未来の小売店舗を構築する方法

ビッグデータとIoTは、小売業者のニーズを業者自身よりも正確に把握している店舗の構築を可能にします。

未来の店舗のイメージとして、次のシナリオを想像してみてください。

ある人物がシャンプーを買うために店に入ります。この買い物客は店内を歩いて商品を探す代わりに、スマートフォン上でヘアケア製品の棚に案内してくれるアプリを開きます。目的の場所に到着したら、そのスマホアプリから、この人物の購入履歴に基づくプロモーション (頻繁に購入しているブランドの20%割引など) が提示されます。商品を購入するためにレジに並ぶ必要はありません。買い物客は棚から目的の商品を取ってそのまま店を出ます。商品が棚から取り出されたことはセンサーによって検知され、仮想カート内で動作が追跡されており、買い物客が店を出た時点で請求処理が自動的に行われます。この人物の身元は店内の顔認証テクノロジーによってすでに確認済みです。

デジタルディスラプションが進行するなか、このような店舗のビジョンは急速に現実のものになりつつあり、新たなパラダイムを支えるさまざまなスキルやテクノロジーに対するニーズが高まっています。一例として、HPEは先頃ある大手小売企業からワイヤレス機能のアップグレードの支援を要請されましたが、同社の店舗で求められていたのは単純なアップグレード以上の機能強化でした。この小売企業は超高速Wi-Fiネットワークを基盤として、「場所を問わないモバイル」コミュニケーションとIoT機能を活用することで、最先端のショッピングエクスペリエンスを店内の買い物客に提供することを望んでいました。

今日の小売業者にとってこうした機能はもはや必要不可欠なものとなっています。小売業界ではデジタルディスラプションが急速に進行しており、レガシーなシステムに多大な資金を投じてきた従来型の企業は、この業界への参入障壁が消滅しつつあるのを実感しています。今日ではオンラインストアをわずか数時間で立ち上げて、NikeやAmazonといった企業との競争を即座に開始することも可能です。小売業者がこうした厳しい環境を勝ち抜くためには、シームレスなカスタマーエクスペリエンスの提供が欠かせません。すなわちテクノロジーを活用することで、オンラインとオフラインのあらゆるプラットフォームにわたって、包括的、直感的、かつ利便性に優れたショッピングエクスペリエンスを提供する必要があり、こうしたアプローチはオムニチャネル販売と呼ばれます。

オンラインストアへの注目が高まっている一方で、Gartner社が指摘しているように、小売商品の91%は依然として実店舗で購入されています。そのため実店舗の運営に実績を有する大規模企業の多くが、顧客の維持率と満足度の向上を目的に、センサー、データ分析、およびコンピューティングパワーを組み合わせて、オフラインの小売エクスペリエンスをデジタル化する取り組みを進めています。Gartner社は小売業者に対して、顧客との対話において「7つのC」、すなわち接続性 (Connected)、継続性 (Continuous)、利便性 (Convenient)、連続性 (Contiguous)、一貫性 (Consistent)、協調性 (Collaborative)、およびカスタマイズ (Customized) を重視するよう推奨しています。小売業者がこれを実現するためには、消費者が日常的にテクノロジーをどのように利用しているかを理解し、それに合わせてテクノロジーを展開する必要があります。

先見の明のある小売業者は、顔認証 (高度なカメラを使用して顧客の顔をスキャンすることで身元を特定可能な、非接触型の生体認証法) などのテクノロジーに注目しています。顧客を識別することで、その顧客の店内での買い物や動作を追跡し、収集されたデータに基づいてその人物にとって魅力的と思われるオファーを提供することが可能になります。また先に挙げた例のように、このテクノロジーは購入手続きにも使用できます。

顔認証を実現するためには、鼻の位置や両目の間隔といった人間の顔の特徴を計測することが必要です。高解像度カメラと低コストのコンピューティングパワーの普及により、これらの計測値を迅速かつ適切に収集および分析して、個人の顔の特徴を表す数式を生成することが可能になりました。

さらに店内に設置したカメラから得られるデータに基づき、店内の顧客の移動をヒートマップの形で可視化して、人の流れを分析することも可能です。これにより、例えば店内の一角で販売しているセーターの売上が思わしくない場合に、売り場を移動することで状況を改善できるかどうかを考察できます。

IoTに対する正しいアプローチとして、HPEが重視する6つの事項をご覧ください。

 

さらに小売業者は、位置情報に基づく会場ナビゲーションを使用して、その人物にとって魅力的と思われる商品がある場所に買い物客を誘導することも可能です。またGPSとBluetoothビーコンテクノロジーを基盤とするジオフェンシングや位置ベースのメッセージングを使用すれば、仮想の地理的境界を構築して、モバイルデバイスが特定のエリアに出入りする際にメッセージやプロモーションをトリガーできます。買い物客が店内を移動する経路をコントロールし、またターゲットを絞った高度なコンテキスト対応型の宣伝やマーケティングを行うことは、客単価ひいては売上の向上に大きな効果を発揮します。

顔認証は店舗を繰り返し訪れる人物の特定にも使用でき、指定された期間内に同一エリアで同一人物が複数回確認された場合にアラートを生成するといったことが可能です。また顔認証に基づき店内の人の流れを分析することで、各店舗を訪れる顧客のタイプを把握したり、それらの顧客が来店することの多い時間帯を特定したりすることも可能になります。こうした分析からは、年齢、性別、民族など、特定のセグメントをターゲットとする小売キャンペーンの有効性を高めるうえで役立つ情報が得られます。

スマートデータ分析がもたらすもう1つのメリットが、在庫管理の向上です。世界的なリサーチ/コンサルティング会社として知られるIHL Groupの調査によると、過剰在庫 (その主な原因は不十分なデータ収集と予測) により全世界の企業で発生しているコストは年間総額約1.1兆ドルにも達しています。顧客への販売時に得られるリアルタイムデータ、あるいは倉庫に設置されたセンサーや追跡テクノロジーを活用することで、小売業者は在庫供給のリスクや効率性をより的確に管理できます。

こうした店内のカスタマーエクスペリエンスの改善を可能にしたのが、インターネットに接続された消費者向けスマートフォンやタブレットの爆発的な増加です。このようなデバイス (および小売業者自身のIoTデバイス、センサー、カメラなど) からは膨大なデータが生み出されており、これらのデータを可能な限りコスト効率よく、かつリアルタイムで、収集、保管、および分析することが大切になります。

小売業者は、増え続けるデバイスから提供される大量のデータを、情報が捕捉される場所、すなわちネットワークエッジで迅速に処理および分析する必要があります。これを実現するのに最適なアプローチが、ハイブリッドITとインテリジェントエッジの組み合わせです。この場合パブリッククラウドは必ずしも最良の選択肢ではありません。オンプレミスのハイブリッドソリューションは、リアルタイムのデータ分析に求められる制御性とセキュリティを提供可能です。深層機械学習では、顧客の傾向、行動、アップセルサービスへの選好などを探るためのデータマイニングが行われますが、こうした処理では即時性が重要になります。

このような新しいアプローチの導入に際しては、テクノロジーの側面だけにとどまらない対応が求められます。小売業者のCIOはデジタルトランスフォーメーションに備えて、社内文化の変化を調整する必要がありますが、これは決して容易な作業ではありません。CIOは他の経営幹部や各事業部門のリーダーと連携して、目指すべき変化に対するコンセンサスを形成する必要があります。また適切な人材の雇用、さらには適切な顧客の獲得についても考察しなければなりません。目指すべきは卓越したエクスペリエンスの提供によるカスタマーロイヤルティやカスタマーアドボカシーの向上であり、そのためには顧客の視点に立ったデジタルビジネストランスフォーメーションが不可欠です。

組織の変革にあたっては、将来的な小売機会の獲得という観点も忘れてはなりません。今日ではミレニアル世代 (1995~2010年頃に生まれた世代を指し、世界人口の4分の1を占める) が労働年齢に達し始めて購買力を増しつつあります。この世代の成長により消費者行動も変わり始めており、今後のオンラインでの消費者エクスペリエンスを考えるうえで、経済的影響力を増す彼らへの対応がカギとなります。小売業者はこうしたミレニアル世代との強固な関係構築を急ぐ必要があります。

ミレニアル世代の消費者は、広告主によるマスコミュニケーションと一般ユーザーによるソーシャルメディアの間を自由に行き来します。また企業やブランドをあまり信頼しておらず、移り気です。調査会社のForrester社が3年前に指摘しているとおり、今日では企業から (デジタルに精通しテクノロジーを使いこなす) 消費者へのパワーシフトが進行しており、魅力的なデジタルエクスペリエンスを提供できるかどうかが勝敗を決します。

各ブランドは顧客を維持および獲得するために、こうした新興の消費者グループとのあらゆる対話を有意義なものにする必要があります。買い物のプロセスは実店舗で始まりオンラインストアで終わることもあれば、その逆の場合も考えられます。そのため小売業者は、IoT、仮想パーソナルアシスタント、AI、データ分析などのテクノロジーを駆使して、一貫性のあるカスタマーエクスペリエンスを実現しなければなりません。近い将来これらのテクノロジーは、日々のカスタマーエクスペリエンスの提供に必要不可欠なものになると思われます。

これらのテクノロジーは、小売業者があらゆるチャネル (オンラインおよびオフライン) にわたって販売データや業績データを把握することも可能にします。その結果としてより正確な販売予測も可能になりますが、こうしたメリットを実現するためには、広範囲にわたるデータの収集、共有、および分析が欠かせません。

小売業界は驚くべきスピードで進化を続けており、今日の店舗は、顧客が街頭で使用するスマートフォン上、家庭のノートパソコン上、あるいはショッピングモール内の実店舗など、あらゆる場所に存在しています。小売業界の将来を正確に予測することは不可能ですが、業界がデジタル接続に牽引されて新たなマスパーソナライゼーションの段階に入りつつあるなか、今後も顧客がビジネスの中核であり続けることは疑いありません。こうした時代を勝ち抜くためには、顧客がどのような人物で、何をどのような方法で購入することを望んでいるのかを的確に把握したうえで、個々の顧客に合わせてカスタマイズしたショッピングエクスペリエンスを提供することが必要です。

 

次世代の小売エクスペリエンス: リーダーへの教訓

  • 顧客のショッピングエクスペリエンスについて、理由、方法、および場所を把握することが重要です。
  • ビッグデータ分析はカスタマーエクスペリエンスの合理化を可能にします。
  • 急速な変化に対応するためには、ビジネスおよびテクノロジーの柔軟性が欠かせません。

この記事/コンテンツは、記載されている特定の著者によって書かれたものであり、必ずしもHewlett Packard Enterpriseの見解を反映しているとは限りません。

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