2021年4月9日

HPC as a service: 必要なときに利用できるハイパフォーマンスコンピューティング

HPCを幅広いビジネスアプリケーションに適用するうえで常に障壁となっているのが導入コストです。 As A Serviceとして提供されるHPE GreenLake for HPCを利用すると、ハイパフォーマンスコンピューティングをビジネスプロセスのあらゆる局面に適用できるようになります。

スーパーコンピューターの能力はこれまで、主に政府機関や医療分野の研究者、大学の研究活動、想像力に富んだ映画制作者によって利用されてきました。つまり、核実験のシミュレーション、有人月面着陸、ヒトゲノムのマッピング、COVID-19の治療、映画の中での恐竜の復活などは、誰もが求めているわけではないのです。

しかし今や、人工知能や機械学習といったデータを多用するテクノロジーの進歩により、IDC社の言う大規模な並列コンピューティング (MPC) の能力が必要になっており、さまざまな組織がハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) ソリューションを検討するようになっています。

このようなソリューションを導入するために必要な時間や資金、専門知識を持つ企業は限られています。

それでも、多くの企業は、ホストして管理および制御する必要がある大規模なマシンに何億ドルも費やさなくてはならないという考えを捨てれば、HPCソリューションを手にすることができると業界の専門家は指摘します。クラウドベースのHPC as a service (HPCaaS) ソリューションを採用すれば、スーパーコンピューティングと同様の機能をより手軽に利用できるようになります。

「ここ5~6年の間に、HPCのクラウドへの移行は着実に進んでいます」と米国コネティカット州のITアナリスト企業、Cabot Partners Group社のマネージングパートナーであるSrini Chari氏は言います。「クラウドへの移行は、HPC市場で最も成長が著しい分野です。技術革新のペースが速く、オンプレミスHPCの運用には特別なスキルが必要なので、そのインフラストラクチャを実際に管理するのはかなり大変であることに多くの企業が気付いています。そのような企業は、テクノロジーを購入する代わりにクラウドサービスとして利用することを考えています」

HPCがサービスとして提供されていれば、企業はベンダーと協力して、自社のコンピューティングのニーズに応じたインフラストラクチャを構成できます。つまり、ハードウェアやソフトウェアを購入したりリースしたりする代わりに、従量制課金の消費モデルで利用するのです。すべてのハードウェアとソフトウェアは、オンプレミスに設置するか、共同配置の施設に設置されます。その制御は顧客に委ねられており、一定量のHPC使用率を確約することになりますが、必要に応じて容量を拡張および縮小できます。

誰もがHPCを利用できる対等な競争環境

このような動きは、445億ドル規模に達したInfrastructure as a service (IaaS) のグローバル市場の状況とよく似ているように見えるかもしれません。ある意味ではそうと言えるでしょう。ただし、重要な違いは、HPC-as-a-serviceベンダーによってインテリジェントなソフトウェアが提供されるようになっており、顧客は豊富なコマンドやカスタマイズオプションを利用できることです。そのため、HPC as a serviceは、企業が目標達成のために採用できる包括的なプラットフォームになりつつあります。すべての消費サービスを一元的に管理し、必要に応じてその使用量を変更できるので、ITの負荷容量をきめ細かく管理できます。また、既存のサービスを拡大/縮小するだけでなく、新しいサービスを追加することもできます。

ITコンサルタント企業であるOrionX社のパートナー、Dan Olds氏は、HPC as a serviceは、HPCを利用する必要があってもその予算がない小規模な企業にとって特に魅力的だと言います。スタートアップ企業だけでなく、AIやMLの利用方法について斬新なアイデアを持っており負荷の高い処理を行う必要がある企業や、複雑な数値計算や定量分析に取り組んでおり技術的な後押しを求めている企業も、間違いなくHPC as a serviceの潜在顧客になるでしょう。Olds氏によれば、多くの場合、初期投資家はスタートアップ企業によるHPC as a serviceの利用を実際に奨励し、その資金を提供しています。

「今日では、新製品やサービスなど、どんなものを設計する場合でも、多くの企業で大量のコンピューティング性能が不可欠になっています」と彼は言います。「小規模なスタートアップ企業は、そのような能力をどこで手に入れることができるでしょうか? データセンターを構築し、必要な人員を雇って、3か月後にさらに資金が必要になると考えられる場合、ベンチャーキャピタリストはそのために1,000万ドルを出資することをためらうでしょうが、新しいアイデアを実証し、製品を市場に送り出すためのサイクルを提供できるクラウドプロバイダーなら喜んで紹介してくれるでしょう」

HPC-as-a-serviceモデルは、24時間体制での管理や利用が不要な容量を追加したいと考えている中規模や大規模の企業にとっても魅力的です。たとえば、小売業者は、販売の繁忙期に容量を追加して閑散期には減らすことができ、石油・ガス会社は、地震調査を支援するために容量を追加してプロジェクトが終了したら容量を減らすことができるとOlds氏は説明します。他にも、さまざまな状況でHPC as a serviceを役立てることができるでしょう。

財政面と技術面での利点

先に説明したような状況で役立ち、大きなメリットが得られる可能性があるため、HPCへの関心が高まっています。763件のHPCプロジェクト成功事例について調査したHyperion Research社のレポートによると、HPCテクノロジーを利用している企業は、1ドルの投資に対して平均507ドルの投資収益額を得ており、47ドルの利益を上げています。Hyperion社の調査で平均投資収益額が最も高かったのは、運輸業 (1,804ドル)、ファイナンシャルサービス (641ドル)、石油・ガス (416ドル) で、利益が最も高かったのは保険業 (280ドル) でした。

Uli Plechschmidtは、ヒューレット・パッカード エンタープライズの子会社であるCray社でHPCストレージユニットのワールドワイド製品マーケティングリードを務めています。彼は、HPCを利用すると企業の規模によらず迅速なイノベーション、モデリング、分析が可能になるため、このような成果が増えてきていると言います。

「HPC as a serviceを通じて幅広い企業がこのような能力を得られるようになったことで、実質的に、あらゆる企業がイノベーションを起こし、他社と競い、差別化された製品を市場に送り出すために対等な立場に立てるようになりました」と彼は説明します。「組織が博士号を持つデータサイエンティストを何十人も抱えた特別な部署を必要としていたのは 過去の話です。今は、信頼できる有能なサードパーティに必要なだけアウトソーシングすることができます」

たとえば、HPCを活用することで、メーカーは設計とテストの段階を早めて、以前よりはるかに迅速に製品を市場に投入できるようになっています。また、新製品が環境の持続可能性を高めるものになるように材料科学のイノベーションへの道を切り開いており、IoTによるイノベーション、特に自動運転車の進歩にも役立っています。そして最も重要な成果は、私たちを苦しめている病気を治療するために新薬やワクチンを開発している製薬会社の取り組みの中核になっていることでしょう。

「COVID-19は間違いなく、HPCでのクラウドコンピューティングの採用を加速させました」

Karl Freund氏、Moor Insights & Strategy社シニアアナリスト

 

実際に、COVID-19の治療法を見つけ出す取り組みは、HPC as a serviceの普及を大きく後押しする可能性があるという意見もあります。

「COVID-19が流行し、クラウド型コンピューティングへの信頼度が増していることから、ワークロードをクラウドに移行しようとする動きが増えています」とMoor Insights & Strategy社のシニアアナリストであるKarl Freund氏は指摘します。「COVID-19は間違いなく、HPCでのクラウドコンピューティングの採用を加速させました」

「企業にとって、ファイアウォールの内側からスケーラブルなHPCにアクセスでき、ハードウェアとソフトウェアへの設備投資 (CAPEX) が必要ないという両方の利点を得られるのは、本当に素晴らしいソリューションです」と、IDC社のリサーチディレクターであり、スーパーコンピューティング、MPC、AIの分野に取り組んでいるPeter Rutten氏は言います。

必要なデータのみをクラウドに

これまで説明してきたような利点はあるものの、Rutten氏や他のアナリスト達は、HPC as a serviceはまだ普及し始めたばかりなので、慎重な組織や個人は、独自のデータや機密データ、個人データをクラウドに保存することに不安を感じ、利用しないかもしれないと指摘しています。このようなグループの多くは必然的に、独自のスーパーコンピューターを購入し、自分たちのファイアウォールの内側で必要な人員を雇って運用し続けることになるでしょう。

しかし、アナリストたちは、必ずしもそうとは限らないと考えています。多くの組織では、最高機密の情報や機密性の高い情報を自社のシステムに保存する一方で、あまり重要でないデータや運用業務はサードパーティにアウトソーシングするという手法を採用している場合が少なくありません。そのようなハイブリッドモデルでは、プライバシーやセキュリティを過度に犠牲にすることなく、クラウドのメリットを得ることができます。

Cabot Partners社のChari氏は、HPCを利用している企業のほとんどは、いずれはハイブリッドの手法を採用することになるだろうと考えています。資本予算が限られている小規模な企業では、クラウドのみのモデルから始めて、会社が成長してHPCの使用率が増えるにつれてオンプレミスのHPC機能を追加していきます。同様に大企業も、財務面と運用面の利点に気づいて、HPC運用の一部をアウトソーシングするようになります。

「いずれにしても、ハイブリッド型のHPCモデルは成長を続けるでしょう」とChari氏は予想しています。「オンプレミスとクラウドの両方向に進んでいくのです」

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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