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2021年9月17日

医療の形を変えるエッジコンピューティング

エッジコンピューティングとAIによって、誰もが安価で手軽に医療を受けられるようになり、その質も高まることが期待されています。この動きが始まったのは絶好のタイミングでした。
パンデミックで明らかになった1つの問題があります。元々あまり効率の良くなかった医療システムは、今や限界まで圧迫されているように見えます。さまざまな感染症が増加の一途をたどっているのです。COVID-19に感染するのではないかという不安から、人々は定期的な検査や治療を先延ばしにし、慢性疾患を悪化させることで超過死亡率が20%増加しています。また、待機手術のキャンセルが病院の収益に直接打撃を与えており、病院の経営を圧迫しています。

同時に、人の寿命は延びており、さらに多くの終末期医療が必要になっています。世界保健機関 (WHO) によると、すでに世界的に700万人の医療従事者が不足しており、その数は2035年までに1,300万人に達する可能性があります。

さらなるデジタルトランスフォーメーションが必要な分野は、間違いなく医療業界だと言えるでしょう。その変革はエッジで起きています。

現在、エッジコンピューティングデバイスは、患者の遠隔監視、ケアの自動化、診断のスピードと精度を向上させる人工知能の導入、ワクチンのサプライチェーンの追跡など、さまざまな目的で使われています。

Frost & Sullivan社で健康習慣の変革のプログラムマネージャーを務めるSid Shah氏は次のように述べています。「医療システムは、日々増え続けるデジタルデータを扱っています。クラウドやオンプレミスのサーバーに依存していると、データの転送速度や帯域幅、プライバシーやセキュリティの問題、さらにコストによって制限を受けてしまいます。エッジでデータをローカルに処理すれば、これらの課題のすべてに対処できます」

なぜなら、エッジコンピューティングを使用すれば、データ、分析機能、処理能力を、最も必要とされる場所に組み込めるからです。そのような場所として、救急車、病院、手術室、家庭、そして最終的には私たち自身の体の中が挙げられます。

人工臓器を制御する際の遅延時間は、クラウドでのデータ分析とは相容れません。
エッジコンピューティングが必要です。
DAVID C. KLONOFF 医学博士、MILLS-PENINSULA MEDICAL CENTER 糖尿病研究所の医療責任者

AIでエッジを強化

エッジコンピューティングと医療は、AIを抜きにしては語れません。患者からデータを収集するだけでは不十分で、介護者はデータを分析し、リアルタイムで対応する必要があります。この処理をエッジにあるマシンで実行するケースが増えています。

IoTセキュリティ企業であるZingbox社のレポートによると、平均的な病院のベッドには10~15台のデバイスが接続されています。また、UnitedHealth Groupのテクノロジー部門の子会社であるOptum社が2020年に実施した調査によると、医療機関の経営者の40%が、これらのデバイスが収集したデータを分析するためにAIの導入を計画しています。

実際に、医療が提供されるほぼすべての状況で、AI搭載のエッジコンピューティングソリューションを目にするでしょう。

救急車

今日、救急車は主に患者をできるだけ早く病院に運ぶために使用されています。しかし数年以内に、より多くの命を救えるようにモバイルエッジコンピューティングのプラットフォームへ変わっていくでしょう。

たとえば、バルセロナでは、車内の救急隊員がタブレットPCを使って外傷患者の高解像度ビデオを撮ってバイタルサインを測定し、そのデータを5G接続を介して救急処置室のスタッフに送信しています。

ウェイン州立大学のコンピューターサイエンスの教授であり、エッジコンピューティングとコネクテッドヘルスの分野の研究者であるWeisong Shi氏は、救急隊員は患者の容体を安定させる方法について医師と協力し、ERのスタッフは特定の治療ニーズに対応するために処置室を準備できると言います。

「救急車両にエッジコンピューティングを導入することで、救急隊員は重要なデータをリアルタイムで病院に送信することができ、救急科のチームは患者の命を救うために必要な知識を得ることができます」とShi氏は説明します。

病院

病院では、エッジコンピューティングとAIを活用すると、さらに迅速で正確な診断ができるようになり、薬の投与を自動化できます。

米国のUCLA HealthやMassachusetts General Hospital、ロンドンのKing's College Hospitalの介護者たちは、患者を別の施設に運んで検査を何時間も待つ代わりに、Hyperfine社のポータブルMRIマシンのようなエッジデバイスを導入し始めています。このデバイスがあれば、患者のベッド脇で脳スキャンを行うことができるのです。また、機械学習アルゴリズムによって画像処理を高速化して異常を特定することで、放射線科医はスキャン画像をリアルタイムで分析できるようになります。

今日の糖尿病患者は、自動インスリン投与システムを利用して、皮下に挿入した人工膵臓のセンサーで血糖値を監視し、そのデータをインスリンポンプや携帯端末に送信できます。ポンプ装置内のアルゴリズムは、血糖値がどの程度になるかを予測し、外部ポンプに適切な量のインスリンを投与するよう指示します。

Mills-Peninsula Medical Center 糖尿病研究所の医療責任者であり、糖尿病に関するテクノロジーの研究に早くから取り組んできた医学博士のDavid C. Klonoff氏は、血糖値のデータをクラウドやオンプレミスのデータセンターで処理してからウェアラブル機器に指示を送ることは現実的ではないと説明します。

「このような医療機器の多くは、センサーのデータに対してミリ秒単位で即座に応答しなくてはなりません」と彼は言います。「離れた場所にデータが送られ、分析され、送り返されてくるまで待たなければならないのであれば、正常に機能しないのです。このような人工臓器を制御する際の遅延時間は、クラウドでのデータ分析とは相容れません。エッジコンピューティングが必要です」

最終的には、そのような微細なセンサーが私たちの体に直接埋め込まれ、バイタルサインを読み取り、医師に警告を送信し、薬の投与や電気刺激などの処置を作動させるようになるだろうと彼は付け加えます。

手術室

エッジコンピューティングとAIが医療を変革するもう1つの場所は手術室です。Frost & Sullivan社は、AI支援手術の市場が2024年までに3倍以上に成長し、その規模は2億2,500万ドルを超えると予測しています。

たとえば、Zimmer Biomet社は現在、Chooch Intelligence Technologies社のコンピュータービジョンプラットフォームを利用した「インテリジェント分析を備えた手術室」を試験的に導入しています。

手術中に、看護師は患者が手術室に運ばれてきてから最後の清掃まですべての処置を記録する必要があります。この手順では、処置の間にタッチスクリーンのボタンを何十回も押すことになります。

AIソフトウェアは、カメラとエッジコンピューティングデバイスを使用して、手術室での各処置を自動的に記録して分類します。Chooch社のCEOであるEmrah Gultekin氏は、何百もの類似した手術から得られたデータを集約して分析することで、より効率的な手順を見つけ出し、患者はより良い治療を受けられるようになると指摘します。

「看護師はソフトウェアではなく患者に集中することができます」と彼は言います。「さらに、45秒かかるはずの手順が急に53秒になった場合、システムは何か問題があるかもしれないと医師にリアルタイムで警告できるのです」

家庭

医療におけるデジタルトランスフォーメーションの主な目標の1つは、患者が生活している場所で直接治療を受けられるようにして、ケアの機会を増やしつつコストを削減することです。

今回のパンデミックから生じた数少ないポジティブな出来事の1つに、遠隔医療の急速な普及が挙げられます。米国医師会と非営利団体であるWellness Council of America (WELCOA) は、医師、一般救急施設、救急処置室を受診した人の約75%は、遠隔医療によって安全かつ効果的に対処できるだろうと述べています。

Frost & Sullivan社は、診療所での診察に代わってZoomセッションが行われるようになるにつれて、遠隔医療の受診率は2025年まで年間に約40%増加し続けると予測しています。また、デジタル聴診器やスリープトラッカー、転んで起き上がれなくなったかどうかを判断するWi-Fi信号を使ったモーションセンサーなど、さまざまなエッジデバイスによって在宅医療への動きが進んでいます。

ウェイン州立大学のShi氏は、エッジセンサーを使って自宅にいる患者を監視することで、患者の容体の変化を介護者に知らせ、必要に応じて治療法を変えることができると指摘します。

「ウェアラブルセンサーによって患者の健康状態を追跡し、異常なデータを医師に伝えることができます」と彼は言います。「医療機関が患者の状態を監視できるようになれば、再入院率を大幅に減らすことができます」

しかし、エッジの最大のメリットは、遠隔医療サービスや患者の遠隔監視、検査用のサンプルや医療用品のドローンによる配送を実現することで、現在質の高い医療をほとんど受けることができない人々の助けになることかもしれません。

Frost & Sullivan社のShah氏は「エッジコンピューティングを活用すれば、交通の便が悪く、熟練した医療従事者がいないような遠隔地にも、医療を提供できるようになります」と指摘します。「データをローカルで処理して、スキル不足の医療従事者が臨床的判断を行うのを支援できるのです」

プライバシーを保ち、より安価で安全なデータ保存

医療にエッジを活用することには、ほかにも利点があります。たとえば、放射線検査では膨大な量のデータが生成されるため、高価な帯域幅やクラウドストレージを大量に消費する場合があります。このような情報をローカルに保存すれば、コストを削減できるだけでなく、機密性が高く規制の厳しい患者データのプライバシーを保護することができます。

また、エッジデバイスを病院の大規模なネットワークから切り離すことで、外部からの攻撃に対するデータの脆弱性を減らすことができますが、それはある程度までに限られると、大手セキュリティ企業のグローバルエンタープライズアーキテクトであり、長年にわたって医療セキュリティのコンサルタントを務めてきたMike Meikle氏は指摘します。

「データをローカルに保存することは、HIPAAコンプライアンスやプライバシーに関する法律を遵守するために役立ちます」と彼は言います。「しかし、どこかの時点で、デバイスのデータを医師に渡す必要があります。そして、日々のニュースを追っていると分かるように、医療機関とIoTデバイスは、サイバーセキュリティに関してあまり良い実績がありません」

ロボットの医師は現れない

ヒューレット・パッカード エンタープライズのワールドワイド医療およびライフサイエンス部門のマーケティングマネージャーであるRich Birdは、医療におけるデジタルトランスフォーメーションの最終目標は、医師の代わりにロボットを導入することではないと説明します。

「私たちは、医師や医療チームをこのテクノロジーで置き換えようとはしていません」と彼は言います。「患者の予後を改善して治療コストを削減するために役立つデータを提供し、有益な情報を引き出すことで、医療従事者が十分な情報に基づいて臨床的判断をすばやく行えるように支援していきます」

今後、病院や診療所からさらに離れて医療サービスを提供できるようになれば、優れた医療やコスト削減、さらには健康寿命を延ばせるという恩恵を受けることができるでしょう。

「今後10~20年の間に医療は大きく変わっていくでしょう」とShah氏は言います。「病院の運営はよりスムーズになり、医師はより的確な臨床的判断を行う上で役立つ有益な情報を得られるようになり、患者の予後も改善します。患者も自身の健康についての判断を正しく行えるようになり、後々の合併症も少なくなるでしょう」

これらは今、まさに求められていることです。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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