ハイブリッドITに合わせてIT文化を改革する方法
先見の明のあるCIOは、今日のビジネスに必要な柔軟性と俊敏性を実現するために、外部のサービスブローカーの手法に倣ってIT組織の改革を進めています。
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デジタルトランスフォーメーションの進行に伴って、規模の大小を問わず多くの企業で、ビジネスモデルが抜本的に変わりつつあります。CIOはこうした変化への対応を求められており、その1つが俊敏性、革新性、および主要なビジネス目標との整合性に重点を置いた新しい運用体制の確立です。
変化のスピードが増すなかで、ビジネスユーザーは新しいアイデアや機会を積極的に追求し、既存のシステムをモダナイズすることで、競合他社の1歩先を行くことを目指しています。
今日ではSoftware-as-a-Service (SaaS) アプリケーションやパブリッククラウドサービスを手軽に利用できるため、マーケティングやファイナンスなどの事業部門が、戦略的プロジェクトの展開にあたり、従来のプロセスに縛られて動きの鈍いIT部門を敬遠して、外部のサービスを利用するケースが増えています。
HPEのレポート(英語)にも示されているとおり、ITに関する意思決定に事業部門が関与するケースが増えており、ビジネスマネージャーによっては、ITニーズの特定やソリューションの調査に業務時間の30%以上を費やしています。
IT以外の事業部門によるIT支出も、IT部門によるテクノロジー投資を上回るペースで急増しており、IDC社の予測によると、今年は総額6,090億ドルに達し、2020年まで年率5.9%の成長が続くと見込まれます。
CIOのための戦略的プレイブック:
ハイブリッドITを導入し事業部門と連携することにより、ビジネスの成長を支えるIT環境を構築する方法についての専門家によるアドバイス。
先見の明のあるCIOは、拡大するシャドーITを抑制するべく、ハイブリッドITプラクティスとサービス指向の文化を採り入れて、内部のIT組織の改革を進めています。
すなわち外部のサービスプロバイダーの手法に倣って、内部のIT組織をテクノロジーの中核として再構築しようとします。
大切なのはビジネスユーザーの信頼と支持を取り戻すことであり、外部サービスを利用しているビジネスユーザーも、ITサービスの調達と管理、あるいやセキュリティやコンプライアンスの問題に自身で対処することを望んでいるわけでは決してありません。
「外部のITサービスの利用が問題視されたのはすでに過去のことです。今日のIT部門はテクノロジーが組織の内部および外部から供給されているという事実を受け入れるようになっています」と、451 Research社のリサーチ担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるMelanie Posey氏は指摘します。
同社は今後2年以内に予想されるワークロードの60%がクラウド上に展開され、近い将来にハイブリッドIT環境が普及すると予測しています。
「情勢を熟知しているCIOは、IT部門の役割を見直し、組織の内部および外部のリソースを運用管理する内部サービスプロバイダーと位置付け始めています」とPosey氏は述べています。
ITとビジネスの整合性を強化
サービスブローカーの文化をIT組織に取り込むにあたり、CIOはビジネスそのものだけでなく、デジタルビジネスに対するニーズの変化も理解する必要があります。
ITとビジネスの整合性は長年にわたる課題ですが、デジタルトランスフォーメーションプロジェクトでは、求められるコラボレーションのレベルが大幅に上昇します。そのためCIOは新たなスキルセットへの投資に加えて、IT部門と事業部門間に新しい種類の協業関係を構築することを求められます。
最も重要な課題の1つが、データセンターテクノロジー全体にわたる権限を持つ受け身の御用聞き、という従来のITマインドセットからの脱却です。
今日のIT部門は事業部門のパートナーとして、ビジネス目標の分析を支援し、目標を効果的に達成可能なテクノロジーの組み合わせを提案する役割を求められています。
「そのためにはビジネスサイドと (テクノロジーレベルだけにとどまらない) プロアクティブな関係性を構築して、どのようなビジネス価値が存在し、顧客のために何を実現しようとしているのかを理解する必要があります」と、HPEのハイブリッドITクラウドトランスフォーメーション主任ストラテジストを務めるRay Richardsonは指摘します。
すなわちIT部門は、事業部門に対する質問の切り口を変えて、ストレージやネットワークの要件ではなく、テクノロジーをどのような形で役立てられるかを明らかにする必要があります。
「IT部門は、テクノロジー要件だけにとらわれず、事業部門のビジョン、ターゲットとなる顧客、顧客が直面している問題や課題などを理解しなければなりません」とRichardsonは指摘します。
「これはマインドセットの刷新が必要であることを意味します」。
またビジネスユーザーが必要なテクノロジーを即座に利用できるようにすることも、IT部門がサービスブローカーとしての新たな役割を担ううえで重要な責務です。
長年にわたり従来のIT組織は、アプリケーションのバックログ、複数年にわたる開発サイクル、システム要件やプロトタイプに関するビジネスサイドとの際限ないやり取りなどに悩まされてきました。
事業部門が自身の予算でSaaSアプリケーションやパブリッククラウドサービスを購入して開発ニーズを満たせるようになっている今日、従来の長期にわたるデリバリサイクルのままでは、外部の俊敏なサービスプロバイダーに太刀打ちできません。
多くのCIOが、従来のIT組織の標準的な運用手法から脱却し、クラウドベースの先進的なソフトウェア企業の俊敏なマインドセットや方法論を採り入れて、よりフレキシブルなIT文化へとシフトすることを真剣に検討しています。
「ビジネスユーザーが関心を持っているのは、ITそのものではなく、具体的な機能です」とRichardsonは指摘します。
「ビジネスユーザーは、テクノロジーを意識させられたり、ITによって業務が複雑化したりすることを望んではいません」。
Simple TireのCIOを務めるChiranjoy Das氏は、経理部門やマーケティング部門の担当者とビジネス課題について話し合うことに、業務時間の70~80%を費やしています。
Das氏はビジネスユーザーとのこうした対話において、Webプロトコル、データベーステクノロジー、分析ツールといったITの技術的側面ではなく、ビジネスそのものについて話し合うことを重視しています。
「テクノロジーについて直接説明することはせず、ビジネスユーザーに敬遠される専門用語を使用することもありません」と同氏は説明します。
その代わりにDas氏は、ITがビジネスをどのように支援できるか、例えばマーケティング費用の分析に役立つ知見を提供できることや、15年分の財務データから支出の動向に関する情報を引き出して、チャンスの獲得やコストの削減に役立つインテリジェンスを提供できることなどを説明することに力を入れています。
「大切なのはデータマイニングに役立つクールな分析ツールの説明ではなく、ビジネスユーザーの視点に立った説明です」と同氏は述べています。
成功へのロードマップ
こうした対話を実現するために、CIOはIT組織とその他の事業部門との間に横たわる長年の障壁を打破する必要があります。
ITスタッフはビジネス階層に組み込まれて、ビジネスユーザーの近くにオフィスを持ち、多くのミーティングにビジネスユーザーとともに出席しなければなりません。
また経営幹部の全面的な支持のもと、相互に緊密に連携してITスタッフおよびビジネスユーザーを統率できる一連のリーダーも必要です。
ITとビジネスの関係性を強化して整合性を高めるためには、簡単かつ継続的なコミュニケーションの実現に向けた、相互目標の設定、共通予算の確立、およびテクノロジー投資が欠かせません。
「フィードバックが重要」であり、コミュニケーション回線を常にオープンな状態に維持するには、チャットボットや組織内ソーシャルメディアプラットフォーム (Slackなど) の導入が効果的であるとRichardsonは指摘します。
「こうした手段により、ビジネスサイドとの反復的なプロセスが確立されて、すべての関係者が特定のリリースに向けた意識の流れを把握できるようになります」
CIOにとってもう1つの重要な責務が、ハイブリッドIT時代を支える人材プールの構築です。
先進的な環境を支えるうえで、インフラストラクチャ、クラウド、アジャイルテクノロジー、自動化などに関する専門知識は不可欠ですが、CIOは特定分野に限定されたスペシャリストやエキスパートではなく、IT環境を包括的かつ多面的に捉えることのできる人材を育成するよう心掛ける必要があります。
スキルマトリックスを作成してクリティカルギャップを特定すると、雇用の優先順位を判断しやすくなります。またCIOは、既存のITスタッフを再教育するためのトレーニングイニシアチブも開始して、新しい文化や変化への対応を牽引できる人材を育成しなければなりません。
ゲノム研究を専門とする非営利団体であるHudsonAlpha Institute for Biotechnologyでは、ITスタッフに重要なスキルを習得させるために、Linux Academyをはじめとするオンライントレーニングリソースを活用しています。
進化するハイブリッドIT環境では、雇用の選択も従来とは異なるものになります。
「これまで私たちは、特定のベンダーやシステムに精通した人材を雇用することを重視してきましたが、今日ではそうした専門知識は必ずしも必要ありません」と同団体のCIOを務めるPeyton McNully氏は指摘します。
「今では特定システムの管理ではなく、複雑な環境全体を包括的に管理できる人材を見出すことに力を入れています」。
McNully氏はその他にも、スタッフを自動処理に慣れさせることや、固有のビジネスニーズに合わせてテクノロジーを調整する取り組みにも力を入れています。
「私たちは、単なる仲介役として要望をメールで受け取って何らかのテクノロジーを提供するのではなく、ビジネスケースを中核としてテクノロジーやサンドボックス環境を構築することに力を入れています」と同氏は説明します。
「そのためには利用可能なサービスを伝達するだけでなく、研究員がより多くの成果を達成できるように、サービス/プラットフォームへのアプローチをより利便性の高いものにすることも大切です」。
あらゆる重要なトランスフォーメーションと同様に、成功のカギを握るのはCIOの変更管理能力です。
「人間は変化に抵抗を感じるものですが、適切なトレーニングによって前向きな姿勢に転じさせることが可能であり、その変化はミーティングや休憩時間などを通じて他の人々にも伝播していきます」とクラウドコンピューティングのスペシャリストであるDavid Linthicum氏は述べています。
またLinthicum氏は、ハイブリッドITのテクノロジーアーキテクチャーに加えて、この新しいモデルを支える文化面および運用面のプラクティスについても、方向性を示す詳細な計画を策定する必要があると指摘しています。
CIOはこの詳細なロードマップの一部として、コンポーザブルインフラストラクチャ、自動化、DevOps、ハイブリッドクラウドなど、導入すべきテクノロジーについても明らかにしなければなりません。
またスポンサーや利害関係者との合意を形成するために、ロードマップとともに、変更の正当性を説明する詳細な根拠やビジネスケースも提示する必要があります。
こうした取り組みの一環として、HPEのRichardsonは、CIOの主導によるガバナンスと「容赦のない標準化」を推進することを提唱しています。
またRichardsonは、小規模なITエンティティを分離して目標のプロジェクト (データベースやミドルウェアサービスなど) に適した新しい標準やプラクティスを採用し、そこから環境や文化を段階的に構築していくことを提案しています。
「いくつかのケースを選んで、ビジネスに対する真のサービスプロバイダーとして構築する」ことをRichardsonは推奨します。
「こうした小規模な成功は前進の基盤となります」
ITアーキテクチャーと文化の両面について詳細な計画を策定し、変更を段階的に推進することは、変革を成功へと導くうえで最良の方法です。
さらに移行に向けた各段階について、評価基準と目標を明確に設定して継続的に監視し、次の段階に進む前にそれらが完全に満たされるようにすることも欠かせません。
「長期的な視点に立って、今後5~10年をかけて達成可能な現実的な目標を設定することが大切です」とLinthicum氏は指摘します。
「CIOが過度にアグレッシブであると、多くの間違いを犯し、従業員の信頼を失い、クラウドの評価を失墜させる恐れがあります」
ハイブリッドITに合わせたIT文化の改革:
リーダーへの教訓
ビジネスサイドとの新しい協業スタイルを確立して、ITとビジネスの整合性を新たな次元に引き上げる必要があります。
テクノロジーとプロセスの両面にわたる詳細な変更計画を策定して、より広範なITコミュニティを取り組みに関与させることが大切です。
大規模なトランスフォーメーションを一気に実現しようとしてはなりません。
いくつかのサービスをターゲットとする小規模なグループから始めて、新しいハイブリッドITプロセスと文化を段階的に構築するようにしてください。
この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

Beth Stackpole
フリーの寄稿者
Beth Stackpoleは、25年以上にわたり数多くの主要な出版物やWebサイトで、ビジネスとテクノロジーの交差領域について解説してきた実績を有するベテランのライター兼編集者です。
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