2020年6月5日

テクノロジーを活用した絶滅危惧種の保護

人工知能、クラウド、およびスマートカメラは、密猟者を捕まえたり野生生物の個体数を追跡調査したりする目的で使用されています。

コロンビアには、アジアゾウ、トラ、ヒョウなどの世界的に絶滅が危惧される16の種が生息していますが、この国の自然保護活動家は、ハーバード大学のコンピューターサイエンティストとともに、非常の多くの種を絶滅の危機に追いやっている密猟の阻止に取り組んでいます。

これは、野生生物を絶滅から守るために技術者と自然活動保護家が共に闘っている、数多くのコラボレーションの1つにすぎません。環境保護活動家は、密猟者、生息地の消失、気候変動からの動物の保護に関して、長年困難な課題に立ち向かってきましたが、現在では、人工知能 (AI)、ドローン、GPSトラッカー、スマートカメラ、クラウドなどのテクノロジーがこれまで求めてきた優位性をもたらしてくれるのではないかと期待しています。

これについて、ハーバード大学のGordon McKay Professor of Computer Scienceであり、Center for Research in Computation and Societyの所長を務めるMilind Tambe氏は、次のように述べています。「私たちがトラ、ゾウ、サイなどの中枢種がいなくなった世界を残してしまう可能性があると考えると恐ろしくなります。子供たちに『そのような動物はすべていなくなった』と伝えたくはないですし、そのような世界を望んではいません」。

国際連合の環境活動を調整する国際連合環境計画によると、地球は危機の真っただ中にあり、150~200種の植物、昆虫、鳥、ほ乳類が24時間ごとに絶滅しています。これについて、生物学者は自然消滅と考えられる速度の1,000倍で絶滅が進んでいると述べています。また2019年の国際連合のレポートでは、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しており、その多くが数十年以内に絶滅すると述べられています。さらに、つい最近のアリゾナ大学の研究によると、今後50年で動植物の種の3分の1が絶滅する可能性があります。

この他にも、次のような憂慮すべきデータが示されています。

  • 2018年には、3種の鳥類が地球から姿を消しました。
  • タンザニアでは、この数年でゾウの個体数が20%減少しました。
  • 大規模な角の密猟により、ケニアでは2018年の時点でキタシロサイが2頭しか残っていませんでした (その両方が自然繁殖できないメスでした)。
  • 毎日約100頭のアフリカゾウが、象牙、肉、体の一部を求める密猟者に殺されています。
  • タイセイヨウセミクジラは450頭を下回っており、繁殖期のメスの数は100頭程度にすぎません。大量死が発生しているうえに出生数が非常に少ないため、この種は今後25年以上存続しない可能性があると科学者は警告しています。

 

信じがたいような恐ろしいデータが示される中、世界中の自然保護活動家が絶滅危惧種を保護し、できれば絶滅から救うために技術者やテクノロジーに頼るようになりつつあります。そして多くの種の窮状を目の当たりにした技術者は、動物を追跡してその生息環境と採餌の状況を分析し、個体群動態をより的確に把握するために時間と専門知識を投入しています。

野生生物の保護活動家がカメラや追跡用の首輪などのテクノロジーを利用するのは新しいことではありませんが、最近では、AI、機械学習 (ML)、モノのインターネット、5G、ワイヤレス、クラウドなどのテクノロジーが急増しており、それが自然保護をはじめとする多くの業界に影響を与えています。

これについて、フリーの業界アナリストであるJeff Kagan氏は次のように述べています。「このようなテクノロジーの急増を受けてどの業界も変化し、大きな変革が起きています。当然のことながら、野生生物の保護にも変革がもたらされており、これまではまったく追うことができなかった動物とその通り道、食べ物、生態など、今では動物の居場所と行動を正確に把握できるようになりました。これが今後10年でどれだけ進歩するのかを考えてみてください」。

 

密猟者を出し抜く

マレーシアでパトロールを行うMilind Tambe教授 (右)。イメージクレジット: Milind Tambe教授

15年間にわたってAIが社会にもたらすメリットを研究してきたTambe氏は、動物の保護にテクノロジーをどのように活用できるのかと考え始めた6~7年前に少し方向転換しました。

コンピューターサイエンティストの同氏は、膨大なデータを分析し、ML、ゲーム理論、および数学モデリングを活用して、カンボジアを含む世界中の多くの種の動物を殺している密猟者と闘うために開発された予測AIソフトウェアである、Protection Assistant for Wildlife Security (PAWS) の考案者であり、それを支える原動力となっています。

たとえばカンボジアでは、トラとその餌となる動物両方の激しい密猟によって大型のネコ科動物が急激に減少しています。そして世界自然保護基金の報告によると、現在カンボジア国内には野生のトラの繁殖個体は残っておらず、機能的に絶滅しています。また国際連合の食糧農業機関によると、カンボジアの野生のゾウは1995年の2,000頭、さらには1999年の500~1,000頭からわずか300~600頭にまで減少していると一般に推定されています。

自然保護官や環境保護活動家は通常、地図を調べて密猟者が保護動物を殺すために罠を仕掛けたり、待ち伏せしたりしている可能性がある場所を突き止めようとしますが、PAWSシステムは、人間の本能的直感に頼るのではなくデータを活用して密猟者が行動する場所、動物が最も危険な状態にある場所、および自然保護官の最善のパトロールルートを予測します。

Tambe氏がカンボジアでPAWSを大規模にテストした結果、現在この国で活動する自然保護活動家が見つけ出す密猟者の罠は、同氏のAIベースのシステムを使用し始める前の5倍に増えています。

これについて同氏は、次のように述べています。「私は『AIが役に立つ可能性があると思う』と言い続けてきました。密猟者は次にどこを襲うのでしょうか。国立公園は数千平方キロの面積があり、そこには数百人の自然保護官がいますが、すべてをカバーすることはできません。(密猟を阻止するために) 自然保護官がどこにいなければならないのかを伝えられるかどうかが重要です」。

Tambe氏のPAWSシステムは現在、SMART (Spatial Monitoring and Reporting Tool) ソフトウェアを使用する全世界の800の国立公園とともに野生生物保護法の効果を評価する目的で導入されていますが、同氏はMicrosoft社のAIエンジニアの助けを借りて過去6~8か月間でPAWSとSMARTソフトウェアを統合し、そのすべてをクラウドで実行できるようにするための取り組みを行ってきました。これまで実験的にしか使用されていなかったこのシステムは、今年の春にローンチされる予定です。

これについて同氏は、次のように述べています。「私たちは野生生物の保護に貢献できることを誇りに思っています。AIは何らかの形で害を及ぼして仕事を奪う可能性があるテクノロジーであると考える人もいますが、AIを応用して野生生物を保護したり、社会を良くするためにAIを活用したりできるというのは、人々にとって驚きです。AIの研究者が言うには、これによってAIの新しい研究課題が提起されたため、私たちはAIの水準を高めていくことができます」。

 

サケの保護

北カリフォルニアのシエラネバダ山脈の丘陵地帯で活動する、自然保護活動家のグループであるFriends of Auburn Ravineは、地域に生息するキングサーモンとも呼ばれる野生のマスノスケ (サケの1種) の保護に取り組んできました。このサケの数は、伐採、ダム、乱獲、および汚染によって大幅に減少していますが、科学者の推定によると、過去240年でタイヘイヨウサケの個体群の29%が絶滅しています。

このボランティアグループは、カメラを設置して毎冬産卵のために遡上してくる魚のビデオを撮影し、川を泳ぐサケの数に関するデータを収集するとともに、支援を受けて環境の改善に取り組み、成魚と稚魚の自然な移動を助けてきました。

しかしこの活動には、ボランティアが川を泳ぐ魚の数を数えるために終わりがないかのようなビデオを見続けていたという問題がありました。

これについて、Cramer Fish Sciences社の社長であり、Friends of Auburn Ravineの役員を務めるBrad Cavallo氏は、「ビデオを見るのは退屈な作業であり、ちょっと別のことを考えていただけで簡単にビデオに映っているものを見逃してしまいますが、捕獲の上限を設定する方法と魚の行動がわかるため、推量は重要です」と述べています。

そこで1999年からHewlett Packard Enterpriseで働いてきたマスターテクノロジストのEric Hubbardが活動に参加し、この退屈ではあるものの重要な作業に変革をもたらしました。

Hubbardは、Friends of Auburn Ravineのボランティアである自身の父親から、2~3年前にボランティアがピザを食べながら魚の数を数えるビデオ鑑賞会の話を聞いたと述べています。

そしてこれについて、Hubbardは次のように語っています。「それは素晴らしいボランティア活動であり、ボランティアの熱意と努力を目の当たりにしましたが、非効率的に作業を行っているのを見て心が痛みました。ビデオに映る魚の数を数えるのに膨大な時間がかかっていたのですが、私はこれを自動化してボランティアの負担を大きく軽減できることをわかっていました」。

Hubbardは、HPEのコミュニティ参加プログラムであるHPE Givesを通じて提供される年60時間のボランティア休暇を利用して、取り扱いの難しい独自仕様のプロトコルを使用していたボランティアのセキュリティカメラを標準的なプロトコルとフォーマットの新しいデジタル水中カメラとオーバーヘッドカメラ (撮影したサケの映像をダビングするカメラ) に交換しました。

Hubbardは、Javaプログラミング言語を使用して5,000行のコードを書き、通り過ぎる魚を検出して記録するFishSpotterと呼ばれるソフトウェアプログラムを作成しました。未加工のデジタルビデオはクラウドにアップロードされ、FishSpotterによって処理されます。このときFishSpotterは、高度な画像認識機能でアクティビティを検出してサケを特定し、人間が後からビデオで魚種を確認できるよう、通り過ぎるすべてのサケの短いGIFのハイライトを自動的に作成します。

通り過ぎる魚がFishSpotter (HPEのEric Hubbardが作成したソフトウェアプログラム) によってキャプチャーされる様子。イメージクレジット: Friends of Auburn Ravine

この新しいデジタルシステムで初めてモニタリングを行ったのは、2018~2019年の遡上時期でした。

このような膨大なデータを観察する必要をなくすことにより、FishSpotterは1.6テラバイトの2,416時間に及ぶデータを削減して101ギガバイトしかない20.4時間のGIFのハイライトを作成し、ボランティアは入念に調査を行ってサケ (またはその他の野生生物やアクティビティ) であることを確認できるようになりました。Hubbardは今後、FishSpotterの画像認識機能をさらに改良してサケではない可能性がある生物のデータセットを絞り込み、分析の時間をさらに短縮したいと考えています。

そしてこれについて、Hubbardは次のように述べています。「私の周りは全員がテクノロジーに精通していますが、このような非営利団体は状況が異なり、何を実現できるのかを知るための専門知識を有しているとは限りません。今回は非常に満足のいく結果が得られました。当初はサケではなく人を助けることを目的としていましたが、この活動に深く関わるようになる中で、これらの魚がどれだけ重要であるのかということに関心を持つようになりました」。

 

シロクマとサイを保護するテクノロジー

米国の世界自然保護基金でWildlife Conservation Programのバイスプレジデントを務めるColby Loucks氏は、テクノロジーが野生生物の保護に不可欠なツールになりつつあると述べています。また、この組織のWildlife Crime Technology Projectのリーダーとして、最先端のテクノロジーを利用した密猟との闘いに力を注ぐ同氏は、テクノロジーの進歩が道を切り開いたと語っています。

同氏のグループは、このような背景から自然保護活動家と技術者、エンジニア、データサイエンティスト、および企業家をつなぐグローバルなオンラインコミュニティであるWildLabs.netを設立しました。現在3,000人を超えるユーザーが参加するこのグループは、テクノロジーを活用して野生生物の違法取引や密猟などの自然保護の問題に取り組むことをミッションに掲げています。

これについて同氏は、次のように述べています。「テクノロジーを活用しようとする自然保護活動家はいましたが、彼らがトレーニングを受けて技術者になったわけではなく、スキルと知識があり、自然保護をサポートしたいと思っている技術者が世界中に数多くいたのです。WildLabs.netはこうしたコミュニティをつなぐものであり、私たちは自然保護の知識を持つ人とテクノロジーの知識を持つ人の革新的なアイデアを融合させているのです」。

同氏によると、たとえば自然保護活動家は動物と人を区別するように学習させたMLソフトウェアとカメラを組み合わせて使用しており、システムがシマウマやサイではなく人がカメラの近くを通ったことを確認すると、その人が密猟者かどうかをチェックできるよう、自然保護官に通知が行われます。

またアフリカのその他の活動家は、赤外線でゾウやサイの密猟者を検知するサーモカメラを使用しています。

同氏は、2016年にサイの保護活動で知られるケニアのレイク・ナクル国立公園の2つのエリアにスマートサーモカメラテクノロジーが導入されたことを強調しています。同氏によると、このテクノロジーが導入される前の年は17件の密猟事件が発生しましたが、このシステムが導入された年は2人の密猟者が捕まりました。そしてそれ以降、その年と2017年から2018年には密猟事件が1件も発生せず、2019年には、このシステムによってさらに4人の密猟者が捕まりました。

これについて同氏は、「私たちは大きな成功を収めることができたと感じている」と述べています。

ケニアのナクル湖近くでのテクノロジーの導入。イメージクレジット: James Morgan氏 (米国WWF)

一部の科学者は、土、堆積物、水などの環境試料から直接取得される、生物組織の痕跡や粘液といった遺伝物質を検出できる、環境DNA (eDNA) テクノロジーも使用しています。そして同氏によると、シロクマを研究している科学者は北極の小川や雪に残った足跡から試料を採取し、そこから抽出したDNAの情報を用いてシロクマが食べたものを特定したり、シロクマの個体を識別したりすることもできます。

これについて同氏は、次のように述べています。「シロクマが見つからなかったとしても、その足跡があればかなりの情報を得ることができるようになり、それによってシロクマの追跡や気候変動がシロクマに与えている影響の調査が大きく進展することを夢に描いています。今野生生物の保護に携われるのは素晴らしいことです。私たちは、多くの開発や活動でテクノロジーによって問題が解決されるのを目の当たりにしてきました」。

この記事/コンテンツは、記載されている個人の著者が執筆したものであり、必ずしもヒューレット・パッカード エンタープライズの見解を反映しているわけではありません。

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