざまな場所に移動します。必要なサービスが特定の場所に常にあるという前提で構築されたレガシーアプリケーションでは、動的サービスの利用が難しくなる可能性があります。

こうした問題の診断が難しいことはよく知られていますが、AIOpsシステムなら、ログファイルの山から問題の原因を発見してくれます。問題の解決方法を提案できることもあり、しかもその能力を徐々に高めていきます。

さまざまなスタックコンポーネント

サーバースタックを同じベンダーで統一できれば、運用が非常に楽になります。しかし残念ながらテクノロジー業界は変化が激しく、成長の浮き沈みがあり、合併なども行われます。企業のサーバースタックには、複数のブランドコンポーネントが存在することもあります。ハードウェアだけでもそうした課題にぶつかるのです。

もっともらしいシナリオを挙げましょう。自らの力でも買収によってでも成長しそうな 大企業があるとします。この企業では、買収した会社が開発した顧客向けポータルのアプリケーションをAWSで稼働させています。また、企業の重要なデータセットをオンプレミスにもMicrosoft Azureにも保存しています。しかし、成長に伴い、Webサービスは寄せ集めの状態になってしまいました。

どちらの場合も、異なるブランドやサービスが、オンプレミスとクラウドでどのように相互作用しているかが重要になります。いずれかの環境をアップデートすれば、さまざまなコンポーネントに関連するエラーや予期せぬ動作が発生しかねず、人間の能力ではそれらの因果関係を簡単には分析できません。

こうした複雑さの対処にもAIOpsを大いに活用できます。適切に整えられたAIOpsシステムであれば、あらゆる製品やプラットフォームで優れた能力を発揮します。設定が変更されても最新の状態を把握して、きわめて複雑なインストール環境についてアドバイスしてくれます。

サイロ化した部門と属人的な業務

前述の2つの例は、主にソフトウェアとハードウェアに根ざしたものですが、部門のサイロ化によって発生する問題は、人間の不完全さに直接起因します。同じ組織内であっても、ハイブリッドクラウド プラットフォームで共同業務を行う部門が独自のツールを使用していれば、どのプロセスも断片的に認識されるようになります。各部門で使用しているクラウドサービスが異なると、特にそうした状況が生じます。全部門で編集し更新する包括的な手順書を利用できても、「他の担当者待ちの業務」といった問題が頻繁に発生するでしょう。

個人スキルへの依存という問題によって状況はさらに複雑になります。手順書にはあらゆる知識が収められていますが、それらを適用すべき状況を理解できるのは、多くの場合、長年の経験を持つ従業員です。その従業員が退職すると、通常、別の従業員が業務を引き継ぎます。しかし、その後任者はさほどスキルがないか、別の方法でトラブルシューティングにアプローチする可能性があります。

AIOpsを導入すると、AIがこうした問題の解決方法を学習してその分野のエキスパートとなり、修正のための推奨事項を人間に提案するようになります (修正対象にAIが直接触れることは、明示的には許可されません)。そのため、ベテラン従業員が退職しても大きな問題は発生しません。その時点のAIの能力では問題に対処できない場合、モデルのトレーニングと再トレーニングに使用するデータセットを更新できるため、マニュアルやプロセスを手作業で更新しなくても済みます。

運用の可視化

これまで述べてきた重要な点に関連して、データセンターインフラストラクチャを十分には可視化できないことが欠点となり、移行時に損失が生じる可能性があります。

従来のシステムでは、エンドユーザーがどのスタックコンポーネント (ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーキング) にもアクセスして、それらに、CPUの使用率、ネットワークリンクの混雑、データベースのロック状態といった、さまざまな情報を問い合わせることができていました。ハイブリッドモデルに移行すると、パブリッククラウドでキャパシティを予約したりアプリケーションの一部を稼働させたりすることができるため、これまでのさまざまなクエリによる状況把握がほぼ不要になります。たとえば、実際のAzureの物理ラックを確認し、自分の都合に合わせてクエリを実行する必要はありません。必要なデータを必要なタイミングでパブリッククラウドプロバイダーから取得できるのです。

ハイブリッドクラウドシステムを監視する場合、専任のITチームを持つことが理想的であり、それで事足りますが、運用の可視化という点では、ハイブリッドクラウド プラットフォームの本質とスピードが原因で制約が生じます。従来型の監視ツールや運用ツールは、非常に多くの動的要素があらゆる場所を猛スピードで移動しているハイブリッド環境に必要な柔軟性や速度を備えていません。しかし、AIOpsシステムはそうした状況にも平然と適応します。

AIOpsが問題を解決

AIは、ハイブリッド環境に関する膨大な量の情報を収集して、メッセージを発し、関連する要素を追跡しながら障害を特定できます。たとえば、クラウドサービスと、ローカルネットワーク設定のどちらに問題があるのかを判断できます。

AIモデルをプログラムで構築して、オンプレミスデータセンターと、クラウドベースのサービスプロバイダーにあるデータポイントを認識させると、人間や、従来のツールの能力をもはるかに超える複雑な分析を行えます。AIOpsでは、データの収集と分析や、サービスの診断がすべて同時に実行されるからです。

理想的な考えを言えば、一連の標準規格を中心にして業界の結束力が高まり、そうした規格のおかげで、どのベンダー、ハードウェア、ソフトウェアでも、パフォーマンスデータ、高度なエラー条件処理、その他の情報データを必要に応じて記述し、包括的なモデルを構築できるようになります。しかし、これは、クローズドシステムを構築して自社ソリューションの付加価値を感じさせるという、大手ベンダーの概念とは相反するものになります。こうした標準規格を推進する可能性が最も高いのは、自社サービスをオンプレミスのハイブリッドクラウド環境に展開したい大手クラウドプロバイダーです。

ハイブリッドクラウド プラットフォームを利用している場合、そのような標準規格が浸透するまではAIを適用して自力で移行を乗り切るという選択肢が残されています。

リーダーのためのアドバイス

  • ハイブリッドクラウド環境は複雑なため、問題解決とシステム最適化にAIが必要です。
  • 場合によってはハイブリッド環境での運用可視化は難しく、特に買収後はそうした状況に陥りやすくなります。
  • 複雑な環境の運用では、担当者の退職後に課題が生じる可能性があります。それとは対照的に、AIはより良いオファーをもらったり、昇給を求めたりすることはありません。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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