2022年3月18日
連邦政府の新しいブロードバンド資金: 650億ドルの使い道
総額1.2兆ドルの米インフラ法案では、デジタルデバイドの解消に莫大な予算が充てられています。以下ではその実効性について検証します。
COVID-19の危機により私たちは、高速で信頼性の高いインターネット接続が、今日の経済、人々の幸福、そして未来にとって、いかに重要であるかを改めて認識させられました。学校教育から医療、さまざまな職業に至るまで、パンデミックはデジタルデバイドの問題を浮き彫りにしました。
Boston Consulting GroupとCommon Sense Mediaの共同調査によると、接続とコンピューティングリソースの不足により遠隔教育に参加できないK-12 (幼稚園~高校3年生) の生徒は、過去20ヶ月間で1,600万人近くに達しています。またRAND社の分析によると、農村部や低所得地域に住む人々は、遠隔医療サービスへのアクセスが制約される傾向にありました。さらにUCLAの研究者らにより、所得や教育の水準が同程度であっても、有色人種は在宅勤務が難しい場合が多いことも明らかになりました。
こうした状況を背景に、総額1.2兆ドルのインフラ投資および雇用法に盛り込まれた格差解消のための650億ドル近くの資金は、目覚ましい進展であると、Pew Charitable Trustsでブロードバンドアクセスイニシアチブのプロジェクトディレクターを務めるKathryn de Wit氏は評価しています。
「今や議員らはインターネット接続を、あれば便利なものではなく、必要不可欠なものと認識しています」とde Wit氏は言います。「そのためこうした投資の必要性について賛同と理解が広がっています」。
これまでにも連邦政府のイニシアチブによりデジタルデバイドの解消が試みられてきましたが、これほど大規模かつ包括的なものはなかったと同氏は指摘します。例えば、2009年の米国復興・再投資法 (ARRA) では、サービスが行き届いていないコミュニティの接続強化に72億ドルが充てられていましたが、今回の法案はケーブル会社や電気通信会社に設備強化のための資金を提供するだけにとどまりません。新たな法案には、学校、コミュニティグループ、地方自治体などに対する資金援助に加えて、低所得世帯に対する助成金、デバイスやデジタルスキルに関するトレーニングの提供なども含まれています。
「これは数十年に1度の規模の投資であり、デジタルデバイドの解消に大きく寄与すると期待されます」
GREG GUICE氏 PUBLIC KNOWLEDGE、政務担当ディレクター
さらに今回の法案では資金提供に加えて、ブロードバンドを下り100Mbps以上、上り20Mbps以上の接続と定義しており、これは米連邦通信委員会 (FCC) の現在の基準である下り25Mbps、上り3Mbpsを大幅に上回る数値です。
「この値は上限ではなく下限です」とde Wit氏は付け加えます。「より高速な接続が優先されます」。
その一方で、法案には未知数の部分も多く残されています。資金がどのように分配されるのか、そして誰が最も恩恵を受けるのかについては、未だ決定されていません。
資金の使い道
650億ドルのブロードバンド資金は複数の部分に分かれており、今後5年間にわたりさまざまな方法で分配される予定です。
そのうち最大の425億ドルは、Broadband Equity, Access, and Deployment (BEAD) プログラムに割り当てられており、助成金申請に基づいて各州に分配されることになっています。対象となる各州および一部の米国準州は、開始時に最低1億ドルを受け取れます。
さらに42億5,000万ドルが、へき地、低人口密度地域、低所得地域など、民間の通信事業者にとって高速アクセスを提供するためのコストが割に合わない地域にブロードバンドを提供するために使用される予定です。この資金の残りの部分である約320億ドルは、各州の未整備地域にアクセスを提供するため、個々のニーズに応じて割り当てられます。
さらに連邦議会は、ローカルネットワークを主要なインターネットバックボーンに接続するためのミドルマイルインフラストラクチャの構築用に10億ドルを確保しています。また高齢者、退役軍人、マイノリティなど、特定の人々を対象としてデジタルエクイティを推進するために27億5,000万ドルが充てられます。最後に142億ドルが、FCCの下で恒久的なAffordable Connectivity Programを設立するための資金に充てられ、低所得世帯およびその他の対象となる個人がインターネットサービスを購入するための補助金が毎月支給される予定です。
(以上の数字を合計すると650億ドルを超過します。こうした法律はいずれも複雑ですが、一部の資金は、2020年末に成立したCOVID景気対策法である2021年連結歳出法で分配された資金を再分配したものと思われます。言い換えると650億ドルは新たに割り当てられた資金の総額です。)
「これは数十年に1度の規模の投資であり、デジタルデバイドの解消に大きく寄与すると期待されます」と、デジタルアクセスと透明性の問題を専門とする公益団体Public Knowledgeの政務担当ディレクターであるGreg Guice氏は述べています。「サービスを手頃な料金で利用できるようにしたり、へき地にサービスを提供したりするために、やるべきことはまだいくつもありますが、今後大きな進展が期待されます」。
格差解消はまだ道半ば
しかしながら、こうした資金をどのように使うかは各州に委ねられており、消費者や企業が得られる恩恵は地域によって大きな差があると予想されています。
de Wit氏によると、これは必ずしも悪いことではありません。アラスカ州のような人口密度の低い州では、カリフォルニア州やマサチューセッツ州などとは異なるブロードバンド戦略が必要です。
「デジタルデバイドはローカルな問題です」と同氏は付け加えます。「州や地域のリーダーを議論のテーブルに着かせ、政府機関およびコミュニティベースのパートナーの能力を高めるために、必要な資金やサポートを提供することが大切になります」。
また同氏は、インフラ強化は超党派で取り組むべき課題の1つであるとも指摘します。「私たちは非常に保守的な州の議員らとも連携しています」とde Wit氏は言います。「議員らは皆、住民が手頃な料金でインターネットを利用できない、あるいは接続に必要なスキルやデバイスを持っていないようなコミュニティは、いずれは消滅してしまうことを理解しています」。
とは言え、資金の分配方法について政治力学が影響する可能性も指摘されています。インフラ法案に党派を超えて賛成した共和党議員はわずか13人でした (ただし、反対票を投じながら法案のメリットを宣伝している議員もおり、他党の議員や有権者から反発を受けています)。
タフツ大学フレッチャー法律外交大学院のグローバルビジネス学部長であるBhaskar Chakravorti氏は、デジタルデバイドには、インターネットサービスにアクセスできない人々と、アクセスは可能であるが利用する金銭的余裕がない人々、の2つのタイプがあると言います。そしてしばしばこのタイプは、党派の境界に沿って分かれています。
「サービスにアクセスできない地域は共和党寄りの農村部に多いため、そうした人々を対象とする資金については、共和党側からの要求が強いと予想されます」と同氏は指摘します。Chakravorti氏のDigital Planet研究プロジェクトでは、格差解消に必要な真のコストを2,400億ドルと見積もっています。「一方、都市部で問題となるのはサービス料金の高さです。こうした問題を抱える人々の大半が黒人や褐色人種で、その多くが民主党支持者です。そのため保守とリベラルの対立が、資金の配分に影響を及ぼす可能性があります」。
そしてこのことが資金がどれだけ効率的に使われるかを決定するかもしれません。ARRAのブロードバンド資金72億ドルのうち3分の1以上が、農村部の接続強化に充てられましたが、それらの地域は人口が非常に少なく、また既存のプロバイダーによってサービスがすでに提供されている地域もありました。2011年に行われたプログラムの追跡調査により、これらの地域に新たなサービスを提供するために要したコストは、1世帯あたり平均3万ドル以上に達したことが判明しています。
低帯域幅、高価格
米国都市部のインターネットサービス料金は、世界で最も高い水準にあります。新たな法案はこうした状況の改善にはあまり寄与しないと思われます。
ブロードバンドをより手頃な価格で利用できるようにするうえで問題視されているのが、今回のインフラ法案により、パンデミックに対応するための米国救済計画法の一環としてFCCが低所得世帯に提供してきた月額50ドルの緊急ブロードバンド給付金が、30ドルの補助金に置き換えられる点です。
「多くの人にとって、新たな30ドルの補助金は、必要なサービスを購入するのに十分な額ではありません」と、ローカルなインターネットサービスプロバイダーであるSonic社CEOのDane Jasper氏は述べています。「こうした問題では農村部が注目されがちですが、都市部のデジタルデバイドのためにインターネットに接続できない世帯の方が多く、補助金の削減は格差解消を遠ざける結果になると思われます」。
インフラ法案によって、1~2社程度のプロバイダーしかサービスを提供していない地域での競争が促進され、その結果として全体的な料金が下がることを期待していた人々も失望するかもしれません。地域の協同組合や自治体が運営するネットワークも、こうした事業体が許可されている32の州で資金を競う資格がありますが、法案では既存の企業を上回るアドバンテージは特に与えられていない、とGuice氏は指摘します。
「法案が提出された当初は、こうした事業体に優先権が与えられていました」と同氏は言います。「しかしながら最終的には参加を許されるだけになりました。こうした事業体は価値あるサービスを提供しており、私たちは人々がそれらのサービスを利用することに期待しています」。
迫り来る期限
格差解消の取り組みを開始する前に、乗り越えなければならない壁がいくつか存在します。その最大のものは、誰がブロードバンドにアクセスでき、誰ができないのかが、正確に把握できていないことです。2020年に作成されたFCCのマップでは、約1,450万の米国人が高速インターネットにアクセスできないと推定されています。
しかしこれは非常に控えめな見積もりだと広く考えられています。というのも、この数値はサービスプロバイダーから提出されたフォームと国勢調査細分区ごとの報告に基づいており、1,000世帯で構成される国勢調査細分区に1世帯でもブロードバンドに接続できる世帯があれば、その地区はサービスを提供されているとカウントされています。
ISP比較サイトのBroadbandNowが、FCCのデータを使用して10万件以上の住所を対象に実施した独自調査では、サービスがまったく、または十分に提供されていない米国人の数は4,200万人に達します。また別の調査では、6,000万人近くとも推定されています。
FCCに対しては、2020年のブロードバンド展開の正確性と技術的可用性に関する法律 (DATA) により、ニーズが特に高い地域を各州が把握できるように、よりきめ細かいマップを作成するよう指示が出されています。現時点でFCCはその進捗状況を発表しておらず、度重なる照会にも応じていません。
州に助成金を交付する任を負っている米国電気通信情報局 (NTIA) は、各州が助成金を申請できるように、法案成立から180日以内に資金供与機会通知を発行する必要があります。しかしながら、そのためには新しいFCCマップが必要です。
現在、FCCは共和党政権と民主党政権から任命された委員2名ずつで構成されています。バイデン大統領は、最後の5人目の委員として、長年にわたり消費者保護に取り組んできた元FCC顧問のGigi Sohn氏を指名しましたが、サウスカロライナ州選出のLindsey Graham上院議員をはじめとする共和党員は同氏の指名に反対することを表明しています。
一方、NTIAもトップを欠いています。バイデン政権は、GoogleおよびMozillaの役員を務めた経験を持つAlan Davidson氏を長官に指名していますが、現時点で承認公聴会の日程は決まっていません。
「時間は刻々と過ぎていきます」とGuice氏は言います。「NTIAが最初の期限を迎えるのは今から半年後です。これは、とりわけトップが不在の機関にとっては非常に短い期間です。議会日程の終了前に意思決定を行うためには、組織を率いるリーダーと十分なスタッフが欠かせません。残された時間は決して多くありません」。
歴史的な取り組み
米国のデジタルインフラストラクチャの構築に使える予算は、ブロードバンド資金だけではありません。他国に後れを取らないインターネットアクセスの実現を目的とする連邦政府や州政府のプログラムは多数存在し、デジタルエクイティの推進に取り組む非営利団体Connected Nationによると、その総額は3,670億ドル近くに達します。
しかしながら、こうした取り組みが実を結ぶまでには長い時間が必要であるとGuice氏は警告しています。
「これは歴史的な取り組みです」と同氏は付け加えます。「私たちは辛抱強く見守る必要があります」。
政府出資のインフラプロジェクトには遅延やコスト超過がつきものであることを考えると、人々はかなりの忍耐を強いられる可能性があります。とは言え、この数年間デジタルデバイドの軽減に向けて政策立案者と緊密に連携してきたPewのde Wit氏は、新法案が可能にする変化について楽観的な見方をしています。
「私たちはエキサイティングな時を迎えようとしています」と同氏は言います。「重要なのはテクノロジーそのものではなく、テクノロジーを使って何ができるかであり、これは法律の場合も同じです」。
リーダーのためのアドバイス
- 新しいインフラ法案に盛り込まれたブロードバンド予算は、農村部の接続のための補助金だけにとどまりません。学校、コミュニティグループ、地方自治体などへの資金提供も含まれています。
- 予算は承認されたものの、資金を迅速かつ効果的に使用するために必要なリーダーが未だ任命されていません。
- 2009年の景気刺激策にもブロードバンド予算が盛り込まれていましたが、その使い道は必ずしも効率的ではありませんでした。その経験から教訓を得られたかどうかは、今後明らかになるはずです。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

Dan Tynan
寄稿者、Improbable Venturesのコンサルタント、19件の記事
Steve Ballmer氏に髪の毛があった頃からテクノロジーに関する著書を執筆しているDan Tynan氏は、自身を含む誰もがその大部分を思い出せないほど数多くの記事を発表してきました (同氏の記事については、Googleを調べてみてください)。同氏は最近まで、David Pogue氏が指揮を執るテクノロジーニュースサイトである、Yahoo Techの編集長を務めていました。またそれ以前は、Family Circle誌の寄稿編集者として、育児とテクノロジーの接点に関する記事を執筆していました。さらに同氏は、PC WorldとInfoWorldで寄稿編集者を務めるとともに、ITworldで多くの読者から支持された「Thank You For Not Sharing」というプライバシーに関するブログを執筆したり、幅広い出版物やWebサイトで教育と行政に関する記事や印象的な風刺記事を書いたりしてきました。
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