2019年4月16日

AIの導入に向けて企業の体制を整えるには

この記事では、Hewlett Packard EnterpriseのAIエキスパートが、AIの動向とAIをビジネス分野に適用する方法について説明します。

データを使いこなすことは人類最大の課題の1つであり、推論や直感を効率的に使用してビッグデータに存在するパターンを解明する私たちの能力の限界を超えています。   

これについて、Hewlett Packard EnterpriseのHPCおよびAI担当バイスプレジデント兼最高技術責任者であるEng Lim Goh博士は、次のように述べています。「データの氾濫は普遍的な問題になりつつありますが、AIを活用すれば、大雑把な推測ではなく、インテリジェントな推測が可能になります」。

AIがITインフラストラクチャの重要な要素であるとお考えなら、この記事をお読みください。HPEのAIエキスパートたちが、AIの動向、AIがビジネスをどのように変えうるのか、そしてAIの導入に向けたステップについてそれぞれの見解を披露します。

 

AIは成長する

AIは長年にわたって潜在的な可能性を示しており、多くの企業はそれに気づいています。IDC社の予測によると、全世界のコグニティブソリューションとAIソリューションに対する支出は、今後数年間にわたって年平均成長率54.4%のペースで増加し、2020年までに460億ドルを超えます。また同社は、2024年までに現在使用されている画面ベースのアプリケーションの3分の1がAI対応のユーザーインターフェイスとプロセス自動化に取って代わられると述べています。

AIが企業からこれほど注目されている理由は、ビッグデータに存在するパターンを発見できる点にあります。膨大な選択肢とその結果の状況を推定するAIの可能性は、1997年にIBM社のDeep BlueがGarry Kasparov氏にチェスで勝利したこと、また2016年にAlphabet社のAlphaGoがLee Sedol氏に囲碁で勝利したことに明確に示されています。

2017年に登場した新しいタイプのAIである、ピッツバーグスーパーコンピューティングセンターのBridgesと呼ばれるスーパーコンピューターで動作するLibratusというプログラムは、ポーカーの無制限テキサスホールデムでプロのポーカープレーヤー4人に勝利しました。そして2019年を迎えた今では、これまでとは違うタイプの相手と戦うために米軍の軍隊へのLibratusのテクノロジーの導入が進められています。

チェスと囲碁は完全な情報ゲームであり、各プレーヤーはボード全体の相手の位置を知ることができます。一方ポーカーでは、どのプレーヤーもゲームの情報をすべて把握しているわけではない(無制限テキサスホールデムでは、各プレーヤーの2枚の手札はそのプレーヤーにしかわからない)ため、Kasparov氏とSedol氏に勝利したアプローチは、ポーカーのプロには通用しません。

たとえば、囲碁の問題は、課題を学習する深層人工ニューラルネットワークの応用であるディープラーニングに依存していました。人工ニューラルネットワークは人間の脳をモデルとしており、入力、複数の処理階層、および出力という計算階層で構成されています。ディープラーニングを使用すると、画像、音声、テキストで構成される複雑なrawデータを分析するのに必要な隠れたセマンティクスとデータ表示をシステムが自動的に発見できるようになります。そしてこれらの表示は、探している対象(「猫」)を背景ノイズ(「猫以外」)から区別するのに役立ちます。

しかしLibratusはこうしたことを行わず、その代わりに、ナッシュ均衡に基づいた戦略的推論を適用します。ナッシュ均衡は、対戦相手の選択を考慮した後で選択された戦略を変更する誘因をどのプレーヤーも持たないゲーム理論のシナリオです。このアプローチでは、たとえば「猫」というラベルの付いた写真と、さらに多くの「猫以外」というラベルの付いた写真の大量のデータを与えて、AIを訓練する必要はありません。その代わりに、AIは一連のルールと基本的な戦略を適用し、ゲームのそれぞれの時点で最良の動きを選択します(アルゴリズムを間違えると、「猫」ではなく「ワカモレ」になってしまう可能性があります)。

Libratusは、不完全なデータから解決策を見つけ出す設計となっており、データパターンを認識する従来の機械学習テクノロジーとは違って、それぞれの状況に合った応答を返します。HPEのデータシステムおよびデータサイエンス担当主任技術者であるDaniel Wuが述べているように、Libratusは単にアドバイスや予測分析を行うのではなく、規範的な処理を追加します。言い換えれば、ある行動が最も有益であるという判断に基づいて行動することができるのです。

ディープラーニング、戦略的思考、または別の種類のAIのどれについて話す場合でも、その使用の基盤となるのは、人間の応答よりも速い、瞬時の応答が必要な状況です。自動運転やネットワーク監視などの用途では、遅延が物理的またはデジタル的な損害につながりかねないことから、Wuは「AIに遅延を乗り越えさせ、取り除かせなければならない」と述べています。

1秒以内に応答するロボットの方が数分かけて応答する人間よりも安上がりになるような顧客サービスなどへの応用で、AIは時間とコストを節約できると期待されています。HPEのAIグループ担当バイスプレジデントであるPankaj Goyalによると、「すべてのAIがカスタムアプリケーションである」という点が問題です。つまり、あなたの会社にとってビジネス上意味があるような新しいAIを構築するには、時間、資金、スキルが必要になります。

 

ステップバイステップ

Wuは次のように述べています。「どの企業もAIの存在を避けることはできません。インターネットを絶対に利用しないと断言していた企業もありましたが、そうした企業は今や、GoogleやFacebookに広告を掲載しています。企業を経営するには、情報とインサイトが必要です。インターネットからは、情報は得られてもインサイトは得られませんが、AIはどちらも提供してくれます」。

ただし、AIは誇大広告と恐怖を特徴とする「次の大ブーム」であり、AIがあらゆる問題を解決してくれるという考え方は、私たちがロボットによる世の終末に向かっているという考え方とほぼ同じです。私たちが実用的なAIの実在を受容しながら冷静でいるにはどうすればよいのでしょうか。

これについて、Goyalは次のように述べています。「私たちは、個人として日常的にAIとやり取りしています。Alexaがその良い例です。しかし、企業のお客様にとっては、それは現実のことではありません。彼らはこのアイデアを採用したくてたまりませんが、その方法がわからないのです」。

Goyalは、AIをビジネスに適用することに興味を持っている人に対して、次の3つのステップを順番に実行するよう勧めています。

  1. 質問する。実際に改善を実現するため、AIの手法をどこに適用できますか。AIを適用可能なユースケースを理解し、AIの手法を適用して実際の利益を得ることができる事例に注目します。たとえば、従業員の労働時間の削減、応答時間の短縮、材料の修理と交換に必要な費用の節約などが挙げられます。
  2. 実験する。AIを大規模に適用するなら、最初に実験することが不可欠です。Goyalによると、Google社とAmazon社は自社のDNAにAIを取り込むまでに長い時間を要しました。どのようなデータインフラストラクチャが適切ですか。どのような人的資本が必要ですか。必要な量と質のデータはありますか。適任者はいますか。基本的なインフラストラクチャをセットアップする方法を知っていますか。モデルを調整する方法を知っていますか。AIを適切に調整するには時間がかかるため、それらの知識を持っていることを確認してください。
  3. スケールアップする。ある時点でAIをビジネス戦略、製品の考え方、顧客サポート、物流、マーケティングなどに取り込む必要があります。AIを使用して成功したら、複数の次元(インフラストラクチャ、データ、ビジネスプロセス)にわたるスケールアップを行う必要があります。これについてGoyalは、「最終的には、組織の各拠点でAIがどのように役立つのかについて毎日考える、悟りの境地に達したいと思うようになる」と述べています。

 

科学と芸術

企業は、AIをどのように採用するのかを理解する過程で、不確実さに慣れていくことが重要です。「AIは単なる科学ではなく芸術である」とGoyalは言います。

AIは数学をベースに作られていますが、思ったほど整然としたものではありません。これについて、独立系のデータ科学者であるMiranda Mowbray氏は、次のように述べています。「AIについて予測するのは、かなり難しいことです。このような予測の結果はひどく滑稽なものであり、極度の楽観主義と極度の悲観主義の両方を示すうえ、専門家の合意ですら場合によっては大きく間違っていることがあります」。

1つの重要な課題は、今日のAIアプリケーションがきわめて大量のデータを必要とすることです。一般にAIプログラムは、車で道路を走ったり、チェスをしたり、ホットドッグを認識したりといった1つの作業を学ぶために、膨大なデータを必要とします。

AIに期待されているのは、大量のデータをうまく処理することであって、それを悪化させることではありません。たとえば、自動運転車を「完全に安全」にするには、「10億マイル分の運転データが必要であり、各マイルの運転データは15ギガバイトにもなります」とWuは語ります。

最終的に、研究者は、ビッグデータのインサイトに対する貪欲な要求が汎用人工知能(AGI)によって満たされることを期待しています。非常に特殊な1つの作業ではなく、さらに多くのことを行えるAIが究極の理想です。

しかし、これには難点もあり、Mowbray氏は、「1つのことを行うように現在のAIシステムをトレーニングした後、別のことをするようにトレーニングすると、2つ目のことを学ぶのに時間がかかるうえ、最初のことをうまくできなくなる可能性がある」と述べています。

Google社は「マルチモーダルシステム」を実験しており、ある分野の機械学習を別の分野の問題に適用することにある程度成功しています。これは進歩ではありますが、AGIからは遠く離れています。

AIには、きわめて効率が高く強力な計算能力が必要です。今日のAIワークロードはスーパーコンピューター上で実行されることが多くなっていますが、ムーアの法則の終焉が目前に迫っているため、今日のコンピューティングアーキテクチャーは、AIの膨大な処理要求に対応するには不十分です。必要なデータ、処理能力、メモリなどを考えると、AIは今後もきわめて効率が高く強力なシステムで実行しなければなりません。

そのためのソリューションの1つとなるのが、HPEのメモリ主導型コンピューティングプロジェクトです。メモリがコンピューティングアーキテクチャーの中核をなし、ユーザーが任意の計算ノードを使用してメモリプールを操作できるこのプロジェクトは、AIをより実用的なものにする可能性があります。

さしあたり、Libratusにより、完全な情報を必要とする状態ではなく、不完全なデータを使用した推論への移行が支援されています。

結局のところ、AIが完璧になるまで待ってから各自のビジネスニーズに合うかどうかを調査することも、欠点を考慮せずに飛びつくこともできません。他のあらゆるものと同様に、AIはビジネスを助けるツールにも妨げるツールにもなりうるのです。あなたの会社にとってそのどちらになるのかは、各自のニーズ、テクノロジーとプロセスの実装方法、そしてあなたの忍耐力によって変わります。

 

企業のためのAI: リーダーのためのアドバイス

  • 困惑を受け入れてください。AIは大きな変革をもたらすものですが、慎重なアプローチが必要なうえ、ある程度の困惑も受け入れなければなりません。
  • 従業員の労働時間の削減、応答時間の短縮など、実際の利益を得るためにAIの手法をどこに適用すべきなのかを特定します。

実験を計画します。AIを適切に調整するには時間がかかります。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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