HPCと気象予報: 雨が降りそうかを知るには

衛星画像、グローバル通信ネットワーク、ハイパフォーマンスコンピューティングのおかけで、気象予報は大きく改善されています。私たちが生きているうちに、超地域密着型の予報も可能となるでしょう。

ベテランの気象予報士であるJim Witt氏は、1947年の猛吹雪を覚えています。この吹雪は前兆なしでやってきて、米国北東部を麻痺させました。「誰も、何一つ予測できませんでした」とWitt氏は回想します。

最終的にはニューヨーク市に67cmの雪を降らせることになった嵐の間でさえ、気象局が予想できたのは軽い降雪のみでした。気象局は1日中予報を外した後、空が晴れてきているにもかかわらず2回目の嵐を予報しました。国立計算科学センター、国立ハリケーンセンター、NASA、AccuWeatherのシニア気象科学者となった部下を持つWitt氏はそう話します。

あれから長い年月が流れました。過去30年で、気象予報は当てにならない、大いに主観的な一連の作業から、純粋な科学へと進化しました。進歩の大部分は、衛星画像、グローバル通信ネットワーク、ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) など、複数のテクノロジーの偶然による組み合わせのおかげです。

 

濡らした指からハイパフォーマンスコンピューティングへ

最近まで気象予報は、粗雑ともいえる計器、手描きの地図、眼精疲労の原因となる数字の表などの手動のプロセスで行われており、予測できるのは12時間後までが限度でした。現在では、7日間の天気を95%の精度で予測できることが当たり前になっています。

現代の気象予報は魔法のように見えますが、非常に優れた計算能力を土台としています。

「気象予報とハイパフォーマンスコンピューティングは手を携えて進んでいます」。The Weather Companyのグローバル予報科学部門シニアバイスプレジデントであるPeter Neilley氏はそう話します。気象予報士とコンピューターのパートナーシップの歴史は、世界で初めての汎用電子計算機の1つであるENIACの時代にまでさかのぼります。

気象力学の物理は複雑な偏微分方程式で表されるため、気象予報とHPCは切っても切れない関係になりました。

「気象予報の問題では、常により多くのコンピューティングリソースが求められてきました」とNeilley氏は話します。「世界で最大規模のスーパーコンピューターの多くが、気象予報の問題専用に使用されています」。

より高い予報精度を達成するには、ますます大量の、総当たり的なコンピューティングが必要です。

「私たちは現在の運用モデルを実現するために、大規模並列処理のハイパフォーマンスコンピューター、膨大な数のCPU、大量のメモリ、データ転送のための非常に広い帯域幅に頼っています」。気象予報、暴風警報、運航情報、公共、民間、学術的組織に向けた科学データを提供するアメリカ海洋大気庁 (NOAA) のVijay Tallapragada氏はそう話します。

このコンピューターシステムの正式名称は天候および気候業務用スーパーコンピューティングシステム (WCOSS) で、NOAAの国立環境予測センターによって保守されています。Tallapragada氏は、このスーパーコンピューターを「IBM社とCray社によって構築されたLinuxクラスターと、2つの同一のシステム (1つは一次本番用、もう1つはバックアップおよび開発用) の組み合わせ」だと説明しています。

Tallapragada氏は、メリーランド州カレッジパークにあるNOAAの環境モデリングセンターの、モデリングおよびデータ同化部門の責任者です。また、NOAAのモデル物理学グループのチーフも務めています。Tallapragada氏の考えによれば、スーパーコンピューターシステムの最も優れた点は、驚くほど高い解像度と粒度で焦点を絞った予報が可能なことです。

「私たちのグローバルモデルの解像度は、1980年の375平方キロメートル (約145平方マイル) から、2015年の13平方キロメートル (約5平方マイル) にまで向上しました。これは、HPCリソースの0.5テラFLOPSから2ペタFLOPSへの向上に比例しています」。Tallapragada氏はそう話します。

Tallapragada氏と他の気象科学者は、毎秒京単位の計算を行うエクサスケールスーパーコンピューターによってより高いレベルの解像度を達成することを楽しみにしています。念のために数を記しておくと、1エクサFLOPは1,000ペタFLOPSに相当します。エクサスケールコンピューターによって、科学者は近隣やコミュニティの狭い範囲の気象現象を予測できるようになります。

「次世代のグローバル予測システムによって、2019年までに世界中で、高い解像度 (約10平方キロメートル (4平方マイル)) で天気をより正確に予測できるようになるはずです」。Tallapragada氏はそう話します。

解像度の向上によって、予報士が未来の天気を予測する能力も向上します。例えば、1993年の暴風雨「センチュリー」が予測されたのは、それが米国東部を襲う5日前でした。やはり米国東部を襲ったスーパーストーム「サンディ」は、2012年に発生する9日前に予測されました。

「過去50年から60年を振り返ってみれば、気象予報はおおまかに言って10年で1日分向上しています」とNeilley氏は話します。言い換えれば、現在の5日間の気象予報の精度は2007年の4日間の気象予報、そして1997年の3日間の気象予報の精度と等しいということです。「過去数十年で、気象予報は非常に安定した成長を遂げてきました。そして、それはスーパーコンピューティング能力の向上のおかげです」。

量子コンピューターが実用化された場合、スーパーコンピューターのパフォーマンスによって、個々の雲やつむじ風の発生などの微気象現象の予測も可能となるはずです。私たちが生きているうちに、自分の家の裏庭や屋根の天気を予測することが可能になります。

そのときまで、部分的には静止実用環境衛星 (GOES) 16や共同極軌道衛星システム (JPSS) などの新しい衛星のおかげで、気象予報は安定して向上していきます。「これらの新しい衛星によって観測能力が大幅に向上し、気象予報は現在よりも大きく改善されるはずです」とTallapragada氏は話します。

これらの衛星が、NOAAなどの組織で天候を予測するために使用される高度なモデルにより多くのデータを送信できるように、より多くの観測を行うことが重要です。データが多ければ多いほど、モデルは正確になります。

「米国の一般市民が必要としている気象予報や警報など、ほとんどすべてのNOAAの業務が、環境モデリングに頼っています」とTallapragada氏は話します。「NOAAのハイパフォーマンスコンピューティングアセットは、私たちの環境モデリング業務の成功と、気象予報および警報業務の継続的改善に不可欠です」

 

気象予報の明るい未来

気象予報が、ビッグデータや大規模並列コンピューティングなどのトレンドによって進歩してきたことは疑いの余地がありません。そのため、なぜ気象科学者が人工知能や機械学習を利用する準備をしていないのかという疑問が出てくるのも当然でしょう。問題の1つはデータです。単純に、予測されるAIの潜在能力を活用するために十分な過去の天候データがないのです。

「過去数千年にわたる信頼できる記録はありません。1,000年に1度の洪水を予測するには、AIは1,000年間分の正確なデータを処理する必要がありますが、そのようなデータは存在しません」。Tallapragada氏はそう話します。

天候データの最適なソースは衛星ですが、最初の気象衛星が打ち上げられたのはほんの数十年前です。衛星が現実的なAIの使用に必要な情報量を集めるのに十分な時間は、まだ経過していません。

「どれほどのトレーニングを実施しても、AIと機械学習の技術では要件を満たすことができません」とTallapragada氏は話します。「気象科学全体が、いわば互いに作用する非線形システムなのです。昨日起こったことが、今日または明日起こることを正確に示唆しているとは限りません。過去のデータが、変化し続ける地球の大気を正確に反映しているわけでもありません」。

このようなハードルにもかかわらず、気象科学者は認知学習技術に大きな希望を抱いています。「より優れた予測ガイダンスのために、モデルアウトプットの後処理および調整 (バイアス補正) にAIや機械学習の技術を適用することには大きな可能性があります」とTallapragada氏は話します。「私たちは、観測データの品質管理、再分析、再予測や、さまざまな運用モデルの組み合わせに基づいた予測結果の作成にAIと機械学習を使用したいと考えています」。

Witt氏の考えによれば、気象予報のプロセスには引き続き人間の直感が必要です。そしてWitt氏は、予測が的外れだと感じたら、スーパーコンピューターと異なる予測をすることも当然だと考えています。ただし、コンピューターモデルはますます正確となっているため、反対の予測をしても当たることはあまりありません。

「人々はこれまでずっと、気象予報士はいつも間違えると言ってきました」とWitt氏は話します。「しかし、今では気象予報士が間違うことはあまりありません。コンピューターによって状況が大きく変わりました。夜と昼ほどの大きな違いです」

 

HPCと気象 リーダーのためのアドバイス

  • 気象予報において、ビッグデータはそれほど重要ではありません。利用できるデータは過去数世紀分のみであるためです。確かに多くのデータがありますが、膨大ではありません。
  • 気象予報は、計算リソースに重点を置いています。現在、気象科学者は大規模並列処理のハイパフォーマンスコンピューター、膨大な数のCPU、大量のメモリ、データ転送のための非常に広い帯域幅に頼っています。
  • 今すぐにではありませんが、新しい衛星、AI、機械学習によってさらに改善される可能性があります。

 

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